魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―   作:虚空小白

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第5話 価値のない魔法

 翌朝。

 いびきをかいて眠っていたソルは、ドアをノックする音で目を覚ました。

 

「起きてソル、朝だよ」

 

「マーニ、今起きた」

 

「うん……? 二度寝しないでよ」

 

 ソルは両目を擦り、大きな欠伸を一つした。

 

「わかってるって」

 

 頬をパンパンッと叩いて意識を覚醒させた。

 

「よしっ」

 

 朝の支度を手早く済ませ、荷物を纏めてマーニと合流した。

 

 ソルの寝癖を見て、マーニは笑みを浮かべた。

 

「ソル、おはよう」

 

「おはよう……って何笑ってんだよ」

 

 マーニがソルの髪を指さす。

 

「寝癖ついてるよ」

 

「ほっとけば治んだろう」

 

「ダメだよ。私たちはもう子どもじゃないんだから」

 

 ソルは手櫛で強引に髪を整えようとした。

 

「そんなんじゃダメだよ」

 

 マーニは両手をパンッと叩き、まじないをかけた。

 すると、ソルの髪型が元通りになった。

 

「これでよしっと。寝癖を直したよ」

 

「今、俺に何をしたんだよ?」

 

「メアリーさんが教えてくれたまじないだよ。食堂で朝ご飯を食べながら話すね」

 

 ふたりは階段を下り、受付で鍵を返却して食堂へ行った。

 メアリーが笑顔で出迎える。

 

「ソル、マーニ、よく眠れたかい」

 

 ふたりは首を縦に振り、マーニが尋ねた。

 

「メアリーさん、朝ご飯を食べに来たので、あの『賢者の落書き』は、約束通り私がもらってもいいんですよね?」

 

「構わないよ。今じゃ銅貨1ルミナの価値すらないからね」

 

「やった!」

 

 ふふっとメアリーが笑った。

 

「こちらの席へどうぞ」

 

 ふたりは足元に荷物を置き、イスに腰を下ろした。

 

「魚介スープと丸パンでいいかい?」

 

 ふたりは頷いた。

 

「少し待っててね」

 

 メアリーは厨房へ向かった。

 

 ソルはマーニに顔を向けた。

 

「『賢者の落書き』って何の話だよ?」

 

「昨日、メアリーさんと洗い場で出会ってね。もらったんだよ」

 

 マーニが目を輝かせた。

 

「『賢者の落書き』は、400年前に賢者ヴェルナートが考えた魔法なんだよ。所有者でないと使えないんだけど——」

 

 口調が熱を帯び、早口になっていく。

 

「今じゃ魔法とも呼べない代物で、『まじない』として扱われているんだよ。ソルに使った寝癖直しも、その一つ。櫛を使えば不要だから価値がないんだけど、当時はこのまじないが大発見だったんだよ」

 

「そいつはよかったな。話は変わるが、食べた後はどうする?」

 

 マーニは座り直した。

 

「物価はメアリーさんに教えてもらったよ。食事は一食、銅貨数枚が目安。他の宿だと一泊、銀貨3枚が目安だって」

 

「じゃあ、すぐに出発するのか?」

 

 マーニは手を合わせてお願いした。

 

「その前に口入屋へ行きたいの」

 

「お金が足りないのか?」

 

「口入屋は仕事を斡旋しているんだけど、依頼人と交渉して報酬を変えてもらうこともできるんだよ。だからね——」

 

 上目遣いでソルを見る。

 

 ソルは大きな息を吐いた。

 

「『賢者の落書き』を集めたい、か」

 

 マーニはうんうんと頷いた。

 

「ソルもまじないに興味があるよね?」

 

「歴史のことになると、俺以上に熱くなるよな。別に構わないが、旅の目的を忘れるなよ」

 

 マーニは満面の笑みを浮かべた。

 

「わかってるよ。ありがとう、ソル」

 

 メアリーが料理を並べ、苦笑いを浮かべた。

 

「最近、小麦粉の質が落ちてね。丸パンは魚介スープに浸してから食べるといいよ」

 

 すぐに注文を取りに行ってしまった。

 

「さっさと食べて、口入屋に行こうぜ」

 

「うん」

 

 ソルは丸パンを一口食べて顔を顰めた。

 マーニも同じだった。

 

「何かパサパサしてるな」

 

「スープと合うようにしているんだよ。でも、香りが良くない」

 

 マーニは丸パンを一口サイズにちぎって、魚介スープに浸してから口に運んだ。

 

「魚介スープを濃厚にして、丸パンの香りを誤魔化しているね」

 

 隣を通りがかったメアリーが頭に手を当てて笑った。

 

「やっぱりわかっちゃうか。雨が続いたから小麦がダメになる前に収穫したって話だよ。食べられるだけ、まだマシだけどね」

 

 厨房から女将の視線を感じ、メアリーは慌てて仕事に戻った。

 

 ソルはスープに浸した丸パンを口に運びながら、マーニに尋ねた。

 

「口入屋に寄る前に、鍛冶屋へ行かないか。剣を持ったまま歩くのも腕が疲れるしな」

 

「それもそうだね。装備の値段については、メアリーさんも知らないようだったし」

 

「よしっ、決まりだな」

 

 ふたりは食事を済ませ、マーニが代金を支払った。

 

 宿の店主に鍛冶屋と口入屋の場所を聞き、鍛冶屋へ足を運んだ。

 鍛冶屋へ向かいながら、ソルは手に握った剣を何気なく眺めた。

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