ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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Bizarro&SatanBizor

 

ナショナル・シティの夜を一瞬にして凍りつかせたあのニュース速報が流れた時から、ダンバース家のリビングは、未だかつてないほどの混沌と重苦しい沈黙に支配されていた。テレビの画面の中で狂気のように暴れ回っているのは、自分と完全に同じ姿、同じコスチュームを纏った存在だった。逃げ惑う無辜の市民に向けて容赦なく巨大な自動車を投げつけ、悲鳴に包まれる街を徹底的に破壊し尽くしている。そのあまりにも悍ましく、理不尽な映像を前にして、カーラ・ダンバースは手にしたスプーンを床に落としたことすら気づかないまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「これは私じゃない………」

震える声で何度も潔白を主張するカーラの瞳には、激しい恐怖と深い困惑が渦巻いていた。自分が命を懸け、ナショナル・シティの希望として守り続けてきた「スーパーガール」のシンボルが、見知らぬ偽物によって白昼堂々、泥を塗られているのだ。その精神的ショックは、胸を引き裂かれるほどに大きかった。

「分かっているわ、カーラ。落ち着いて」

アレックス・ダンバースは即座に義妹の肩を強く抱き寄せ、その鋭い戦術的思考を張り巡らせ始めた。隣に立つカイリもまた、その肉体の奥底に眠るウルトラマンの力を静かに滾らせながら、厳しい表情で画面を凝視していた。ただの悪質な模倣犯や愉快犯の類ではない。あの圧倒的な腕力、大空を自在に駆ける飛行能力――あれは、地球の一般的な技術レベルを遥かに領駕しているか、あるいは未知の宇宙人の力が背後で介入していなければ絶対に不可能な領域だった。

「ただの嫌がらせにしては手が込みすぎている。姉ちゃん、これは明確な罠だ。姉ちゃんを確実におびき出すためのね」

カイリの冷静な分析に、アレックスも深く頷いた。状況の異常さを肌で察知した一行は、すぐさま秘密機関DEOの本部へと合流した。ウルトラマンの姿となったカイリもまた、隔離壁に囲まれた作戦室のメインモニターの前に立ち、エージェントたちと共に多角的なデータ解析と目撃情報の洗い出しを開始した。世界中から集められる監視カメラのログを精査し、偽物のエネルギー波形を懸命に追う。しかし、敵の足取りは妙に煙に巻かれており、決定的な尻尾を掴むには至っていなかった。

だが、運命の歯車は冷酷にも、最悪のタイミングで次の局面を告げる。カーラにとって、この街の危機と完全に重なるようにして、かねてより約束していた重要な私生活の予定が迫っていたのだ。キャット・グラントの息子であり、彼女が密かに、しかし確実に惹かれ始めていた青年、アダムとの初デートの約束である。

「どうしよう……こんな時に、ちゃんとしたデートなんて集中できるわけないわ。キャットに何て言えば……いや、アダムに断りの連絡を入れなきゃ……」

私服に着替えたカーラは、携帯電話を握りしめたまま、作戦室の片隅で行ったり来たりを繰り返していた。ヒーローとしての重い使命感と、一人の女性としてのささやかな幸福への憧れの間で、彼女の心は千々に引き裂かれていた。そんな義姉の焦燥しきった姿を見かねて、カイリは一歩前に出ると、ぶっきらぼうに彼女の背中をパチンと叩いた。

「姉ちゃんは今はデートに行ってきなよ」

「え……?でも、カイリ、街があんな状態なのに、私だけプライベートを楽しんでるわけには――」

「いいから。不器用な姉ちゃんの幸せを応援してやるって言ってるんだ。余計な心配しないで、行ってきな。それに、精神的不調ってのが一番ダメなんだよ?」

少しぶっきらぼうで、しかし弟としての確かな優しさと気遣いが滲むカイリの言葉に、カーラは目を見張った。アレックスもまた、隣で優しく微笑みながら「カイリの言う通りよ」と頷く。二人の力強い後押しに、カーラは張り詰めていた表情を少しだけ緩め、感謝の言葉を残して、アダムの待つデート場所へと向かって駆け出していった。

カーラがアダムとの甘く、しかしどこか緊張感の漂うデートをスタートさせた頃、カイリは一人、別の行動を起こしていた。彼はダンバース家の棚の奥深くに厳重に隠されていた、少しばかり値の張る上質な国産高級ウィスキー『山崎』のボトルを、姉たちに見つからないよう素早い手つきで拝借していた。それをジャケットの内ポケットに忍ばせ、夜の帳が下りたキャットコー・メディアのオフィスへと向かう。

目的のフロアへと続くドアを静かに開けると、薄暗いワークスペースには、案の定、二人の男が残されていた。机の上に資料を広げたまま、深刻な顔で頭を抱えているウィン・ショット。そして、彼の隣で静かにコーヒーカップを回しているジェームズ・オルセンである。前話におけるカーラとの決定的な感情の擦れ違い――あのキスの拒絶以来、ウィンは目に見えて傷心しており、オフィスには触れれば壊れそうな、気まずい空気が沈殿していた。

カイリはあえて足音を響かせながら、二人の前に進み出た。

「やっぱり2人まだいた感じ?」

その声に、ジェームズがゆっくりと顔を上げ、少し驚いたように眉を上げた。

「やあ、カイリ」

ウィンの隣に並んだジェームズは、カイリがジャケットのポケットから、不自然に重みのある琥珀色の液体が入ったボトルを取り出すのを目撃した。そのラベルに書かれた文字を読み取り、ジェームズは苦笑を漏らす。

「それ持ってるのって……」

カイリは悪戯っぽい笑みを浮かべ、机の上にドンとボトルを置いた。

「あー、姉ちゃんが見事デート中なので傷心の誰かさんの為ってね…」

その言葉が自分に向けられたものであると察し、ウィンは力なく視線を落とした。耳まで少し赤くしながら、気まずそうに髪をかきむしる。

「それは……ありがとう……なんだけど……」

そこまで言いかけて、ジェームズとウィンが同時に怪訝そうな顔で目を合わせ、無言の会話を交わした。切り出したのは、年長者であるジェームズの方だった。彼は腕を組み、真面目な顔でカイリを凝視する。

「カイリ、君は未成年だろ?」

「何?こんな時に固い事言う?」

カイリは呆れたように肩をすくめ、どこからか調達してきた小さなショットグラスを三つ、手際よく並べ始めた。その様子を見て、ウィンが周囲をキョロキョロと見回しながら、怯えたように声を潜める。

「あー君の姉さん達すっごく怖いんだけど…」

「あーバレなきゃ…問題なし」

カイリは全く動じることなくボトルのキャップを開けると、芳醇な香りが広がる液体をグラスへと注ぎ込んだ。そして、二人が止める間もなく、自分の分のショットを一本、迷いなく手にとって口元へと運び、グイッと一息に飲み干した。

喉を焼くようなアルコールの刺激が走る――はずだった。しかし、今のカイリの肉体は、ウルトラマンとして完全に覚醒し、日々ジョンの過酷な特訓に耐えうるレベルへと進化している。細胞の一つ一つが超人的な代謝能力を誇っているため、スーツを着て変身していなくても、地球のアルコール程度では、全くと言っていいほど酔うことができないのだ。彼は顔色一つ変えず、ただすっきりとした表情でグラスを置いた。

「ぷはっ。うん、良いお酒だね。さあ、二人とも」

その圧倒的な耐性と堂々たる態度に気圧され、ジェームズとウィンは呆れ返りながらも、どこか張り詰めていた心の糸が解けるのを感じていた。

「しょうがないな……」

ジェームズが笑い、ウィンも小さく息を吐きながらグラスを手にする。そのまま三人で、カチンとグラスをぶつけ合うのだった。ちなみに、その後すぐに「それはそれとして、これは没収だ」とジェームズにボトルを厳重に取り上げられ、カイリのグラスの中身はいつの間にか、ただの冷えたコーラにすり替わっていたのは言うまでもない。

だが、そんなささやかな男たちの時間が、長く続くはずはなかった。オフィスの片隅に置かれたモニターから、けたたましいアラート音と共にニュースの緊急速報が流れ出す。画面に映し出されたのは、大空から飛来した「偽スーパーガール」が再び現れ、ナショナル・シティの観光名所であるロープウェイを急襲して激しく破壊しているという驚愕のニュースだった。

「しまった……!」

ジェームズとウィンが画面に釘付けになった一瞬の隙を突き、カイリはすぐさま2人の目を盗んでオフィスの死角へと移動した。周囲に誰もいないことを確認すると、まばゆい光と共にウルトラマンへと変身し、夜空へと激しく飛び立った。

ロープウェイを襲った偽物の狙いは、明確にスーパーガールを引きずり出すことにあった。マントを翻して現場へと急行したウルトラマンは、夜空の只中で繰り起こされている眼前の光景に一瞬だけ戸惑う。そこにいるのは、容姿も、コスチュームの細部も、飛翔する軌道さえも完全に一致する、そっくりの二人のスーパーガールだったからだ。

「私が本物よ!」

「違う、私こそが本物!」

互いに空中でもつれ合い、鉄骨に叩きつけ合いながら、激しく主張し合う二人の声。ウルトラマンは空中に静止したまま鋭い眼光を向け、二人の一挙手一投足、その皮膚の質感や呼吸の乱れ、端整なエネルギーの波形を冷徹に観察した。その時、二人のうちの一方が、まるで関節の噛み合わせが悪いロボットのようにぎこちない動きで首を傾げ、カタコトの歪んだ、まるで人工的に合成されたかのような声を漏らした。

「私、ホンモノ。アナタ、ニセモノ」

「――そこだ!」

ウルトラマンはその瞬間、言語反応がぎこちない方が明確な偽物であると完全に断定。大気を爆裂させて突進し、鋭いストレートを偽物の顔面に叩き込んだ。激しい衝撃音とともに、見事偽物を見切ったウルトラマンの攻撃が炸裂する。正体を見破られた偽物は、怒りの咆哮を上げながら、スーパーガールとウルトラマンの二人がかりの猛攻を迎え撃つ形となった。

しかし、この偽物はただのクローンではなかった。ウルトラマンがさらなる追撃のために距離を詰めようとした瞬間、偽物の瞳が不気味な白光を放つ。そこから放たれたのは、熱線ではなく、あらゆる物質を瞬時に氷結させる激しい極低温の光線――「フリーズ・ビジョン」であった。

「くっ……!」

咄嗟に回避したウルトラマンの足元が、空中であるにもかかわらず、漏れ出た冷気によって一瞬にして分厚い氷の塊へと変わる。さらに、偽物は口を大きく開くと、スーパーガールの超呼吸とは真逆の、すべてを焼き尽くす烈火の炎――「フレイム・ブレス」を大量に吐き出した。

この「真逆の能力」の連撃により、ロープウェイの支柱や周囲の足場が急激な熱膨張と冷却によって爆砕を始める。さらに、激しい戦闘の衝撃によって、ロープウェイのメインワイヤーが一本、凄まじい金属音を立てて切断され、中に取り残されていた大勢の乗客たちが悲鳴を上げて宙吊りになった。今にもゴンドラごと地面へ真っ逆さまに墜落しかねない危険な状態だ。

「スーパーガールっ!救助を優先だ!」

ウルトラマンの鋭い叫び声に、スーパーガールはすぐさま頷き、落下しかけたゴンドラの下へと回り込んで、その巨大な質量を両腕で抱きとめるために急降下した。ウルトラマンもまた、崩落する巨大な鉄骨の支柱を片腕で受け止め、引きちぎれかけた残りのワイヤーを繋ぎ止めて一般市民の安全を確保する。傷つき、能力の反動で皮膚を粟立たせながら息を荒くした偽物は、二人が市民の救助活動に追われているその僅かな隙を見逃さず、憎悪に満ちた目で二人を睨みつけると、そのまま凄まじい速度で上空へと舞い上がり、雲の彼方へと逃走してしまった。

偽物の残したエネルギー残渣と、その異常な身体能力のデータを基に、DEOは黒幕の居場所を特定した。科学の粋を集め、神の領域に手を染めようとする男――マックスウェル・ロードの研究所「ロード・テクノロジー」である。アレックスと、等身大の姿のまま同行したウルトラマンは、威嚇するように研究所の自動ドアをこじ開け、マクスウェル・ロードの傲慢な笑顔が待ち受ける執務室へと乗り込んだ。

ロードは高級な革のデスクチェアに深く腰掛け、入ってきた二人を見ても、驚く素振りすら見せなかった。それどころか、すべてを見透かしたような不気味な笑みを浮かべ、彼らとスーパーガールとの緊密な関係、すなわち「家族関係」を暗に匂わせるような言葉を口にし始めた。

「ようこそ、ダンバース捜査官。それに、ナショナル・シティのもう一人の『救世主』も一緒か」

「戯言は終わりだ、ロード。あの偽スーパーガールは君が作ったな?何の目的で彼女をあんな怪物に仕立て上げた!」

アレックスが銃を構え、銃口を真っ直ぐに突きつけて鋭い声を浴びせる。しかしロードはゆっくりと立ち上がり、ウルトラマンの胸のプロテクターを指差した。

「理由?それはスーパーガールそして君だよ。ウルトラマン。人類は人類の手で地球を平和を守らなければならない。君たちの手を借りる時点で人類は負けなんだよ」

その言葉に含まれた、冷徹なまでの人間至上主義。ウルトラマンは一歩前に出ると、ジョンから叩き込まれた重心の安定を感じながら、ロードの目を真っ直ぐに見据えて返した。

「確かにロード、君の言うとおりだ。だがそのために誰かを犠牲にしたり命を粗末にすることは許されない。」

カイリの言葉には、力への過信を戒めるヒーローとしての実感がこもっていた。しかしロードは、鼻で笑うようにして肩をすくめた。

「確かにな。だがそれでも君達宇宙人は信用ならない。僕が変えて見せる。この人類をね。ウルトラマンだってスーパーガールだっていらない世界を作ってみせるさ」

冷酷な宣言を残すロードの元を去り、アレックスとカイリは即座にカーラへと連絡を入れた。ロードはすでに、カーラとアレックスが姉妹であること、そして彼らの背後に大切な「家族」がいることを完全に看破している可能性が高かった。しかし、アダムとのデートをどうにか再開し、一時の平穏の中にいたカーラは、通信の向こうでどこか楽観的だった。

「ロードが私とアレックスの関係を?まさか、心配しすぎだわ。彼はただの傲慢な科学者よ、私たちの本当の繋がりまで暴けるはずが――」

今日は、カーラが前回の騒動で台無しにしてしまったアダムとのデートの埋め合わせをしようとする大切な日だった。これ以上私生活を脅かされたくないという願いもあり、カーラはDEOの通信を切ると、急ぎ足で会社へと戻るのだった。

その日の夜、ナショナル・シティの警察無線が不穏な緊迫感と共に波紋を広げた。

『各局、ナショナル・シティ東部にて通報。「女性が空を飛ぶ何かに連れ去られた」とのこと――』

無線を傍受した瞬間、それが普通の誘拐事件ではなく、カーラを狙ったビザロの襲撃であることに即座に気づいたアレックスとウルトラマンは、激しい予感と共に現場へと急行した。荒涼とした深夜の臨海公園へ向かうと、そこでは驚くべきことに、まだスーパーガールの衣装に着替える暇すらなく、私服のままで戦うカーラが、偽のスーパーガールと互角の激しい戦闘を繰り広げていた。肉体と肉体がぶつかり合う凄まじい衝撃波が、周囲の木々をなぎ倒していく。

「私に任せて!彼女に罪はないわ!」

カーラは、自分がクローンとして生み出され、ロードに操られているだけの存在であるビザロを傷つけたくないと願い、必死に彼女を救おうと言葉を投げかけていた。しかし、アレックスやウルトラマンにとっては、今まさに目の前で命の危険に晒されているカーラを救うことこそが最優先だった。アレックスは即座に、背後に控えるDEOの特殊部隊にマシンガンを構えさせた。

「ウルトラマン、貴方はクリプトナイトの銃弾の影響がどう出るかわからない。一旦斉射するから下がっていて。総員構え!カーラっ!下がって!今よ!撃てぇ!」

アレックスの鋭い号令が夜空に響き渡る。次の瞬間、DEOがロード・テクノロジーのデータを解析して急遽開発した、対クリプトン人用の「合成クリプトナイト弾」が、数十挺のマシンガンから一斉に掃射された。不気味な緑色の光の軌跡を描く銃弾の雨が、容赦なくビザロの肉体を包み込んでいく。

しかし、その科学的アプローチは、最悪の結末を引き起こすトリガーとなってしまった。ビザロの遺伝子構造は、オリジナルのカーラとは完全に「真逆」の螺旋を描いていたのだ。通常のクリプトン人の細胞を麻痺させ、無力化するはずの合成クリプトナイトのエネルギーは、ビザロにとって弱体化ではなく、細胞の異常な暴走と悍ましい突然変異を引き起こすエネルギー源となってしまった。

「ア、アアアアアアガアアアアッッ!!」

ビザロは精神をかきむしられるような狂った絶叫を上げ、その肉体を激しくのけ反らせた。

「全員下がれ!」

ウルトラマンが叫びながら一歩前に出ると、そのソリッドな肉体を盾にするようにして、特殊部隊員とアレックス、東北カーラの前に立ちはだかった。絶叫を続けるビザロの美しいはずの皮膚は、見る見るうちに血の気が引いた灰色へと変色し、まるで乾燥しきった泥のように醜くひび割れていく。その端正だった顔立ちは歪み、瞳は完全に理性を失った血赤色へと染まった。それはまさに、異形の怪物――「ビザロ・スーパーガール」へと変貌を遂げた瞬間だった。完全に理性を喪失し、ただ破壊衝動のままに大暴れを始める怪物。カーラはその圧倒的な狂気のパワーに弾き飛ばされ、変貌したビザロは地を蹴って再び夜の闇の彼方へと消え去ってしまった。

ボロボロになりながらもDEOの本部へと帰還したカーラは、ショックと恐怖に顔を青ざめさせながら、アレックスの腕にしがみついた。

「アレックス……あなたの警告は本物だった。ロードは、すべてを知っているわ……スーパーガールになる前の。カーラをあの偽物のスーパーガールは狙ってきたわ」

その事実が意味することは、あまりにも恐ろしかった。ロードの狂気の刃は、すでに彼女たちの正体を完全に見抜き、最愛の家族へと向けられている。

「大変、ママとカイリが危ないわ……!」

焦燥感に駆られたカーラは、震える手でカイリの携帯に何度も電話をかける。しかし、スピーカーから聞こえてくるのは無機質な電子音ばかりで、一向に繋がる気配がない。カイリはすでにウルトラマンとしての活動、あるいは別のエリアでの単独行動に巻き込まれている可能性が高かった。

「繋がらない……どうしよう、アレックス!」

パニックに陥りかける二人の前に、重厚な足音と共にハンク・ヘンショウ長官がゆっくりと歩み出てきた。彼はつねに崩さない冷徹な面持ちの裏に、これまでの戦いを通じて築かれてきた確かな父性を宿しながら、静かに二人を見つめた。

「落ち着け、ダンバース捜査官。君たちの義弟はこちらで保護してる」

それは、カイリがウルトラマンとして前線に出ていることを隠すための、そして何よりも彼女たちを無用に動揺させず戦いに集中させるための、ハンクの精一杯の「嘘」であり、同時に彼なりの不器用な保護の意志であった。その力強い言葉に、カーラとアレックスは深く胸を撫で下ろし、まずは街のどこかで暴れているビザロの阻止へと、全神経を集中させるのだった。

しかしその頃、キャットコー・メディアの近くで最悪の事態が発生していた。夜風に吹かれながら歩いていたジェームズ・オルセンの前に、突如として夜の闇からあの異形へと変貌したビザロが舞い降りたのだ。理性を失った血赤色の瞳がジェームズを捉え、その強靭な腕が無慈悲に彼の身体を締め付ける。

ビザロの狙いは明確だった。スーパーガールを確実におびき出すため、彼女の近しい人間を人質にすること。恐怖に歪むジェームズを抱えたまま、ビザロは凄まじい速度で上空へと舞い上がり、ナショナル・シティの海岸沿いに位置する広大な製油所地帯へと彼を連れ去った。

炎が燃え盛るコンビナートの屋上にジェームズを叩きつけると、ビザロは狂気混じりのカタコトの声で「スーパーガール、呼べ」と鋭く脅迫する。ジェームズは喉元に迫る圧倒的な脅威に冷や汗を流しながらも、彼女の狙い通りにするしかないと覚悟を決めた。彼は大空に向かって、全力を振り絞りその名を叫んだ。

「スーパーガール――!!」

その悲痛な助けを求める叫びは、夜の静寂を切り裂き、はるか遠く離れたDEOの本部にいたカーラの超聴力へと正確に届いた。

「ジェームズが危ない……!」

弾かれたように顔を上げたカーラは、一瞬の躊躇もなくマントを翻し、猛烈な速度で夜空へと飛び立っていった。状況を察したアレックスと、等身大のまま身を潜めていたウルトラマンもまた、「待って、カーラ!」と叫びながら、彼女の急な出撃を追うようにして即座に製油所地帯へと急行した。

ナショナル・シティの広大な製油所地帯。完全に暴走し、苦しみながら火柱を上げてコンビナートを破壊し続けるビザロ・スーパーガール。立ち込める黒煙と赤黒い炎の前に、悲痛な決意を固めたスーパーガールが着地した。

「もうやめて……!」

彼女の魂からの静止の言葉も、今のビザロには届かない。地を割るような突進と共に、二人の哀しき超人類による肉弾戦が再び幕を開ける。その戦場へ、スーパーガールに加勢すべく大空から等身大のウルトラマンが舞い降りようとした。しかし、彼の着地を阻むように、背後にあった巨大なコンクリートの防潮壁が、内側から不自然に膨れ上がり、凄まじい轟音と共に爆散した。立ち込める濃いスモークの中から、地を這うようにしてゆっくりと不気味なシルエットが現れる。

『君にもビザロみたいなのが必要だろう?ウルトラマン。彼女がビザロだから……差し詰め…ビゾー…そうだサタンビゾーなんてどうだ?』

周囲に配置された防犯カメラのスピーカー、あるいはその怪物の肉体そのものから、マックスウェル・ロードの歪んだ無線音声が響き渡る。そこに立っていたのは、禍々しい金属質な外骨格と、触れるものすべてを引き裂くような鋭利な鉤爪を持つ、等身大の恐るべき怪物――「サタンビゾー」であった。その姿は、前々回にカイリが死闘を繰り広げ、ナショナル・シティを恐怖に陥れたキリエロイドの禍々しい気配を色濃く残していた。

『僕の記憶にはないが、交通カメラとかには君の戦闘が残ってたよ。あの星人かわからないが、君がこの間。街で大苦戦した、星人の破片と君を解析して作ったんだ。いわば君の半身、鏡のような存在だ』

ロードの言葉通り、サタンビゾーは回収されたキリエロイドの生体細胞や組織片をベースに、ロードの持つ最先端の遺伝子工学によってクローニングされ、ウルトラマンの戦闘パターンを分析・抹殺するために最適化された等身大の生体兵器だった。サタンビゾーは胴体と完全に一体化した頭部の中央にある、不気味なオレンジ色の発光体を明滅させると、ウルトラマンに向けて超高熱の火炎弾を連続で撃ち出した。空気を歪めながら迫る絶望的な熱量。

「光輪はこう言う使い方もできる!」

ウルトラマンは一切の動揺なく右腕を前方へと突き出すと、光のエネルギーを円形に高速回転させ、巨大な光輪――「ウルトラスラッシュ」を形成。それを自らの前面で盾のように高速で回転させ続けることで、完璧な光の防壁「バリアシールド」を作り上げた。

ズガガガガアンッ!!

放たれたサタンビゾーの火炎弾は、高速回転するウルトラスラッシュのシールドにことごとく接触し、激しい火花を散らしながら完全に左右へと弾き返されていく。ジョンとの死に物狂いの特訓により、力の制御と応用を叩き込まれたカイリの進化が、そこに証明されていた。

一方、その裏ではスーパーガールが、激しい戦いの末にビザロを地面へと組み伏せていた。彼女がロードに操られ、実験台にされた被害者であることに深く胸を痛めながらも、スーパーガールは魂の説得を続け、DEOが改良した高濃度麻酔弾を首筋へと撃ち込むことで、ついにビザロの無力化と捕獲に成功する。

ウルトラマンもまた、反撃の火蓋を切った。火炎弾を完全に防ぎきると同時にウルトラスラッシュのシールドを解除し、爆発的な踏み込みで一瞬にしてサタンビゾーの懐へと滑り込んだ。

「足の踏み込みが甘い、重心がぶれている」――脳裏に響くジョンの厳しい指導の声。ウルトラマンは教えられた通り、完璧な重心移動から、サタンビゾーの分厚い胸元へと、全エネルギーを乗せた強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

ドガァンッ!

等身大でありながら地球のあらゆる兵器を凌駕する威力が、正確な技術によって一点に集中し、サタンビゾーの巨体を大きく天空へと吹き飛ばす。ジョンに鍛え上げられた無駄のない格闘術が、怪物を完全に圧倒していた。動きを止め、空中から落下して悶絶するサタンビゾーに対し、ウルトラマンは着地と同時に両腕を十字に激しく交差させた。

「これで、終わりだ……!」

腕から放たれた、まばゆい輝きを放つ高密度の破壊光線が、サタンビゾーの肉体を正確に貫く。哀しき被害者であったビザロとは違い、純粋な悪意のクローン兵器として作られたサタンビゾーは、その光線の圧倒的な破壊エネルギーに耐えきれず、激しい大爆発と共に木っ端微塵に吹き飛ぶのだった。

事件は一応の終息を迎え、DEOの最深部にある特設の医療カプセルには、拘束されたビザロが収容されていた。カプセルを満たす緑色の鎮静液の中で、ゆっくりと眠りにつこうとするビザロ。彼女はガラス越しに自分を見つめるカーラに向けて、ひび割れた灰色のアゴを小さく動かし、消え入るようなカタコトの声で呟いた。

「ゴメンナサイ……」

その一言を残し、彼女の瞳は静かに閉じた。自分と同じ顔を持ちながら、過酷な運命を背負わされた少女を、最後まで本当の意味で救うことができなかった。その重い事実が、カーラの心に深い、癒えない傷を刻みつけていた。

だが、この狂気を生み出した張本人には、厳格な法の手が下されるべきだった。違法な人間改造、およびナショナル・シティに対する深刻なテロ行為の大義名分を得たハンク・ヘンショウとアレックスは、武装したDEOの精鋭部隊を引き連れてロード・テクノロジーへと踏み込み、マックスウェル・ロードを拘束。彼をDEOの秘密監獄の強固な細胞へと強制連行・収監した。

特殊な電磁障壁に囲まれた真っ暗な監獄の中で、ロードは手錠をかけられたまま、皮肉めいた笑みを浮かべて背後のコンクリート壁に寄りかかっていた。カーラは一人、ガラスの向こうでマックスウェル・ロードの尋問を行っていた。

「うちの子達は勝てなかったか……」

カーラは冷徹な眼差しで彼を強く睨みつけ、感情を押し殺した声で言い放つ。

「もし二、三年で出れると思ったら大間違いよ」

「君は真実と正義とアメリカのために戦うとは公言してないが、人を無期限に拘束するとは実にアメリカ的だよなぁ」

ロードのどこまでも不敵な態度に、一歩前に出たカーラの口調がさらに鋭さと怒りを増していく。

「貴方には誰も傷つけさせない…もう2度とね…」

「それはたとえば……イライザダンバースのことか?ミッドベールの家で育ったんだろ?岸辺の家か…いいねぇ」

その瞬間、部屋の空気が一変した。スーパーガールの青い瞳が、激しい怒りによって真っ赤な熱線の輝きを帯びて激しく発光する。文字通り、ロードを今すぐこの場で焼き殺さんとするほどの圧倒的な威圧感。だが、彼女は辛うじてヒーローとしての理性を保ち、瞳の輝きを静かに消した。そこへ、後ろから足音を響かせてアレックスがやってきて、ロードを見下ろしながら冷たく言い捨てた。

「殺す価値ないわ」

ロードはなおも諦めず、今度はアレックスへと視線を移し、いやらしい笑みをさらに深めた。

「ダンバース捜査官。助かったよ。ああ、それとも手を出すと言ったら……カイリダンバース…いや彼を物理的に傷つけるのは無理か…彼も普通じゃないしね」

その言葉に、アレックスとスーパーガールの表情が同時に強張った。ロードは確実に、カイリの正体、あるいは彼が秘めている人間ではない力の片鱗に気づき始めている。

「どう言う意味?」

カーラは小さく首を傾げ、底冷えするような目でロードを睨みつける。

「時期にわかるさ、それじゃあお二人さんまた会おう」

不気味な予言のような言葉を残し、ロードはそれ以上語るのをやめて口を閉ざした。その背後に潜む、さらなる闇の連続性と、彼らの日常に忍び寄る破滅の予感を残しながら。

その日の夜、ダンバース家のリビングは、いつもの温もりを完全には取り戻せずにいた。ヒーローとしての重すぎる宿命、そして自分の偽物が引き起こした騒動のせいで、アダムとのせっかくのデートは完全に破綻してしまった。これ以上、普通の人間である彼を自分の危険な世界に巻き込むわけにはいかない――そう決意したカーラは、彼との関係を完全に諦めるという、身を切るような選択をしたのだ。

自室のベッドの端に座り、膝を抱えて静かに涙を流すカーラ。そこへ、ドアを小さくノックして、私服のパーカー姿に戻ったカイリがそっと入ってきた。彼の片手には、温かい手作りのスープと、カーラの大好きなチョコパイが乗った小さなトレーが握られていた。

カイリは何も言わず、ただ静かにカーラの隣に腰掛けた。傷ついた姉の痛みに、ただ寄り添うように。言葉はなくとも、血の繋がらない義弟の確かな温もりが、カーラの凍てついた心を少しずつ溶かしていく。

「……ん?」

不意に、リビングの方から、カサカサという不自然な摩擦音と、何かが滴るような濡れた粘質的な音が響いてきた。二人は顔を見合わせ、警戒を高めながらゆっくりと立ち上がると、ドアを開けてリビングの様子を覗き込んだ。

その光景を目にした瞬間、二人の動きが完全に凍りついた。

「なんなのよこれ……」

カーラの口から、戦慄の混じった呟きが漏れる。さっきまで綺麗だったリビングの床や壁、天井に至るまで、部屋中が不気味な、緑色のドロドロとした粘液まみれに変貌していたのだ。さらに、壁の隙間からは、まるで生き物の血管のように脈打つ、赤黒い蔦のような植物の根が、急激に触手を伸ばして部屋全体を侵食している。

「――!姉ちゃん上だ!」

ウルトラマンとしての超感覚が、天井の暗がりに潜む、圧倒的な悪意と捕食の気配を瞬時に察知した。カイリは咄嗟に身を翻し、すぐ隣にいた、危機を察知してすでにスーパーガールのコスチュームを纏っていたカーラの身体を、全力で押し除けようとした。

だが、それよりも早く、天井の粘液の巨大な塊から、一対の不気味な巨大怪植物――宇宙の凶悪な寄生生物「ブラック・マーシー」が、牙を剥くようにして猛然と落下してきた。

「カイリ――!?」

カーラの発した叫び声も虚しく、解き放たれた無数の触手は瞬時に二人の肉体を捕らえた。逃げる隙も与えられないまま、その太く強靭な蔦がカイリの胸元と、カーラの全身に完全に巻き付き、その中心部にある不気味なトゲに満ちた花弁が、二人の顔を覆うようにしてぴったりと張り付く。

植物の放つ強力な神経毒と、精神を蝕む寄生エネルギーが、二人の意識を急速に深い闇へと引きずり込んでいく。抵抗する力すら奪われ、二人のヒーローは同時に、その場へとなだれ込むように倒れ伏した。彼らの意識は、ブラック・マーシーが脳内に直接植え付ける、決して目覚めることのない偽りの理想郷の夢の中へと、深く、深く囚われていくのだった――。

 

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