龍姫は理想郷を作らない   作:龍姫の琴音

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第十話夜の蝶

カイジンに連れられてやってきたのはネオンのような光に照らされたキャバラクを思わせる店だった

扉を開けると鈴が軽やかに鳴り、カイジン達の入店を知らせる

 

「あらカイジンさん、いらっしゃい」

 

どうやら店主のママさんと顔見知りになる程に通っているようで名前で呼ばれるほどの常連らしい

 

「いらっしゃいませ」

 

煌びやかな衣装に身を包んだエルフ達がカイジン達を出迎える

 

「今日は俺の恩人を連れてきているんだ。しっかりもてなしてやってくれ」

 

カイジンに紹介されて琴音が店の中へと足を踏み入れる

 

「わぁ!女の子だ!」

 

「もちろん、歓迎しますよ」!

 

「女の子のお客さんなんて久しぶり〜!」

 

琴音のような女性が入店してもエルフ達は驚いた様子も見せずに笑顔で琴音を迎えた。一方、その後ろではゴブタが緊張で体を強張らせ、入口で動けずに立ち尽くしていた

 

「ゴブタ、無理なら外で待ってる?」

 

「む、無理なわけないっす!こんな機会、滅多にないんすから存分に楽しませてもらうっす!」

 

そう口では言っているが足がガクガク震えておりどう見ても無理をしているのが丸わかりだ

 

「は〜い。まずは乾杯しましょう」

 

ママさんに案内されて琴音とゴブタは席に着くと人数分の酒が運ばれ、一人につき二人のエルフが左右に付き全員で乾杯する

 

軽く一杯飲むと琴音に付いたエルフが興味津々と言った様子で話しかけてくる

 

「ねぇねぇ、お姉さんはこう言うお店にはよく来るの?」

 

「ううん。こう言うお店に来るのは初めてだよ」

 

「そうなの?緊張してないからてっきり……」

 

「遊び慣れていると思った?」

 

「う〜ん……女の子のお客さんってかなり珍しいからね。男の人と一緒に来るぐらいだから慣れてるのかなって思って」

 

琴音は苦笑しながら首を横に振る

 

「生まれた時から周りに女性しかいない環境で育ったせいか、女性と話す事で緊張する事は無かったかな」

 

緊張しないと言うよりは琴音は太陽の女神の天照、月の女神の月詠の元で育てられた

二人は絶世の美女と言っても過言ではない程の美しさを持っており、そんな二人を見て育った琴音からすると普通の美人相手では緊張する事なく話せる

 

それから会話を進め、ゴブタの様子を見るとまだ緊張してはいるがエルフ達が積極的に話題を振る事で少しずつだが緊張が解けているようで安心し、琴音もエルフ達との話に集中する事にした

世間話程度の会話だがどんな話でもエルフ達は楽しそうに話を聞き、時には質問をしてきたりと楽しい時間を過ごしていると、その楽しい時間に突如として終わりが訪れた

 

「いいんですか。こんなところでのんびりしていて」

 

別に席の客が口を挟んでくるとカイジンは声の主を見て眉を顰める

 

「大臣のベスターだ」

 

ベスターと言えばカイジンに無茶な要求をしてきたというバカ大臣の名前だ。確かに、嫌味ったらしい顔をしている

 

ベスターは部下を数人連れており、一人でこちらの席に歩み寄る

 

「遊んでいる場合なのですかな?確かロングソードの納品の期限は……」

 

「さっき納めてきた」

 

「期限に間に合わなければ……」

 

勝ち誇った顔をしていたベスターはカイジンの言葉に目を丸くした

 

「え……納めてきた?」

 

やはり無理である事を承知の上だったようでカイジンに聞き返す

 

「あぁ、きっちり二十本。なんなら納品書を確認するか?」

 

逆にカイジンが勝ち誇った顔でベスターに納品した事を突きつける。事実を突きつけられたベスターは咳払いをすると、視線をカイジンからゴブタへと移す

 

「それよりもそれですよ。それ」

 

「えっ、オイラっすか?」

 

「いけませんな。この上品な店に下等な魔物のゴブリンなどを連れ込むとは」

 

下等という言葉に琴音はカチンと来るとゆっくりと席を立つ

 

「ゴブタは私の連れ。文句があるなら私が聞くよ」

 

「ほぉ、人間の小娘がゴブリンを連れ歩くとは随分と気味の悪い小娘ですな」

 

「無理な注文をするどっかの腹黒大臣よりかはマシかと思うけど?」

 

琴音の発言にベスターの眉がピクリと動く

 

「大臣様、お話はそれぐらいにして一杯いかがですか?」

 

不穏な空気を察したママがベスターに酒をすすめる

 

「……」

 

ベスターは無言のまま酒を受け取ると不敵な笑みを浮かべる

 

「魔物を連れ歩くような奴にはこうするのがお似合いよ」

 

そういうとベスターは酒を琴音の頭から勢いよく浴びせた。酒が髪を伝って着物を濡らす

 

本当なら一発ぶん殴ってやりたいがそんな事をしたら店に迷惑がかかる

せっかくの楽しい時間を過ごさせてくれたこの店に迷惑をかけるのは恩を仇で返すようなものだ。ここはなるべく穏便に済ませるべきだ

 

そう思っているとカイジンが琴音の横を通って前に出るとベスターの顔面を思いっきり殴った

 

「ベスター!俺の客に舐めた真似してくれやがって。覚悟はできてるんだろうな」

 

「き……貴様、私に対してそのような口を……」

 

カイジンからの予想外の反撃にベスターは完全に弱腰になり、先ほどまでの威勢はなくなり、目には恐怖と動揺が浮かぶ

 

「黙れ!」

 

完全に頭に血が昇っているカイジンはもう一発ベスターを殴り飛ばすとベスターは気絶してしまった

その光景に琴音はため息をつく

 

「あの、タオルをどうぞ」

 

「ありがとう」

 

エルフから渡されたタオルで頭や髪についた酒を拭き取りながらカイジンに話しかける

 

「せっかく私が穏便に済まそうとしたのに何やってるの……でも、ありがとう。おかげでスッキリした」

 

「そいつは良かった」

 

満足そうに笑うとカイジンは琴音の方に向き直り、琴音を見る

 

「ところで琴音の姐さんは腕のいい職人を探してたよな。それ、俺じゃ駄目かい?」

 

「腕も良くて、今日会ったばかりの人を助けちゃうようなお人好しなら大歓迎よ」

 

琴音は右手を差し出す

 

「これからよろしくカイジン」

 

差し出された手に応じてカイジンと握手を交わす

 

こうして琴音はドワルゴンの名工であるカイジンを仲間として迎える事に成功した

 

しかし、その後に騒ぎの報告を聞き、呆れ顔で駆けつけたカイドウ達によって琴音を含む六人全員がまとめて捕縛される事になった

そして後日、この騒動の責任を問う裁判が開かれる事を聞かされた

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