『常闇を穿つ影の王(シャドウ・ブレイズ)』   作:トート

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6: 偽りの太陽、崩壊のカウントダウン

「ハルトさん……! ゼニス・コアの魔力波動が、臨界点を突破しています……!」

ハルトの腕の中で、フィリアが天空の異変を察知し、悲痛な声を上げた。

かつて世界の光を維持するための依代としてシステムに繋がれていた彼女には、人工太陽が今、どれほど破滅的なエネルギーを溜め込んでいるかが直感的に理解できたのだ。

神殿の中央に鎮座する『ゼニス・コア』は、もはや神聖な白光の塊ではなかった。

脈動する巨大な心臓のように不気味に歪み、赤黒い雷撃を周囲の空間へ撒き散らしている。その熱量は指数関数的に跳ね上がり、ただ近くにいるだけで、ハルトの漆黒の防護服がじりじりと焦げ付くほどの狂気的な暴威と化していた。

『アハハハハ! 愚かな地上の羽虫どもが!』

神殿の全方位から、世界を統べる絶対的な支配者、聖天皇帝『ゼニス』の、傲慢で冷徹な笑い声が五臓六腑を震わせるように響き渡った。

『聖女を奪えば救われるとでも思ったか? 依代を失った人工太陽は、あと数百秒で完全に自壊する。蓄積されたすべての光と熱は、地上へ向けて一気に解放され、お前たちの愛する下層の街も、凍土の大地も、全人類もろとも一瞬で蒸発して塵に還るのだ! 世界を道連れに、自らの無力を呪って死ぬがいい!』

皇帝の言葉通り、人工太陽の底部から、地上に向けて巨大な「光の砲身」のような術式が展開され始めた。

照準の先は、ハルトの故郷である「シャドウ・スクエア」を含む、全ての地上の街。

神が用意した最悪のシナリオ――救いを求めた結果、世界が全滅するという、これまでの絶望を上書きするような破滅のカウントダウンだった。

「世界が……私のせいで……みんなが消えちゃう……」

フィリアの翡翠色の瞳に、再び恐怖の影が差し、大粒の涙がその頬を伝う。自分を救ってくれたハルトまでもが、自分のせいで死んでしまうかもしれないという、逃げ場のない絶望。

だが、ハルトは彼女の肩を強く、しかし壊さないように優しく抱きしめ、いつもの不敵な笑みを崩さなかった。

「お前のせいなわけねぇだろ。全部、あの上のクソ皇帝が勝手に書いてる不愉快なシナリオだ。だったらよ――」

ハルトは突き立てていた漆黒の大剣『シャドウ・ブレイズ』を引き抜き、暴走する太陽を見据えた。

「世界を滅ぼすその熱線ごと、俺の影で完全に殴り殺してやるよ」

ハルトはフィリアを地面にそっと降ろすと、彼女の小さな右手を、自分の左手で強く、しっかりと握りしめた。

「フィリア、俺一人じゃ、ちょっとだけ足りねぇんだ。お前の『生きたい』って願いの力、俺の影に貸してくれ」

「……っ、はい……! 私、生きたいです! ハルトさんと一緒に、本当の朝を迎えたい……!」

フィリアは涙を拭い、強く頷いた。彼女の胸の奥から、神話の時代より受け継がれてきた本物の、純粋な『聖なる魔力』が溢れ出す。それはシステムに搾取されていた偽りの光ではない。彼女自身の魂が紡ぎ出す、ハルトを信じる無垢なエネルギーだった。

フィリアの聖なる光がハルトの左手を通じて彼の肉体へと流れ込んだ瞬間、ハルトの右胸の『影の歯車』が、これまでにない速度で火花を散らして爆発的に回転を始めた。

反発し合うはずの「極大の光」と「真なる影」。

しかし、二人の強い絆と、理不尽な運命を拒絶する絶対的な意志によって、二つの魔力は完璧に調和(シンクロ)し、ハルトの全身からバチバチと『紫黒の神火』となって吹き荒れた。

【ゼニス・コア、臨界値に到達。地上への一斉掃射を開始します】

機械的なカウントダウンの終了とともに、人工太陽から、地上をすべて蒸発させるための極大の熱線が放たれた。直径数百メートルに及ぶ、世界の終わりを体現した光の濁流。それが地上の人々目がけて、神殿の床を突き破りながら猛烈な勢いで突き進んでいく。

「いかせねぇよ!!」

ハルトの咆哮が神殿を震わせた。

ハルトとフィリアが繋いだ手を掲げると、地上の全ての闇を凝縮したかのような、巨大な紫黒の防壁が神殿の床一面に展開された。

ドガァァァァァァァァン!!!!!

空間が割れるほどの凄絶な衝撃音が轟き、神の極大熱線と、ハルトたちの紫黒の防壁が真っ向から激突した。

凄まじい余波。神殿の柱が次々と消滅し、周囲の空間がエネルギーの飽和によって白と黒に激しく明滅する。ハルトの全身の筋肉が悲鳴を上げ、肉体がジリジリと摩耗していく激痛が走る。

「く、そ……ッ! なめんなぁぁああ!!」

ハルトの足が床を削り、圧される。神の一撃は確かに強力だった。このままでは防壁が破られ、地上に熱線が届いてしまう――。

その時だった。ハルトの背中に、温かい感触が触れた。

フィリアが、自らの両腕でハルトの背中を後ろからぎゅっと抱きしめていたのだ。

「ハルトさん、負けないで……! 私たちの未来は、ここから始まるんです!!」

彼女の叫びとともに、ハルトの体内に、さらに純度を増した無限の魔力が溢れかえった。ヒロインの絶対的な信頼。それが、最強の主人公に「限界突破」の力を与える最大のトリガーだった。

「おおおおおおおおおおおッ!!!」

ハルトの瞳が、眩い紫黒の炎で染まる。

二人の絆が世界のシステムを内側から食い破り、彼の魔力は神の領域を完全に置き去りにした。

漆黒の大剣『シャドウ・ブレイズ』から放たれる影炎が、激流となって防壁へと注ぎ込まれ、紫黒の障壁が何倍もの厚みへと膨れ上がっていく。

「終わりだ、クソ神のハッタリが!!」

ハルトが繋いだ手を一気に振り下ろすと同時に、紫黒の防壁が、逆に神の熱線を「押し返し」始めた。

光を燃料として燃え広がるハルトの影炎は、人工太陽の全エネルギーを内側から貪り喰い、その破滅の光線を根元から完全に消滅させていったのだ。

【警告:エネルギーの逆流を確認。ゼニス・コアの術式が、完全に霧散しました】

衝撃が収まったとき、神殿には完全な静寂が戻っていた。

地上を滅ぼすはずだった極大熱線は、ハルトとフィリアの限界突破の力の前に、地上の塵一つ触れることすらできず、完全に防ぎ切られたのだ。

暴走していた人工太陽は、そのエネルギーの大半をハルトの影に喰い尽くされ、力なく燻るただの球体へと成り下がっていた。

「はぁ、はぁ……やった、のか……?」

ハルトが肩で息をしながら呟く。

「はい……! 地上のみんなも、無事です……!」

フィリアはハルトの胸に顔を埋め、今度こそ、安心としあわせに満ちた笑顔を浮かべた。彼女の瞳からは、もう絶望の涙は1滴も流れていなかった。

しかし、神殿の奥、崩れ落ちた玉座の跡から、凄まじい神聖なプレッシャーを放ちながら、一人の男がゆっくりと立ち上がった。

全身に神の術式を刻み、怒りで顔を歪めた絶対的な支配者。

「下劣な反逆者どもが……。よもや、神の裁きを跳ね返すとはな」

聖天皇帝『ゼニス』が、自らハルトたちを抹殺するために、その姿を現したのだ。

世界を救い出した二人の前に立ちはだかる、真のラスボス。物語はここから、運命の糸を完全に殴り殺すための、後半の決戦へと突入していく。

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