テンペストにカイジン達を連れ帰って数週間
琴音は丘の上から日に日に姿を変えていくテンペストを見下ろしていた。見すぼらし買った村はカイジン達の指導によって整然と区画が整理され、新しい家も次々に建てられている
「これならなんとか全員分の寝床が確保できそうね」
テンペストに帰還すると、そこにはヴェルドラの庇護を受けられると噂を聞きつけてやってきた総勢五百名のゴブリン達がテンペストに移住しており、留守を任されていたリグルドはやってきたゴブリン達を統率し、大賢者は全員に名付けを行って進化も完了済みとの事だった
これにより、当初予定していた村の改装は五百名もの移住者によって大規模開拓へと変わった
しかし、大賢者は既にジュラの大森林を開拓する計画書を作成しており、カイジンは鍛治、ガルムは防具、ドルドは細工、ミルドは建築や芸術をそれぞれゴブリン達に技術を教え、新たな村作りが着実に進んでいた
「琴音様!」
遠くからリグルドが走ってやってきた
「どうかした?」
「リグルら警備班から森で不審な者達を発見したとの報告が来ました」
「魔物か?」
「いえ、人間です。数は四名です」
「人間が四人……調査隊か?」
しかし、数が少なすぎる。それに、もし実力がある者なら警備班に見つかるような迂闊な行動をするとは考えられない
「とりあえず行ってみるしかなさそうね。リグルド、大賢者さんとヴェルドラにもこの件を報告、来てもらうように言っておいて」
「承知しました!お気をつけください琴音様」
リグルドが報告のために村に戻ると琴音の影からランガが出てきた
「ランガ、不審者の元に」
「はっ!我が主」
ランガの背に乗り森の中を進んでいくと大きな魔力の反応を検知した
「ランガ、急いで!」
「承知!」
さらに速度を上げ、魔力を感知した場所に到着すると報告にあった四人の人間を見つけた。その中で仮面をつけた人間は刀身に炎を纏わせて人の何倍もの大きさのある蟻型の魔物ジャイアントアントと戦いを繰り広げていた
「ほぉ、中々やるではないか」
遅れてヴェルドラと大賢者が到着し、ヴェルドラがジャイアントアントと戦っている人間の戦いぶりを褒めると全てのジャイアントアントを討伐し終えた
「確かに剣術、身のこなし、そして魔力のコントロールを見てもかなりの強者である事は分かる。でも……」
次の瞬間、一体のジャイアントアントが意識を取り戻し背後から襲いかかる
「
ジャイアントアントの頭上に混沌を纏った黒い雷が落ち、ジャイアントアントは跡形もなく消し飛んだ。落雷によって生じた衝撃で仮面が外れ、仮面の下には美人の部類に入るだろう綺麗な顔が見えた
琴音は仮面をキャッチすると持ち主へと差し出す
「怪我はない?」
「はい。助かりました」
「そっちの三人は?」
「大丈夫です」
「はい」
「私達は平気です。それよりもシズさんは?」
「うん。私も平気」
シズと呼ばれた仮面の女性はそう答えるが琴音はシズから感じ取れる魔力が気になり大賢者に小声で尋ねる
「大賢者さん。あのシズって人、体にかなりの魔力を溜め込んでいるけどどう思う?」
「現在、溜め込まれている魔力は安定しているので危険はないと判断出来ます
しかし、魔力を溜め込んでいるという事実は変わりません。もしも村に招待するのであれば警戒、及び監視する必要があります」
「……現状、危険がないならそうする。急に呼び出してごめんね。もしも交渉事になったら私じゃあ何も出来ないから」
「私は琴音様をサポートするように月詠様から言われています。お気になさらず」
とりあえずシズに関しては細心の注意を払うべき対象であると判断して話を進める
「とりあえず、この先に私が守護している村があるからそこで休むといいよ」
何をしに森にやってきたのかを知るためにも琴音は四人をテンペストへと招待した
───
村へと招待するととりあえずリグルドに食事を用意させるように頼み、琴音は食事がある程度進んだと思われるタイミングで大賢者を連れて四人がいる家に入った
「食事は口に合っているかな?」
シズは仮面をつけたまま器用に肉を口に運んでいるため、表情は分からないが三人は頬に肉を詰め込む勢いで食べ続けている
「聞くまでもなさそうね」
急な来客なので鉄板で肉を焼くだけの焼肉スタイルだがどうやら気に入ってくれたらしい
「まずは初めに自己紹介をしておきましょう。私はこの村で守護者をしている琴音。こっちは
「俺はカバル。一応、このパーティーのリーダーをしている」
「エレンです!」
「どうも、ギドと言いやす。お見知り置きよ」
「で、この人は行く方向が同じという事で臨時メンバーになった……」
「シズ」
互いの自己紹介を終えてカバルがこの森に来た経緯を話し始めた
ジュラの大森林の周辺国の一つ、ブルムンド王国の
「なるほど。で、今、この村は見ての通り自分達の住む場所を拡張するために工事をしている訳だけど、この事実に対してギルドとしてはどのように判断する?」
ゴブリン達が集い、村を作っている。これはヴェルドラの力が弱まった影響だ。ゴブリンといえど一箇所にこれだけのゴブリンが集まっている事を人間達はどう思うのだろうか
「いや、大丈夫だろう」
「そうね。ギルドが口を出す問題じゃないだろうけど、国はどうなんだろう」
「う〜ん……あっしには分かりません」
カバルは特に深く考えずに大丈夫だろうと楽観的な意見に対してエレンとギドはギルドの方は問題ないが国がどう判断するかまでは分からないとカバルよりも慎重な意見を述べる
「現状、国の判断待ちってわけね……とりあえず、今日はテンペストに泊まっていきなさい
まだ家を建設中で部屋数が足りないからカバルとギドの男性部屋、エレンとシズの女性部屋に分かれるけど良い?」
「お部屋を用意してくれるんですか!?野宿しなくていいなんて最高です!ありがとうございます!」
琴音の提案にエレンは目を輝かせて嬉しそうにするのを見て琴音は外に出た
外に出るとヴェルドラがゴブリン達に混ざって仕事を手伝っている光景が映る
「あぁ、見えて世界からは危険な存在として見られているのよね……大賢者さん、これからもカバルのような調査隊が来ると思う?」
「可能性はあります。今も、琴音様をドワルゴンから尾行してテンペストを監視している方もいますので」
ドワルゴンを出てから琴音達を尾行している者がいた。琴音は特に危害を加える気がなさそうなので放置しているが、十中八九ガゼル王が琴音の事を警戒しているのだろう
「面倒事は嫌いなんだよね。相手をぶっ飛ばしたら終わりみたいにシンプルな方が私の好み」
「交渉といった内政面に関しては私にお任せください。琴音様はしたいと思う事をしてください。事後処理は私がやりますので」
「頼りにしてるよ大賢者さん」
「お任せください」