『常闇を穿つ影の王(シャドウ・ブレイズ)』   作:トート

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7: 限界突破の影炎(シャドウ・オーバーフォース)

「地上の羽虫どもが、よもや神の裁きを跳ね返すとはな。だが、奇跡もここまでだ」

聖天皇帝『ゼニス』が一歩、前に歩み出た瞬間、神殿の空間全体が凄まじいプレッシャーによって悲鳴を上げた。

彼の背後には、神聖な術式が幾重にも重なった、巨大な「千の手を持つ光の光輪」がホログラムのように展開されている。それは皇帝が世界から吸い上げたすべての光を自らの肉体に最適化させた、絶対的な神の権能の具現だった。

ゼニスが軽く指先を振るうだけで、ハルトたちの周囲の空間がガラスのようにパキパキと音を立ててひび割れ、光の粒子となって消滅していく。触れれば肉体だけでなく、魂の存在確率そのものをゼロにされるという『空間消滅』の術式。

「ハルトさん、気をつけて……! あの男の光は、これまでの騎士たちとは次元が違います。世界そのものを書き換える力を持っているわ……!」

フィリアがハルトの前に一歩出ようとするが、ハルトはその細い肩をそっと手で制し、いつものように不敵な、凶悪とも言える笑みを口元に浮かべた。

「次元が違う? 上等じゃねぇか。世界を書き換えるってなら、俺はそのシステムごと、力ずくで叩き壊してやるだけだ」

ハルトは漆黒の大剣『シャドウ・ブレイズ』を肩に担ぎ、フィリアを背中に庇いながら、皇帝の放つ絶望的なプレッシャーの中を、一歩の躊躇もなく突き進んでいく。

「不遜なる者め。神の光の前に、その傲慢な首を差し出すがいい」

皇帝ゼニスが腕を掲げると、背後の光輪から、空間を抉り取りながら突き進む、無数の『空間消滅の熱線』がハルトを目がけて一斉に放射された。全方位からの、逃げ場のない神速の暴力。まともに浴びれば、存在の歴史ごと宇宙から消去される絶対の処刑術式。

しかし、ハルトは空中へ向けて大剣を真っ直ぐに突き立て、自らの胸の奥にある『影の歯車』を、限界を超えて解放した。

「おい、クソ皇帝。お前が世界の『光』を独占したってなら、そのせいで地上に生まれた『すべての影』は、全部俺の味方なんだよ!」

ハルトの咆哮とともに、彼の肉体から爆発的な漆黒の魔力――『限界突破の影炎(シャドウ・オーバーフォース)』が解き放たれた。

それは、これまでの黒い炎とは一線を画す、空間そのものを『闇』で上書きする絶対的な侵食の力だった。

神殿の床、壁、さらには皇帝が放った空間消滅の熱線が作り出す「光の輪郭の影」にいたるまで、あらゆる場所から紫黒の神火が吹き荒れ、迫り来る消滅の光を逆に内側から侵食し、貪り喰っていく。

「な、何だと……!? 我が空間消滅の術式が、影ごときに塗り替えられていくというのか……!?」

皇帝ゼニスの冷徹な顔が、初めて驚愕と恐怖に歪む。

光が強ければ強いほど、その裏に生まれる影もまた、より深く、より強固になる。ハルトの『シャドウ・オーバーフォース』は、皇帝の絶対的な光の力をそのまま自らのエネルギーへと変換し、倍にして返すという、まさに光の支配者に対する完璧な天敵の権能だった。

「オラァッ!!!」

ハルトの身体が、最初から皇帝の背後に伸びていた「皇帝自身の影」へと一瞬で溶け込んだ。

光速すらも置き去りにする、完璧な影の神速移動。

「しまっ――」

皇帝ゼニスが背後を振り向こうとしたその瞬間には、ハルトはすでに彼の懐へと完全に肉薄していた。

大剣『シャドウ・ブレイズ』の刃には、フィリアから託された聖なる光と、地上の全滅した闇の執念が完全に融け合った、極大の紫黒の神火が一本の細い線のようになって収束している。

「お前が何百年かけて創り上げたそのクソみたいな永夜の世界、俺たちの未来のために、今ここで叩き潰してやるよ!」

ハルトの咆哮とともに、紫黒の炎を纏った大剣が、皇帝ゼニスの胸に刻まれた神聖術式の核へと向かって、一世一代の力で振り下ろされた。

刃が触れた瞬間、皇帝が誇る無敵の光のバリアが、ただの薄い氷のようにパキィンと軽い音を立てて粉砕された。影炎が皇帝の肉体に直接流れ込み、彼の神聖な魔力を内側から凄まじい勢いで腐食させ、焼き尽くしていく。

「ぐ、はっ……神たる私が……地上の羽虫に、圧されているというのか……!?」

皇帝ゼニスは激しく血を吐き、ハルトの一撃の凄まじい質量に耐えかねて、神殿の床を何百メートルも吹き飛び、奥の壁へと叩きつけられた。

衝撃の余波で、天空城全体の輝きが大きく明滅し、システムが完全にハルトの力によってハッキングされ、書き換えられ始めていることを物語っていた。

ハルトは大剣を肩に担ぎ直し、一歩も退かずに自らの背中を支えてくれていたフィリアへと振り返った。

「フィリア、見たか? 神様だろうが何だろうが、殴ればちゃんと血を流す。あいつのシナリオなんて、俺たちの前には1文字の価値もねぇんだよ」

「はい……! 凄いです、ハルトさん……!」

フィリアはハルトの元へと駆け寄り、その両手でハルトの手をしっかりと包み込んだ。彼女の翡翠色の瞳には、もう世界の終わりに対する恐怖など1ミリも存在しなかった。目の前にいる最強の少年が、自分たちの未来を、約束されたハッピーエンドへと力ずくで導いてくれることを、心の底から確信していたからだ。

しかし、崩壊した壁の向こうから、片腕を黒焦げにされ、狂気的な笑みを浮かべた皇帝ゼニスが、再び立ち上がった。

「おのれ……おのれぇぇえ! ならば、世界の命運ごと、ここで完全に終わらせてくれるわ!!」

皇帝の全身から、これまでの比ではない、世界そのものを自爆させるかのような禍々しい光が膨れ上がり始める。

真のラスボスとの決戦は、ここから世界の命運を賭けた、本当の最終局面へと突入していく。

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