現代ダンジョンで成り上がり!   作:ダンジョン厨

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第十二話 支援装備

 

 支援装備の取扱訓練は、協会支部地下二階の装備検証区画で行われることになった。

 

 そこは訓練場というより、実験室に近い場所だった。壁際には用途別に分けられた星骸兵装の保管ラックが並び、床には門内地形を再現するための可変式パネルが敷き詰められている。天井からは投射装置が下がり、必要に応じて魔力流路、仮想障害物、敵性反応、視界不良環境などを再現できるらしい。

 

 晴人はその説明を聞いただけで、少し目を輝かせていた。

 

「すごいですね。これ、門の中の状況を再現できるんですか?」

 

 白石はタブレットを操作しながら頷いた。

 

「完全再現ではありません。門内の変質は環境ごとに差が大きいので。ただし、低等級門で確認される床面流路、遮蔽物、視界不良、魔物の簡易反応程度なら再現できます」

 

「十分すごいですよ!」

 

「そう言ってもらえると、設備担当も喜ぶと思います」

 

 白石が少しだけ笑う。

 

 晴人は訓練台に並べられた装備へ視線を戻した。新しい星骸短刀、軽量ワイヤー、発音ビーコン、流路照明弾、位置マーカー、簡易閃光弾、構造記録端末。どれも前衛探索者が憧れるような派手な兵装ではない。だが、それらが自分のために用意されたものだと思うだけで、胸の奥が自然と熱くなった。

 

 未発現者だった頃、晴人に渡される装備はいつも余り物に近かった。予備の魔力灯、記録端末、荷物用の収納ケース。もちろん、それらも任務に必要なものだったし、晴人は嫌だと思ったことはない。けれど、どこかで理解していた。自分は戦力ではなく、戦力の後ろについていくためにそこにいるのだと。

 

 今は違う。

 

 目の前の装備は、晴人が攻略支援者候補として動くために用意されたものだった。

 

「榊、嬉しいのは分かったから、まず説明を聞きなさい」

 

 朝比奈紗季が横から言った。

 

「はい。すみません」

 

「謝るほどではないわ。浮かれたまま触って爆発させられると困るだけ」

 

「爆発するんですか?」

 

「使い方を間違えれば」

 

「急に緊張してきた……!」

 

 晴人が背筋を伸ばすと、久我蓮司が壁際で呆れたように笑った。

 

「お前、遠足前の小学生みたいな顔してるぞ」

 

「だって、俺用の装備だぞ。そりゃ嬉しいだろ」

 

「まあ、それは分かるけどさ」

 

「分かるんだ」

 

「少しはな」

 

 久我はそう言って、照れ隠しのように視線を逸らした。

 

 白石が最初に手に取ったのは、発音ビーコンだった。直径五センチほどの円盤状装備で、表面には協会の管理番号と、小さな魔力接続端子が刻まれている。

 

「発音ビーコンは、魔物の注意を引くための誘導装備です。魔物の種類によって反応しやすい音域や振動波が異なるため、事前設定が重要になります。使い方を誤ると、誘導ではなく呼び寄せになります」

 

「呼び寄せ」

 

「はい。門内で不要な敵性個体を増やす原因になります」

 

「絶対間違えちゃダメですね」

 

 晴人は真剣な顔で発音ビーコンを受け取った。

 

 手のひらに乗せると、見た目より軽い。魔力を薄く流すと、表面に小さな光点が浮かんだ。

 

《支援装備:発音ビーコン》

 

《状態:待機》

 

《推奨設定:小型獣系/低周波誘導》

 

《警告:高出力起動は非推奨》

 

 表示が出る。

 

 晴人は少しだけ息を止めた。

 

「表示、出ました」

 

 白石が即座に端末へ記録する。

 

「内容は?」

 

「発音ビーコン。状態は待機。推奨設定は小型獣系、低周波誘導。高出力起動は非推奨」

 

「こちらの設定画面と一致しています。装備情報の読み取りも可能、と」

 

「便利ですね」

 

「便利ですが、頼りすぎないでください。協会装備は定期更新があります。表示と現物の仕様が食い違う可能性もあります」

 

「はい。確認します」

 

 晴人は頷き、発音ビーコンを訓練室中央の床へ置いた。

 

 白石の指示通り、魔力を細く流す。強く押し込むのではなく、端子の奥へ糸を通すように。基礎魔力循環の訓練で覚えた感覚を、今度は装備へ向ける。

 

 ビーコンが微かに震えた。

 

 人間の耳にはほとんど聞こえない。だが、訓練室の奥に設置された小型魔物型ドローンが、ゆっくりとビーコンの方へ向きを変えた。

 

「反応しました」

 

「成功です。次は出力を半分に落として、誘導範囲を狭めてください」

 

「はい」

 

 晴人は魔力を絞る。

 

 ビーコンの振動が弱まり、ドローンの動きも鈍った。

 

《魔力制御:安定》

 

《基礎魔力循環 Lv.1:熟練度微増》

 

《支援装備適性:記録中》

 

 地味な作業だった。

 

 けれど、晴人は楽しかった。

 

 派手な雷撃を撃つわけではない。魔物を一撃で倒すわけでもない。ただ、小さな装備に魔力を流し、相手の注意を数歩ずらすだけ。それでも、門の中ではその数歩が命を分けるのだと、晴人はもう知っている。

 

「次、流路照明弾に移ります」

 

 白石が細長い筒状の装備を取り出した。

 

「これは床面や壁面に存在する星骸質流路を一時的に可視化する補助具です。通常の探索者には見えない魔力の濃淡を照らします。ただし、強い門圧下では表示が乱れることがあります」

 

「俺の表示と合わせて使う感じですね」

 

「そうです。あなたの能力だけに依存せず、装備による視覚情報と照合することで、誤認を減らします」

 

 晴人は頷いた。

 

「いいですね。俺だけが見えてる状態だと、他の人に説明しづらいので」

 

「攻略支援者に必要なのは、自分だけが理解することではありません。味方に伝達できる形へ変換することです」

 

 その言葉に、晴人は少しだけ表情を引き締めた。

 

 死地では、必死に自分だけの表示を追っていた。危険を避けるために。死なないために。帰るために。だが、これからは違う。自分が見たものを、朝比奈や久我や御影に伝えなければならない。

 

 見えるだけでは足りない。

 

 伝わらなければ、支援にはならない。

 

「分かりました」

 

 晴人は流路照明弾を受け取った。

 

 訓練室の床に、模擬流路が再現される。普通に見ればただの灰色の床だが、晴人の視界には薄い青い線がいくつも走っていた。表示はその一部を黄色く縁取っている。

 

《模擬星骸質流路》

 

《危険度:低》

 

《高濃度点:右前方二メートル》

 

 晴人は照明弾を床へ投げ、起動した。

 

 薄い光が広がる。

 

 すると、床の上に青白い線が浮かび上がった。晴人が見ていたものと、完全には一致しない。装備が映し出した流路は太く、曖昧で、ところどころ滲んでいる。だが、久我や朝比奈にも見える形になっていた。

 

 久我が軽く眉を上げる。

 

「おお、こう見えるのか」

 

「俺の表示だと、もう少し細いです。あと、右前のここが濃いです」

 

 晴人は左手で床を示した。

 

 白石が計測端末を確認する。

 

「一致。濃度点の指摘も正確です」

 

「榊、これが実戦ならどう使う?」

 

 朝比奈が問う。

 

 晴人は少し考えた。

 

「魔物をこの濃度点に誘導します。足場が不安定になるなら転倒狙い。逆に爆発や過負荷の危険があるなら、味方には踏ませないようにマーカーを置きます。久我なら、ここに雷撃を流して範囲を広げられるかもしれません」

 

「俺の雷撃を地形ギミック扱いするな」

 

 久我が眉をひそめる。

 

「ギミックじゃない。床の流路に通せば、魔物の足を止められる」

 

「要するに、俺に床へ撃てってことだろ」

 

「うん。直撃じゃなくて、動きを止めたい。久我の雷撃なら、範囲を広げられる」

 

「簡単に言うな。外したら魔力の無駄撃ちだぞ」

 

「だから、撃つ場所は俺が見る。久我は一発だけでいい」

 

「……信頼が重いんだよ、お前」

 

「頼りにしてるって言ってほしい」

 

 晴人が笑うと、久我は少し悔しそうに顔を逸らした。

 

 朝比奈はそのやり取りを見て、端末に何かを記録した。

 

「悪くない。榊、あなたは装備単体ではなく、味方の能力と組み合わせて考えられている。それは支援役として大事な視点よ」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし、現場では味方の魔力残量も見ること。久我が雷撃を撃てる前提で組みすぎると、魔力切れの時に崩れるわよ」

 

「はい。久我の魔力残量も確認するようにします」

 

「俺を電池みたいに管理するな」

 

「大事に使う」

 

「言い方」

 

 白石が小さく笑った。

 

 その後も訓練は続いた。

 

 位置マーカーは、味方の現在位置を記録する小型装備だった。視界不良、遮蔽物、分断時の再集合に役立つ。晴人がマーカーに魔力を通すと、《ORIGIN://AUTHORITY》の表示上にも味方位置が重なり、久我と朝比奈の動きが薄い光点として見えるようになった。

 

 簡易閃光弾は、敵性個体の視覚器官、あるいは星骸質反応器官を一時的に乱す。晴人は最初、起動魔力を少し強く流しすぎて訓練室の警告ランプを点けた。

 

「榊」

 

「すみません。流しすぎました」

 

「素直でよろしい。次は半分」

 

「はい」

 

 構造記録端末は、門内の地形変化を記録する装備だった。晴人の表示と連動させる試験では、地図上に「晴人が危険だと感じた箇所」を仮マークとして残せることが分かった。これは白石がかなり興奮していた。

 

「これが安定運用できれば、榊さんの認識を後から検証できます。主観的な能力表示を、客観データに落とせる可能性があります」

 

「つまり、俺が何を見間違えたかも後で分かるってことですか」

 

「はい」

 

「それはありがたいです。失敗したところが分かれば、次は直せるので」

 

 白石は少しだけ目を細めた。

 

「あなたは、失敗の記録を嫌がらないんですね」

 

「嫌ではあります。恥ずかしいので」

 

 晴人は苦笑する。

 

「でも、分からないまま失敗し続ける方が嫌です」

 

 その言葉に、朝比奈がわずかに頷いた。

 

 訓練開始から二時間が経つ頃には、晴人は汗だくになっていた。

 

 戦闘訓練ではない。走り回ったわけでもない。だが、装備ごとに魔力の通し方を変え、出力を絞り、味方位置を見て、危険箇所を示し、説明するという作業は、思っていた以上に集中力を削った。

 

 最後の訓練として、簡易模擬戦が行われた。

 

 久我が前衛。朝比奈は監督兼緊急停止役。晴人は後方の支援位置から、発音ビーコン、流路照明弾、位置マーカーを使い、久我を模擬魔物二体から生還させる。

 

 戦闘開始と同時に、模擬魔物が走り出した。

 

《敵性個体:模擬魔物 A/B》

 

《脅威度:低》

 

《支援目標:久我蓮司の被弾数を二以下に抑制》

 

「久我、右のやつは囮! 左が回り込む!」

 

「了解!」

 

 久我が左へ雷撃を牽制で飛ばす。

 

 晴人は発音ビーコンを床へ滑らせ、起動した。低い振動が走り、模擬魔物Aの進路がわずかにずれる。そこへ流路照明弾を投げる。床の模擬流路が青く浮かび、久我にも見えるようになった。

 

「その青線、踏むと滑るぞ! 左足を外側!」

 

「注文が細かい!」

 

「じゃないと転ぶだろ!」

 

「それはそうなんだけども……っ!」

 

 久我はぎりぎりで足をずらし、模擬魔物Aを流路上に誘導する。Aの脚部が滑り、姿勢が崩れた。晴人はすぐに位置マーカーを久我の背後へ投げる。Bが遮蔽物の陰へ回った瞬間、表示上の久我の位置と敵の予測線が重なる。

 

「久我、後ろ二歩じゃなくて前一歩!」

 

「また前かよ!」

 

 久我は文句を言いながら前へ出る。背後から飛びかかったBの爪が空を切った。

 

「今、右手じゃなくて左!」

 

「分かった!」

 

 久我の左手から雷撃が走る。Bの腹部に直撃し、模擬魔物が停止した。

 

 残るAが体勢を戻す。晴人は次のビーコンを起動しようとして、指が止まった。

 

《魔力残量:低下》

 

《集中負荷:上昇》

 

《推奨:支援行動を一手削減》

 

 一手削れ。

 

 表示はそう言っている。

 

 晴人は一瞬、迷った。ビーコンで誘導すれば安全に久我を動かせる。だが、それをすると晴人の集中が切れる。次の指示が遅れるかもしれない。

 

 なら、道具を使わない。

 

「久我、Aは自分で見て避けて! 俺は弱点だけ言う!」

 

「任せろ!」

 

 久我がAの突進を自力でかわす。

 

 晴人はその動きに合わせて、短く叫んだ。

 

「首じゃない、前脚の付け根!」

 

 久我の雷撃が、前脚の付け根を撃ち抜いた。

 

 Aが停止する。

 

 終了音が鳴った。

 

 晴人は大きく息を吐き、その場に膝をついた。

 

「榊!」

 

 久我が駆け寄ろうとするが、晴人は左手を上げた。

 

「大丈夫。ちょっと集中切れただけ」

 

 朝比奈が端末を見ながら近づいてくる。

 

「最後、支援装備を使わなかった理由は?」

 

「俺の集中が保たないと思いました。ビーコンを使えば安全でしたけど、その後の指示が遅れる気がしたので。久我なら避けられると思って、弱点指示だけにしました」

 

「判断としては正解ね。支援役は、全部を担う係じゃない。味方ができることはきちんと委ねなさい」

 

「はい」

 

 晴人は汗を拭った。

 

《条件達成》

 

《スキル:支援装備取扱 Lv.1 を取得》

 

《攻略指示 Lv.1:熟練度上昇》

 

《基礎魔力循環 Lv.1:熟練度上昇》

 

 表示が浮かぶ。

 

 晴人は思わず笑った。

 

「取れました。支援装備取扱」

 

「そのままだな」

 

 久我が言った。

 

「分かりやすくて助かる」

 

「で、どうなんだよ。強くなった感じするのか」

 

 晴人は少し考えた。

 

 そして首を横へ振る。

 

「強くなったというより、できることが増えた感じかな」

 

「それを強くなったって言うんじゃないのか」

 

「あ、そうか」

 

「お前、自分のことになると判断甘いよな」

 

 久我に言われ、晴人は苦笑した。

 

 朝比奈が静かに言う。

 

「今日の訓練はここまで。午後は御影との感知照合訓練よ」

 

「御影さん、もう訓練に出られるんですか?」

 

「短時間ならね。あなたと同じで、まだ本格復帰ではないわ」

 

「はい」

 

 晴人はゆっくり立ち上がった。

 

 疲れている。頭も少し痛い。けれど、気持ちは沈んでいなかった。

 

 支援装備を扱うことは、地味だ。

 

 けれど、その地味な装備一つで、久我の被弾を減らせた。流路照明弾一つで、味方が同じ危険を見られるようになった。発音ビーコン一つで、魔物の進路をずらせた。

 

 それは間違いなく、探索者としての力だった。

 

 昼休憩の後、御影莉子が訓練区画に現れた。

 

 彼女はまだ顔色が白く、腹部を庇うように歩いていた。だが、目はしっかりしている。晴人を見ると、少しだけ手を上げた。

 

「榊くん。生きてる?」

 

「はい。御影さんも」

 

「うん。しぶといから」

 

「それ、俺もよく言われます」

 

 御影は小さく笑った。

 

 朝比奈が二人を並ばせ、感知照合訓練の説明をする。

 

「御影は魔物の気配を読む。榊は構造や危険条件を読む。あなたたちの能力は似ているようで違う。だから、互いの情報を食い合わせる訓練をする」

 

 御影が晴人を横目で見た。

 

「私の仕事、取らないでね」

 

 声は冗談めいていた。

 

 けれど、その奥に少しだけ本音が混じっているのを、晴人は感じた。

 

 晴人はすぐに首を振った。

 

「取れませんよ。御影さんの感知は、俺にはできないです」

 

「そうなの?」

 

「はい。俺が見えるのは、罠とか流路とか危険な構造が多いです。魔物の気配も表示は出ますけど、たぶん御影さんの方が早いし、俺は見えてから考える感じなので」

 

 御影は少しだけ目を瞬かせた。

 

 晴人は続ける。

 

「だから、御影さんが先に気配を見つけて、俺がそこへ行く道が危ないか見る。逆に、俺が危険な構造を見つけたら、御影さんに魔物がいるか確認してもらう。そうしたら、二人とも一人の時より安全になると思いませんか?」

 

 御影はしばらく晴人を見ていた。

 

 やがて、ふっと小さく笑う。

 

「榊くんって、ほんと真っ直ぐだよね」

 

「よく言われます」

 

「そういうところもほんといいと思う」

 

「ありがとうございます」

 

 朝比奈が端末を操作し、訓練室内に複数の模擬反応を配置した。

 

 いくつかは魔物反応。いくつかは罠。いくつかはただの魔力溜まり。二人はそれを互いに確認しながら、正しい危険種別を判定する。

 

 御影は目を閉じ、静かに息を吸った。

 

「左奥、動く反応が二つ。小さい。虫型かな」

 

 晴人の視界には、左奥の床面に黄色い流路が見えていた。

 

「その手前は床が危ないですね。流路が濃い。虫型が出てきたら、こっちへ誘導しない方がいいかも」

 

「じゃあ右へ回す?」

 

「右は構造的には安全です。御影さん、右に別の気配ありますか」

 

「ない」

 

「なら右です」

 

 判定結果は正解だった。

 

 次も、その次も、二人は少しずつ情報を重ねていく。

 

 途中、御影の感知では魔物反応があるのに、晴人の表示では危険が薄い場所があった。調べてみると、それは魔物ではなく、魔物の死骸に残った残留魔力だった。

 

 逆に、晴人の表示では危険構造があるのに、御影の感知では何もいない場所もあった。そこには、床面に隠された模擬崩落ポイントがあった。

 

 互いに見えているものが違う。

 

 だから、組めば強い。

 

《感知照合:精度上昇》

 

《攻略指示 Lv.1:熟練度微増》

 

《支援装備取扱 Lv.1:熟練度微増》

 

 訓練が終わる頃、御影は少し疲れた顔をしていたが、表情は明るかった。

 

「これ、いいね」

 

「はい。かなり助かります」

 

「私だけだと、罠は分からない。榊くんだけだと、魔物感知の速度が足りない」

 

「合わせたら、だいぶ死ににくそうです」

 

「言い方」

 

「重要なので」

 

 御影は笑った。

 

「じゃあ、よろしく。攻略支援者さん」

 

 その呼び方に、晴人は少しだけ照れた。

 

「はい。よろしくお願いします。感知役さん」

 

 朝比奈が二人を見て、満足そうに頷いた。

 

「明日は三人連携。久我を前衛に入れて、実地想定で動くわ」

 

「はい」

 

 晴人は返事をした。

 

 その声には、疲労よりも期待が滲んでいた。

 

 装備を使う。味方と情報を重ねる。前衛を支え、感知役と補い合い、危険を一つずつ潰していく。

 

 派手ではない。

 

 けれど、確かに探索者の仕事だった。

 

 その夜、晴人は医療区画へ戻る前に、もう一度だけ装備ケースの前に立った。

 

 発音ビーコン。流路照明弾。位置マーカー。星骸短刀。

 

 どれも、これから自分が使いこなすべき道具だ。

 

「ちゃんと覚えます」

 

 誰に言うでもなく、晴人は呟いた。

 

 視界の端に、淡い表示が浮かぶ。

 

《実地支援任務への参加条件を更新》

 

《現在進行:支援装備適応/感知照合/基礎戦闘訓練》

 

《推奨:休息》

 

「うん。今日は休むよ」

 

 そう答えて、晴人は少し笑った。

 

 死地で始まった力は、今、少しずつ任務の形へ変わりはじめている。

 

 榊晴人はまだ弱い。

 

 けれど、自分がどこへ進めばいいのかは、前よりずっとはっきり見えていた。




平日は9時投稿、休日は21時投稿で統一しようと思います。
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