土日も朝6時半から練習開始だが、及川先生も人間なので9時過ぎから合流。
朝練はいつもと同じように俺はマラソンから入り、スタミナ強化メニューをこなし、午前中にいつもより多めに投げ込みがあったくらいで、あとは徹底して守備練習。
野球は点を入れるスポーツとよく言うが、点を入れられなければ負けないスポーツでもあり、守りを疎かにするとポコポコ相手に点を入れられるので勝負の土俵にすら上がれないのである。
というわけで徹底した守備練習を全体の8割ほど行い、残りは打撃の練習。
ティーバッティングも良いけど、生きた球での打撃練習もしなければ打つことは出来ない為、黒星とあかりがピッチャーを、キャッチャーを赤星と恋星がやってくれるらしいので2ゲージで打撃練習。
とりあえず守備はつかないで、試合で使う金属バットを使い、打ちっぱなしの練習を行う。
「お願いします」
俺の対戦相手は黒星。
投げられた直球は豊と同じくらいの130キロの直球。
バントの構えからバットを引いてボールをよく見て振り抜く!
カキーン
芯でボールを捉えた軽い感覚と共にボールがライナー……真っ直ぐセンター方向に飛んでいく。
センターの定位置くらいにポトリと落ちるが、打った感覚はよい感じ。
何より軟式から硬式の球に切り替えて初めて実戦形式で打ったが、それで外野まで飛ばせれば上出来であろう。
そう思っていたが、勇者の打撃が凄かった。
バットのグリップをへその前に置き、ゆったりと脱力したフォームから鋭いスイングが行われる。
「ふん!」
ガキーン
砲弾が飛び出したようにバットに当たった打球はグラウンドを飛び越えて、奥の女子サッカー練習場を覆うネットに突き刺さった。
勇者の打撃フォームは神主打法と呼ばれるもので、名古屋のプロ野球チームの監督をやっていた三冠王……プロ野球の打撃主要タイトルである打率(打席数に対してヒットを打った率)、ホームラン数、打点(打ってランナーを返した点数)の3つでリーグトップの成績を残すと首位打者、ホームラン王、打点王と呼ばれるのであるが、この3つを同時に取ると三冠王と呼ばれるのである。
これが滅茶苦茶難しくて、平成の約30年間だと日本プロ野球で1人しか達成者が現れないくらいヤバい記録なのであるが、それを3度達成した選手の打撃フォームであり、天性のセンスがなければ扱えない打撃フォームとされている。
ちなみに神主打法と同じく変態とか天才しか扱えない打撃フォームは幾つかあり、日本で一番ホームランを打った伝説の打者が使っていた一本足打法とか、イッチローさんが扱っていた振り子打法とかがある。
どの打法も習得難易度が滅茶苦茶高く、神主打法をしていた選手本人がこの3つの打法を真似してはいけない打撃フォームと言っていたりする。
そんな大打者の打撃フォームが体になじむのか、勇者はゆったりとした構えから鋭いスイングでフェンスオーバー……つまりホームランを量産。
推定飛距離130とか140メートル級である。
マネージャー達が打撃の天才って言うわけだ。
規格外のパワーを持っている。
本人曰くこれでもセーブしているらしい。
「どうやってそんなに綺麗に打球を弾き返してるんだ?」
「いや、指先から離れた瞬間に野球ボールの縫い目の動きが見えるじゃん、その動きを先読みしてバットを出していけば、打球は勝手に飛んでくだろ。魔人が使ってきた魔法を避けるのよりよほど簡単だぞ」
とんでもない理論を展開してくる。
そうだった、勇者は異世界帰還者……感覚が全然違うし、動体視力が抜群に良いのだろう。
何なら右打ちの勇者は外角の球は流し打ちで右方向に、内角に来た球は左方向に広角に打ち分けられる技量も備えていた。
他は豊が力があるのでフェンス直撃弾が何発があったくらいで、残りは俺と同じく内野の頭は越すけど外野を超えるほどのパワーは無い感じ。
「オッケー、皆の打撃の現状の能力記録取れたよ」
と水星さんが伝えてくれて、数値化してくれた。
【星野球児】
右投げ左打ち
ミート E+(49)
パワー E(45)
【郷田豊】
右投げ右打ち
ミート E(43)
パワー C(65)
【杉浦謙信】
左投げ左打ち
ミート E(43)
パワー E(46)
【服部二郎】 忍者
右投げ左打ち
ミート D+(58)
パワー D-(50)
【蔵馬北斗】 天狗
右投げ右打ち
ミート C(64)
パワー E(46)
【野口勝也】
右投げ右打ち
ミート B+(78)
パワー F(33)
【上林勇者】
右投げ右打ち
ミート B(73)
パワー S(94)
「一覧にされると才能の差が……」
「高校1年生だったらEやFでも問題ないよ、それどころか伸びしろとも言えるし」
あかりが慰めてくれた。
「こうして見ると勇者は既に規格外だな……プロでも活躍できるんじゃね」
豊の言葉に他の皆も頷くが、勇者は守備が安定してないし、まだまだ伸びしろはいっぱいあるから天狗にならないで練習しろよと赤星にツッコミを入れられていた。
うち実物の天狗がいるんだけどね。
あと数値には書かれてないが、ここにもし特殊能力をつけるとしたらパワーヒッター(ホームラン性の打球が出やすい)と広角打法(広角に打ち分けられる)、流し打ち(右打者からしたら右方向に打球速度が落ちにくい)って能力も保有しているだろうな……。
「はい、注目」
打撃練習が終わって小休止。
マネージャー達が握ってくれたおにぎりを食べながらプロ野球選手になるために抑えておくポイントを黒星さんが説明する。
「基本的にプロ野球選手になるためには全国大会で活躍するのが一番手っ取り早い」
1年間で行われる野球の大会は以下の通り。
全国選抜大会(春の甲子園 センバツ)
春季大会(勝ち進むと夏の甲子園のシード枠に)
全国選手権(夏の甲子園)
秋季大会(実質春の甲子園の予選)
国体(夏の甲子園で活躍した高校が参加)
神宮大会(秋季大会ブロック勝者の大会)
これが高校野球6大大会であり、普通の学校は春季大会、夏の甲子園予選、そして秋季大会の3つで公式戦は終わってしまうのである。
で、プロになるためにはスカウトの目に留まる必要がある。
スカウトは全国を飛び回ってプロで活躍できる選手を探すため、基本強豪校に張り付くが、大会で好成績を残せば自ずと注目度が高まり、スカウトが練習風景とかを見に来てくれるようになるのである。
「だからプロになるためにはスカウトの目に留まる必要があるのだけど、私達の学校は人数も揃ってない弱小もいいところ。そんな高校はスカウトに注目されるには大会で活躍するしかないのよね」
まずはスカウトとのコネを作るところから始めるのがスタートラインで、スタートラインに立つには実力が必要。
「私達は現状夏の甲子園予選には実力的に間に合わないけど、伝手を総当たりで秋季大会から連合チームで出場できるように掛け合うから」
野球部の部員数が8人以下の高校は各大会で連合チームを結成することが許されており、少子高齢化で人数確保が難しくなった田舎の高校や創部間もない高校で組まれることがある。
秋季大会で連合チームで活躍し、来年の新入部員を確保。
人数と日程の関係で春季大会はエントリーできないので、順調にいけば来年の夏の甲子園予選から単独チームで出場できるようになるだろう……とのこと。
「正直私らも君達の育成で精一杯だから来年の新入部員のスカウトはあまり期待しないでほしい。多分私が担当になるだろうけど……実績がないと引っ張ってこれないし……」
黒星さんがマネージャーの中でスカウト担当らしい。
「ささ、休憩終わり、最後のノック入るよー」