目指せ野球星人   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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午後の練習と一番練習させられる顧問の及川先生

「注目されてるな……」

 

「しゃーない、野球部の7人以外全員女子だからね」

 

「一応共学だけど、男全然居ないからな……」

 

 1クラス30人4クラス。

 

 俺のクラスで野球部関係者は俺とあかりのみ。

 

 他皆別クラスである。

 

 4クラスだから1人だけ男子1人のクラスが出てきてしまうのは仕方がないのだが……俺だったか……。

 

 授業は普通に進む。

 

 聖球学園の偏差値はだいたい54。

 

 低くもなければ高くも無い一般的な私立である。

 

 野球部のメンバーは異様な好待遇で、全員学費と寮の生活費免除の特待生扱いなので、家族からは滅茶苦茶ありがたがられた。

 

 絶対あかり達が関与した結果だと思うが……。

 

 まぁお陰で親から学費に当てる分の一部を仕送りとして数万円送られてくるので、大切に使わせてもらう……と言っても野球道具は校長のご厚意で一式新品を揃えてもらったので、練習着くらいしか高校入学と同時に野球関係で購入した物は無かったが……。

 

 そんなこんなで授業の合間にあかり達マネージャーが朝握ってくれたおにぎりを食べ、昼間は食堂で昼食を取り、あっという間に放課後。

 

 午後はちゃんと全員練習着に着替えて練習を行う。

 

 昨日マネージャー陣から教わった準備体操及びストレッチをこなし、そしたらキャッチボール。

 

「野球はキャッチボールの質で上手さが変わるよねー」

 

 恋星さんが言うように、上手いやつのキャッチボールと下手なやつのキャッチボールではだいぶ質が違ってくる。

 

 1回全員のキャッチボールを見てから、恋星さんが全員を集め、野口以外キャッチボールが全然できてないとダメだしから入る。

 

「野口君と私がキャッチボールするから見ててね」

 

 そう言うと恋星さんと野口のキャッチボールが始まった。

 

 まずキャッチングの音が違う。

 

 グローブの芯でボールを捕るとパシーンと乾いたいい音が鳴る。

 

 次に力感の無い大きなフォームで相手の胸にボールを投げる。

 

 一昔前まではキャチボールでも取ってから素早く送球しろって言われていたが、今では大きな投球フォームで山なりではなく真っ直ぐ直線の球を投げ込む。

 

 無理に山なりにするくらいだったらワンバウンドさせてでも良いと恋星さんは語る。

 

 野球経験があるからわかるが、恋星さんと野口のキャッチボールの技量の高さが伝わってくる。

 

 まず球を投げる時に指先から球を離すリリースポイントと呼ばれる場所や投球動作が毎回同じなのである。

 

 球を投げるとシューっと空気をきり裂く様な音で真っ直ぐ野口のグローブに収まる。

 

 まるで空中に白い白線を描くようである。

 

 投げる時も肩や肘に力を入れないで、体全体の回転運動を使うことで速い球を投げていた。

 

「まず遠くに投げようとしなくていいから。大きな動作で投げる、捕る練習だと思って。催眠術で理想のフォームは確認したはずだから、それに合わせて……ね!」

 

 というわけでキャッチボールをやり直す。

 

 ブランクのある勇者と忍者として活動していた服部は球を投げる時に癖がついてしまっているので、マネージャー達が近くに付いて出来てるか出来てないかを教えていく。

 

 逆にド素人の天狗は癖とかもないので、自分の投げ方を確認しながら綺麗なフォームで球を投げる。

 

 まだ球を投げる時の感覚が難しいからか、20メートル程度しか離れて投げられないが、コツを掴んでしまえば、速い球を投げられそうである。

 

 何より天狗は神速の足があるので、守備力と肩を鍛えて広い範囲の外野を守って欲しいところだろう。

 

 キャッチボールを1時間近くやることになったが、ここからはメンバーごとに各々別メニューで練習をしていく。

 

 俺の場合はシューズを履き替えて、朝練と同じで走り込み。

 

 基礎的なスタミナが不足しているから仕方がないが、とにかく走らされ、1時間みっちり走ったら軽く投げ込み。

 

 キャッチャー役は空いているマネージャー陣が交代で見てくれて、野口はとにかくパワーつけないと話にならないって判断されたからか、室内トレーニング場でウェイトトレーニングをしに行っていた。

 

 まぁ野口は前世でプロとして活躍していた選手なので、自身の鍛え方についても知識量は俺達と比じゃないくらい豊富にあるだろうし、間違っているのはマネージャー陣から即座に訂正が入るので問題ないだろう。

 

 なので野口は筋トレ中、俺と謙信があかりと水星さんがキャッチャー役で投げ込み。

 

 豊が今は走り込み中で、勇者、忍者、天狗の3人は赤星さんがノッカーで外野守備の練習中。

 

 恋星さんと黒星さんは及川先生に2人で付いてノックの練習をやらされていた。

 

「手の皮が剥けて痛いよー」

 

「はいはい、直ぐに直るテーピングしますから、はい、じゃあ追加で200本ノックしましょうねー」

 

「ねぇ! 明らかに一番練習量多いの私じゃない! なんで高校球児達より顧問の方が練習させられるのよ!」

 

「今は良いですけど、私達も3年で卒業しますし、練習試合ならまだしも、公式戦で試合前のノックをするのは監督がするルールがあるのでね」

 

 野球では試合前にノックを行うルールがあり、高校野球は厳密な決まりがあるのである。

 

 ノッカーは監督もしくはユニホームを着ている練習補助員とされ、学生は練習補助員になることはできるが、ノッカーは監督が基本務める為、ノックの上手さで相手の士気を下げたりする試合前からの駆け引きで重要な存在である。

 

 何より女子マネージャーがノッカーなんて他校から馬鹿にされるため、監督兼顧問である及川先生が上手くなる必要があったのである。

 

 多分野球経験が無い顧問で一番苦労するのがノックが上手く出来なくて守備練習がまともに出来ないというのがある。

 

 今のうちはマネージャー達がノック滅茶苦茶上手いので守備練習に苦労は無いけど、マネージャー達が卒業したら野球部が一気に弱体化なんてなったら野球部に力を入れている校長がブチギレで首切られるか閑職に回されるか……顧問として肩書きだけで外部監督を誘致される可能性もある。

 

 そうなれば監督手当で特別ボーナスとかも無くなるだろう。

 

「それは嫌だな……」

 

「というか及川先生も私達が誘致したみたいなものだから、野球の指導者としての力量を校長から疑われたら私立だし、首切られるよ」

 

「そんなぁ……」

 

 俺らをプロ野球選手にするとマネージャー達は言うが、一番生活がかかっているのは及川先生かもしれねぇなと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 40球ほど投げ込みをして、理想と現実のフォームの隔離を徐々に修整していき、リリースポイントや投球動作の再現性を高める。

 

 再現性が高まれば自ずとコントロールは上がっていくし、リリースポイントの確認をしながら指先の感覚を高めていけばコントロールの他に変化球を習得するのにも役立つ。

 

 何なら体全体に筋力がついていけば自ずと球速も上がるだろう。

 

「ナイスボール。良いよ、球キレてるよ」

 

「良いじゃん球児」

 

「謙信も調子良さそうじゃん」

 

「ああ、催眠術で理想の投球動作が分かってから、軽く投げても球速出るようになったんだよな。前まで100キロ出すのがやっとだったのに、今120キロ近く出るし」

 

「俺の場合アンダースローだから球速には期待できないから、とにかくコントロールと変化球が生命線になるだろうけど」

 

「俺も指先鍛えてキレのある変化球とコントロールで三振奪いたいな……あとは緩急か」

 

 緩急……野球だと投げた球に球速差をつけることで打者のタイミングを外す投球方法である。

 

 変化球はどれだけ曲がるかよりもこの緩急を使い分けるほうが三振を取りやすかったりする。

 

 あとタイミングが外れれば打球を打ち返す力が足りず、ホームランになりにくかったりする。

 

 まぁオッタニさんとかはタイミング外されてもホームランにできる化け物もいたりするが、高校野球だと低反発の金属バットが導入された結果、強豪校でもまず居ないのが現状である。

 

 そんなこんなで、俺と謙信は投げ込みをしていくのだった。

 

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