児童保護局2060 すべての子どもにしあわせを   作:馬門戒明/輪島ライ

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第4話 エイリアン・ドラゴン

「我々はエイリアン・ドラゴン! この日本という国で迫害を受ける外国人の権利を擁護すべく、ここに実力を行使する!」

 

 ベーシックインカムという制度は、この国を統べる極右政権の政策の目玉だった。

 

 生活保護制度を廃止し社会保障費を大幅に削減する代わりに、全国民に毎月10万円を給付する。

 

 それによりラディカルな政策への反発はいくらか封じられたが、頻発が予想された組織的な不正受給を防ぐため、ベーシックインカムは「純日本人」にしか受給資格が与えられなかった。

 

 

「この中に権力者はいるか、我々を(しいた)げた権力者はいるか! 今すぐ名乗り出なければ、我々はこのバスを高所から転落させる!!」

 

 病院を出た俺が乗り込んだ区営バスは、潜伏していたテロリスト集団「エイリアン・ドラゴン」により占拠されていた。

 

 法令上ベーシックインカムを受給できない外国籍の住民や外国にルーツを持つ日本人は極めて苦しい生活を強いられ、一時期世間を騒がせたベーシックインカムの不正受給問題により差別的な扱いを受けやすくなった彼らの中には反社会的集団に身を落とす者も少なくなかった。俺の目の前でバスの運転手を拘束し、3Dプリンターで密造したらしいアサルトライフルを掲げている覆面の青年もその一人だった。

 

 

 合計3人でバスジャックを行った彼らが要求している内容には理屈が通っておらず、彼らはバスの乗客全員と心中するつもりらしかった。

 

 ここで死ぬ訳にはいかないが、失うもののないテロリストにバスの外部からの介入の余地はない。

 

 そこまで考えた上で、俺は今動き出さなければならないと直感した。

 

 

「どうした、権力者はいないのか! ならば高齢者だ! 社会保障をぬくぬくと享受(きょうじゅ)して血税を食い潰し、この国を今のような状況に追いやった高齢者を今ここで公開処刑する! さあ立て、そこの年寄り!!」

「ひいっ、どうか命だけは、命だけはお助けを!!」

「黙れこの老害め、命乞いなど我々に効く訳がないだろう!」

 

 テロリストにライフルを突きつけられた高齢男性はバスの床に頭をこすりつけて土下座したが、覆面の青年は老人の頭を尖った靴で蹴りつけた。

 

 このバスの中には他にも7、8人ほどの老人がいて、誰もが今ここで殺害される恐怖に身をすくめていた。

 

 

 老人を助けるのは元々俺の仕事ではなかったが、老人たちが殺された後で俺が助かる保証はない。

 

 ならば、一人でも死なせたくはない。

 

 

「おい待て。俺だ、俺は神奈川県で市議会議員を務めている。殺すなら俺を殺せ」

「何だあ? それならそうと、なぜすぐ名乗り出ない! 今すぐ処刑してやる!!」

 

 俺が冷静な表情で真っ赤な嘘を口にすると、覆面の青年は激昂して俺にライフルを向けようとした。

 

 その瞬間に俺は青年に飛びかかり、身体に組み付いてライフルを取り落とさせた。

 

 

「何をする! おい、お前たちも助けんぐっ!!」

「辛かったよなあ、君たちは日本人に差別されて生きてきたんだよなあ。俺もそういう子どもたちを何人も助けてきた」

 

 覆面の青年に優しく語りかけながら、俺は彼の首元に手刀を叩き込んで沈黙させた。

 

 ライフルを拾おうとするもう1人のテロリストに体当たりを食らわせると、右足でライフルを蹴りバスの後方へと飛ばす。

 

 

「なっ、何だ! お前、ただの政治家じゃないのか!?」

「だけどなあ、日本人にだって辛い境遇の子どもは沢山いるんだよ。だから君たちみたいにやけになって人を殺すような子どもは、守ってあげられないんだ……」

 

 奪われたライフルの代わりにジャックナイフを取り出したテロリストの顔面を殴りつけて昏倒させ、俺はバスを運転している最後のテロリストに迫った。

 

 

「今からでも遅くない、バスを路肩に停めるんだ。君たちはまだ、一人も殺していないから」

「何を言う、こうなった以上は全員道連れだ! 今すぐこのバスを横転させ……」

 

 話が通じないと判明した瞬間、俺はバスを運転しているテロリストの頭部を勢いよく左側にひねり上げ、気絶させて運転席から降ろした。

 

 運転手を失ったバスは人気の少ない坂道でよろめき始め、このままでは横転して多数の死者を出すだろうと思われた。

 

 

 普通免許しか持っていない俺だが、バスを停めることぐらいはできる。

 

 そう思って俺は運転席に座るとハンドルに手をかけ、バスを徐行させていった。

 

 

 

 そして、その瞬間。

 

 

 失神から目覚めて起き上がったテロリストの一人はナイフの刃を抜き、俺の首筋に突き立てた。

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