「気を付け!礼!」
―――あざぁっしたぁあああ!!!!
練習が終わり寮へと向かう部員たち
「・・・・・・」
白銀もその一人であった・・・が、その表情は真剣そのものであった
『明日は1年と2・3年生で試合を行う、各自準備を行っておけよ』
そう、突然ではあるが1年対2・3年の試合が組まれることになったのだ
恐らく首脳陣が降谷の投球を見たのだろう・・・ランニング中に「バチィィィィィィ!」とボールがミットを弾いたときに聞こえる音が辺りに響いたからだ
「今の俺は・・・あ、そういや見習い部員だったわ・・・はぁ・・・」
白銀は「今の俺がどこまで通用するのか」と言いかけてやめる
今の自分は見習いの身。試合に出れるのかも怪しい所なのだ
「・・・久しぶりに素振りを行いますかね」
とりあえず今は今の自分にできることをして準備に備える
白銀はそう切り替えて寮へと戻っていったのだった・・・
「ん~~~・・・よし、ストレッチはここまでにしますか」
寮へ戻った後、すぐに着替えて寮の先輩二人がいなくなったことを確認してから白の打撃手袋、黒のリストガード、木製バット2本(試合用・マスコット)を持ち出してグラウンドへやってきた
「食事もあるからね・・・ルーティンからフォロースルーまでの動作一つ一つを確認しながら・・・意味のあるスイングを心掛けよう」
手袋を両手に、リストガードを右手に着用すると白銀は自分に言い聞かせるようにブツブツと呟くと木製バットを持ち、打席の捕手側に立つ
軸足となる右足がしっかりと地面に吸い付くように踏んで固めてから若干曲げて、少しインサイドに曲げる
その後肩幅の広さまで足を広げたのち左足を三塁寄りに下げつつ右足の長さくらいまで下げてからかかとを上げて膝を曲げることでオープンスタンスの構えを取る
この時左足もインサイドに曲げて内股状態にする
その後1回、2回、3回投手側から円になるようにゆっくりと回してから投手側と正対するようにバットを立てる
その先にいるであろう投手を想像しながら深呼吸し集中する
「フゥ・・・一点集中・・・リラックスリラックス・・・」
両肩を2回ほど動かしてリラックスしてからバットを持つ手を胸元まで持っていく
バットのヘッドは少し投手側になるように倒す
そしてタイミングを取るようにバットを持つ手と左足を小刻みに動かす
「フゥ・・・」
マウンド上にいる投手を白銀の頭の中で想像する・・・
その投手が振りかぶり投球動作に入る
白銀は体の中心に寄せるように左足を斜め上方向に上げつつ、バットを持つ手も体の中心によせるようにほんの少し右下方向に下げる
その後、左足が地面に踏み込みに行くのと同時にバットのヘッドはそのままに捕手側に引く動作、通称『割れ』の動作を行う
「ン゛ン゛ッ!!!!」
左足を着地してから全身で捻転の動作を行いバットを出しに行きフルスイングを行う
ブゥゥン!!!!!!!!!!!
辺りに鋭いスイング音が鳴り響いた・・・・
「・・・・・」
フルスイングを行った後、10秒ほど余韻に浸る感じで止めていた・・・のではなく、自身の体に変化を感じていた
「なんというか入部初日と比べて身体のブレがあまりない感じ・・・」
「それに下半身がどっしりとした感じに言うのかな?踏ん張りが効く感じになっている・・・」
ウエイトベスト着用したランニングメニューを始めて3週間、体幹や下半身が鍛えられたことによってフルスイングがよりスムーズに出せるようになっていた
「へへっ・・・ウエイトベストを使うだけでこんなに違うのか・・・継続して行っていけばどんな感じになるんだ・・・?」
「こんなこと言うのは良くないかもだけど・・・見習い部員で良かったのかもしれねぇな・・・」
もしあの時、正規部員のままだったらウエイトベストを着用したメニューを行っていたのか
全員で同じメニューを消化していて、このベストを着ることは無かったのかもしれない
沢村と二人でランニングを行うことになったからこそウエイトベストでのランメニューが生まれたのかもしれない
「ランニング以外は許されない状況になったからこそ、考える事が出来たのかもしれないな」
「そういう意味では鉄兄に楯突いて良かったのかもしれねぇな」
「誰に楯突いて良かっただって?」
その時、絶対に聞こえることのない声が後ろから聞こえた
「・・・・え?か、監督!?」
白銀が後ろを振り向くと青筋を立てた片岡が白銀の方に向かって歩いてきた
「・・・白銀、今は夕飯の時間のはずだが?」
「いやぁ、今の時間しかこのグラウンドを一人で使えないと思いましてね・・・それを言ったら監督だって何でここにいるんすか?」
「そこのバックネットの部屋でタバコ吸っていた・・・そしたら白銀がバット持ってやってきたからな・・・」
「ありゃりゃ~そこまで見て無かったな・・・参ったな・・・」
白銀はまだ見習いの身、よりによって監督にバレてしまうとは・・・白銀はどうしたものかと思いつつポリポリと頭を掻く
「・・・あと1スイング」
「はい?」
「この1スイング、自分が思う最高のスイングを見せろ」
「それが終わったら夕飯を食べに行ってこい」
「う、うす!」
そう言うと片岡が隅から隅まで白銀を見定めるように見始めた
(うお~恥ずかしいな・・・でもこの1スイング、神経を極限まで研ぎ澄まそう・・・)
見られていることに若干恥ずかしさを感じつつも白銀はバットマークを見て集中力を高め始める
・・・そしてバッターボックスに入る
足の向きや位置関係・・・オープンスタンスであることを確認した後にルーティンであるバットを3回円を描くように回した後に投手に正対するようにバットを立てて一点に集中する
「フゥ・・・」
まだ1スイングしかしていないのに額から汗が出てくる・・・それほどまでに1スイングに全力をささげるため集中力を極限まで高めている
肩の力を抜くように深呼吸して肩を上下に動かしてから胸元に手を持っていく
タイミングを取るように手と左足を小刻みに動かす
「・・・フゥ」
想像している投手が振りかぶってから投球動作に入る
同時に白銀は左足を上げて、地面に踏み込むと同時にバットのヘッドを投手側に寝かせながらトップの位置までもっていく
「ン゛ン゛ッ!!!!!」
ど真ん中に来たボールの少し下をバットの真芯に合わせて、カチ上げるようにフルスイングを行った
ブゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!!!
先ほどよりも鋭く、大きいスイング音がグラウンド内に響いた
「・・・・・・ナイススイングだ」
振り終えて、数秒の静寂があったのち片岡は口角を上げながら白銀を褒めた
「あ、アザマス・・・!」
まさかの片岡からの誉め言葉に白銀は舞い上がってしまった
「イメージとしては・・・ベース前に来たど真ん中のボールを下からカチ上げるように・・・という感じだな?」
「そうです、そんな感じで振りましたね・・・左中間のスタンドにぶち込むイメージで意識して打ちました!」
「あとは木製なのでポップフライにならないように回転をかけて打つ意識を持って振った・・・といった感じですかね?」
「なるほどな・・・高校野球では木製で打つつもりなのか?」
「親父との約束ですからね・・・とは言え最近は木製に近い低反発バットも開発されているので、そっちでも良いかなぁとは思ったのですが・・・」
「バットが折れてストックが無くなったら親父が「メーカーに作ってくれって頼むからな~」って言ってくれまして・・・」
片岡の問いに白銀は聖将から譲り受けた木製バットを眺めながら答える
「・・・アイツらしいな」
「ほんと、頭が上がりません・・・だからこそこのバットでホームランを打ちまくって・・・」
日本一、いや世界一のアーチストになって両親と蒔田監督、鉄兄に恩返しするのが俺の夢なんです
「・・・世界一のアーチスト、か・・・」
片岡が白銀の夢を聞いてほんの僅かではあるが笑顔になる
「はい・・・昔は来た球をブンブンフルスイングするだけの扇風機でしたけど・・・」
「両親や蒔田監督がいなかったら今の自分はなかったし・・・」
「鉄兄が青道高校で監督やっていなかったらここには来ていない」
「俺にできることは・・・教えてくれた野球をこの青道高校で恩を返したいんです」
そう言い白銀は片岡監督に対して真剣な表情を見せた
これは嘘ではない、白銀自身が青道に来たときからずっと胸に秘めていたことでもある
「・・・ふん、夢だけ一丁前だな」
「うえ!?」
白銀の壮大な夢にも片岡は鼻で笑う・・・が、笑顔のままだ
「でも今のお前は
「・・・そりゃそうですよ、だからこそ自分のフルスイングをここでもっともっとレベルアップさせたい・・・!!!」
「本塁打には拘っていきたいんです・・・!!!」
「・・・実際今の青道には白銀のように本塁打に拘っている奴はそうはいない・・・」
「でもその拘りは必ずお前をもっともっと上のステージに連れて行ってくれるはずだ」
「その本塁打とフルスイングに対しての拘りは・・・絶対に貫けよ」
「っ・・・はい!」
片岡監督から肯定してもらえた・・・それだけでも胸が一杯になった
「・・・明日、試合に出る準備はしておけよ」
「え・・・?明日出してもらえるんすか?」
試合に出られるとは思っていなかったから、そんなことを言われ驚く白銀
「出る準備をしておけって言ったらそういう事だろ?」
「カズが出られるって言っていたポジションは出て貰う予定だから、その準備はしておけよ・・・」
「り、了解です!」
「・・・まだ食べていないんだろ?早く食いに行ってこい」
白銀の返事を聞くと片岡は食堂へ行くように促す
片岡との会話で忘れていた白銀は「そ、それでは食べに行ってきます!」と道具を持って足早に去っていったのであった
「ふん・・・バッターボックスくらいは均しておけと言おうと思ったが・・・まぁ良い、後で言っておくか・・・」
そうぼやくと片岡はバッターボックスをトンボで均し始める
「カズも成長したな・・・世界一のアーチストか・・・」
「てつにぃー」と言いながらずっと後ろをついてきていた子供の頃から知っているからこそ・・・この成長には思うところがあったのだろう
「キヨと蒔田から渡されたこのバトンは絶対に落としてはいかんな・・・」
土を均しながら同期の顔を思い浮かべる片岡
このバトンは「ヘマをこかすんじゃねぇぞ鉄心?」という圧も感じ重く重く感じた
今更ながらガイドブックを購入いたしまして、小説のネタになりそうなものを探していた中で、白州の同室の先輩は門田ということが分かりました・・・
こ、この小説では楠木・白州・白銀で行きます・・・ご了承ください
連日たくさんの方に見ていただいております・・・本当にありがとうございます
結果は後からついてくる・・・分かってはいるのですが数字を見てしまう
自分も白銀のように深呼吸が必要ですね
感想・評価の方、どしどしお待ちしております