幼なじみが宇宙人だった件について〜そんな彼女が俺をプロ野球選手に育成しようとしてくる〜 作:星野林(旧ゆっくり霊沙)
「うーむ……」
ヤクエナキャッツの編成部長をしている高橋は悩んでいた。
というのも所属しているヤクエナキャッツは一昨年2位という順位は取れたもの、昨年は5位、今年も現在4位と低い水準であった。
「投手野手共に主力選手の高齢化が著しい……このままでは……」
編成部長の主な仕事は選手を補強することであり、国内、国外のスカウトにチームが必要とする選手を探し出してきてもらい、それをドラフトや助っ人外国人として入団させるか、予算面的に大丈夫か、あとは戦力外の選手のリストアップを行い、ジェネラルマネージャー……通称GMと呼ばれる人物や球団社長などの責任者にお伺いをするのが仕事である。
まぁ言ってしまえばスカウトの元締めみたいな人物である。
「うちの場合壊れない頑丈な選手がとにかく欲しい……やれ甲子園のスターや大学のスターなんかはお隣の巨神軍に取られてしまうからな……」
ヤクエナキャッツは飲料メーカーとして国内シェア5位以内を常にキープしており、最近では防災意識から保存食の製造にも手を出して、堅実な運営をしている企業故に、携帯電話会社や不動産、自動車メーカーを母体とする球団ほど金満ではなかった。
北海道の球団のように球団だけで大幅黒字を叩き出して、金満球団に真っ向から札束合戦できるほどの体力もない……普通の球団である。
そんなヤクエナキャッツはとにかく怪我が多い球団で、ドラフトで取った選手が実は故障持ちを隠していたとか、育ってきたら若手がいきなりじん帯が切れたとか、主力選手がアキレス腱断裂したとか……まぁ怪我に泣かされる球団であり、逆に怪我人が少ない年は優勝争いを繰り広げる……という摩訶不思議な球団である。
神宮球場を本拠地にしているので、神宮の神様の気分次第とも呼ばれたり……。
「今年も選手がリストアップされたが……、うーむ、大学にいい選手がポツポツといるくらいで今年は育成の年になりそうだな……」
そんなことを考えながら書類の処理をしていると、ヤクエナキャッツ宛の郵便物が届けられた。
「巻物?」
手紙ですらなく、巻物が送られてきたのである。
偶にいたずらで送ってくるヤバいファンがいるのだが、送り主が千葉県の聖球学園の校長というので目を通して見ることにした。
巻物の中には選手の情報が事細かく書かれており、あとはブルーレイが別の袋からでてきたのである。
「このアンダースローのピッチャー良いな……他の投手も結構球速あるように映像からは見えるな……スカウト送ってみるか」
俺は関東の高校生を担当しているスカウトの遠藤に連絡を入れるのだった。
11月中旬、部長に言われて、スカウトの1人が聖球学園に向かっていた。
「部長が聖球の選手探ってこいって言っていたが、あの学校まだ1年生しかいないんだよなぁ」
スカウトの遠藤は聖球と仙台松戸との試合を見ていた。
正直1年生に6打席連続敬遠はどうかと思うが、県大会の中なので、野球好きの間で話題になった程度だった。
それに言っちゃ悪いが、指導者に関しても素人。
選手達も中学まで無名だったので、今大会では活躍できたかもしれないが、ここからの成長は厳しいんじゃないか……というのが大多数の見方だった。
「まぁそれでも習野にコールドで勝ったっていうのはデカいが……」
聖球学園側にアポイントを取ると、すぐに練習の見学を受けさせてくれた。
「練習施設に関しては十分に整っている……か」
施設は十二分に整っている。
で、選手達を間近で見させてもらったが、そこには秋季大会から2回りほどデカくなっていた選手達だった。
「おお! 秋季大会ではまだ体ができていない印象を受けたが……既に強豪校の3年生……いや、大学即戦力の選手達並みに体が出来上がってないか!」
丸太の様に太い下半身、柔軟性がありつつも太く逞しい上半身、そして腕もムキムキという音が聞こえてきそうなほど筋肉の鎧で覆われていた。
「ほぉ~いやぁこれは先に部長の判断が正解だったかもしれないな」
スカウトとして高校生、大学生を目利きし、何人も1軍の選手を見いだした実績のある遠藤は聖球学園の野球部員を見て、秋季大会よりも成長をしているところを大きく評価した。
それと同時にこの選手達が順調に成長した場合、どこまでの選手になるか……という将来像が直感で見えてこないほどの潜在能力の高さに期待感が募る。
「選手1人1人に聞いてみるか」
顧問の先生に許可を取り、部員の人に1人1人面談をしてみることにした。
あんまり全員にやることはないのだが、ここの部員は人数も少ないし、全員聞いても時間的に余裕があると思ったためである。
ちなみに本来プロスカウトは選手との接触は野球規約により禁止されているため、練習風景を見て、監督やコーチに選手の情報を聞き出すのだが、顧問は素人で情報を引き出せないと考えた俺は、まず練習メニューやチームの方針を決めているマネージャー陣に接触した。
マネージャーと接触するのも本来は好ましくないのだが、このチームは仕方がないと割り切る。
すると彼女達からはプロスカウトが欲しい練習意欲やプロへ進む意識、練習で彼らの苦手にしていること、食事の好き嫌いに至るまで細部に渡り聞きたい情報を教えてもらった。
「スカウトさん、ここの学園は他所と隔離されているので選手と接触しても他所に漏れる心配はありませんよ」
「……密会しても良いと?」
「私からはなんとも」
マネージャーも強かだと思いながらも面談を行っていく。
「プロ野球選手になる気はあると」
「ええ、拾ってくれた球団で自分が出せる精一杯をやりたいです……それに球界でアンダースローの需要が減っているのは知っていますし」
今面談している星野球児君……正直俺の見立てではストレートだけなら既にプロでも通用する球質は持っている。
マネージャーから聞いたが、オーバースローだと球威も球速も出ず、アンダースローの方が質の高いストレートを投げることができるのだとか。
アンダースローの投手はどうしてもクイックモーション(ランナーが出た際に盗塁をさせない素早く投げる投げ方)は苦手らしいが、それを踏まえても、浮き上がる様なストレートはバッターからすれば厄介だろう。
「アンダースローでプロが確実にドラフト取るなら140キロもしくは決め球になる変化球を2球種覚えることだ。アンダースローで140出せてストライクゾーンに投げ分けられるのなら、うちとしても欲しい逸材だし」
「本当ですか!」
「ただ、無理をして体を壊さないことが条件だ。体を壊せばうちでは獲得に乗り出せなくなる……怪我人が多い球団故に、現場から壊れない選手をとにかく欲していてね。怪我しない頑丈な体があるなら、うちの練習環境であれば1軍で使える選手には成れると君を見て思ったが……」
「そう言っていただけて嬉しいです!」
まぁこれからどれだけ成長するかにもよるがな。
このまま成長して甲子園で活躍すれば指名の説得材料にもなるし……。
まぁ掘り出し物を見つけるってんなら甲子園に出ないで下位指名や育成契約で取るほうが旨味はデカいが……。
「プロでも使える変化球を2球種持ってれば、今のストレートと合わせて中継ぎで戦力になると思うんだけどな……」
その後本命の上林勇者の面談も行なったが、実は全身外的要因で故障をしており、現在もリハビリ中ということが判明し、リハビリ中でその成績かよと思う反面、うちが指名するなら怪我が完治したという情報が得れないと指名は難しいと思うのだった。
(正直上林君はこのまま成長すれば複数球団からの1位指名もあり得る逸材だ。ただうちの選手事情を考慮すると……ある程度の外国人を引き当てれば、サードは守らせられる。となると将来性抜群の投手3人は欲しいけど、絶対に取らないといけないのはキャッチャーの野口君……。彼ほどの逸材はなかなかいない。他球団の動き次第だが、野口君は順調に成長すれば上位でぜひ取りたい)
その後ちょくちょく練習や試合に顔を出すことになるのだった。