ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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true hero

 

 

 

あの悍ましいアンドロイド『レッド・トルネード』との死闘は、ナショナル・シティに勝利をもたらした。しかし、その代償はあまりにも大きかった。

自身の限界を超えて全エネルギーを放出したスーパーガール――カーラ・ダンバースは、クリプトン人としての細胞から完全に太陽光エネルギーを失う「ソーラー・フレア」と呼ばれる無力化状態に陥ってしまったのだ。鋼鉄の皮膚は失われ、ただの人間と同じになった彼女の指先からは、無惨にも赤い血が流れ落ちていた。

翌日、ダンバース家のアパートメント。

「うぅ……頭が、割れそう……」

ベッドの中で、カーラは苦しげに声を漏らした。エネルギーが枯渇した身体は免疫力をも失い、彼女は生まれて初めて「ひどい風邪」を引き、猛烈な発熱にうなされていた。

「だから言ったじゃないか。姉ちゃんは今は無敵の宇宙人じゃない、ただの人間なんだ。今日は絶対に会社に行っちゃダメだ」

ベッドの脇で、冷たいタオルをカーラの額に乗せながら、十五歳の義弟・カイリは心底心配そうに、そして少し呆れたように警告した。普段はぶっきらぼうな彼だが、大好きな姉のこんなに弱り切った姿を見るのは初めてだった。

「だ、ダメよ……キャットコーに行かなきゃ、キャットに殺されるわ……。それに、街のみんなが不安がっている時に、私が休むわけには……」

フラフラの体で起き上がろうとするカーラを、カイリは必死に止めようとする。しかし、カーラは頑なだった。

「カイリ……貴方は学校に行きなさい。私は、大丈夫だから……っ」

激しい咳き込みを堪えながら、カーラは無理やり笑顔を作って見せる。こうなった姉が絶対に引かないことを、カイリはよく知っていた。学校をサボってウルトラマンの調査や活動に充てることが多いカイリだが、今日ばかりはカーラの「姉としての命令」を無視できなかった。

リビングのテーブルには、カイリが近所の薬局から片っ端から買い集めてきた市販の風邪薬の箱が山のように積まれていた。

『本当に辛くなったら、すぐに僕に連絡して』

スマートフォンにそんなチャットのメッセージを残し、カイリは後ろ髪を引かれる思いでアパートを後にし、学校へと向かった。

案の定、学校の授業中もカイリの心はここにあらずだった。カーラの熱は下がっただろうか、無理をして倒れていないだろうか。最愛の姉のことで頭がいっぱいになり、上の空になっているカイリは、教師から何度も名前を指されて低くため息をつく。

だが、そんな日常の退屈と不安は、突然の轟音によって最悪の恐怖へと塗り替えられた。

ドガガガガガッ!!

凄まじい縦揺れが学校の校舎を襲った。ナショナル・シティの歴史上、経験したことのないほどの大地震。

悲鳴が響き渡る中、カイリは窓の外を見た。遥か遠く、街の中心部で、巨大な橋が轟音を立てて崩れ落ち、地面には深い地割れが走っている。パニックに陥った人々が逃げ惑い、制御を失った車が次々と衝突し、街は一瞬にして地獄絵図と化していた。

「姉ちゃん……!」

カイリは騒乱に紛れて教室を飛び出すと、誰もいない死角へ滑り込んだ。胸元から、あのベリアルの配下だという宇宙人が残していったクリスタル状のペンダントを強く握りしめる。

(……光の力を!)

カイリの強い意志に呼応し、ペンダントから無数の光の粒子が溢れ出した。ナノマテリアルが一瞬にして彼の全身を包み込み、銀色と赤の強固な装甲――『ULTRAMAN suit TYPE GEED』が起動する。

「ヘアッ!」

ウルトラマンとなったカイリは、衝撃波と共に大空へ飛び立った。

地上へ降り立ったウルトラマンは、必死に救助活動を開始した。崩落したビルから人々を引っ張り出し、暴走する車両を食い止める。しかし、あまりにも被害の規模が大きすぎた。ナショナル・シティ全体が壊滅的な打撃を受けており、いくら超人的な力を持つウルトラマンといえど、たった一人で街のすべてをカバーするのは物理的に不可能だった。

(くそっ……効率が悪すぎる。どこに、誰が取り残されているのか、情報が足りない……!)

その時、ウルトラマンのバイザーに、地震発生直後から迅速に私財を投じて市民の支援活動を開始した実業家、マクスウェル・ロードの姿が映った。彼は独自の通信網とドローンを使い、避難誘導を行っている。

ウルトラマンはソニックブームを鳴らしながら、ロードが指揮を執る広場の仮設司令所へと舞い降りた。

「ロード氏、約束を果たしに来た」

変声機を通した重厚な声が響く。以前、ペントハウスのバルコニーで交わした「歩み寄り」の約束だ。

ロードは驚いたように振り返ったが、ウルトラマンの背後に誰もいないのを見ると、すぐにいつもの皮肉げな笑みを浮かべた。

「君か、ウルトラマン。……だが、彼女(スーパーガール)の姿が見えないな? ああ、なるほど。巷で噂のパワー切れというやつか? 一体どんな構造をしていれば、そんな都合よくパワー切れを起こすんだ? いざという時に使えないんじゃ、信用なんてあったものじゃない。やっぱり宇宙人の力なんて、人類の役には立たないね」

冷酷に吐き捨てるロードに対し、ウルトラマンは一歩も引かず、厳格な口調で言い返した。

「ロード氏、今は私とあなたが歪みあっている時間はない。街の被害状況を最も把握しているのはあなただ。被害が大きい場所から、あなたが優先順位をつけろ。私がそこへ向かう。どうだ?」

その直球かつ合理的な提案に、ロードは目を見開いた。ウルトラマンが自分を完全に「司令塔」として信頼し、人類の知恵を求めてきたのだ。ロードは一瞬の沈黙の後、ニヤリと不敵に笑った。

「いいだろう。人類の指揮下に就くというのなら、人使いの荒さを後悔させてあげるよ。……じゃあ、まずは東大橋だ。崩れかけている。そこを補強しろ!」

「了解した」

そこからのウルトラマンの動きは神速だった。

ロードの的確な指示がダミーの通信機を通じてウルトラマンへと飛ぶ。

崩れかけた橋の鉄骨を強引にへし曲げて補強し、瓦礫の底に埋もれた人間を超怪力で救出し、渋滞に巻き込まれた救急車の前に立ち塞がる障害物を一網打尽に吹き飛ばし、火災が迫る高層ビルに取り残された複数の人々を小脇に抱えて救い出す。

ロードの冷徹かつ正確な優先順位と、ウルトラマンの圧倒的な機動力が噛み合い、街の被害拡大は目に見えて防がれつつあった。

「ウルトラマン、至急仮設司令所へ戻ってくれ。重傷者だ」

ロードからの緊迫した連絡を受け、ウルトラマンは広場へと急行した。

そこには、煤まみれになりながら怪我人の手当てを手伝っていたカーラと、彼女を支えるジェームズ・オルセンの姿もあった。カーラの顔は熱のせいで赤く、息も荒い。

彼らの目の前には、瓦礫に潰され、胸から激しく出血している男性が横たわっていた。

「心停止寸前だ! ここにある応急処置キットじゃ、手の施しようがない!」

ジェームズが叫ぶ。カーラは、自分の目からヒートビームが出れば、筋肉を焼いて止血できるのに、と自分の手を強く握りしめた。しかし、今の彼女の手からは何の力も出ない。指が震え、ただ涙を浮かべることしかできなかった。

「私が運ぶ」

ウルトラマンは静かに男性を抱き上げると、優しく、しかし超スピードで天空へと跳ね上がった。数秒後、近くの総合病院の救急外来へと滑り込み、医師たちに男性を引き渡す。

「頼む」

それだけ言い残し、ウルトラマンは再びカーラたちのいる司令所へと舞い戻った。

広場に戻ったウルトラマンを、カーラは悲痛な目で見つめていた。ウルトラマンが、ボロボロになりながら街のために命懸けで戦っている。それなのに、自分はただの無力な人間として、足手まといになっている。今の自分に力がないことを、カーラは激しく呪った。

その時、司令所のすぐ近くの商店街から、ガラスが割れる凄まじい音と悲鳴が響いた。

大災害の混乱に乗じた、強盗事件の発生だった。

「誰も動くな! 金を出せ!」

銃を振りかざし、パニックになった市民を脅す男の姿が見える。

「……あんなのって、ないわ」

カーラの手が、固く握りしめられた。

今の自分にはスーパーパワーはない。銃で撃たれれば、皮膚を貫かれ、一発で命を落とすだろう。それでも――。

(力を失ったからって、私は人々を救うことを諦めない!)

カーラはジェームズが止めるのも聞かず、隠し持っていたスーパーガールのコスチュームへと着替えた。パワーが戻らぬ体に青いスーツと赤いマントを纏い、彼女は一歩一歩、確かな足取りで強盗現場の店舗へと入っていく。

「助けに行かないのか、ウルトラマン!」

ジェームズがウルトラマンの腕を掴んで叫ぶ。

ウルトラマンはスーツの拳を強く握りしめ、店舗の様子を凝視した。助けに入るのは一瞬だ。しかし、バイザー越しに見えるカーラの瞳には、恐怖を遥かに超えた「ヒーローとしての覚悟」が満ちていた。

「……いや。外で静かに見守る。それが、今の彼女の覚悟に対する礼儀だ」

ウルトラマンは変声機越しの声で静かに告げ、動かなかった。カイリの心は張り裂けそうだったが、姉の魂を信じることを選んだのだ。

店舗の中、スーパーガールは銃口を向けられながらも、怯むことなく犯人の男性の目を真っ直ぐに見つめた。

「銃を下ろして、聞いて。……大災害に襲われた時、人はギスギスして攻撃的になったり、他人の恐怖につけ込んだりすることもあるわ。結局のところ、人間は自分勝手よ」

カーラは一歩、前に踏み出す。

「でも、自分の弱さを認め、それを乗り越えて成長できるのも、また人間なの。あなただって、誰かのヒーローになれるわ。だから……お願い」

カーラの必死の、命を懸けた説得。

それと全く同時に、街中に残された数少ないラジオの電波やDEOの通信網を通じて、キャット・グラントの声が響き渡った。ロードの機材を借り、キャットコー・メディアのトップとして、彼女はナショナル・シティの市民へメッセージを発信していたのだ。

『皆さん、聞いて。今、スーパーガールが姿を見せなくても、あの精神を思い出しなさい。人のいい面を見て、良心を呼び覚ますのよ。私たちは大丈夫。スーパーガールを信じましょう。本当に大変な時には、彼女は必ず戻ってくる。それまでは、私たち自身が助け合うのよ。……フン、あのウルトラマンとかいう銀色の彼も、随分と頑張ってくれていることですしね』

キャットの力強い言葉が、そしてカーラの真っ直ぐな瞳が、犯人の男の心を激しく揺さぶった。

男の震える指が、引き金から離れる。男は涙を流し、観念したように、持っていた重い拳銃をスーパーガールの手へと手渡した。

説得は、成功したのだ。

この事件をきっかけに、カーラは「パワーがなくても、私は人々を救うことができる」という、本当の自信を取り戻した。

大地震の混乱が少しずつ収まりを見せ始めた頃、キャットコー・メディアのオフィスに戻ったカーラとジェームズは、今回の災害中にジェームズが撮影した、必死に人々を助けるカーラの写真を見つめていた。

「素晴らしい写真ね……」

「ああ。この写真の真実は一つだけだ、カーラ」

ジェームズはカーラの目を優しく見つめ、微笑んだ。

「君はパワーがなくても、間違いなくヒーローだ」

その言葉は、傷つき、孤独と戦っていたカーラの心の奥底に温かく染み渡った。張り詰めていた緊張が解け、カーラは愛おしさと感動のあまり、思わずジェームズの逞しい胸に顔を埋めてしまう。ジェームズも彼女を優しく抱きしめた。

しかし、二人は気づいていなかった。

オフィスの入り口の影から、その光景を、ウィン・ショットが信じられないものを見るような絶望の目で見つめていたことに。カーラに密かな想いを寄せていたウィンは、胸を締め付けられるような痛みを覚え、無言でその場を立ち去った。それ以来、ウィンとカーラの関係は、どこか余所余所しくギクシャクしたものになってしまう。

一方、ウルトラマン(カイリ)は気が気ではなかった。

強盗の件は解決したとはいえ、未だにパワーが戻らないカーラの身をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。彼は周囲の目を欺きながら、 ULTRAMAN suitを纏ったままキャットコー・メディアのビルへと密かに向かっていた。

ビルに近づいたその時――カイリの脳内に、直接語りかけてくる、未知の男のテレパシーが流れ込んできた。

『彼女の勇気に感動した。……お前もウルトラマンだというのなら、俺たちと同じように、彼女に力を分け与えることがお前にはできるはずだ。お前の光を信じろ。さあ、彼女の手を取れ』

「……誰だ!?」

カイリは周囲を見回すが、誰もいない。しかし、その声は確かに「力を分け与えられる」と言った。

意を決したウルトラマンは、誰もいないオフィスにいたスーパーガール(カーラ)の前に、静かに姿を現した。

「ウルトラマン……?」

「スーパーガール……手を」

ウルトラマンはゆっくりと近づき、カーラの細い手首を掴んだ。

その瞬間、ウルトラマンの装甲の手の平から、目も眩むような純粋で神聖な光の粒子が溢れ出し、カーラの肌を通じて彼女の体内へと流れ込んでいった。

「なんて……暖かい……」

カーラは息を呑み、その光の感覚に身を委ねた。

「暖かい……けど、どこか儚い……光。これが、あなたの本質なのね、ウルトラマン……」

ベリアルの呪われた血脈の中から、姉を救いたいというカイリの純粋な願いだけが紡ぎ出した、奇跡の光。

次の瞬間、カーラの全身が一瞬だけ黄金の輝きに包まれた。枯渇していたクリプトン人の細胞が瞬時に活性化し、爆発的なエネルギーが彼女の身体に満ち溢れていく。パワーが、完全に 戻ったのだ。

「力が……戻ったわ!」

喜ぶのも束の間、ドンッ!!!という凄まじい爆発音がキャットコーのビル内に轟いた。

地震によって破損していたガス管が、ついに破裂してガス爆発を起こしたのだ。黒煙が立ち込め、社員の何人かがエレベーター内に閉じ込められてしまう。

「みんな、下がれ!」

ジェームズが叫び、火事場の馬鹿力でエレベーターの堅牢な扉を強引にこじ開けた。真っ暗なエレベーターシャフトから、怯える社員たちを一人、また一人と引き上げて救出していく。

しかし、最後の長年勤める社員を救い出し、ジェームズ自身が脱出しようとしたその瞬間、シャフトの奥で二次爆発が発生した。

「うわあああッ!」

凄まじい爆風に吹き飛ばされたジェームズは、足場を失い、咄嗟に千切れかかったエレベーターのワイヤーへと飛び移った。しかし、地震のダメージと度重なる爆発によって、モロくなっていたワイヤーは自重に耐えきれず、パキィン!と甲高い音を立てて切断された。

ジェームズの身体が、遥か奈落の底へと真っ逆さまに落ちていく。

「ジェームズ――!!」

その瞬間、迷うことなくシャフトの闇へと飛び降りた影があった。カーラだ。

超スピードで落下するジェームズの後を追い、彼女は手を伸ばす。

数秒後。

エレベーターホールの黒煙を突き破り、ゆっくりと宙に浮き上がってきたのは――ジェームズをしっかりと横抱きにした、スーパーガールの姿だった。その瞳には、完全なる無敵の力が、そして希望の光が力強く宿っていた。

「待たせてごめんね、ジェームズ」

カーラは微笑むと、隣に並び立ったウルトラマンと力強く視線を交わした。

「行くぞ、スーパーガール。街の救助を再開する」

「ええ、ウルトラマン!」

二人のヒーローは、窓ガラスを突き破ってナショナル・シティの大空へと同時に飛び出した。

パワーを取り戻したスーパーガールの活躍は、凄まじいものだった。

今にも崖から落下しそうになっていた黄色いスクールバスをウルトラマンと共に間一髪で抱え上げて安全な場所へと避難させ、高層ビルで燃え盛る大規模な火災に対し、超呼吸(スーパーブレス)で一瞬にして消火活動を行う。

青い空にたなびく赤いマントと、それを支える銀色の巨人の姿を見上げ、ナショナル・シティの市民たちは歓声を上げた。

絶望の淵から這い上がり、真のヒーローとして覚醒したスーパーガールと、その陰で冷徹かつ温かく支え続けるウルトラマン。二人の絆は、大災害の試練を経て、より一層強固なものへと昇華したのだった。

 

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