ある日、月詠から呼び出しがかかった
「お呼びですか?先生」
部屋の中に入ると月詠の前に彼女と同じぐらいの背丈をした人形が立っていた
「急に呼び出してごめんなさい。琴音にお願いしたいことがあるの」
月詠は一冊の資料を琴音へと渡す
そこには、とある異世界についての情報がまとめられていた
一通り目を通すが、特に“歪み”による影響を受けていない普通の世界だった
「この世界には“スキル“と呼ばれるものが存在しています
そして、その中でも
スキルが存在する世界・まるでゲームの中のような話だ
「あなたには、この人形と共にその世界へ行き、“大賢者”を成長させて欲しいんです」
「成長……ですか?」
「はい。この世界で琴音は何をしても自由です
琴音の行動によって、“大賢者”を持った人形がどのように変化するのか。それを観察するための実験です」
「自由って事は、ざっくり言えば世界征服なんかもしちゃってもいいの?」
月詠の言葉を拡大解釈して異世界の観察者としては明らかに危険な事を聞いてみる
「構いませんよ」
だが、月詠はあっさりと頷いた
「え!いいの!?」
予想外の答えに琴音は目を丸くする
てっきり、そこまでやれば異世界に悪影響を与える危険人物として処罰されると思っていた
「先ほども言いましたが、今回の目的は“大賢者”を持った人形の観察です。琴音が世界征服が必要だと思うのならしてもらっても構いません」
「……」
何か裏があるのか?と勘繰る
だが、月詠の事だからきっと何か理由があるのだろうと結論づけ、琴音はそれ以上考えるのを止めた
「分かりました。できるだけ頑張ります」
「期待していますよ。琴音」
月詠は琴音と人形の足元に転移の魔法陣を展開する
「では、よろしくお願いしますね」
そう言って月詠は琴音達を異世界へと転送した
───
転移した先は薄暗い洞窟の中だった
「スタート地点は洞窟か。とりあえず情報かな」
人形の方を見ると全く動かない
どうやら命令されないと行動しないようになっているようだ
「大賢者さん、この場所の事を教えて」
琴音の言葉に反応し、人形はゆっくりと動き始める
「命令を承認しました。情報を収集……収集完了
ここはジュラの大森林内部に存在する洞窟
個体名“暴風龍ヴェルドラ“が封印されている地点です」
「暴風龍?」
「魔王に匹敵する力を持った龍です」
「魔王までいるのか……」
魔王までいるとなると本当にゲームの世界に飛び込んでしまったような気分になる
「とりあえず、その暴風龍に会いに行こうかな。大賢者さん、案内お願い」
「承知しました。ですが、その前によろしいですか?」
「?」
「私は月詠様より、琴音様に従うように命令されています。“さん付け“は不要かと」
そう言われ、琴音は少し困ったように頰を掻いた
「あぁ〜……大賢者さんって先生にそっくりだからさ。呼び捨てはだとなんか違和感があるんだよね〜」
人形ではあるにもかかわらず、その容姿や雰囲気は月詠によく似ている
そのせいで自然と“さん付け”してしまう
「理解しました。琴音様の希望を優先します」
「ありがとう大賢者さん」
「……では、封印の場所まで案内します」
琴音は気づかなかった
ほんの一瞬だけ、大賢者の瞳が揺らいだことに
(琴音様の言葉に対し、胸部に未知なる反応を確認
不快ではありません。継続観察対象として記録します)
大賢者がそれを“感情”と理解するのはまだ、先の話だった