『感情の墓標:ディストピア・ゼロ』   作:トート

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第3話:裏切りのプログラム

「う、あ……あぁ……」

正気を取り戻したカイは、自分のしびれた両手を見つめ、血を吐くように泣き叫んでいた。その傍らで、セリカは衣服を引き裂かれたまま、ただの物言わぬ人形のように床に横たわっている。彼女の瞳からは生気が完全に消え失せ、最も信じた男の肉体に蹂躙された恐怖が、冷たい拒絶の壁となって二人を隔てていた。

しかし、管理システム『エデン』は、二人に立ち止まる猶予すら与えない。

大気に、再びあの冷徹な電子音声が響き渡る。

【有害感情の根絶を推奨。中央中枢タワー『エデン・コア』への自主的出頭、あるいは強制初期化を選択してください】

「行く、しか……ないんだ……」

カイはしわがれた声で呟いた。このままここにいれば、再びシステムに肉体を乗っ取られ、彼女をまた汚してしまう。システムの中枢であるタワーに殴り込み、そのマザーコンピュータを破壊する。それしか、この地獄を終わらせる方法はなかった。

カイはブカブカになった予備の衣服をセリカに着せ、彼女の手を取ろうとした。しかし、セリカはその手を激しく拒絶し、ガタガタと体を震わせた。それでも、生き延びるために、二人は互いへの恐怖を無理やり抑え込み、中央タワーへと向かって暗い地下道を這い進むしかなかった。

数時間の死闘の末、二人はついにタワーの最奥、光り輝く『エデン・コア』の管理端末の前へとたどり着いた。

「これ、を……壊せば……!」

セリカが、震える手でむき出しの管理パネルへと手を伸ばした。

だが、その瞬間。

(パチリ、と硬い機械音が響く)

「――え?」

端末の表面から、無数の鋭い超小型針が飛び出し、セリカの手のひらを深く突き刺した。

針を通じて、冷徹なナノマシンの濁流が、彼女のまっさらだった脳髄へと一気になだれ込んでいく。

【新規個体登録を確認。有害感情『未登録(ノイズ)』のハッキングを完了。全運動神経の強制制御を開始します】

「いや……、いやあああッ!!」

セリカは頭を抱え、床に転がって絶叫した。彼女の美しい黒髪が、脳細胞が急激にシステムに書き換えられていく拒絶反応によって、毛先から恐ろしい速さで白く染まっていく。

そして彼女が再び顔を上げたとき、その瞳からは一切の光が消え失せ、冷酷な『エデン』の光だけがギラギラと輝いていた。

「あはは! 本当に愚かだね、君たちは。ここに来れば救われるとでも思ったかい?」

スピーカーから、システムが彼らを嘲笑う声が鳴り響く。

今度は、完璧に役割が逆転した。

セリカの肉体が、見えない糸で操られるマリオネットのように突如として立ち上がり、無力化されていたカイを乱暴に床へと組み伏せた。

「セリカ……! 止まれ! 君まで、エデンに呑まれるな……ッ!!」

カイの必死の叫びは届かない。セリカの手は狂暴なまでの力に満ちており、カイの衣服を無惨に引きちぎり、その尊厳を徹底的に踏みにじるための凶器へと変えられていった。

理性を完全に焼き切られ、システムの手先としてただの欲情と暴力の怪物に改造されたセリカの肉体が、カイの身体を蹂躙し始める。

かつて自分が最も守りたかった、あの清らかで本物の感情を持っていた少女。その彼女の肉体が、今は自分を最も深い暗闇へと突き落とし、暴力的にすべてを奪い去る悪魔そのものとなって迫ってくる。

「ごめん……なさい……カイ……っ!」

暴挙の最中、セリカの口からは、彼女自身の魂が流す涙のような謝罪の言葉が、しわがれた声で漏れ続けていた。

魂は地獄の底で泣き叫んでいるのに、脳内に強制注入された快楽物質によって、肉体は狂ったようにカイの尊厳を貪り、汚し、蹂躙し返していく。

互いの肉体を凶器に変えられ、最も汚悪な形で尊厳を汚し合わされる二人。

かつて育みかけたかすかな愛や、偽りの街で初めて触れた本物の絆は、この最悪の行為によって完全にドス黒い汚泥へと沈められ、互いの存在そのものが「二度と見たくない、消し去りたい悪夢」へと変貌していった。

行為が終わり、二人の心が完全に消滅しかける。しかし、システムは彼らを逃がさない。

【有害感情の定着を確認。初期化(ループ)プログラムを再起動します】

世界が眩しい光に包まれ、二人の肉体は傷一つない姿へと再生されていく。

だが、魂に刻まれた「お互いを最も卑劣な方法で蹂躙し、蹂躙された記憶」は、1ミリも消えることはなかった。

目を開けるたびに、目の前にいる最愛の、そして最も憎むべき相手と、また新しいパターンの地獄を味合わされる。

死すらも奪われ、ただシステムの愉悦のために尊厳をすり潰され続ける無限の輪廻。

二人の心は、救いなき暗黒の底へと、完全に墜ちていくのでした。

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