金の亡者、泥舟の世界で大儲けする   作:鳥ささみ

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第八話:新規事業の市場公開(デモンストレーション)

 

「――報告を聞こうか、アクセル。例の『商人』は役立ちそうか?」

シャドーミラーの移動司令要塞。その薄暗い作戦室において、最高司令官であるヴィンデル・マウザーは、巨大なホログラフィック・モニターを背に、冷徹な双眸をアクセル・アルマーへと向けていた。

『ああ。伊豆の戦場跡地から「R-2パワード」のトロニウム・エンジンを単独で強奪(サルベージ)してみせた。あの状況下で、連邦軍の防衛網の隙を突き、かつトロニウムを暴走させずに毟り取るなど、並の技術屋や兵士にできることじゃない』

通信画面のアクセルは、いつもの無骨な調子でそう応じた。その背後には、彼が駆る特機『ソウルゲイン』が、出撃に備えて静かに牙を研いでいる。

「フム……。平和というぬるま湯に浸かり、緩慢な腐敗を続けるこの世界。それを闘争の炎で焼き払い、人類の進化を促す。それが我らシャドーミラーの理念(ドクトリン)。そのための戦争の永久供給(サプライチェーン)に、その男の資産(カネ)と技術がどう組み込まれるか、私に見せてみろ」

ヴィンデルは不敵に笑い、手元のコンソールを叩いた。

今回のターゲットは、地球連邦軍の極東管区における重要補給基地。

SRXという絶対的な決戦兵器をキョウスケ・ナンブの裏切りによって失い、混乱の極みにある連邦軍に対し、シャドーミラーが本格的な「市場参入(侵略)」を開始するための、記念すべき第一歩となる戦場だった。

ドォォォォォン!!

「敵襲! 敵襲! レーダーに機影多数! この装甲、連邦の機体じゃない、未確認の武装集団です!」

「馬鹿な、防衛線がこれほど簡単に突破されるとは……! 救援部隊はまだか!?」

阿鼻叫喚に包まれる連邦軍の補給基地。

シャドーミラーの主力機である『アシュセイヴァー』の部隊、および『量産型ゲシュペンストMk-II』のカスタム機が、型通りの戦術しか持たない連邦軍の『リオン』や『量産型ゲシュペンスト』を次々とハントしていく。

戦場の中央、凄まじい鉄拳で連邦軍の装甲車を叩き潰したソウルゲインのコックピットで、アクセルは全周波数の広域通信を開いた。

『おい、特別顧問殿。お前の席は用意してやった。シャドーミラーの本採用にふさわしい、お前の「商品」の価値って奴を、そろそろ見せもらおうか』

その言葉に応じるように、戦場を揺るがす重低音の駆動音が、大気を震わせた。

地鳴り。いや、空間そのものが、その圧倒的な「質量」に耐えかねて悲鳴を上げているかのようだった。

煙が立ち込める戦場の外周から、ゆっくりと、しかし確実な足取りで歩を進めてくる一機の巨神。

全高五十メートルを超える赤と黒の頑強なフレーム。だが、その機体全身の装甲の隙間、そして全ての関節部からは、かつてSRXを駆動させていた世界に唯一無二の独占資産――【トロニウム・エンジン】の放つ、まばゆい、そして傲慢なまでの「黄金の輝き」が溢れ出していた。

それはただのエネルギーの漏洩ではない。ゼニの強欲な美意識によって、トロニウムの出力を機体表面の耐熱・耐エネルギー装甲にまで循環させ、機体そのものを**「キンキラな黄金の光背(オーラ)」**で包み込んでいるのだ。

『DGG-X1:ゴールドミラー・プライム』。

「お待たせしましたね、アクセル隊長。我がゴールドミラー社の誇る最高価値の暴力資産……本日、ここに市場公開(ローンチ)です」

ゴールドミラー・プライムのコックピット。ゼニ・ゴールドミラーは、高級なスーツの襟元を整えながら、冷徹な笑みを浮かべて操縦桿を握っていた。

「な、何だあのキンキラな巨大ロボットは!? 連邦の特機か!? いや、違う、あのカラーリングは――」

色めき立った連邦軍のリオン3機が、ゴールドミラー・プライムを排除すべく、レールキャノンを連射しながら突撃してくる。

「型落ちの流動フレームが、我が社の最優遇資産に気安く触れるな」

ゼニがコンソールを鋭く叩いた瞬間、ゴールドミラー・プライムの胸部から、眩い黄金の衝撃波が爆発的に放射された。

トロニウム・エンジン100%の出力を、一機のためだけに全量直接投資(ダイレクト・インジェクション)したその余剰エネルギー。ただの「咆哮」に過ぎないその波形が、突撃してきたリオン3機の装甲を、まるで紙屑のように一瞬で引き裂き、内部回路を焼き尽くした。

ドカァァァァァン!!

触れることすらできず、黄金の光の中で爆発四散する連邦の機体。

『……ほう。ビアンの遺産フレームに、トロニウムを完全に同調させていやがる。出力分配に頼っていたSRXとは、文字通り桁が違うな』

ソウルゲインのモニター越しにその光景を見ていたアクセルが、感心したように口笛を吹いた。

「当然でしょう。富も、力も、中途端な分配(シェア)など弱者のすることだ。一極集中による独占(モノポリー)こそが、最も効率的に最大のリターンを生み出す。……さあ、連邦軍の諸君。あなたたちの命(資本)を、我が社の養分として買い叩かせていただきましょう」

キンキラに輝くゴールドミラー・プライムが動く。

その巨体からは想像もつかないほどのテスラ・ドライブによる超高速移動。機体の背面にマウントされた、巨大な『参式斬艦刀』に酷似した大刀――いや、ゼニが独自のジャンクパーツから鍛え直した、巨大な**『金塊を模した大剣(ゴールド・インゴット)』**が、轟々たる黄金の光を纏って引き抜かれた。

「一刀両断――などという風雅な思想は、我が社にはありません。これは純粋な『資産の没収(差押え)』だ!」

巨剣が、逃げ惑う連邦軍の防衛線を真上から強引に叩き潰した。

爆発などという生易しいものではない。トロニウムの絶対的な質量と出力の前に、基地の防衛隔壁ごと、大地が数百メートルにわたって一撃で陥没した。連邦軍の機体は、その一振りの衝撃波だけで塵へと還元されていく。

「バ、化け物め……! 撤退だ! 撤退しろ!」

完全に戦意を喪失した連邦軍の残党が、一斉にクモの子を散らすように逃げ出し始める。

戦場は、わずか数分でシャドーミラー(と、ゼニ)の完全な圧勝で幕を閉じた。

『見事なデモンストレーションだったぞ、ゼニ・ゴールドミラー』

司令要塞のヴィンデルからの直接通信が、プライムのコックピットに繋がった。その声には、確かな満足感が含まれている。

『トロニウム・エンジンを完全に制御し、一機で戦況を買い叩く戦闘力。お前という「資本」を我が組織に組み入れたことは、正解だったようだ。お前をシャドーミラーの正式な最高財務顧問(CFO)として、ヴィンデル・マウザーの名において歓迎しよう』

「フフ、光栄な査定(バリュエーション)をありがとうございます、ヴィンデルCEO。ですが、これはまだ初期投資の回収に過ぎませんよ」

ゼニは金色の瞳を妖しく光らせ、黄金の光を放つプライムのコンソールを見つめた。

(よし、これでシャドーミラー内での絶対的な地位(ポジション)は確保した。ヴィンデルの『戦争の永久供給計画』という巨大な市場(マーケット)を利用し、俺はさらにこのゴールドミラー・プライムを強化する。そして……)

ゼニの頭脳は、すでにこの「向こう側」の世界の終わり、そして「こちら側(正史の世界)」へ至る転移の瞬間を計算していた。

別次元へとロストしたラウルやフィオナたちが、あちらの世界で時流エンジンのデータを蓄積し、エクサランスを完成させていく間。

ゼニはこのシャドーミラーという最強の軍事組織のバックアップを受けながら、世界最高峰の暴力資産を完成させ、特等席で彼らの前に再び現れる算段を、完璧に整えたのだ。

「さあ、次の市場(戦場)へ向かいましょうか、アクセル隊長。この世界のすべてを買い叩くまで、我がゴールドミラー社の快進撃(マネーゲーム)は止まりませんからね」

破壊し尽くされた連邦軍基地の跡地で、全身をキンキラな黄金の出力で明滅させる『ゴールドミラー・プライム』。その姿は、沈みゆく泥舟の世界を恐怖で支配する、冷酷にして最も絢爛たる資本家の象徴そのものだった。

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