魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―   作:虚空小白

7 / 10
第6話 剣が泣いている

 潮の香りと金属のにおいが混ざり合う。

 鉄を打つ音が響き渡る。

 

 街の一角にある鍛冶屋『跳水工房』の店内には、剣や槍、防具が並んでいた。

 

 ふたりが店内を見渡していると、若い男が近寄った。

 顎にそっと手を当てて、その手に持った剣を見て、目を細めた。

 

「いらっしゃい。ベルトが壊れたのかい?」

 

 ソルは首を横に振った。

 

「この剣は父さんからもらったけど、ベルトがなかったんだ」

 

「剣を見せてくれるかな」

 

 ソルは男に剣を手渡した。

 男は剣を抜き、刀身を見て眉間にしわを寄せた。

 

「剣が泣いているよ」

 

「え?」

 

 男はため息をつき、刀身をソルの目線の高さに横向きに掲げた。

 

「汚れを拭き取るだけでは意味がない。血や脂が目に見えなくなっただけで、錆びが生じる。今、この剣は泣いているんだよ」

 

 ソルは少し俯き、拳を握り締めた。

 

「俺、何も知らなかった。せっかく父さんがくれたのに、ダメにしてしまった」

 

 男は剣を鞘に収め、ソルの肩に手を置いた。

 

「研磨すれば、輝きを取り戻すよ。彼女の剣も研いでくるよ」

 

 マーニは首を横に振った。

 

「私はまだ何も斬っていません」

 

「この剣は数年前に製造されている。どこか劣化しているのかもしれない。もしかしたら、生死の境を分けるかもしれない」

 

 マーニはソルに視線を送った。

 彼は頷いた。

 

 マーニは男に剣を手渡した。

 

「お願いします」

 

「問題がなければ、すぐに終わるよ。親父はこの街一番の鍛冶師だからね」

 

 男は工房へ向かった。

 

 待つこと十数分。

 

 ソルはずっと黙っていた。

 マーニが横から声をかけた。

 

「ちょっとソル、いつまで落ち込んでいるのよ」

 

「悪い。ちょっと自分の世界に入ってた」

 

 男がふたりの剣を持って戻ってきた。

 

「剣に問題はなかった。鞘にベルトの固定具がなかったので取り付けておいたよ。代金は銀貨1ルミナと銅貨8ルミナ」

 

 マーニは代金を支払った。

 

「固定具は使っていると緩んでくることがある。鍛冶屋に言えば、すぐに直してくれるよ」

 

 男はソルの古びた胸当てを一瞥した。

 

「装備に金を惜しまないことが長生きする秘訣だよ」

 

 マーニはソルの胸当てに目をやった。

 

「ソルの防具を新調したいです」

 

「それなら皮製品をオススメするよ。軽い上に伸び縮みする。柔らかい材質だから衝撃を吸収する」

 

 ソルは眉を八の字にした。

 

「金属製品はないのか?」

 

「あるにはあるが、オーダーメイドになる上、製造に時間がかかる。その分、料金もかかる。とてもじゃないが、君に支払う能力があるとは思えない。剣を見ればわかるからね」

 

「オーダーメイド?」

 

「君の体に合わせた一点ものって意味だよ」

 

 ソルは肩を落とした。

 

「憧れる気持ちはわかるけど、身の丈にあったものを選んだほうがいいよ」

 

 マーニが一歩前に出た。

 

「皮製品の防具一式の値段を教えてください」

 

「胸当て、股当て、肘当て、膝当て、靴で銅貨26ルミナだ」

 

 男はソルを見た。

 

「彼女を守るのなら盾もあったほうがいいと思うが、どうする。慣れないうちは軽い木の盾がオススメだよ。銅貨8ルミナだ」

 

 ソルは一拍置いて答えた。

 

「この先、盾が必要になるかもしれない。買うよ」

 

「まいど。すぐに用意するよ」

 

 男が装備一式を持ってきて、ソルに手渡した。

 

「奥に試着室がある。身に着けて違和感があれば、すぐに交換するよ」

 

 ソルは木の盾を見て呟いた。

 

「これがあれば……」

 

「ソル……?」

 

 ソルは顔を上げて笑った。

 

「マーニ、盾があれば安心できるよな」

 

「えっ、まあそうだね」

 

「そっか。マーニがそう言うのなら、多分それが正解なんだろうな。俺の勘もそう言ってる」

 

 マーニは思わず笑った。

 

「変なこと言ってないで、早く行きなよ」

 

 ソルは試着室へ向かい、カーテンを閉めた。

 

 古い胸当てを外し、胸当て、股当て、肘当て、膝当てを身に着ける。

 腰に剣を下げ、左手に木の盾を持ち、体を動かして確認した。

 

 問題なし。

 カバンを背負って試着室を出た。

 

 マーニの元へ行き、親指を立てた。

 

「身が引き締まったぜ!」

 

 マーニは笑顔で頷いた。

 代金を支払い、『跳水工房』を出る。

 

「よしっ、次は口入屋だな」

 

「うん。行こう」

 

 マーニはソルの右手を掴み、口入屋へ向かって走り出した。

 ソルは苦笑いを浮かべながら、歩幅を合わせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。