入国してこれからドワーフに会いに行こうとした時、一人の兵士が慌てた様子で門にやってきた
「隊長大変です!鉱山にアーマーサウルスが」
隊長と呼ばれた人物は部下の報告に血相を変える
「なんだと!?討伐隊は?」
「すでに向かいました。それより魔鉱石の採掘で奥まで潜っていたガルム達が大怪我を!」
「なにっ!?あいつらは俺の兄弟みたいなもんなんだ。急いで回復薬を準備しろ!」
「それが戦争の準備だかで足りてなんですよ」
その会話を聞いて琴音はこの状況を利用して協力者を得る方法を思いついた。勿論、目の前に助けられる命があるなら助けたいという気持ちもある。その上で縁ができるのなら、それは悪い事ではないだろう
「隊長殿」
「あぁ?」
「回復薬が必要のようなら私達、持ってるよ」
まさかゴブリン達用に大賢者にお願いして量産させていた回復薬がこんな形で役に立つとは思わなかった
「本当か!なら、急いで来てくれ!おい、現場まで案内してくれ」
「はい!カイドウ隊長」
「行くよゴブタ」
「了解っす!」
部下の案内で鉱山に行くと、怪我を負った三人のドワーフが鉱山から運び出されていた。三人とも大怪我を負っており、その内の一人は腕が半分千切れていた
腕の状態を見た琴音は通常の回復薬でも治す事は出来るが後遺症が残る可能性がある。なら、純度の高い回復薬を使った方がいい
命がかかっている以上、出し惜しみなんてしてられない
「ゴブタ、この回復薬をそっちの二人に」
「はいっす!」
琴音は裾の中に手を突っ込む
裾の中は物を収納できる異空間になっており、生物以外なら質量、大きさを問わずに制限なく収納する事が可能で、現在は大賢者が取り込んだ物を解析、格納するための異空間とも繋がっており収納されている通常の回復薬を二つと致命傷も瞬時に治す高純度の回復薬を取り出す
高純度の回復薬を千切れかけた腕にかけると千切れかけていた腕がみるみると再生し、残った回復薬を飲ませて他の傷も一緒に回復させた
「おいあんた、それ、とんでもねぇ高価な回復薬じゃねぇのか?」
普通の回復薬と違う事にカイドウは恐る恐る聞いてみる
「優秀な仲間が作った特製回復薬だからね。市販品よりは効果が高いよ。それより、他に怪我人はいる?」
「いや、大丈夫だ」
どうやら怪我人はこの三人だけのようだ。アーマーサウルスも既に討伐されているようで鉱山での騒ぎは一件落着したようだ
その後、琴音達はカイドウに案内され応接室に通された
琴音とゴブタが座り、その向かいにはカイドウと鉱山で怪我した三人が座る
「自己紹介がまだだったな俺はカイドウ。こいつらとは幼馴染なんだ。助けてくれてありがとう」
カイドウが深々と頭を下げる
「俺は長男のガルム。あんたの薬のおかげで命拾いしたよ。ありがとよ」
「俺は次男のドルド。腕が千切れかけてて、生き残れても仕事がなくなるとこだった。あんたは命の恩人だ。ありがとう」
「うんうん」
「こっちは三男はミルドだ」
最後の一人はどう言う訳かうんうんとしか言わず、代わりにカイドウが紹介する。ミルドは表情が変わらないので分かりづらいが感謝している感情は感じ取れた
「礼と言っちゃなんだが俺にできる事ならなんでも言ってくれ」
その言葉を聞いて琴音は笑みを浮かべる
「なら、一つお願いしたい事があるんだけど……」
琴音はカイドウにこの国に来た理由を話す
「そういう事なら俺の兄貴にしてこいつらの兄貴分の職人を紹介しよう。なんたってこの国で一番の鍛治師だからな」
「国一番。これは期待できそうね」
身内贔屓という可能性もあるがカイドウや三人からは国一番という事に一切の疑いを持っていない感情が伝わり、期待しても良いだろうと思えた
───
カイドウを先頭に国の中を進んでいく。道中に様々な武器や防具、見た事のない道具が店先に並んでおり商人や買い物客で活気に満ちている
「琴音様!見た事のないものが一杯っす」
「観光は用事が済んでからゆっくりすればいいでしょう。余所見していると置いてくよ」
「あ、待ってくださいよ!」
活気のある通りを抜け、人通りが少なくなってた場所の一軒家の前で止まる
「ここが兄貴の職場だ。おい兄貴、いるかい?」
玄関を開けると中では一人のドワーフが熱された鉄を黙々と打っていた
「カイドウか。隣にいる奴は客か?」
「鉱山で大怪我した三人を救ってくれた恩人だよ」
「おぉ、そうだったのか」
鉄を打つのを止めると琴音の前で胡座を描いて座る
「俺はカイジン。こいつらを助けてくれてありがとう。感謝する」
深々と頭を下げ感謝の言葉を口にする
「アーマーサウルスに襲われたのは運が悪かったと言ってしまえばその通りだけど、回復薬を持った私達が今日、国に来たから助かったと考えれば運が良かったとも言える。だから気にする必要は無いわ」
恩を売るという気持ちは確かにあった。でも、目の前で死ぬかもしれない人がいれば損得勘定抜きで助けたいという気持ちがあったのも事実だ
「勿体ねぇ言葉だ。それで、俺に何か用があってここに来たのか?」
琴音はカイジンにもこの国に来た理由を説明する
「う〜なるほど。力になりてぇのは山々だが、今ちょっと立て込んでてな……どこぞのバカ大臣が無茶な注文をしてきてな」
「無茶な注文?」
「戦争があるかもしれないってロングソード二十本を今週中に作れってな。材料がなくてまだ一本しか作れてねぇんだよ」
「だったら無理だと言って断ったらいいじゃねぇか」
至極真っ当なカイドウの意見に琴音も頷く
「馬鹿野郎。俺だって無理だって最初に言ったんだよ
そしたら、クソ大臣のベスターの奴が「おやおや、王国名高い鍛治師のカイジン様ともあろお人がこの程度の仕事もできないのですかな?」なんぞとほざいやがったんだよ。許せるか。あんなクソ野郎が」
さっきから大臣相手に馬鹿とかクソとか散々な言いようだが、話を聞くからにベスターという大臣も材料が無い事を知った上で無茶な注文をしているようにも思える
「じゃあ、その材料があれば作れるの?」
「魔鉱石という特殊な鉱石が必要なんだが、たとえ材料があったとしても二十本打つのに二週間はかかるんだよ。なのに、あと五日で王に届けなければならない
国で請負い、各職人に割り当てが行われた仕事だ。出来なければ職人の資格の剥奪もあり得る」
材料がなくて作れない。たとえあったとしても時間がない。完全に詰みの状態だ
ベスターがカイジンに対して嫌がらせでやっているのだとしたらこれは完全にカイジンを失脚させるために仕組まれた罠であるとしか言いようがない
「あれ、魔鉱石?」
魔鉱石が必要と言っていたが名前からしておそらく、魔力を含んだ鉱石を意味する言葉だと推察出来る。琴音は裾の中に手を突っ込むとお目当ての物を取り出す
「カイジン、その魔鉱石ってこれの事?」
琴音が取り出したのは七色に輝く石だ。それを見たカイジンは
「おいおいおいおいおい!魔鉱石じゃねぇか!しかも純度がありえん程高い」
やっぱりそうだ。洞窟で大賢者が光る石を採取していたからもしかしてと思ったが予想通り魔鉱石だった
「この魔鉱石を売ってくれ!もちろん、そちらが提示するだけの額を払う!」
カイジンはなんとしてでも魔鉱石を買い取ろうと破格の条件を出すが琴音は首を横に振る
「いくら材料があっても時間がないんでしょう。だから、私の条件を呑んでくれると言うのなら残り十九本のロングソードの作成も私がしてあげる」
「まぁ、確かに時間がねぇのは確かだがどうやって作るだ?」
「私にはそういうスキルがあるの。最も、そのスキルを使うにはカイジンが作った一本目のロングソードが必要となるけどどうかな?」
交渉しているように見えるが主導権は琴音が握っている。カイジンには断るという道は最初から無いため、琴音の条件を飲む以外の選択肢がない
「分かった。何が望みだ?」
「貴方が信頼できて、技術指導をしに村まで来てくれる人を探して欲しい」
「……そんな事で良いのか?」
もっと理不尽な願い事が来るのではないかと身構えていたカイジンは琴音の出した条件に困惑する
「私達の村に今、最も必要なのは服と家を作る技術とそれを教えてくれる指導者。そのために私達はこの国に来たんだから、むしろそれで手に入るなら安いもんよ
それに、ここで貴方達に恩を売っておけば、将来的に武器や防具の相談も出来るでしょう?」
その言葉を聞いたカイジンはしばらく呆然としたが、やがて大きく息を吐く
「そんな事で良いのか?材料の調達、俺の代わりにロングソードの製造。正直、こっちの方が得してるくらいだぞ」
「そうかしら?お互いに目的のものが手に入るのだから公平な取引じゃない?」
「ははっ!違いねぇ!分かった!その条件を呑もう」
「交渉成立ね」
交渉が成立すると琴音は早速、カイジンが作ったロングソードを見せてもらう。出てきたロングソードは刀身がほんのり光っている
「それで、どうするんだ?」
何が始まるのかとカイジンを含めた全員が琴音の方を見る
「私の左目は暗黒龍の瞳と言って魔力を含んだものなら、見たものの外側を解析出来る。でも、外側だけの解析で再現できるのは形だけ。だから……」
左手でロングソードに触れる
「『
混沌がロングソード全体を包み込む
「材質の解析……完了。構造の解析……完了」
次々と解析が完了する中で琴音はロングソードの性能に驚く
魔鉱石を剣の芯として作成した場合、持ち主のイメージに沿って剣が変化し、使えば使うほど使用者に合わせて剣も進化していく戦士と共に成長する武器
こんな武器を作れるカイジンがテンペストに来てくれるのが一番理想的だと思いながら全ての解析が完了する
「解析完了」
次に、空いている右手をテーブルの上にかざす
「『
次の瞬間、カイジンが作ったロングソードと全く同じのロングソードが十九本があっという間に生成された
「なっ!?」
「兄貴が何日もかけて作った件が一瞬で……」
目の前に突然現れたロングソードにカイジンとカイドウは目を見開く
「ちゃんと出来ているか確認してみて」
「お、おう……」
あっという間に剣が作られた事に驚く暇もなく剣を受け取り、観察する
「信じられねぇ……確かに、俺が作った一本目の剣と遜色ねぇ」
「このスキルは見本となる物をコピーして作り出すから見本が良ければ高性能の武器を何本でも作り出せる」
逆を言えば見本を超えるものは作れないのでオリジナルを超える事は不可能という事でもある
「よし!お前ら、急いで納品するぞ」
作成したロングソードを納品するためにカイジン達が動き、やる事のない琴音とゴブタは椅子に座り、カイジン達の作業を終わるのを待った
それからしばらくして納品を終えたカイジン達が帰ってきた
「あんたのおかげで無事に納品出来た。礼と言っちゃなんだがこれから祝賀会でもやらねぇかって話なんだがどうだ?」
カイジンの提案に琴音はそれよりも技術指導してくれる人を探して欲しいと思っていると
「まぁまぁ、エルフの綺麗なお姉ちゃんがいっぱいいるから」
「そうそう!夜の蝶って店でな。若い子から熟女まで紳士御用達の店なんだけど女性が行っても絶対に楽しめるから」
「うんうん」
祝賀会というよりは単に三人が行きたいだけのような気がするのは気のせいだろうか
「エルフ!琴音様!ここは是非とも行きましょうよ!」
何故かゴブタはついてくる気満々でいて目を輝かせている。既に琴音以外は行く気でいるのをみて溜め息を吐く
「まぁ、男共と飲むよりは何万倍もマシか」
どうせなら美人のエルフとお酒を飲んだ方が絶対に楽しいと判断して琴音も立ち上がる
「お前達!私の期待を裏切ったやら許さないからね!」
そうと決まれば琴音もエルフに会える事にワクワクしながら夜の蝶へと向かった