大賢者さんの案内で洞窟の奥に辿り着くと、そこには巨大な竜がいた
「珍しく客人が来たと思えば、人間の姿をしながら龍の気配を持つ小娘と、スキルを持った人形とは随分と面白い組み合わせだな」
竜の口から人語が出た事にも驚いたが、それよりも一目見ただけでこちらの素性を見抜いた事に驚く
「そこまで見抜くなんて流石は暴風竜ね
私は人の姿をしているけど体に龍の魂を宿している存在。名前は琴音
こっちは私の先生が作ったスキルを宿した人形で名前は大賢者さん」
「我の名前は暴風竜ヴェルドラ。この世に四体のみ存在する竜種が一体である」
世界でたったの四体しか存在しない竜種。その一体が封印された洞窟が始まりの場所に転移させられた
これは偶然なのか、それとも先生が計算した上でこの場所にしたのだろうか
「私達は先生の力でこの場所に転移させられたからこの世界の事は一切知らないけど、ヴェルドラはこの世界では封印しておかないといけない程に強い存在という事はよく分かったわ」
「転移?……なるほど、お前達は“異世界人“と言うわけか」
ヴェルドラの口から出た“異世界人“と言う言葉に琴音が反応する
「この世界は異世界から人が来る事があるの?」
「あぁ、異世界からやって来る者はたまにいるな。そう言った者を“異世界人”と呼ばれている
そういう者達は世界を渡る際に特殊な能力を獲得するらしい」
異世界から来た者は特別な力を得る──まるで物語のような話だ。異世界から人を呼べるという事はこの世界の魔法はかなり進んでいるのかもしれない
「もしかして、ヴェルドラを封印したのもその“異世界人”?」
琴音の質問にヴェルドラの目が輝いた
「よくぞ聞いてくれた!三百年ほど前、ちょっとうっかり街を一つ灰にしてしまってな」
さらりと言っているがやはり強大な力を持っている竜が暴れると被害はとんでもない事になるようだ
「そんな我を討伐しようとした者が現れてな。あまりの強さに我も途中から本気を出したのだが、負けてしまった!」
本気を出した竜を相手に勝ってしまうとは、その人間はかなり強力なスキルを持っていたのだろう
「そいつは加護を受けた勇者という存在でな。ユニークスキル『絶対切断』で我を圧倒、そして『無限牢獄』で我を封印したのだ」
「スキルを二つ持った人間?さっき言っていた加護っていうのが関係しているの?」
「そいつは自分の事を召喚者と言っておったな」
「召喚者……異世界人とはまた違った存在って事?」
「三十人以上の魔法使いで何日もかけて儀式を行い、異世界から呼び出すのだ
だが、呼び出された召喚者は召喚した召喚主に逆らえないように魔法で魂に呪いを刻まれる」
自分より強力な力を持った者を召喚するリスクを考えれば妥当だが、召喚された側からすると勝手に召喚されて、強制的に服従させられると考えると胸糞悪い話だ
「色々と話してくれてありがとうヴェルドラ。お礼にそこから出してあげるよ」
「何!?お前、この『無限牢獄』を破れるのか!?」
琴音の左目には暗黒龍の瞳という見たものを解析する能力がある
『無限牢獄』に対してこの能力が発動し、解析が出来るという事は琴音の力でどうにかなると言う事だ
「まぁ、この程度ならね。それで、どうする?」
「是非とも頼む。実は、あと百年ぐらいで我の魔力は底を尽き、朽ち果てるところだったのだ」
朽ち果てるかもしれないのに笑いながら話すのは覚悟が決まっているのか、それとも三百年も続く孤独に終わりが訪れる事に安堵しているのかもしれない
「お待ちください琴音様」
今まで口を出さなかった大賢者さんが二人の会話に初めて口を挟んだ
「ん?」
「現在、暴風竜ヴェルドラの魔力はかなり低下しています。この状態で封印を解きますと『無限牢獄』内の魔素が一気に放出されて危険です」
大賢者さんの言う通り、『無限牢獄』の中はヴェルドラから流れ出ている魔素が充満している
このまま封印を解くと充満している魔素が一気に放出してヴェルドラの魔力が一瞬で底をついてしまう可能性がある
「じゃあ、封印は解かないほうがいいの?」
しかし、このまま封印されていたら百年後には魔力が底をついてしまう
「ですので一度、人の姿にまで小さくなってもらい、その後に封印を解く事を推奨します」
「あぁ、小さくなって消費する魔素の量を減らすのね」
大賢者さんの案に納得すると大賢者さんは右手をヴェルドラの方に向けると、右手から人間に関する情報の入った魔力をヴェルドラの脳内に直接送る
「うぉぉぉ!なんだ!?情報が直接脳内に流れ込んでくるぅぅぅ!」
今までにない経験にヴェルドラは戸惑いながらも興味深そうに脳内に送られてくる情報を読んでいる
「ただいま送った情報の中から人の姿になってください」
「うむ……」
送られてきた情報をヴェルドラはしっかりと吟味する
「よし!決めたぞ」
ヴェルドラの言葉を聞いて琴音は『無限牢獄』の前に立つ
「じゃあ、私も封印の解除に取り掛かるわ。ヴェルドラ、人の姿に変わって」
「分かった!」
左手に龍気を集め『無限牢獄』に触れる
「
琴音の左手から漆黒の色をした混沌が『無限牢獄』を飲み込み始めると飲み込まれた場所から終焉が『無限牢獄』を無効化していく
やがて混沌は『無限牢獄』全体を飲み込むと表面に亀裂が走る。その亀裂がやがて大きくなり、終焉が『無限牢獄』を完全に無効化するとパリィィン!と音を立てて砕け散り、中から膨大な量の魔素が噴き出した
「ヌハハハハ!我!完・全・復・活!」
決めポーズまで決めて人の姿になったヴェルドラが『無限牢獄』の中から飛び出してきた
「三百年ぶりの外はどう?」
「うむ!最高だ!」
人の姿になった事で魔力の消費が抑えられて体に異常は出てないようだ
「じゃあ、次は洞窟の外に出ようか」
「それはいいな。我は三百年ぶりに美味いもんが食いたいぞ」
「じゃあまずは適当に村や街に行ってみましょう。大賢者さん、道案内をお願いしてもいい?」
「かしこまりました」
大賢者さんに続き、琴音達は洞窟の出口へと進む
出口へ向かう中、大賢者さんは暴風竜ヴェルドラが解放された事で生じる世界に対する影響の演算を続けていた
国同士の争いの可能性、放出された魔素による森に住む魔物達に及ぼす影響。それらが起きた先にある幾つにも分岐した未来と結末
演算の結果が示した未来を大賢者さんは琴音に告げる事はしなかった
(琴音様、貴女は私の想定した未来を進むか、それとも私の想定外の新たな道を切り開いて進むか。最後まで観察させてもらいます)
暴風龍ヴェルドラの封印を解いたこの出来事はやがて世界を巻き込む大きな歴史の転換点になる事を琴音とヴェルドラはまだ知らない