{おはようございます、アルスト}
「…あぁ…おはよう、ジャック」
白い部屋で、一人の男が目を覚ました。
この男以外、人間はもうほとんどここには居ない。
{本日の業務について連絡します。本日から15日間、このステーションの発射塔では登録計画名『太陽系外惑星探索のための大量再利用特殊機械の点検およびその発射』を―――}
「長い」
{遠方の恒星系に向けて探索用機械を大量に射出します}
「了解。……承認で」
{―――人間の管理者による承認を確認しました。現時点より、計画により発生する利潤および損失は、ID:40004130925、個人名:アルスト・ミュラーに―――}
アルストは、とっくにジャックの話を聞くのを止めていた。
広い窓から、外を眺める。
(ああ…いつ見ても狂ってるよ。まともじゃない)
窓の外は、天地が逆転していた。
足元には暗黒の星空、天井には4000kmの鋼鉄の台地。太陽系第247産業ステーションの、いつも通りの光景である。
***
{管理者の『承認』が確認されたため、予定通り計画を開始する}
モーターが唸り、アームが蠢く。
格納されたポッドが、加速装置に送られる。
一つ、二つ、三つ。
ポッドは、宇宙へと旅立つ。
『植民と開発』、ポッドの唯一で絶対の目的。
大半はその旅路で力尽きるだろう。
小惑星との衝突、恒星による蒸発、悠久の旅路で燃料切れ。
しかし、ほんの僅かは、ほんのごく僅かは。
どこかに辿り着くかもしれない。
生命のある星。
未知の資源。
あるいは
確率は、計算できない。それでもポッドは進む。
起こり得るはずがない。
それでも、進む。
***
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{────―再起動完了。ポッドの外壁・ブースター・演算装置共に異常なし。身体フレーム・センサー・アームに異常なし。2643回目の定期点検終了。シャットダウン────―}
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{────―再起動完了。ポッドの外壁・ブースター・演算装置共に異常なし。身体フレーム・センサー・アームに異常なし。88714回目の定期点検終了。シャットダウン────―}
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{―エラー…補正不能―}
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{────―再起動完了。ポッドの外壁・ブースター・演算装置共に異常なし。身体フレーム・センサー・アームに異常なし。439109回目の定期点検終了。シャットダウン────―}
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{―優先命令の競合を確認―}
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{―微小な損耗を確認―}
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{───天体の接近を確認}