ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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Saver

 

 

無限の広がりを持つマルチバースの狭間、次元の理すらも通用しない虚無の空間を、眩い金色の輝きと禍々しい暗黒のオーラが激しく交錯しながら突き進んでいた。

かつて宇宙を恐怖に陥れ、光の国の戦士たちによって打ち倒されたはずの亡霊魔導士レイバトス。その怨念の塊が奇跡的な復活を遂げ、次元の壁を強引にこじ開けて逃走を図っていた。そして、その背後を猛烈な速度で追撃するのは、若き最強の戦士、ウルトラマンゼロであった。その背には、次元を超える力を秘めた究極の鎧「ウルティメイトイージス」が神々しい輝きを放っている。

しかし、今回の追撃戦はこれまでのものとは根本的に異なっていた。レイバトスが逃げ込んだ領域の先には、強固で冷徹な「世界の壁」がそびえ立っていたのだ。それは単なる宇宙の境界線ではなく、異なる物理法則、異なる概念を持つ世界同士を隔てる絶対的な障壁であった。

「そこまでだ、レイバトス!」

ゼロの叫びと共に、ウルティメイトイージスのソードが次元を切り裂く。しかし、世界の壁に接触した瞬間、凄まじい反発エネルギーがゼロを襲った。世界の壁はウルティメイトイージスの力でも超えることが容易ではなく、ゼロの力を著しく疲弊させるものだった。鎧の輝きが急速に煤け、ゼロの精神と肉体から強大な光のエネルギーがガリガリと削り取られていく。息を荒くし、膝をつきそうになるゼロの視界の先で、レイバトスは嘲笑うかのように壁の裂け目へと滑り込んでいった。

世界を越えたレイバトスの目的は明確であった。それは、不完全な復活の際に失ってしまった「レイオニクス」としての強大な力を、再び我が物とすること。このアース38.5という並行世界には、かつて全宇宙を震撼させた絶対的な悪、ウルトラマンベリアルの遺伝子を受け継ぐ者が存在していた。まだ経験の少ないカイリの力を吸収し完全に復活すること――それこそが、レイバトスが己の命を賭けて世界の壁を越えた真の狙いだった。

だが、世界の壁を越えるという行為は、侵略者にとっても無傷では済まない。幸いにも世界の壁を越える代償として更に巨大化能力を失うレイバトス。その肉体は等身大のサイズへと縮小され、かつてのような天を突く巨体での破壊活動は不可能となっていた。しかし、その内に秘めた怨念と魔力は些かも衰えてはいない。

たどり着いた世界はアース38.5だった。

この世界の異変を察知しながらも、満身創痍となったゼロは、自らの肉体で壁を越えることを断念せざるを得なかった。今の状態で無理をすれば、イージスもろとも次元の狭間で消滅しかねない。だが、悪の企みを黙って見過ごすゼロではなかった。ゼロはレイバトスの存在と微かに感じるベリアルの気配を確かめるため思念体をアース38.5に送り込むのだった……。

ソレからしばらく経ち。

ナショナル・シティの街並みは、いつもと変わらない美しい昼下がりの光に包まれているように見えた。キャットコー・メディアのビルがそびえ立ち、人々は行き交い、平和な日常を享受している。しかし、その平穏の裏では、確実に不穏な影が忍び寄っていた。

いつものように活動するウルトラマンことカイリ・ダンバース。彼は自分の正体を完全に隠匿しながら、義理の姉であるスーパーガールことカーラ・ダンバースと共に、ナショナル・シティの平和に貢献していた。

ここ最近、街の治安は急速に悪化の兆しを見せていた。世界の壁の歪みによるものか、あるいはレイバトスによるものか、別の要因か……彼らが知る由もないが活発になったが星人たちがあばれるようになり、ウルトラマンもスーパーガールも日夜暴走した星人を取り締まっていた。息つく暇もないほどの連続した出動は、二人の精神と肉体に少しずつ、しかし確実に疲労を蓄積させていた。

その日の夕暮れ、ナショナル・シティの港湾地区にある寂れた倉庫街。

赤く染まった空の下で、ウルトラマンはトカゲのような星人と対立するウルトラマン。その星人は緑色の鱗に覆われた強靭な肉体を持ち、鋭い爪を振り回して暴れていた。

「ギシャァァァッ!」

星人が咆哮を上げ、ウルトラマンに向かって突進してくる。普段のウルトラマンであれば、冷静に敵の動きを見極め、最小限の動きで制圧するところだった。しかし、今日の彼は違っていた。連日の戦いによる焦燥感、そして自身の内にある「ベリアルの血」の疼きが、彼の戦い方を狂わせていた。

ウルトラマンは光線技を使わず肉弾戦で星人達を伸していく。

「ハァッ、セリャァッ!」

鋭い掛け声と共に、ウルトラマンの拳が星人の分厚い胸板に叩き込まれる。ドカッという鈍い衝撃音が響き、星人の巨体が後退する。ウルトラマンは追撃の手を緩めない。容赦のない回し蹴り、そして膝蹴りが星人の肉体を的確に痛めつけていく。ただその姿は荒々しくも少し怒りが見えるような戦い方だった。敵を救うため、あるいは街を守るためというよりは、自身の内にある行き場のない衝動をぶつけているかのような、暴力的なまでの荒々しさ。

「調子に乗るなよ……っ!」

ウルトラマンの裏拳が星人の顔面を捉え、トカゲの星人は激しく地面を転がり、ついに意識を失って動かなくなった。ハァハァと荒い呼吸を繰り返しながら、ウルトラマンはその場に立ち尽くす。金属の装甲に包まれたその拳は微かに震えていた。

そんな戦うウルトラマンの姿を物陰から覗く人物が1人。

倉庫の影、長い影を落とすコンクリートの支柱に背を預け、茶色のレザージャケットを着た男が、静かにその戦闘の一部始終を見つめていた。男の目は鋭く、まるで熟練の指導者が初心者の不格好な演武を見るかのような、冷ややかな、しかし深い光を宿していた。

星人の活動が完全に停止したことを確認すると、カイリは周囲に人がいないことを注意深く確認し、倉庫のさらに奥の暗い路地裏へと身を隠した。

「フゥー…」

静かなため息と共に、彼の身体を覆っていた銀色と赤の強固な装甲「ULTRAMAN suit」が粒子となって空気中に霧散していく。そこに現れたのは、ダボついたパーカーを着た、どこにでもいる15歳の少年、カイリの姿だった。彼は額の汗を拭い、地面に置いていたスクールバッグを拾い上げた。

カイリが路地で変身を時スクールバッグを片手に戻ろうとした時1人の男に声をかけられる。

「そんな戦い方いつまで続ける気だ?ウルトラマン?」

その低く、しかし驚くほど芯の通った声が静かな路地に響いた。

カイリの身体が一瞬で硬直する。心臓が跳ね上がり、全身の毛穴が逆立つような衝撃が走った。正体がバレた。誰にも知られてはならないはずの、自分の一番の秘密が、今、目の前の男の口から発せられたのだ。

カイリは必死に頭を回転させ、普段通りの「冴えない高校生」の仮面を被り直そうとした。

「え……? 何のことですか? ウルトラマンって……あの、テレビに出てるスーパーヒーローのこと? 僕はただの通りすがりの学生で……」

誤魔化そうとするカイリだが自身の失態に気づきその男の話を聞く。

男は一歩、影から足を踏み出した。夕暮れの光がその顔を照らす。不敵な笑みを浮かべたその男の眼光は、カイリの拙い嘘を完全に透視していた。そもそも、変身を解除する瞬間をバッチリと見られていたのだ。言い逃れなどできるはずがなかった。カイリは諦めてスクールバッグを強く握りしめ、警戒のレベルを最大に引き上げた。

男はカイリの様子を見て、フッと鼻で笑った。

「まるでなっちゃいねぇ」

素人だなと肩をすくめる謎の男。

その態度、その言葉の端々から溢れ出る圧倒的な上から目線の空気に、カイリの心の中でふつふつと怒りが湧き上がってきた。自分はこれでも日夜、命を懸けてこの街を守っているのだ。それを、どこの馬骨とも知れない男に「素人」呼ばわりされる筋合いはなかった。

いちいち上からものを言われることに若干の苛つきを覚えるカイリが何者かと聞く。

「あんた……一体何者だ? 人の戦い方にケチをつけるなんて、いい度胸じゃないか」

男はカイリの鋭い視線を受け流しながら、少しだけ視線を天に向けた。

「そうだな………シン……俺の名はシン・モロボシだ。どうだ?一発相手してやるよ?どんなもんか見せてみろ。この世界のウルトラマンさんよ?」

一瞬考えるようにしてシン・モロボシと名乗った男、ソレは紛れもなくウルトラマンゼロの思念体であった。だが、今のカイリにはそんなことは知る由もない。ただの生意気で腕の立ちそうな男にしか見えなかった。

「……後悔するなよ」

安い挑発ではあるが苛つきを隠せないカイリは拳を振るう。

日常のトレーニングとベリアルの遺伝子がもたらす驚異的な身体能力。スーツを着ていなくとも、カイリの放つストレートはプロのボクサーをも遥かに凌駕する速度と威力を秘めていた。風を切る鋭い音が路地に鳴り響く。

しかし、シン・モロボシの表情は一切変わらなかった。

「んな大振りじゃあたらねぇぜ?」

シンは紙一重のところでカイリの拳をかわした。

飄々とボクシングのようなファイティングで軽くジャンプしながらカイリの猛攻を全て受け流す。

カイリは躍起になって次々と拳を繰り出す。ワンツー、フック、アッパー。しかし、そのどれもが、シンの滑らかなフットワークと、最小限の頭部の動きによって完全に空を切る。まるで幽霊を相手にしているかのように、手応えが全くない。シンの動きには一切の無駄がなく、カイリの攻撃の軌道が初めから見えているかのようだった。

「くそっ……、なんで当たらない……!」

焦れば焦るほど、カイリの動きは大きく、雑になっていく。シンはその様子を楽しみながら、さらに言葉の刃を突きつけてきた。

「suit来てもいいんだぜ?」

さらなる挑発。

その言葉は、カイリのプライドを完全に粉砕した。生身の自分では、この男の足元にも及ばないという冷酷な現実。絶対的な実力の差を感じているカイリはついにsuitを使いシンに対して拳を振るう。

「――ッ!ハァ!」

短い叫びと共に、カイリの全身に再びナノマテリアルの強固な装甲が構築される。ウルトラマンの姿となった彼は、スーツの人工筋肉を最大出力で駆動させた。路地のコンクリートが彼の踏み込みの衝撃でひび割れる。

一気に加速した拳はシンに一撃を与えるかと思ったその寸前で拳は止まる。

時速数百キロに達する鋼鉄の拳。シンの鼻先数センチのところで、ウルトラマンの拳は急停止した。スーツを着ていない生身の人間を、この全力の拳で殴れば、間違いなく命を奪ってしまう。カイリの心にある「不殺」の誓い、そして優しさが、無意識にブレーキをかけさせたのだ。

シンはその拳を見つめ、ニヤリと笑った。

「躊躇したな?」

次の瞬間、シンの身体が信じられない速度で動いた。

ウルトラマンの伸びきった腕を正確に捕らえ、その体重移動を利用して、彼の巨体を鮮やかに引っくり返したのだ。柔術の極意のような、完璧な力線の操作。

「がはっ……!?」

手痛い反撃をくらい投げ飛ばされるカイリ。

ウルトラマンの鋼鉄の肉体が路地の壁に激しく激突し、瓦礫が崩れ落ちる。背中に走る激痛に耐えながら、カイリはもがき、まだだと立ち上がるカイリだったが、追撃を仕掛けようとしたその時、目の前のシンの異変に気づいた。

シンの身体にノイズが走る。

まるで古いテレビの画面が乱れるかのように、シンの輪郭がブレ、青白い電気的な火花がその身体のあちこちでパチパチと弾けた。世界の壁を越えて送り込まれた思念体の、維持限界が近づいていたのだ。

「チッ時間切れか……もうちょいなんだがな……お前の戦い方は感情的すぎる。あの青と赤のチアガールのとなりにいる時以外のその拳から何も伝わってこねぇ…精々その拳がなんのためにあるのか考えるこった。………時間はそうねぇぞ……」

シン・モロボシことウルトラマンゼロは何故戦うのか、戦う理由に関してカイリに課題を与え消えていった。

ホログラムが消えるように、シンの姿は完全に掻き消え、路地裏には再び静寂だけが戻ってきた。ウルトラマンは力なくその場に膝をつき、自身の金属の手のひらを見つめた。

「姉ちゃんの隣で戦う時以外か……」

スーツを解除し、夜の帳が下り始めた街を歩きながら、カイリはその言葉を何度も反復していた。

胸の奥を鋭く抉られるような感覚だった。思い返せばベムラーに襲われてからウルトラマンの力を手に入れその力を振るって戦う理由は姉を助ける事からだ。

あの日、炎の中でカーラを守りたいと強く願ったとき、この力は目覚めた。姉を助けること、それだけが彼のすべてだった。

ソレ以外考えてなかった。ただ今はなぁなぁで流されるように戦っている。

迫り来る星人たちを撃退し、DEOに協力し、スーパーガールと共に空を飛ぶ。それはどこか、与えられた役割をただこなしているだけの、惰性の戦いになってはいなかったか。自分自身の意志で、何のためにこの強大すぎる力を振るうのか、その根本的な「答え」を、彼はまだ持っていっていなかった。

カイリは歩みを止め、自身のポケットに手を入れた。

一度あの場所にいつまで見るか。

その手にはイライザから手渡された手紙があった。

養母であるイライザ・ダンバースが、彼に「いつか自分自身の出自に迷ったときに行きなさい」と言って手渡してくれた、古い地図と手紙。そこには、かつて彼が地球に不時着した際、ダンバース夫妻が発見したという、秘密の場所の座標が記されていた。

ナショナルシティ郊外、古びたボロ扉を開けていく。

街の喧騒から完全に切り離された、荒野の片隅に佇む放棄された地下シェルター。カイリは懐中電灯の光で足元を照らしながら、錆びついた階段を下りていった。もう何年も使われていないようで羊蹄と軋むような音がする。

空気は冷たく、埃の匂いが鼻をつく。その地下空間の最奥にある、頑丈なハッチを開けた先。

殺風景な部屋にはポツンと真ん中にクリスタルが置かれていた。

それは地球の物質ではない、透明でありながらも、内側から淡い七色の光を放つ不思議な結晶体だった。それはかつて、カイリが乗ってきたポッドの中に同梱されていた、M78星雲のテクノロジーの遺物であった。

カイリはそのクリスタルをじっと見つめた。胸の奥のベリアルの遺伝子が、その光に反応して激しく鼓動を刻み始める。彼は意を決して、自身の右手を伸ばした。

カイリはソレに手を伸ばすと。

瞬間、視界が真っ白な光に染まった。

「――っ、あああああぁぁぁッ!!」

絶叫。脳を直接引き裂くような、圧倒的な質量の情報が、カイリの意識に濁流となって流れ込んできた。

それは、彼が知る由もなかった、遥かなる宇宙の記憶。

光の国の誕生、ウルトラ戦士たちの数万年に及ぶ戦いの歴史。プラズマスパークの光、闇に堕ちたウルトラマンベリアルの反乱。宇宙の崩壊と再生。そして、ウルトラマンという存在が背負う、宇宙の平和を守るという絶対的な使命の重さ。

それだけではない。この世界にいるウルトラマンの世界出身の異星人、異星生物の情報が一気に脳の中に流れ込んでいく。

かつて地球を襲った怪獣たち、暗躍する宇宙人たちの生態、弱点、そして彼らがなぜこのアース38.5という異世界に流れ着いているのかというデータが、カイリのニューロンを強制的に書き換えていく。

脳が許容量を超え、強烈な負荷がかかる。

カイリはその場で気絶する。

クリスタルの輝きが静かに収まり、少年は冷たいコンクリートの床へと倒れ伏した。

どれほどの時間が経ったのだろうか。

「……はっ!?」

カイリは跳ね起きるようにして目を覚ました。頭痛が割れるように激しかったが、脳内には先ほど流し込まれた膨大な知識が、完璧なインデックスとして整理されて残っていた。

目を覚ますと外が騒がしく。

地響きのような轟音と、人々の悲鳴が、シェルターの外部から微かに伝わってくる。超聴覚を働かせるまでもなく、ナショナル・シティの市街地で巨大な戦闘が発生しているのは明らかだった。

カイリは急いでシェルターを飛び出し、市街地へと向かった。

街の中心部は、不気味な紫色の炎に包まれていた。

外に出るとキリエロイドが暴れていた。

「なんでアイツが?」

その姿は、かつて光の巨人たちと戦ったという「炎魔人」そのものだった。独自の異形の容貌、不気味に釣り上がった眼、そして胸に輝く不気味な発光体。

この世界に流れ着いたキリエル人はまたもやスーパーマンやスーパーガールが崇められている事が気に食わないそして何より前世界で苦渋を舐めさせられたウルトラマンがいると耳にし手始めにウルトラマンを倒そうと挑戦してきたのだ。

キリエロイドは高層ビルの屋上に立ち、両腕を広げて街を見下ろしていた。

「愚かな人間どもよ! 偽りの神を崇めるのをやめよ! 我らキリエル人こそが、お前たちを導く真の救世主である!」

その声は精神波を伴い、街中に響き渡る。キリエロイドは地上に舞い降りると、破壊活動を続けながら、まだ見ぬ宿敵の名を叫んだ。

「ウルトラマン! どこにいる! 姿を現せ!」

「そこまでだ!」

閃光と共に、カイリが現場へと到着した。

ultraman suitを纏いキリエロイドに応戦するも、ウルトラマンの攻撃は全て対応されてしまい通用しない。

「フン、小癪なブリキ人形め!貴様などはウルトラマンなどとは呼ばない。精々ウルトラマン擬きがいいところだ」

キリエロイドの動きは信じられないほど俊敏だった。ウルトラマンが放つ鋭いストレートを完璧に見切り、最小限の動きで回避する。脳内にキリエロイドのデータはあるものの、実際の戦闘におけるキリエロイドの格闘能力は、先ほどのトカゲ星人とは比べ物にならないほど高かった。ウルトラマンの拳はことごとく空を切り、逆にキリエロイドの強烈なカウンターがスーツの胸部に突き刺さる。

「ぐあぁッ!」

衝撃波が走り、ウルトラマンは地面を激しく滑り落ちた。

群衆が戦いを見守る中、キリエロイドは群衆に手を翳して洗脳していく。

キリエロイドは額の発光体を妖しく輝かせ、周囲で恐怖に怯えていた避難民たちに向けて、強力な精神汚染電波を放った。人々の瞳から光が消え、虚ろな表情へと変わっていく。彼らはまるで操り人形のように、キリエロイドの後ろへと整列し始めた。

その中にはスーパーガールとアレックスのもいた。

「姉貴っ⁉︎姉ちゃん⁉︎」

ウルトラマンの超視覚が、避難誘導の途中でキリエロイドの精神波を浴びてしまい、動きを止めた二人の姿を捉えた。スーパーガールの美しい瞳は濁り、アレックスもまた銃を構えたまま虚空を見つめている。

「貴様ァ!」

ウルトラマンは怒りをあらわにする。

大切な家族を、姉を、そんな不気味な力で汚されたことへの、激しい憤怒。カイリの心の中で、ベリアルの凶暴な衝動が再び爆発した。スーツの各部から赤いスパークが激しく弾け、リミッターを無視したエネルギーが拳に宿る。目の色は青から赤に変わる。

ウルトラマンに猛スピードで容赦のない拳がキリエロイドに迫る。

音速を超える踏み込み。一瞬で距離を詰め、キリエロイドの顔面に向けて、すべてを粉砕するほどの右ストレートを放った。

しかし寸前のところで拳はピタリと止まる。

「なっ……!?」

ウルトラマンの目が驚愕に見開かれる。キリエロイドの前に、ふらりと一人の影が立ち塞がったのだ。

スーパーガールが間に入りキリエロイドを守るように盾となった。

操られたカーラは、虚ろな目のまま、ウルトラマンの拳の前にその身を晒していた。もしこのまま拳を振り抜けば、いくら鋼鉄の体を持つスーパーガールであっても、スーツの最大出力の直撃を受ければ無傷では済まない。

「キリエロイドによる統治を邪魔しないで」

「姉ちゃん……」

思わず声が漏れる。

その躊躇、その動揺を、キリエロイドは見逃さなかった。不気味な笑い声が魔人の口から漏れる。

「はやりこの小娘には手が出せないか……ならばこの小娘が巫女として相応しい。貴様を絶望の淵に叩き落とし私がこの地球の救世主として君臨するのだ」

キリエロイドの右手が赤く燃え上がる。

「死ね、ウルトラマン!」

キリエロイドが放った獄炎弾がウルトラマンに直撃しそのまま急落下する。

「――うあああぁぁぁッ!!」

至近距離での大爆発。ウルトラマンの装甲は激しく焼け焦げ、爆風の勢いのまま、彼は数十メートル下のコンクリートの地面へと叩きつけられた。激しい地鳴りと共に、道路に深いクレーターが穿たれる。

「救世主とは犠牲を払うものだ!こう言うふうになっ!」

キリエロイドはゆっくりと地上へ降り立ち、倒れ伏すウルトラマンを見下ろした。その背後には、洗脳されたスーパーガールやアレックス、そして何百人もの市民が、ウルトラマンを敵視するような冷たい目で見つめている。

「彼女達も救世主の為に死ねるのなら本望だろうっ!ベリアルの息子よ!やはりお前の父親と同じように孤独だなぁ?見ろこの群衆を、お前の味方なぞ何処にもおらん。お前はどこまで行っても1人だ!」

洗脳された群衆はウルトラマンに組みつきスーパーガールはウルトラマンの首を両手で絞めあげる。

キリエロイドの言葉や物理的な攻撃以上にスーパーガール、カーラとアレックスから攻撃されると言うことが1カイリの心を深く傷つけた。

「感謝して欲しいなぁウルトラマン。君の血はいずれこうさせる。ベリアルの息子である限り孤独なのだ。だから未来を少し先取りしただけだ。皆貴様から離れていくのだ」

ベリアルの息子。孤独。味方はどこにもいない。

操られているとはいえ、最愛の姉達であるカーラとアレックスが自分に向けて冷酷な視線を送って首を締め上げようとしている。その光景は、15歳の少年の精神を完全に打ち砕くのに十分だった。

(僕は……やっぱり一人なんだ。どれだけ街を守っても、誰も僕の本当の姿なんて見ていない。姉ちゃんを助けたくて戦ってきたのに、その姉ちゃんに拒絶されたら、僕は一体何のために……)

 

なんとか傷つけないように群衆とカーラ、アレックスを振り解きキリエロイドに攻撃を放つが当然のように防がれ手痛い反撃を受け膝をつくウルトラマン。

立ち上がろうとするが、足に力が入らない。キリエロイドの容赦のない蹴りがウルトラマンの脇腹を捉え、彼の身体は再び地面を転がった。スーツの各部から警告音が鳴り響き、エネルギーの残量が危険域に達していることを示す。

ボロボロになり既に戦意などとうに喪失していた。

身体の痛みよりも、心の絶望が彼の動きを止めていた。シン・モロボシに言われた「何のために戦っているのか伝わってこない」という言葉が、呪いのように頭の中で響く。戦う理由を見失った戦士に、立ち上がる力は残されていなかった。

そのままドサリと倒れ伏す。

ウルトラマンは冷たい地面に顔を伏せ、動かなくなった。バイザーの光が微かに明滅し、完全に消えかけようとしていた。

「立てっ!ウルトラマン!」

その時、戦場に響き渡ったのは、地を這うような、しかし驚くほど力強い男の怒号だった。

洗脳された群衆の列を強引に押し分け、一人の男が歩み出てきた。アサルトライフルを構えながら鋭い眼光をキリエロイドに向けるその人物は、DEOの長官、ハンク・ヘンショウだった。

倒れるウルトラマンの指がピクリと動く。

カイリは微かな意識の中で、その声を聞いた。なぜ、彼がここにいるのか。なぜ、洗脳されていないのか。

キリエロイドはハンクを振り返り、不快そうに目を細めた。

「我々の洗脳を防ぐ人間もいるのか?」

ハンクは不敵に笑い、コートを脱ぎ捨てた。その瞳の奥が、不気味な緑色の光で爛々と輝き始める。

「私にそれは効かん!」

ハンクヘンショウは緑の体、ジョンジョーンズに変身する。

衣服が裂け、彼の肉体が急速に変形していく。現れたのは、地球人とは明らかに異なる、緑色の皮膚と強靭な体躯を持つ異星人――火星人としての真の姿だった。彼は強力な精神生命体であり、キリエロイドの精神汚染など、彼の強固な精神障壁の前には無力に等しかった。

ジョン・ジョーンズは、倒れ伏す銀色の戦士に向けて、その魂を揺さぶるような声を張り上げた。

「立て!ウルトラマン!お前が何者でなぜ俺たちのために戦っているかわからない。でもこの星が好きなら、人間を、俺たちの事が嫌いじゃなかったら!アレックスとカーラを助ける為に!もう一度!もう一度立ち上がって、力を貸してくれっ!」

その言葉は、カイリの閉ざされかけた心の奥底に、濁流となって流れ込んだ。

(俺が本当は何者なのか、ただベリアルの息子で終わるのか。なぜ戦っているかわからない……。でも……)

ハンクは、いや、この火星人の戦士は、ウルトラマンの正体も、その出自も何も知らない。それでも、ウルトラマンがこれまで街のために流してきた汗と血を信じ、一人の「仲間」として、自分を必要としてくれている。

洗脳された群衆の中にいるカーラとアレックスを救うために、力を貸してくれと叫んでいる。

(まだ…必要とされてる……僕にも味方が残ってくれていた……僕はその期待に応えたい……)

脳裏に、先ほどクリスタルから受け取ったウルトラ戦士たちの記憶が蘇る。彼らは皆、誰かの涙を拭うため、誰かの笑顔を守るために、どれほどの絶望の淵からでも立ち上がってきた。ベリアルの血が流れているから何だというのだ。自分を育ててくれたこの星が、自分を信じてくれる仲間が、大好きな姉ちゃんがここにいる。

戦う理由は、最初から決まっていた。この星の人々を、大切な家族を守ること。それが、ウルトラマンカイリの選んだ道だった。

倒れ伏すウルトラマンの拳が握りしめられる。

ガチリ、と金属が噛み合う音が響いた。消えかけていたバイザーの光が、これまで以上の凄まじい輝きを放って完全復活する。

膝はフラフラで重い動きだが確かにウルトラマンは立ち上がった。

煤まみれになり、装甲の一部は損壊していたが、その立ち姿から放たれる威圧感は、先ほどまでのものとは完全に一線を画していた。内なる迷いが完全に消え去り、純粋な「守るための力」が、スーツのシステムを限界突破させて駆動していた。

「私は………いや、僕は……お前を倒す!」

ウルトラマンの宣言は、静かだが、世界の理をも覆すような絶対的な決意に満ちていた。

ジョン・ジョーンズはその姿を見て、頼もしげに頷いた。

「スーパーガール達は私がなんとかする、ウルトラマン、お前はあの魔人のようなやろうに一発かましてこい」

ジョンジョーンズは市民の洗脳を自身のサイキックバリアを応用して解いていく。

ジョンは両手を広げ、強力なテレパシーの波動を周囲に展開した。キリエロイドの精神汚染を上書きするように、人々の脳細胞に直接、正気の光を送り込んでいく。カーラやアレックスの瞳に、徐々に生気が戻り始めふらりと気絶していく。

「おのれ、小癪な宇宙人どもめがァァッ!」

キリエロイドが激昂し、ウルトラマンに向かって飛びかかる。

しかし、先ほどのウルトラマンとは違いキリエロイドと互角以上の戦闘を繰りを確認する。

ウルトラマンの動きから一切の無駄が消えていた。キリエロイドの放つ鋭い打撃を、完璧な体捌きでかわし、流れるようなモーションで強烈な掌底を叩き込む。ドォン!という重低音と共に、キリエロイドの身体が大きく吹き飛ぶ。

「何故だ!? なぜこれほどの力が……!」

キリエロイドは焦りを隠せない。ウルトラマンの拳には、もはや荒々しい怒りはなかった。あるのは、標的を確実に討ち果たすという、静かで強大な鉄の意志だけだった。

「逃がさん!」

キリエロイドが空中へと逃れると、ウルトラマンもまたスーツのスラスターを点火し、急上昇した。

舞台は空中戦へ。

ナショナル・シティの上空、激しく積乱雲の中で光り輝くスパークと共に何度も激闘交差する。

激しい雷鳴が轟き、稲妻が暗雲を切り裂く中、銀色の光と紫の炎が激しくぶつかり合う。一撃交わすたびに、積乱雲が衝撃波で丸く吹き飛んだ。ウルトラマンの超高速の飛行格闘が、キリエロイドを確実に追い詰めていく。

「何故だ?さっきまでの動きとまるで違う」

キリエロイドは空中を必死に旋回するが、ウルトラマンはまるでその未来位置を知っているかのように、常に先回りして打撃を叩き込んできた。

次第に追い詰められていたキリエロイドはウルトラマンを追うことができず連続で蹴りや拳を縦横無尽に受け錐揉みを始める。

「ガハッ! おのれ……、おのれぇぇッ!」

キリエロイドの肉体は悲鳴を上げ、空中での制御を完全に失いかけていた。

キリエロイドが体勢を立て直した時。

遥か上空、積乱雲の切れ間から差し込む月の光を背に受けて、ウルトラマンは静かに空中に静止していた。

そのポーズは、これまでの彼の格闘スタイルにはない、神聖で伝統的なものであった。

ウルトラマンは右手を胸の前に構えて片手で祈るようなポーズをしていた。

指先を天に向け、右腕を垂直に立てる。それは光のエネルギーを極限まで収束させるための、聖なる儀式。

左手は横にクロスするように構えられ放たれる必殺光線。

左腕を右腕の肘のあたりに水平に組み合わせ、完璧な「十字」の形が形成された。従来の必殺光線とは違い十字状に広がった青白い破壊光線がキリエロイドに直撃する。

その光線は、ただの光の束ではなかった。放たれた瞬間、空間そのものを震わせながら、縦と横の巨大な十字の光の壁となって、夜空をどこまでも貫いていった。青白く美しい、しかし絶対的な破壊力を秘めた光の奔流。

「バ、バカなァァァッ! 私は、キリエルこそが救世主だぁぁぁッ!!」

キリエロイドの絶叫は、光の轟音にかき消された。十字の光線はキリエロイドの肉体を完全に貫き、その分子構造を内側から崩壊させていく。

空の彼方でキリエロイドは大爆発を起こす。

夜空に大輪の、そして神々しい青白い花火が咲き誇った。爆風は積乱雲を完全に吹き飛ばし、ナショナル・シティの上空には、満天の星空と美しい月光だけが取り戻された。

戦闘が終わり、ウルトラマンはゆっくりと地上の公園へと舞い降りた。

しかし、彼の肉体はすでに限界を遥かに超えていた。リミッターを解除して放った必殺光線の反動、そして連戦の疲労が、一気に彼を襲う。

地上に降りたウルトラマンはフラフラに倒れそうになるのをハンクヘンショウことジョンジョーンズに支えられる。

大きな、緑色の強靭な手が、ウルトラマンの肩をしっかりと支えた。

「見事な戦いだった、ウルトラマン」

「まさか貴方が人間じゃないとは…」

ウルトラマンはバイザーの奥から、ジョンの真の姿を見上げて、かすれた声で呟いた。

「本物のハンクヘンショウは死んだ。今の私はその姿はした火星の生き残りジョンジョーンズだ。まあDEOの長官が異星人だと知られれば大騒ぎだろう」

ジョンは静かに、しかしどこかお茶目に笑った。

「なるほどね……」

カイリがそう答えた瞬間、スーツの維持エネルギーが完全にゼロになった。

エネルギーを使い果たしたのかナノマテリアルが分解されカイリの姿が顕になる。

銀色と赤の装甲が、光の粒子となってハラハラと剥がれ落ちていく。その中から現れたのは、息を荒くし、汗だくになった15歳の少年――カイリの生身の姿だった。

ジョン・ジョーンズは、支えていた戦士の「正体」を目にした瞬間、普段の冷静な彼からは想像もつかないほど、大きく目を見開いた。

「それはそうと、ウルトラマン…変身が解け…正体は君だったのか……姉君といいダンバース家は私に迷惑しかかけないのか?」

ジョンは呆れと驚愕が入り混じった声で、天を仰いだ。まさか、ナショナル・シティを影から守っていた、あの恐るべき破壊力を持つ謎の戦士が、カーラの義理の弟であり、まだあどけなさの残る少年のカイリだったとは、夢にも思っていなかったのだ。

カイリは自身の身体を見下ろし、変身が完全に解けてしまっていることに気づいて、激しく動揺した。

「ダンバース家?何を……って変身が解け……ハァ………….…」

疲れ果てた頭で、彼は必死に状況を把握しようとした。だが、もう隠し通すことはできない。彼は観念して、ジョンを真剣な目で見つめた。

「姉には秘密にしておいてください」

ジョンは腕を組み、怪訝そうな顔をした。

「何故だ? カーラもお前の姉(アレックス)も、お前がこれほどの危険を冒して戦っていると知れば、全力でサポートするはずだ。隠す必要がどこにある?」

カイリは苦笑いしながら、首を振った。

「そりゃ、わかるでしょ。姉貴も姉ちゃんもこんなこと僕がやってるなんて聞いたら泡吹いて倒れますよ」

特にカーラのあの過保護ぶりを考えれば、自分がウルトラマンだと知った瞬間、金切り声を上げて気絶するか、あるいは二度と戦わせないように部屋に閉じ込めかねない。アレックスにしても、DEOの技術を総動員して僕を監視下に置こうとするだろう。

ジョンはその様子を想像したのか、ふっと口元を緩めた。

「怒りの拳が飛んでくるかもな」

「間違いなくね……」

カイリはため息をついた。

ジョンは静かにカイリの前に立ち、その大きな、今は地球人のハンク・ヘンショウの姿へと戻りながら、少年の肩をポンと叩いた。その目には、深い信頼と、一人の大人としての温かい光が宿っていた。

「なに、怪しいパワードスーツのスーパーヒーローの正体が姉を追っかけるクソガキってことがわかって何よりだ。安心しろ君の姉さん達には秘密にしてやる。私もおそらくだが君の姉さん達と同意見で君が戦いに身を投じるのは反対だ。だがまあ、私も知ってしまった以上は秘密にする。アレックスと次女の鋼鉄の乙女に殴り殺されそうだがな……その代わりこき使ってやるから覚悟しろ」

長官としての、少し意地悪だが、確かな愛情の籠もった言葉。カイリはその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。自分には、本当に味方がいたのだ。正体を知られても、なお自分を認めてくれる最高の仲間が。

カイリは力強く微笑み、ハンクの手を握り返した。

「喜んで」

がっしりと交わされた握手。

それは、等身大のヒーローと、孤独な火星人の間に結ばれた、誰にも知られてはならない秘密の同盟の証だった。

その姿を物陰からウルトラマンゼロ人間の姿の思念体として眺めていた。

ビルの屋上、夜風にレザージャケットをなびかせながら、シン・モロボシは静かに佇んでいた。彼の身体のノイズは完全に消え去り、アース38.5の空間にしっかりと定着しているようだった。

シンは、地上で硬い握手を交わすカイリとハンクの姿を見つめ、不敵に、しかしどこか満足そうに笑った。

「――へえ、スタートラインにしては悪くないをじゃねぇか、カイリダンバース」

カイリの拳からは、もう迷いは感じられなかった。誰かのために、自分を必要としてくれる人々のために戦うという、真の戦士の輝きが、確かに宿っていた。

「これでようやく、スタートラインだ。……だが、その感情は危ういぜ。力の使い方間違えんじゃねぇぞ。それにしてもレイバトス。この世界のウルトラマンは、お前が思っているほど甘くはねぇぜ?チッまた時間切れか……」

シン・モロボシの姿にノイズが入りこそ静かに光の中に溶けて消えていく。ナショナル・シティの夜空には、ただ美しく穏やかな月光が、新世代の戦士を祝福するように降り注いでいた。

 

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