幼なじみが宇宙人だった件について〜そんな彼女が俺をプロ野球選手に育成しようとしてくる〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
仙台松戸高校……ここ十年で春夏甲子園に通算6回出場している千葉県でも屈指の強豪校であり、新チームとして始動した今年のメンバーに監督も上々であると思っていた。
「今年は良い投手が2人も出てきてくれた。右の酒井と左の井伊。今年の夏は甲子園に連れてってやれなかったが、2年の2人に十分な経験を与えることができた……今年は春夏甲子園出場も出来るメンバーはそろっとるからのぉ」
福耳と言われる長い耳たぶをいじりながら、練習する選手を見つめる。
すると野球部の部長が帰ってきた。
「どうやった、習野の試合」
「習野が……」
「ん?」
「習野が負けました」
「ほんまか? 相手連合チームやろ?」
「はい、試合の流れがこちらになります」
9月20日に行われた聖球東南連合対習野高校。
先攻連合、後攻習野で始まった試合は初回先頭打者の蔵馬が出塁すると、ヒットエンドラン(走者が盗塁を試みるが、打者も打つ 成功するとランナーを進塁させやすい)が成功し、蔵馬が生還し、1点を先制、1塁に居た服部も盗塁を成功させると3番野口。
カキーン
右中間を抜けるタイムリー2塁打。
これで2対0。
そして4番の勇者。
ガキーン
会場に鳴りひびいた快音と共に打球はバックスクリーン上段に着弾。
推定150メートル級の特大アーチで一挙に4点先制。
その後、後続を意地で打ち取るが、連合の先発星野をなかなか打ち崩せない。
今まで直球主体の投球だったが、今回の試合では変化球を織り交ぜることで5回55球で2安打無失点で抑え込む。
6回に4打席目(2打席目と3打席目は四球)の勇者が再び特大ホームランが飛び出し、一挙3点を取り7対0。
ここで習野の先発はノックアウト。
6回を投げきったところで星野も交換し、DH解除からのセカンドを守っていた杉浦謙信と交代。
7回裏をキレキレなスライダーとフォークを投げ分けた杉浦に習野高校は手が出ずに三者三振で7回コールド(7回7点差だとコールドゲーム)が成立。
結果優勝候補と目された習野高校は初戦で消える事に。
「ふむ……上林勇者……厄介やな。うちは徹底的に避けるか」
「と、言いますと」
「全打席敬遠でええやろ。他に1発ある打者おらんからな。1番2番に掻き回されても、うちの2人は崩せんよ。満塁でも次抑えてしまえば問題なか」
「あと投手登録されている選手のデータです」
「ふむ……星野っちゅう投手はええな。アンダースローで130も出てればプロ級やない? まぁ最近のプロはアンダースローはなかなか取られん風潮あるけど……サイドやったらもっと球速出て厄介やったろうに……もったいない」
他2人はうちの打線だったら2巡目には適合するって断言。
「相手は1年やろ。長いイニング投げられん。どんなに才能があってもスタミナっちゃうのはそう簡単につくもんちゃうで。3年掛けてじっくり育て上げるもんや」
持論として高校の投手は壊れないように負担を分散させるかというのが監督の腕として問われる。
「連投経験もないんやろ? しかも監督は調べた限り素人。裏に指示役でもおるんかもしれんが1年生投手の選手生命削って投げさせたくないはずやから、そこを突くで」
9月22日。
千葉県代表選抜戦(決勝ブロック)2回戦。
先攻仙台松戸
後攻聖球東南連合
先発は郷田が務める。
すると初回から仙台側が揺さぶりをかけてくる。
「早打ちはせんでええ、じっくり球数投げさせて自滅を待てばええんや。追い込まれれば甘い球以外は全部カット(ファール)にしてええ。甘い球来たらしばいたれ」
松戸側は徹底的な持久戦の構え。
1人目の打者の時点でスコアラーを務めている赤星は相手の作戦に気が付く。
(コントロールが一番怪しい豊かから投入しちゃったから、この作戦はドンピシャで辛い……習野は騙し討ちみたいな形で速攻が決まったから楽だったけど、持久戦をやられると選手層の薄いうちは厳しい!)
しかも松戸側は助っ人外国人達が守るライト方向に打撃を集中させる。
「聖球の選手は1年だけど守備しっかりしてる選手多いけど、東南の選手はそうでなか」
鋭いライトライナーをライトのチンが後ろに反らしてしまい、溜まっていたランナーを一気に返されて2点を松戸側に取られる。
豊はヒットとエラー、そして四球でランナーを多く出すも、粘りの投球で4回4失点で試合を壊さないように耐えていた。
打撃陣も援護したいが、ホームランが期待できる勇者が敬遠攻めに遭い、野口が蔵馬と服部を返した2点が限界で、4回終了時点で4対2で連合側劣勢であった。
4回時点で豊の投球数が90球を超えてしまった為、謙信をリリーフで投入。
しかし謙信は変化球は追い込まれるまで振らない、直球を狙い打ちする松戸の戦略にハマり、6回に捕まり、一気に3失点で無念の降板。
何とか投手陣を援護したい野手陣は9番謙信がヒットで出塁すると、蔵馬、服部も続き満塁に。
野口がここでライト前のポテンヒットを放ち、蔵馬がホームに突入。
何とかセーフで謙信と蔵馬が帰ってきて2点を奪い返す。
しかし反撃もここまで、勇者が4打席連続敬遠で歩かされ、7回から星野がマウンドに上がる。
「あっちは最後の投手や、こいつを打ち崩せばうちの勝ちは揺るぎなくなる」
しかしこっから星野劇場開幕。
手元でホップするライズボールなんかはバッティングマシーンでも再現不可能な魔球な為、テンポよく投げ込まれるライズボールを仙台松戸ナインは手を出すことができない。
しかもストライクゾーンで勝負してくるため、見逃してもボール球を基本投げてこないのでどんどんカウントが悪くなる。
初見でこの球を打つことはほぼ不可能なので、星野は3回を9者連続三振で仕上げる。
「しゃぁ!」
星野が抑えて吠えるが、松戸の監督は冷静だった。
「点差は7対4。3点あるからな。あとはこの回を守ればええ」
先頭打者の勇者がこの打席も敬遠される。
これがもし昔の必ず4球投げなければ仕組みであれば、ボール球でも勇者はしばいてヒットにできただろうが、残念ながら申告敬遠というルールがあり、監督もしくはキャッチャーが審判に敬遠を申告すれば投げなくても四球が成立するルールがあるので、勇者は6打席立ったが1回もバットを振ることなく歩かされてしまうのであった。
これによって勝敗は決し、星野が意地でヒットを打つ場面もあったが、試合終了。
聖球東南連合の秋大会は2回戦進出で幕を下ろすことになるのだった。