ゴブリン村の守護者となった琴音達は村長から村を襲う魔物について話を聞いた
「ある日、東の地から狼の魔物、牙狼族の襲来が襲来しました
村を守るべく、戦士達が命懸けで戦ってくれたおかげでなんとか村は守られました。しかし、その戦いで多くの戦士達が討たれてしまいました」
話からすると現在、この村に残っているほとんどのゴブリンが非戦闘員なのだろう
「戦士の中には名持ちのゴブリンがおりました。私の息子であり、これの兄でした」
村長の言葉に隣にいるゴブリンは肩を振るわせながら拳を強く握りしめる
「息子は命を賭して戦い、牙狼族は百体いると言う情報を持ち帰って来れました」
「その情報を聞いて次は全滅すると分かってヴェルドラに助けを求めに来たと言うわけね」
「左様でございます」
これまでの情報を聞いて琴音は大賢者に念話を送る
『大賢者さん。今の話を聞いて牙狼族はどうしてこの森を襲撃して来たと思う?』
『情報が不足しているため断定は出来ません
しかし、牙狼族には弱肉強食の価値観があり、強者に従うという風習があります。群れの長が森に侵攻する事を決定したのであれば、群れはそれに従います』
長の考えがそのまま群れの方針になると言う事は個としての強さより群れの大きさがそのまま牙狼族の強さになるタイプの魔物という事になる
『ですが牙狼族は通常、勝算の低い相手の縄張りに侵攻するような種族ではありません
暴風竜ヴェルドラの力が弱まった事だけが理由とは考えにくく、侵攻を決断させた別の要因が存在する可能性があります』
村長の話では百体もの群れで侵攻してきたと言っていた
だが、たったその程度の数でヴェルドラに敵うなんて思うだろうか。今の牙狼族の長が好戦的な個体だとしても無謀としか言いようがない
まるで、何かに追い立てられたかのようにこの森に来たような──そんな違和感があった
「理由はリーダーに聞かないと分からないか……」
このまま考えていても仕方ない。そう思ったその時だった
『オオオオォォォォ!!』
遠くから牙狼族の遠吠えが村に響き渡る。その声を聞いたゴブリン達は慌てふためきパニックになる寸前になっていた
「ヴェルドラ、一発お願い」
琴音に言われるがままヴェルドラは外に出ると大きく息を吸い込む
「静まれ!」
牙狼族の遠吠えを遥かに超える大声が響き渡り、ゴブリン達の視線が一斉にヴェルドラの方へ集まる
「案ずるなゴブリン共!暴風竜ヴェルドラと我が友、琴音がこの村の守護者となったのだから何も臆する事は無い。全て我らに任せておけ!」
ヴェルドラの言葉にゴブリン達は勇気づけられパニックにならずに済んだ
やはり暴風竜というだけあって言葉だけでゴブリン達を安心させるだけの重みがある
「それで琴音、具体的にはどうするんだ?」
「まだ牙狼族は襲撃してこないならそれまでにやれる事をする
村長、怪我人のところに案内して。残っているゴブリン達は村を守るための防護柵作りに取り掛かって」
琴音が指示を出すとゴブリン達はすぐに行動に移った
村長は怪我人が収容されている家まで琴音達を案内する。家の中に入ると、そこには牙狼族の爪や牙で負傷したゴブリン達が横たわっていた
「大賢者さん、怪我を治す方法ってある?」
「でしたらこれをお使いください」
大賢者は右手に魔法陣を展開し、その中から液体の入った小瓶を取り出す
「これは?」
「ヴェルドラが封印されていた洞窟内に自生していたヒポクテ草から生成した回復薬です。これは純度の高い薬ですので致命傷ですら瞬時に回復させる事が出来ます」
「そういえば、洞窟の中で大賢者さんが歩いた場所の草が消えていたけどあれはヒポクテ草を収集していたからだったんだ」
気にしていなかったがあれにはちゃんとした意味があったのだと納得する
「さっき純度って言っていたけど普通の回復薬は純度が低いのから高いのまであるって事?」
「はい。純度が高いほど高価で希少とされています。ご要望でしたら薄めて数を増やす事も可能ですが、如何なさいますか?」
「う〜ん……別に私には必要ないけどゴブリン達の事を考えるとあって損はないかな。大賢者さん、お願いしてもいい?」
「かしこまりました」
琴音は回復薬を怪我をしている箇所にかける
すると傷が瞬時に塞ぎ、ゴブリン達は元気を取り戻した。その様子を見て琴音は手元の回復薬に視線を落とす
「致命傷でも完全回復できるとは言っていたけど……これ一本でどれぐらいの価値になるのかしら?」
ゲームならラストダンジョン手前にある村で売られているような代物だ。それが現実世界で本当に実在するとすればとんでもない価値があるかもしれない
治療を終えると琴音は元気になったゴブリン達にも防護策を作るように指示を出した
それから数時間後、急ごしらえではあるが村の防衛準備は整った
「とりあえず、やれる事は全部やった。後は、牙狼族の襲撃に備えるだけ」
防衛の準備は整った
だが、一つの疑問が琴音の頭から離れない。なぜ、牙狼族は暴風竜が支配する森へ侵攻してきたのか、その理由がどうしても見つからない
もし、まだ知らない情報があるのなら──それは今夜の戦いで明らかになるはずだ