リバーサル・イフコード   作:gp真白

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訣別の赤と白

 

あの悪夢の夜から、俺たちのパーティーの時間は止まったままだった。

始まりの街の安宿の一室。窓から差し込む朝日は酷く無機質で、部屋の中には重苦しい沈黙だけが満ちている。

 

ガクは床を見つめたまま拳を握りしめ、ナナは自分が原因でカナメが死んでしまったという狂おしいほどの罪悪感に、今も小さく肩を震わせていた。

司令塔として完璧な指示を出していたはずの蓮さんも、壁に背を預け、深く前髪を垂らして押し黙っている。誰もが、あの不条理な喪失を受け入れられずにいた。

 

そんな三人の前で、俺は静かに立ち上がり、深く頭を下げた。

「ごめん。俺、このパーティーを抜ける」

その一言が、静寂を鋭く切り裂いた。

「――っ、なんでだよ、サイ!」

 

最初に噛みついたのは、やはりガクだった。弾かれたように立ち上がり、俺の胸ぐらを強引に掴み裂く。その瞳には、涙と、行き場のない怒りが激しく渦巻いていた。

 

「カナメが死んじまって、お前が一番辛いのは分かってる! だけど、なんで抜けるなんて言うんだよ! 仇討ちなら、俺たちだって一緒に――」

 

「違うんだ、ガク」

 

ガクの胸ぐらを掴む手に、俺は自分の手を重ねた。そして、ゆっくりと、けれど拒絶するようにその力を引き剥がす。

掴み合っていた手が離れた瞬間、ガクが息を呑むのが分かった。

今の俺の瞳からは、かつて彼らと笑い合っていた頃の優しい光が、完全に消え失せていたからだ。

 

「仇討ちのために抜けるんじゃない。……俺が弱かったから、カナメを守れなかったんだ。レンさんがどれだけ完璧な指揮を執ってくれても、俺自身に奴らを一瞬で殲滅できる圧倒的な力がなかったから、カナメは死んだ」

 

「それは……!」

 

ガクの言葉が詰まる。あの場にいた全員が全力だった。けれど、結果は無慈悲だった。

 

「もう二度と、誰も目の前で死なせたくないんだ」

 

俺は三人を見つめ、胸の奥にある冷徹な決意を言葉に変えた。

 

「そのためには、もっと効率的に、圧倒的に強くならなきゃいけない。生半可な気持ちじゃダメなんだ。お前たちと傷を舐め合っている暇はない。……俺は、最前線に行く」

 

「サイ……」

 

後ろで、ナナが悲痛な声を漏らす。その声に耳を傾ければ、今すぐ彼女を抱きしめて「お前のせいじゃない」と言ってやりたかった。

けれど、今の俺がそんな優しさを見せれば、また同じ悲劇を繰り返す。甘えを捨て、心を機械にしなければ、この理不尽な世界では誰も守れない。

ずっと黙っていた蓮さんが、ゆっくりと顔を上げた。その鋭い気配に、ガクが息をひそめる。

 

「……本気なんだな、サイ」

「はい。レンさん、今までありがとうございました。あなたの指揮の元で戦えたことは、俺の誇りです。でも、俺はもう、誰かの指示を待つ側にはいない。自らが圧倒的な『力』そのものにならなきゃいけないんです」

 

蓮さんは俺の目をじっと見つめ、それから小さく、諦めたように息を吐いた。

 

「……分かった。引き止めはしない。だが、死ぬなよ」

「はい。……みんなも、どうか無事で」

 

それだけを言い残し、俺は振り返ることもなく部屋の扉を開けた。

後ろからガクが「サイ! 待てよサイ!」と叫ぶ声が聞こえたが、その声を背中で 遮断するように、俺は静かにドアを閉めた。

 

温かい居場所を自ら捨て、俺が向かったのは、アインクラッド最前線――。

現在、圧倒的な規律と強さで攻略組のトップに君臨しつつある最大ギルド、『血盟騎士団(KoB)』の作戦本部だった。

 

団長であるヒースクリフの前に立ち、入団を希望する。

ユニークスキル『リバーサル・コード』を持つ俺の存在は、すでに前線でも噂になっていたのだろう。彼は盾を携えたまま、あの鉄の仮面のような冷徹な笑みを浮かべて俺を迎え入れた。

 

数日後、俺の手元に届けられたのは、血盟騎士団の象徴である「赤と白」の制服だった。

 

鏡の中に映る自分を見つめる。

かつて雨の喫茶店でマスターが言っていた『自分は何を持って人間として立つか』という問い。

 

感情を殺し、ただ目の前の敵を駆逐する機械になること。

誰も死なせないために、孤独な絶対者になること。

それが、俺がこのデスゲームの中で見つけてしまった、歪んだ「俺の在り方」だった。

 

カナメの遺品である細剣のデータを、俺は大剣のグリップの奥深くに組み込んだ。

 

眩しかった青春の服を脱ぎ捨て、俺は独り、赤と白の十字架を背負って、血の滲むような最前線の戦場へと身を投じた。

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