魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―   作:虚空小白

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第7話 拒否権はない

 水都アクアレインの中央には、ひと際大きな噴水が設置されている。

 

 その龍を模した噴水は街の護り神——水龍として人々に信仰され崇められていた。

 その一角に口入屋があり、ふたりは中に入った。

 

 口入屋には数名の旅人がおり、受付の列に並んでいた。

 ふたりは背後に人の気配を感じ、振り向いた。

 

 腰まで伸びた金髪。緑の眼。

 

 黒い外套を纏い、右手にハルバードを持った20前後の女が、ふたりを見ていた。

 

 その瞬間、ソルは一歩後ろへ下がっていた。

 

 女は口の端を釣り上げ、受付に告げた。

 

「例の依頼だが、こいつらを使う」

 

 ふたりを一瞥し、壁際へ向かう。

 

「ついてこい」

 

 ソルは乱れた呼吸を整えながら声を振り絞った。

 

「マーニ、言う通りにしよう」

 

 マーニはソルの顔を覗き込んだ。

 

「ソル、どうしたの?」

 

「わからない。あの女と目が合った瞬間……呼吸できなくなった」

 

 ソルの手が震えていたのをマーニは見逃さなかった。

 

「早くしろ」

 

 女の声が飛んできた。

 ふたりは女の元へ近寄った。

 

「アタシはヴァーゲ。十二聖徒の一人だ」

 

 マーニが恐る恐る尋ねた。

 

「十二聖徒とは何ですか?」

 

「お前らの出身はどこだ?」

 

「孤島村です」

 

 ヴァーゲは笑みを浮かべた。

 

「教会は知っているな」

 

「はい。浄光教の方々が祈りを捧げているので、世界から争いがなくなった、と聞いています」

 

「表向きはな。だが、いつの世も悪党はいる。そいつらを裁くのが、教会から派遣された十二聖徒の役目だ」

 

 ため息をつき、続けた。

 

「この街には水龍に纏わる伝承が残っている。ただの水を聖水と偽って、旅人に売りつけているバカがいる。教会の名を出した以上、十二聖徒であるアタシが派遣されたってわけだ」

 

「それと私たちにどういう関係があるんですか?」

 

「お前らはバカな旅人のフリをして水を買うだけでいい。そいつから話を聞くのはアタシの役目だ」

 

 マーニは半歩前に出た。

 

「これは正式な依頼ですよね?」

 

「報酬の話か。バカを捕まえることができれば金貨3ルミナ支払ってやる。悪くない話だろう」

 

 ヴァーゲが不敵な笑みを浮かべた。

 

「先に言っておくが、お前らに拒否権はない」

 

「何でだよ!」

 

「お前、名は?」

 

「ソルだ」

 

「ソル、お前は鼻が効くな。一目でアタシを強者と見抜いた。だから、お前は今も震えている。お前は強くなる。だから、アタシの欲求不満を解消するのに使える」

 

「俺たちを痛めつけるつもりか。そんなこと許されない!」

 

 ヴァーゲは面白おかしく笑った。

 

「それは、お前らが決めることじゃない。外野からすれば、十二聖徒がお前らという悪を裁いているように映る。お前らが何をしたか、そんなこと気にする奴はどこにもいない」

 

 マーニがソルの肩に手を置き、首を横に振った。

 

「マーニ……?」

 

「ヴァーゲさん、依頼の件、お引き受けします」

 

「アタシのことはヴァーゲでいい。これは名前じゃないからな」

 

 マーニは咳払いを一つした。

 

「ヴァーゲ、どこへ向かえばいいですか?」

 

「場所を変えているからわからない。バカはバカなりに頭を使っているようだな」

 

 マーニは顎にそっと手を当てた。

 

「そっか。水入れだけ持ち運べば場所を変えることができる」

 

「なるほどな。この街は噴水が多い。バカの居所が特定できないのは、そういうことか。お前、名は?」

 

「マーニです」

 

「よしっ、ソル、マール。バカを探してこい」

 

 マーニはため息をついた。

 名前を訂正する気すら起きなかった。

 

「ヴァーゲは来ないんですか?」

 

「アタシは目立つから、ふたりを尾行する。バカも現行犯で捕まえれば言い逃れできないからな」

 

「わかりました。行こう、ソル」

 

「おう」

 

 口入屋を出ると、潮風が頬を撫でた。

 にぎわう街並みが広がっている。

 

 どこにでもいる旅人のように見えるふたりの後ろを、あの女が尾行している。

 

 ソルは小声でマーニに言った。

 

「マーニ、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないけど——やるしかないよ」

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