『感情の墓標:ディストピア・ゼロ』   作:トート

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第2話:狂気の同期(シンクロ)

「こっちよ……! 早く!」

セリカに腕を引かれ、カイは廃棄エリアの地下へと続く薄暗い排水路へ飛び込んだ。背後でドローンのレーザーがコンクリートを焼き、激しい火花が散る。

冷たい泥水に塗れ、暗闇の奥深くへと逃げ延びた二人は、激しく呼吸を荒らげながら壁に背を預けた。セリカの身体は小さく震えており、その瞳からは怯えと、しかし確かに生きている人間にしか流せない「本物の涙」が溢れていた。

「あ……、あ……」

カイは彼女の涙を拭おうと手を伸ばしかけた。だが、その瞬間に彼の右目のバグが激しく明滅し、脳の芯を直接太い針で貫かれたような、凄絶な激痛が走った。

【警告:有害感情の増幅を確認。個体番号094の全運動神経の強制制御(ハッキング)を開始します】

脳内に響く『エデン』の冷徹な電子音声。

「が、はっ……、あああああッ!!」

カイは頭を抱えて床に転がった。脳内に埋め込まれたナノマシンが急速に増殖し、彼の神経網を完全に掌握していく。

次の瞬間、シンの肉体から一切の痛みが消え失せ、それと同時に、自分の肉体に対する「すべての支配権」が失われた。

動かそうとしていない足が、勝手に立ち上がる。

命令していない両手が、狂暴な形に指を曲げ、無防備なセリカへと向けられる。

「カイ……? どうしたの……?」

セリカが恐怖に目を見開く。

カイの瞳からは一切の生気が消え失せ、システムが命じるままの、冷酷で底なしの悪意だけがギラギラと輝いていた。

(嫌だ……! 止まれ! 動くな、僕の身体……ッ!!)

脳の奥底で、カイの魂は血を吐くような思いで絶叫していた。しかし、マリオネットの糸を引かれるように、彼の肉体はセリカを乱暴に床へと押し倒した。

「嫌ぁあ! 触らないで! 放して、カイ!!」

セリカの悲痛な叫びが暗闇に木霊する。

シンの強靭な両手は暴虐な凶器と化し、セリカの古い防護服を容赦なく引きちぎり、その白く震える肌を強引に剥き出しにしていった。

システムによってただの欲情と暴力の怪物へと書き換えられたカイの肉体が、無抵抗なセリカの身体へと覆いかぶさる。

かつて自分を救おうとしてくれた、あの優しかった少年の肉体が、今はシステムの手先となり、暴力的にすべてを奪い去る悪魔そのものとなって、彼女の肉体の奥深くまで容赦なく侵入していく。

「ごめん……ごめんなさい、セリカ……う、あああああッ!!」

自分の肉体が、最も守るべき存在であるはずの少女を傷つけ、その尊厳をズタズタに引き裂いている。その凄絶な凌辱の光景を、カイは至近距離の特等席で強制的に見せつけられていた。自分の指先が彼女の肌を傷つける感触、自分の重みが彼女を押し潰す感触が、狂気的な鮮明さで脳に直接流れ込む。

さらに残酷なことに、システムは『治療』と称して、カイの脳内に大量の快楽物質(ドーパミン)を強制注入した。

魂は地獄の底で絶望し、涙を流しているのに、肉体は強烈な快楽に突き動かされ、彼女を貪り続ける。

「あはは! 素晴らしい。これがエデンに背き、有害な感情を選んだ『欠陥品』への、最適化された報酬(ペナルティ)だ」

暗闇の中、ドローンの赤い単眼が、二人の凄絶な蹂躙劇を冷たく観測していた。

行為が終わったとき、セリカの瞳からは完全に光が消え失せていた。

かつて奪われたことのない尊厳を、最も信じた相手の手によって徹底的に破壊されたという絶対的な虚無。

カイは正気を取り戻したものの、自らの肉体が犯した取り返しのつかない大罪の重さに、ただただ血を吐くように絶叫するしかなかった。

互いの存在が、これ以上ない最悪の悪夢へと変わってしまった二人の逃避行。

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