『常闇を穿つ影の王(シャドウ・ブレイズ)』   作:トート

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4:傲慢なる「第二の絶望」

轟音を立てて上昇する巨大昇降機を降りたハルトの前に広がっていたのは、地上の夜とは完全に隔離された、眩いばかりの白銀の世界だった。

そこは天空城の第一階層『白銀の凱旋門』。

大理石のように美しい純白の回廊が遥か彼方まで続き、空中には高度な魔導式が幾重にもホログラムのように浮かび上がっている。地上から吸い上げられた莫大な光のエネルギーがこの場所を循環しており、最下層の住人であれば、この空間の放つプレッシャーだけで呼吸困難に陥るほどの神聖な魔力が満ちていた。

「不適合者の侵入を確認。これより、神聖なる領域の『排除』を開始する」

回廊の奥から響く、重々しい金属音。

現れたのは、通常の『聖光騎士』を遥かに凌駕する体躯を持った、第一階層の守護者――特級魔導アーマー『白銀の守護神(イージス)』だった。

その手には巨大な光の盾が握られており、その周囲には、半径数百メートルに及ぶ光の結界が展開されている。

この結界こそが、皇帝ゼニスが城の防衛のために配置した『絶対拒絶の領域』。あらゆる物理・魔法攻撃を100%反転させて消滅させるだけでなく、結界の内に足を踏み入れた者の脳に直接「絶対的な無力感」と「敗北の恐怖」の信号を送り込み、精神を内側から焼き尽くすという、最悪の精神汚染デバフ兵器だった。

「ひざまずけ、泥の住人よ。神の光の前に、お前たちの羽ばたきはすべて無価値であると知れ」

守護者が巨大な光の盾を地面に叩きつけると、凱旋門全体が激しく振動し、ハルトの頭上から、精神をすり潰すような精神圧(デバフ)の波動が一斉に放射された。

並の戦士であれば、この波動を浴びた瞬間に生きる意志を失い、自ら武器を捨てて涙を流しながら物言わぬ人形に成り果てるだろう。

しかし、ハルトは一歩の躊躇もなく、その絶望の波動の中を真っ直ぐに歩み進めた。

「ひざまずけ、だと? 誰に向かって言ってやがる」

ハルトの足元から、パチパチと不気味な黒い火花が飛び散る。

彼の瞳は恐怖に染まるどころか、むしろ世界の理不尽に対する、底なしの「怒り」と「不敵な笑み」で満ち満ちていた。

守護者の放つ絶対的な無力感の波動は、ハルトの脳内に到達した瞬間、彼の胸の奥にある『影の歯車』が放つ極大の漆黒の魔力によって、1ミリも作用することなく完全に消滅した。

フィリアを救うという、彼の硬く純粋な意志の強さは、神が用意した精神デバフごときで揺らぐほど生易しいものではなかったのだ。

「馬鹿な……! 我が絶対拒絶の結界の中で、なぜその精神の形を保っていられる!? 恐怖を感じないというのか!」

守護者の無機質な声に、初めて明らかな「動揺」が混ざる。

「恐怖? ああ、そんなものは最下層の冷たい闇の中に、とっくに置いてきたよ。今の俺にあるのはなぁ……お前ら上の奴らの傲慢なツラを、力ずくで引っ叩いてやるっていう『特大の怒り』だけだ!」

ハルトが地を蹴った瞬間、彼の背後から爆発的な漆黒の炎――『影炎(シャドウ・ブレイズ)』が解き放たれ、白銀の回廊を瞬時に漆黒の領域へと染め上げていった。

「狂人が! ならば、この絶対障壁で肉体ごと粉砕してくれる!」

守護者が巨大な光の盾を構え、突撃してくる。どんな攻撃も100%跳ね返す無敵の障壁。近づいた瞬間、ハルト自身の突撃エネルギーがそのまま自分へと跳ね返り、自滅するはずの絶対の防壁。

しかし、ハルトは真っ直ぐにその盾へと向かって突っ込んでいく。

「跳ね返す、か。なら――『そこにある影』はどうやって防ぐんだ?」

ハルトの姿が、守護者の目の前で突如として掻き消えた。

「なにっ!?」

守護者が周囲を索敵しようとしたその瞬間、彼自身の背後にそびえ立つ、巨大な『光の盾』が作り出している、皮肉にも最も濃い「盾の影」の中から、ハルトの漆黒の残像が滑り込むようにして現れた。

ハルトの『影炎』は、光を追い抜くだけではない。どれほど強固な絶対障壁であろうとも、そこに光がある限り、その裏側には必ず「影」が存在する。ハルトは、障壁を正面から破壊するのではなく、最初から防壁の『内側』に存在する影のネットワークを通り、完璧に裏をかいたのだ。

「終わりだ、デカブツ」

守護者の真後ろ、完全に無防備となった背後に立ち、ハルトは漆黒の大剣『シャドウ・ブレイズ』を両手で高々と振り上げた。

大剣の刃に、ハルトの極大の魔力と、地上のすべての人々の想いが宿った影炎が、紫黒の神火となって激しく収束していく。

「お前たちの誇る無敵の盾も、俺の影の浸透の前には、ただのただの素通しのザルなんだよ!」

ハルトの咆哮とともに、紫黒の炎を纏った大剣が、守護者の背面の動力炉へと一世一代の力で叩き込まれた。

刃が触れた瞬間、絶対障壁の内側から爆発的な影炎が逆流し、守護者の巨大な鋼鉄の身体を、内側から凄まじい勢いで腐食させ、焼き尽くしていく。

「が……はっ……神の光が……影に……侵食されていく……!? 馬鹿な、あり得ん、このような理不尽が――」

守護者の最期の言葉を遮るように、ハルトが大剣を引き抜くと同時に、第一階層の守護者は内側から大爆発を起こし、白銀の回廊を巻き込みながら、音を立てて木っ端微塵に爆散した。

崩壊する金属の破片が降り注ぐ中、ハルトは大剣を肩に担ぎ、乱れた黒髪を無造作にかき上げた。

どんな物理攻撃も跳ね返し、精神を殺すはずだった『第二の絶望』は、ハルトの圧倒的な強さと影の機転の前に、傷一つ負わせることすらできず、あっけなく完全粉砕されたのだ。

「ふぅ……。これで、一つ目だ」

ハルトが歩みを進めると、凱旋門の奥にある巨大な門が開き、天空城のさらに上層へと続く未知の階段が姿を現した。

その破壊の衝撃は、天空城全体の管理システムを大きく揺るがし、人工太陽の奥深くで縛られていたフィリアの耳にも、確かに届いていた。

(ハルトさん……。本当に、来てくれているのですね……)

フィリアの心の中に、もう消えることのない強い絆の火が灯る。

理不尽な運命のシナリオを力ずくで書き換えるためのハルトの進撃は、神の城の防衛網を確実に破りながら、本物の夜明けへと向かって突き進んでいく。

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