『常闇を穿つ影の王(シャドウ・ブレイズ)』   作:トート

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5:囚われの聖女と、涙の邂逅

天空城の階段を上り詰めたハルトが足を踏み入れたのは、これまでの階層とは比較にならないほど、狂気的な光に満ちた最上層『太陽の神殿』だった。

天井が存在しないその神殿の中央には、地上から奪い去ったすべての光と熱を限界まで圧縮した、巨大な人工太陽『ゼニス・コア』が不気味に、そして傲慢に鎮座していた。直視すれば一瞬で網膜を焼き切られるほどの超高熱の白光が、空間全体を狂ったように照らし出している。

だが、ハルトの目は、その太陽の直下に釘付けになった。

「……フィリア」

そこに、彼女はいた。

人工太陽から伸びる、数千、数万の純白の『光の鎖』によって両手両足を縛られ、宙に吊るされている少女。神話の時代から続く聖女の血を引き、世界の光を維持するための「生贄(依代)」としてエデンに囚われたヒロイン――フィリアの本体だった。

彼女の衣服は光の負荷でボロボロに擦り切れ、その美しい金髪は生気を失って色褪せかけている。何年もの間、絶え間なく魂と感覚をすり潰され続けてきた彼女の瞳は、半ば閉じられ、虚空をただ見つめていた。生きてはいるが、心そのものが限界を迎え、深い暗闇の底へと沈み込んでいる状態だった。

「侵入者を検知。ゼニス・コアの安全を確保するため、防衛プログラム『十万の天兵(レギオン)』を起動します」

ハルトの接近を察知し、神殿の床から純白の機械兵器が、文字通り地平線を埋め尽くすほどの数で次々と湧き上がってきた。ハルトを押しつぶし、蒸発させるためだけに用意された、神の城の絶対的な防衛の壁。

「邪魔だ。そこをどけ、機械人形ども」

ハルトは一歩も引かず、漆黒の大剣『シャドウ・ブレイズ』を静かに構えた。

彼の足元から、地上の全滅した闇の執念を宿した漆黒の炎――『影炎(シャドウ・ブレイズ)』が、神殿の白光を押し返すようにして爆発的に燃え上がる。

「オラァッ!!!」

ハルトが地を蹴った瞬間、神殿の空間そのものが黒い炎によって二つに引き裂かれた。

殺到する数万の機械兵器の群れに対し、ハルトは漆黒の大剣を大きく横一文字に薙ぎ払う。

大剣の軌跡から放たれたのは、光すらも燃料として燃え広がる、極大の影炎の津波だった。

前線にいた数千の天兵が、ハルトの刃に触れることすらできず、その黒炎の波に飲み込まれて一瞬で影も残さず消滅していく。光の兵器であればあるほど、ハルトの影炎にとっては格好の餌食でしかなかった。

「お前らが何万匹いようが関係ねぇ! 俺の前に立つんじゃねぇよ!」

ハルトの進撃は止まらない。光速を追い抜く影の移動により、彼は天兵たちの間を文字通り「残像」となってすり抜け、全方位から放たれる極大レーザーをすべて大剣の腹で受け流し、あるいは自身の影に吸い込ませて無効化していく。

圧倒的な、蹂躙。

神の最高峰の防衛網は、ハルトという「最強の規格外」の前に、彼の服の裾一つ汚すことすらできず、わずか数分のうちに十万の全軍が爆散し、神殿にはただの静寂が戻ってきた。

ハルトは、煙を上げる大剣を地面に突き立て、光の鎖に縛られたフィリアの真下へと歩み寄った。

ハルトは大きく跳躍し、フィリアを宙に縛り付けている純白の光の鎖へと、その素手を直接伸ばした。

「あ、あぁ……ッ!」

触れた瞬間、神聖な光の拒絶反応がハルトの両手を激しく焼き、皮膚が焦げる嫌な臭いが立ち込める。普通の人間の肉体なら、触れた瞬間に腕ごと蒸発するほどの神の呪い。

しかし、ハルトは不敵に歯を剥き出しにして笑った。

「こんな細い鎖で……こいつの未来を縛れると思ってんじゃねぇぞ、クソ神が!!」

ハルトの右胸の『影の歯車』が猛烈に回転し、彼の両手に極大の影炎が宿る。

【パキィン!!!】と、神殿全体に響き渡る轟音とともに、何百年もの間、誰も傷つけることすらできなかった『絶対の光の鎖』が、ハルトの圧倒的な怪力と影炎の前に、ただのガラス細工のように粉々に引きちぎられた。

重力に従って落ちてくるフィリアの、小さく震える身体を、ハルトはその両腕で優しく、しかし決して離さない強さでしっかりと受け止めた。

「……ハルト……さん……?」

鎖から解放され、ハルトの腕の暖かさに触れた瞬間、フィリアの翡翠色の瞳に、急速に「本物の生気」が戻ってきた。

脳内を支配していた絶望の霧が完全に晴れ、彼女は目の前にいる少年の顔を、まざまざと認識した。精神世界でのあの約束の通り、本当に自分を救い出すために、神の十万の軍勢を一人で消し飛ばして来てくれた、黒き炎の少年。

「遅くなってごめん。……もう大丈夫だ、フィリア」

ハルトはいつもの不敵な、しかし世界で一番優しい笑顔を彼女に向けた。

「あ……あぁ……っ……!」

フィリアの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出し、ハルトの胸元を濡らした。

それはこれまでの絶望の涙ではない。何年もの孤独と苦痛の果てに、ようやく掴み取ることができた、本物の救いと歓喜の涙だった。彼女は震える両手でハルトの衣服を強く掴み、彼の胸にそっと頭を預けた。

聞こえてくる彼の力強い心臓の鼓動が、自分はもう一人ではないのだと、残酷な運命から本当に解放されたのだと、何よりも雄弁に物語っていた。

だが、ハルトが彼女の頭を優しく撫でたその時、彼らの頭上で、人工太陽『ゼニス・コア』が真っ赤な血の色に変色し、狂ったような爆発音を立てて暴走を始めた。

「ハルトさん……ゼニス・コアが……!」

フィリアが怯えた声を上げる。

「チッ、生贄を奪われて怒り狂ってやがるか。いいぜ、世界を巻き込んだクソゲーの続きを始めようじゃねぇか」

ハルトはフィリアを片腕でしっかりと抱き寄せ、暴走する太陽を睨みつけた。

少女を絶望から引きずり下ろした少年と、初めて救われた聖女。二人の絆が、今度は暴走する世界の破滅そのものを殴り殺すための、究極の決戦へと向かっていく。

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