龍姫は理想郷を作らない   作:龍姫の琴音

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第六話テンペスト誕生

一夜が明け、ゴブリン村の広場にゴブリンと牙狼族を集める

 

「こうして集めてみるとかなりの大所帯になったね」

 

「クハハ!賑やかで良いではないか!」

 

人数が増えたと言う事は、それだけ必要な食料や居住スペースが増えるという事だ

 

だが、その前にやらなければならない事がある

 

「は〜い、注目!」

 

琴音が手を叩くと全員の視線が集まる

 

「突然ですが、皆さんに名前をつけたいと思います」

 

一瞬の静寂

 

そして、次の瞬間、全員が名前を貰える事に喜び、歓喜の声を上げる

名前を持つというのは魔物にとっては特別な意味を持つ。そのため、名前を与えるといった琴音の発言に村長を含めた全員が狂喜乱舞する

 

琴音は再び手を叩き皆を静かにさせる

 

「名前を与えるのにはちゃんとした理由があります

あなた達は今、ヴェルドラの庇護下にいます。でも、だからと言って全てをヴェルドラに頼るのは駄目です。自分達で出来る事は自分達でやる。困難に立ち向かう地たらを身につけるために、みんなには強くなってほしいんです」

 

ヴェルドラの庇護はあくまで最終防衛手段であって普段から頼り切っていてはゴブリン達はいつまで経っても成長出来ない

 

「村長、あなたの息子さんの名前は何ていうの?」

 

「リグルと申します」

 

名前を聞いた琴音はリグルの弟へ歩み寄る

 

「弟の君には兄の名前を継いでもらいたい」

 

弟は目を丸くして驚く

 

「でも、名前を継ぐという事は兄の分も生きるという事。兄を超える立派なゴブリンになる事をその名前に誓ってほしい。その覚悟が君にある?」

 

「はい!俺、その名前に恥じない立派なゴブリンになります!」

 

迷いのない覚悟の決めた力強い瞳で琴音を見る。それを見た琴音は頷き、全員の方へ向き直る

 

「では、これより名付けを行います。名付けに必要な魔力はヴェルドラから、名付けは大賢者さんにお願いします」

 

「クハハハ!我に任せるが良い」

 

「かしこまりました」

 

大賢者の前へゴブリン達が並び、次々と名前を与えていく

 

名前を与えられたゴブリン達は喜び、そんな様子を眺めているとヴェルドラが琴音に話しかける

 

「なあ、琴音。この村に名前をつけぬか?」

 

「村に?」

 

「我が守護する村だ。格好いい名前が欲しい」

 

確かにヴェルドラの存在が知れ渡れば、それだけで大きな抑止力になる

 

「暴風竜に守られた村の名前か……」

 

琴音は腕を組み、頭をフル回転させて自分の持っている知識を捻り出してく

 

「風……嵐……暴風……」

 

単語を呟きながら考えてい他その時、一つの言葉が思い浮かんだ

 

「テンペスト……」

 

嵐を意味する言葉。暴風竜を表すのにぴったりの言葉だ

 

「テンペスト?」

 

「うん。ヴェルドラという嵐に守られた村『テンペスト』なんてどうかな?」

 

琴音のアイディアにヴェルドラは満足そうに笑う

 

「テンペスト……良い名だ。決めた!今より我が名は暴風竜ヴェルドラ・テンペスト!そしてこの村は我が守護する村テンペストだ!」

 

ゴブリン達の名付けが終わり、ヴェルドラの宣言にゴブリン達から歓声が上がる

 

そんな中、大賢者が琴音に声をかける

 

「琴音様、牙狼族ですが、彼らは群れで一つの個体として成立しています。長にのみ名付けを行えば群全体が進化します」

 

「なら、君にはランガって名前をあげるね」

 

「ランガ……何か意味があるのですか?」

 

「テンペストを守る牙って意味なんだけどどうかな?」

 

「有難き名にございます」

 

牙狼族の長は深々と頭を下げる

 

「では、名付けを実行します」

 

大賢者が名前を名前を与えた瞬間、広場全体が眩い光に包まれた

 

ゴブリン達の体が大きくなり、雄は逞しい青年へ、雌は美しい女性へと変わった

 

「これが進化?」

 

「雄はホブゴブリン、雌はゴブリナへの進化を確認しました」

 

ゴブリンだった頃の面影は残ってはいるが、もはや別種と言ってもいい程の変化だ。そして、牙狼族にも変化が起きる

 

ランガの体は一回り大きくなり、額には一本の角が生えている

 

「我らは牙狼族から嵐牙狼族(テンペスト・ウルフ)へと進化しました」

 

ランガは嬉しそうに尻尾をブンブン振ると、周囲に強烈な風が巻き起こった

 

「嬉しいのは分かったから尻尾を振るのを止めて」

 

「これは失礼!」

 

尻尾を振るのを止め、琴音は大きくなったランガの体をまじまじと見つめる

 

「進化したのはいいけど、その大きさだと村の中は狭くない?」

 

「問題ありません」

 

そう言うとランガ達の体が牙狼族の時と同じぐらいの大きさに戻った

 

「便利な体ね。じゃあ、村の中にいる時はその大きさでお願い」

 

「御意!」

 

ランガ達の方針が決まり、次にゴブリン達の方に目を向けた

 

「大賢者さん、村長の名前は?」

 

「リグルドです」

 

「リグルド。こっちに来てくれない?」

 

「はい!ただいま!」

 

琴音の前にやって来たのは筋骨隆々なホブゴブリンだった

 

「……どちら様?」

 

「村長のリグルドです!」

 

筋肉を魅せつけるようにマッスルポーズを決める

 

「いやいや、おかしいでしょう!さっきまでヨボヨボだった爺さんが進化したら筋肉モリモリのマッチョマンに若返るってどう言う理屈なの!?」

 

他のゴブリン達は普通の進化なのに村長だけ進化というよりは突然変異したといった方が納得する変化だ

 

「名付けによって膨大な魔力を得た事で本来持っていた力が発現したものと思われます」

 

「そうなの?」

 

「はい!」

 

いちいちマッスルポーズを決めながら説明するリグルドを見て考えるだけ無駄のように思えてきた

 

「まぁ、体に異常がないならなんでも良いや」

 

考えるのも馬鹿らしくなってきて琴音は考えるのを止めた

 

「リグルド、これからの村の方針をみんなに話す」

 

「はい!」

 

「私には村を運営した経験がない。だからおかしいと思ったら遠慮なく指摘してほしい」

 

「このリグルドにお任せください!」

 

リグルドの力強い言葉に琴音は頷く

 

異世界からやってきた琴音と大賢者は暴風竜ヴェルドラと出会い、ゴブリン村の騒動に巻き込まれ、今では進化したゴブリン達と嵐牙狼族(テンペスト・ウルフ)が共存する小さな村テンペストの守護者になった

この出会いはきっと運命なのだろう。ここにいるもの達と共に琴音は新しい一歩を踏み出す

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