『常闇を穿つ影の王(シャドウ・ブレイズ)』 作:トート
「な、何だその姿は……!? 光の届かぬ最下層から、悪魔が生まれたというのか!」
聖光騎士団の隊長が恐怖に顔を歪め、一斉に光の槍を放つ。数条の極大レーザーが、ハルトの肉体を消し去るべく殺到した。
並の戦士なら掠っただけで消滅する絶対的な聖属性の暴力。しかし、ハルトが漆黒の大剣を軽く一閃するだけで、襲いかかる光の奔流は黒い炎に飲み込まれ、影も残さず完全に消失した。
次元が違う。世界に満ちるあらゆる光の天敵たる『影炎』を宿したハルトの魔力は、すでに皇帝の加護すら凌駕していた。
「下劣な反逆者が! ならば、この『光速の裁き』に耐えてみせよ!」
隊長が激昂し、自らの鎧に埋め込まれた特級聖光石を暴走させた。
【カチリ】と空間が甲高い音を立てて歪む。
隊長の肉体が光そのものへと変換され、人間の反射速度を遥かに超越した「光速」の突撃がハルトへと向けられた。まばたきの一瞬の後には、ハルトの心臓は光の槍で貫かれているはずだった。
聖天の教会が、地上を支配するために誇る絶対的な神速。近づくことすら許されない、無敵の機動力。
隊長は、目の前の少年が何が起きたかも理解できぬまま、無残に首を撥ねられる未来を確信していた。
しかし、ハルトはフッと不敵に微笑んだ。
「光速(それ)が、世界で一番速いとでも思ったか?」
ハルトが一歩、前に踏み出す。
彼の肉体は、光が届くよりも早く、最初からそこに存在している「影」のネットワークと同化していた。光が走る道筋には、すでにハルトの影が先回りして待ち受けているのだ。
光速の突撃の最中、隊長の視界に、突如としてハルトの漆黒の残像が滑り込んできた。
「ば、馬鹿な……! 光を追い抜く影など、この世に存在するはずが――」
「お前たちの誇るその光、俺の影で完全に呑み込んでやるよ!」
ハルトの肉体が爆発的な漆黒の炎を纏い、光速の限界を内側から食い破った。
絶対的な神速の世界の中、ハルトは光の槍を我が物顔で手で受け流し、漆黒の大剣を一閃した。
刃が触れた瞬間、大剣に宿る影炎が、隊長の純白の鎧を内側から凄まじい勢いで焼き尽くしていく。
空間が正常な速度を取り戻した瞬間、一歩も近づくことすら許されなかったはずの『聖光騎士団長』が、悲鳴を上げる暇さえ与えられずに一撃で両断され、大爆発を起こして黒い灰へと還っていった。
「ふぅ……」
ハルトは大剣を地面に突き立て、冷気が霧散していく最下層の街から、遥か天空に浮かぶ巨大な人工太陽『ゼニス・コア』を見つめた。
街の人々は、氷の呪縛から解き放たれ、ハルトが放つ黒い炎の暖かさに包まれながら、呆然と彼を見上げていた。
「待ってろ、フィリア。今、お前を引きずり下ろしてやる」
ハルトは、天空城の最奥、人工太陽の生贄として囚われているという、世界でただ一人のヒロイン――フィリアの名を呟いた。
彼女は、世界の光を維持するための「依代(よりしろ)」としてエデンに囚われ、その魂を削られようとしている少女。
すべての理不尽な光を断ち切り、世界に本当の夜明けを取り戻すための、少年ハルトの最強の逆転劇が、今、ここに幕を開けた。