ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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Justice

アレックスがクリプトナイトの剣でアストラを刺し、その命を奪った。しかし、ハンク・ヘンショウはカーラたちの絶望と決意を汚さないため、そしてアレックスの心を崩壊から守るために、「アストラを殺害したのは自分だ」と全ての泥をかぶって説明した。その嘘が内包する重苦しい沈黙が、DEO本部だけでなく、ダンバース家のリビングにも暗い影を落としていた。

ブラック・マーシーという凶悪な宇宙植物による昏睡状態から目覚めたばかりのカイリは、自宅のソファに深く身体を沈め、まだ完全に回復しきっていない心身を休めながら療養していた。同じく精神のトゲから這い出してきたばかりのカーラもまた、魂に消えない深い傷を負ったまま、アレックスと共にリビングで所在なげに言葉を交わしていた。

部屋の空気は、まるで冷たい霧が立ち込めているかのように沈痛だった。カーラはクッションをきつく抱きしめ、視線をあちこちに彷徨わせながら、必死にいつもの明るさを取り戻そうと言葉を紡ぐ。

「そろそろ寝ておいたほうがいいかな? 明日はグラントさんに会うし最近。私アダムとは別れたし仕事も休んでるから…ううん….絶対気まずいよね〜」

早口で、どこか支離滅裂に語るカーラ。落ち着かない様子で自分の金髪を何度もいじるその細い肩を、アレックスが隣からそっと、包み込むように抱きしめた。痛みを共有するように、あるいは自分自身の罪悪感を押し殺すように。

「悩まないで」

アレックスのその優しい声は、今のカーラにとって唯一の錨のようだった。だが、カーラはアレックスの肩に顔を埋め、消え入りそうな、今にも泣き出しそうな声で本音を漏らした。

「何が一番辛いって、アストラがいないこと……」

たった一人の、血の繋がった叔母。敵対していたとはいえ、確かに存在していた家族の喪失。そんな悲壮に駆られる姉たちの痛々しい様子を、少し離れたソファから見つめながら、カイリは自身の右の掌をじっと凝視していた。

(本当に……あれは勝利だったのか……?)

脳裏を過るのは、あのブラック・マーシーが見せた偽りの世界。そこで激突したサタンビゾー、そして精神の最深部で対峙した巨大な闇の塊、ビゾーム。自分自身の心の闇に立ち向かい、ウルトラマンの光線で粉砕して勝利したはずだった。だが、カイリの胸に残っているのは、そんな爽快な達成感などでは断じてなかった。自分の心の闇に打ち勝ったというより、むしろ戦いを通じて、自分の中にあるドロドロとした闇がさらに深く、冷たく変質してしまったかのような、奇妙で不気味な感覚を今のカイリは覚えていた。

見つめる彼の手は、意識とは無関係に微かに震え続けている。

何故震えているのか、今の彼には理由が分からなかった。ウルトラマンとしての強大すぎる力の残滓が肉体に負荷をかけているのか。あるいは、自身の身体に確かに流れている、あの邪悪なウルトラマンベリアルの血が本格的に目覚めようとしている前兆なのか。はたまた――あの偽りの世界で、姉であるはずのカーラを一人の愛おしい女性として意識してしまった、あのドロドロとした邪な考えが、今も消えずに頭の隅を過るからだろうか。自分の内面に対する嫌悪感と恐怖が、震えとなって皮膚の表面に這い出してくる。

「……リッ!……カイ……イリ!……ねぇ、ちょっとカイリ⁉︎」

不意に、すぐ近くから自分を呼ぶ声がした。ぼーっと闇の深淵に落ちかけていたカイリの意識が、目の前でパタパタと手を振るカーラの声によって強引に現実へと呼び起こされた。

「大丈夫?」

いつの間にか目の前にしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込んでくるカーラ。その曇りのない瞳に見つめられ、カイリは胸の動揺を隠すように視線をわずかに逸らした。

「ああ、うん……姉ちゃんこそ」

「大丈夫、今アレックスからエネルギーを貰ったから」

そう言って、アレックスとカーラの2人の義姉はもう一度ぎゅっとハグを交わす。固い絆を確かめ合うように。そして、2人はどこか悪戯っぽい微笑みを浮かべながら、同時にカイリの方へと向き直った。

「だからカイリも私たちにエネルギーを分けて欲しいなぁーって」

おいで、と両手を広げて優しく微笑みかける2人の姉。彼女たちにとって、カイリはどこまでいっても守るべき、そして愛すべき最愛の弟なのだ。カイリはそんな2人の純粋な愛情に、胸の奥の邪念が咎めるのを感じながら、小さくハァとため息を放った。そして、少し照れくささを覚えながらも、2人が座るソファのすぐ側へと歩み寄った。

そばに近づいた瞬間、カーラの電撃のような速さの手が、カイリの手首を一気に掴んで引き寄せた。

「うわっ」

クリプトン人としての、人間離れした超怪力にはなす術もない。カイリは抵抗する間もなく引っ張られ、そのまま2人の姉の身体の間に勢いよく挟まれる形でハグされた。右からはアレックスの包容力のある温もりが、左からはカーラの柔らかく、そして驚くほど力強い身体の感触が伝わってくる。至近距離から漂う甘い髪の香りに、カイリは一瞬だけ心臓が跳ね上がるのを感じた。最近芽生えた複雑な意識を必死に抑え込み、彼は顔を少しムスッとさせながらも、まあ仕方ないかとため息混じりに2人の温もりに身を委ねた。この温かい日常こそが、自分の守るべき世界なのだと言い聞かせるように。

カーラは2人の姉弟をきつく抱きしめたまま、何かから自分を奮い立たせるように、祈るようなトーンで呟く。

「お願い、2人とも…どんなことがあっても……」

私のそばからいなくならないで。

彼女がその言葉を口にしようとしたまさにその時、ガタガタとリビングの大きな窓が激しい音を立てて勢いよく開いた。冷たい夜の突風が室内に勢いよく吹き込み、カーテンを大きく翻す。異様な気配に、3人は瞬時に身体を強張らせて身構えた。

「パラノーマルアクティビティ?」

カイリが室内の張り詰めた緊迫感を和らげようと、冗談めかして皮肉っぽく言うと、アレックスが鋭い目をして即座に返した。

「映画の見過ぎよ」

「最近、幽霊とか悪魔くらいだよ怖いのは。あとは姉ちゃんに勝てないからね」

そんな3人の、無理に作り出した和やかな雰囲気を完全にぶち壊すように、開いた窓の向こう、ベランダの暗闇から音もなく冷酷な影が室内に足を踏み入れた。

「いざとなればお前など簡単に倒せるっ!」

傲慢で、地を這うような低い声を響かせ、背後に現れたのはアストラの夫であり、クリプトン軍の最高司令官であるノンだった。

バッと立ち上がる3人。アレックスは一瞬の躊躇もなく腰のホルスターからDEO支給の銃を抜き、ノンの胸元に銃口を突きつけた。

「出ていって」

カーラがドスの効いた低く拒絶の言葉を放つが、ノンは銃口など目にも留めず、一歩も退かない。その冷酷な眼光がカーラを射抜く。

「カーラ、私と来い」

「姉ちゃんは行かせない」

カイリがすかさずカーラの前に立ち塞がるように一歩踏み出すと、ノンはその冷徹な視線を蔑むように少年に向けた。

「小僧、人間が我々クリプトンの事情に口を挟むな」

「なんだと⁉︎ ジジィ?」

小僧呼ばわりされたことに、カイリは青筋を立てて思わずムキになって言い返す。生身の人間としてクリプトン人に立ち向かうその無謀さに、アレックスが息を呑む。しかし、ノンはそんなカイリを最初から存在しないかのように完全に無視し、カーラだけを見つめ直した。その声に、微かな痛みが混じる。

「アストラのために来た、自分の為じゃない」

最愛の妻、アストラの名を出され、カーラの青い瞳が大きく揺れた。これが戦いではなく、弔いのための呼び出しであることを彼女は察したのだ。

「カーラ行かないで」

アレックスが悲痛な声で引き止めるが、カーラは静かに眼鏡を外し、それをテーブルに置くと首を振った。

「大丈夫よ」

カーラはそのままスーパーガールとなり、マントを翻して、ノンと共に夜空の彼方へと飛び立っていった。

その後、ノンとカーラはクリプトンの厳格な掟に従い、アストラの葬儀を行ったそうだ。カイリにとって、クリプトン人の葬儀というものは全く馴染みがない。地球の葬儀すら、義父が物心ついた頃にはすでに亡くなっていたため、誰かの死を厳粛に弔うということの現実的な感覚は彼の中で希薄だった。ただ、数時間後に自宅に戻ってきたカーラの、魂が抜け落ちたかのような深い悲しみと、アストラへの断ち切れない強い想いだけは、同じ家にいて言葉を交わさずとも、ひしひしと痛いほどに伝わってきた。

数日後、ウルトラマンの姿となったカイリは、DEO本部の地下深くにある秘密監獄に足を運んでいた。厳重なエネルギー障壁の向こう側で、拘束衣を着せられているマックスウェル・ロードと面会するためだ。

「僕はスーパーガールを救ったんだぞ?」

不満げに、さも自分は被害者だと言わんばかりに語るロードに対し、ウルトラマンは仮面の奥から地響きのような冷ややかな声を返した。

「そうやって、釈放を願ったのか? ハア……君は何故そうやって傲慢な態度を示す。それに今回は救うと同時に君はビザロやビゾーを作って我々と戦わせた。何故だ? 災害の時、確かに手を取り合えたのに…」

「それは、君たち超人が超人だからだろう⁉︎」

人類の脅威となる超人たちを排除する。それが自分の正義だと言わんばかりに叫ぶロード。しかし、ウルトラマンはその言葉の裏にある別の違和感を鋭く見抜いていた。

「いや、アレは我々へ恐怖より直接的な敵意を感じた。人類を守るというのは別のな。マクスウェルロード、君はビザロはまだしも何故? ビゾーを作ろうと思った?」

「それは……いや、何故だ……」

ビゾーという、ウルトラマンを模した不気味な存在に関して問われた瞬間、ロードの顔から傲慢な笑みが消えた。彼は何故か急に激しく困惑し、自身の記憶の糸が奇妙に絡み合っているかのように、苦悶の表情を浮かべて両手で頭を押さえた。サタンビゾーという怪獣が世界に撒き散らした精神汚染の残滓なのか、あるいは別の何かが彼の脳を弄くったのか、彼自身にも全く自覚がないようだ。ウルトラマンはその男の異常な動揺と困惑の仕方に、底知れない不気味さを感じながら、冷徹で懐疑的な視線を送り続けた。

「なんにせよ、君の釈放は早々に認められないだろうな」

「スーパーガールにも言ったが僕は退屈すると、前より危険なことをするかもしれないぞ?」

「ここにいる限りそんなことはできんよ」

それだけを冷たく言い残し、ウルトラマンはヒールの音を響かせながらロードの前から去っていった。

その晩、DEOは独自にフォート・ロズの凶悪な囚人2444番を確保しようと、ウルトラマンやスーパーガールに頼らない独自の隠密作戦を展開していた。しかし、作戦が最終段階に入ったその時、どこからともなく不気味な鉄仮面のようなパワードスーツを纏った謎の男が現れた。男はDEOの特殊部隊を圧倒的な戦闘力で一蹴し、拘束されるはずだった囚人を目の前で強引に拉致して、夜の闇へと消え去ってしまったのだ。

翌日、事後報告を受けたウルトラマンとカーラは、「何故我々を呼ばなかった」とハンク・ヘンショウ長官に詰め寄った。ハンクは表情を変えず、「この程度は君達を呼ばずにできるはずだった」と冷淡に返す。しかし、結果として囚人を奪われ、部隊に負傷者を出したという無様な現実に、カーラはあからさまな苛立ちを隠そうともしなかった。彼女の心は、アストラの死と私生活の荒れ模様で、目に見えて余裕を失っていた。

その後、ハンクは周囲に誰もいないことを確認すると、ジョン・ジョーンズとしての本来の姿を表した。そしてカイリの2人だけで、DEOの隔離訓練室へと向かった。2人は防具を身につけ、激しいスパーリングをしながら会話を交わす。

キィン、ドォン、と重苦しい打撃音が訓練室に鳴り響く。カイリの鋭い前蹴りを腕一本で弾き、ジョンは彼の動きを観察していた。カイリは息を乱すことなく、「もう全開で任務もこなせる」と自身の肉体が完全にトップコンディションに戻っていることをアピールした。だが、ジョンは火星人としての超能力でカイリの精神の揺らぎを察知しており、彼の鋭い踏み込みを巧みに捌きながら、冷徹な現実を突きつけた。

「データを見た限りブラックマーシーに寄生されてクリプトン人でない君が正気なわけじゃない」

確かに、カイリの身体の芯には、どれだけ眠っても拭いきれないドロリとした疲労感が鉛のように残っていた。カイリの放った渾身の右ストレートを、ジョンは緑色の大きな掌でガシッと正面から完璧に受け止め、その動きを強引に止めた。

「伊達300年生きてるわけではない。ゆっくり休め」

何世紀もの間、数多の滅亡と孤独、そして残酷な戦いを見続けてきた火星の生き残りとしての言葉には、逆らえない圧倒的な重みがあった。ジョンの言う通り、確かに身体の気怠さが抜けていないのは自分でも十分に分かっていた。だが、その程度の気だるさなら、普段の過酷な戦いに比べればどうってことのないレベルの現状だった。むしろカイリにとって激しい不快感と嫌悪感を抱かせていたのは、今も続くこの手の微かな震えが、単なる肉体的な気だるさや疲労から来るものではないと、自分自身の本能とベリアルの血が、冷酷に察知していることそのものだった。その感覚が、彼を苛立たせる。

翌日、カイリは気分転換を兼ねて珍しく学校に登校し、その晩も自宅で大人しく療養に努めようとしていた。カーラがいつも通りキャットコーに出勤し、事件が起きればスーパーガールとしても精力的に活動しているのに対して、自分は一度植物に寄生されただけでいつまでもグズグズと引きずっている。その自身の不甲斐なさと足手まとい感に、カイリは自室の薄暗い天井を見上げながら、微かな焦燥感を募らせていた。

だが、その疲れや焦りすらも一瞬で消し飛ばす、最悪のニュースが通信機を通じてカイリの耳に飛び込んできた。

カーラが捕まった。あのパワードスーツの男に、連れ去られたのだ。

その事実を認識した瞬間、カイリの脳内で何かが激しく弾け飛んだ。全身の血液が沸騰するような、凄まじい熱さが一気に五肢を駆け巡る。ウルトラマンスーツをまだ装着していない生身の状態であるにもかかわらず、その底知れない感情の昂りと怒りに呼応して、彼の剥き出しの皮膚、指先、そして首筋から、眩い光の粒子がバチバチと火花を散らすように放たれ始めた。部屋の照明がそのエネルギーの余波で一瞬激しく明滅する。

「姉ちゃん……!」

すぐさま窓を蹴破るようにして外へ飛び出し、夜空を滑空しながらウルトラマンスーツを急激に装着したカイリは、半ば理性を失いながら、がむしゃらにナショナル・シティの全域をスキャンし、捜索を始めた。

しかし、敵は巧妙にエネルギーを遮断しているのか、夜通し血眼になって探してもカーラの微かな生命反応すら見つからない。焦燥感と無力感で完全に理性を失いかけていたウルトラマンの通信機に、ジョンからの緊急の暗号通信が滑り込んできた。

『市内から130キロ北東にある山小屋を探せ。そこに地下施設がある』

位置の座標を網膜ディスプレイに表示した瞬間、ウルトラマンの身体から青い推進光が爆発的に噴出した。彼はためらうことなく、限界を超えたフルスピードで爆発的な加速を見せた。ドォン!! と夜空に凄まじい衝撃波――ソニックブームを発生させ、周囲の雲をドーナツ状に引き裂きながら、瞬く間に指定された北東の山小屋へと急行する。

彼は着陸して様子を見るような、生ぬるい真似は一切しなかった。速度を限界まで維持したまま、巨大な質量兵器の弾丸と化して、そのまま山小屋の屋根へと中央から垂直に突っ込み、激突した。

ズガガガガアン!!!

凄まじい轟音と共に山小屋の木造の床や柱が脆く木っ端微塵に砕け散り、まるで砂の山が爆風で吹き飛ぶかのように一瞬で崩壊して、その下に隠されていた冷たいコンクリートの地下施設が剥き出しになる。

立ち込める土煙を強引に引き裂いて進むウルトラマンの視界に、最悪の光景が飛び込んできた。

そこには、赤いクリプトンの太陽光線を容赦なく照射され、完全に細胞のパワーを奪われて拘束具に繋がれた、カーラの姿があった。その白い肌には、生々しい打撃や電流による拷問の跡がいくつも刻まれている。幸いにも顔に大きな傷はなかったが、彼女が誇りを持って身に纏っていたスーパーガールのコスチュームは、ボロボロに引き裂かれ、見る影もなく汚されていた。

大切な、世界で一番守るべき姉のその無残な姿を目にした瞬間、カイリの中の「ウルトラマン」としての理性が完全に消滅した。ドクン、と心臓が不吉な音を立てて波打つ。装甲の隙間から覗く巨人の瞳の輝きが、いつもの澄んだ、静かな青色から、禍々しく、血のように昏い赤色へと一瞬で変色していった。全身から立ち上るオーラが、冷酷な威圧感へと変貌する。

施設の奥から、あの鉄仮面の男――自らの私刑を正義と信じて疑わないマスター・ジャイラーが、重厚な足音を立てて姿を現し、歪んだ声で冷酷に言い放った。

「そこの女は偉大な母親の意志に背き囚人を庇った、当然の報いだ。この囚人を処刑後彼女と処刑しアルゥーラの元へ送ってやろう」

「そこまで…やる必要…なかっただろ……」

地獄の底から響くような低い声が、ウルトラマンの口から漏れ出た。ギリギリと、ウルトラマンの拳が凄まじい力で握りしめられ、チタン合金の装甲同士が軋み、悲鳴を上げる音が静かな地下室に不気味に響き渡る。その異常な変貌を前にしてもなお、マスター・ジャイラーは己の優位を信じ、不気味に武器を構えて嘲笑った。

「お前も邪悪な気配だ。悪人の匂いがする。貴様も私の邪魔をするのか? 崇高な正義は私なのだ」

マスター・ジャイラーはウルトラマンに向けて、その強化スーツの力を乗せて猛然と殴りかかった。

それが、彼の人生の、そして彼が信じた正義の最後だった。

少し遅れて現場の座標に到着したアレックスは、崩壊した山小屋の周辺を息を切らしながら必死に捜索していた。「カーラ! カイリ!」と何度も叫ぶ。

すると突然、目の前の崩落した山小屋の残骸が、内部からの想像を絶する凄まじい未知の衝撃波によって、凄まじい大爆発を起こした。轟音と共に真っ赤な炎と黒煙が夜空高くへと激しく舞い上がる。

アレックスが衝撃に備えて腕で顔を覆い、息を呑んで見つめる中、燃え盛る烈火を真っ二つに割って、ゆっくりと、しかし確実な足取りで歩み出てくる巨大な影があった。

それは、完全に気を失ったスーパーガールを、壊れ物を扱うかのように両腕で優しく、大切に抱きかかえたウルトラマンだった。

「カーラ……!」

駆け寄ろうとしたアレックスだったが、その場に釘を刺されたように一歩足が止まった。本能的な恐怖が、彼女の脊髄を駆け抜けたのだ。

救出されたカーラの身体は、地上に出て地球の黄色い太陽光線を浴びたことで、細胞が瞬時に活性化し、拷問の傷跡は見る見るうちに綺麗に塞がりつつあった。命に別条はなさそうだった。だが、問題はそれを受け止めているウルトラマンの姿だった。

彼の美しいはずの銀色のアサルト装甲には、前胸部から両腕、そして拳に至るまで、べっとりと、見るもおぞましい大量の赤い液体と、肉片の混ざった汚れが付着していた。それは火を浴びてもなお、どす黒く装甲にこびりついていた。ウルトラマンの放つ空気は、救世主のそれではなく、完全に「捕食者」あるいは「魔王」のそれだった。

その晩、カイリはウルトラマンスーツを着たまま、帰宅せず、人間たちの無邪気な営みを見下ろすように、静まり返ったナショナル・シティの遥か上空をゆっくりと漂っていた。

冷たい夜風が装甲を叩く。だが、彼の脳裏には、さっきの地下施設での出来事が、呪いのように鮮明に蘇っていた。

マスター・ジャイラーとの戦い。

……いや、あれは戦いなどという高尚な代物では断じてなかった。

それは、言葉にするのも悍ましい、ただの一方的な、残虐極まる「蹂躙」だった。

義姉のボロボロにされた姿を見た瞬間、カイリの脳内で、人間としての理性のタガが完全に消し飛んでいた。沸騰したベリアルの血が、彼の身体を完全に支配していたのだ。

マスター・ジャイラーが放った最初の一撃を、ウルトラマンは避けることすら引け目と感じたかのように、左手の手のひらだけで完全に受け止めた。それどころか、受け止めた瞬間に男の拳の骨が装甲の圧力だけでバキバキと音を立てて砕けた。

男が短い悲鳴を上げる間もなく、ウルトラマンの右拳が動いた。格闘の技術などではない。ただの暴力。

ドォン!! と、一撃でマスター・ジャイラーの胸部装甲が数センチ陥没し、背後のコンクリート壁まで弾け飛ぶ。男が吐血しながら立ち上がろうとする前に、ウルトラマンは彼の頭髪を掴み、そのまま床へと何度も何度も叩きつけた。

『待て! 私はフォート・ロズの――』

命乞いか、あるいは己の正義の主張か、男が何かを叫ぼうとした口を、ウルトラマンの容赦のない手甲が、顎の骨ごと粉砕して黙らせた。

そこからの記憶は、より一層昏く、生々しいフラッシュバックとなってカイリの精神を抉る。

狂気に駆られた自分の両手には、いつの間にか光の粒子で形成された、禍々しい「ベリアルの爪」のような幻影が握られていた。その爪は、マスター・ジャイラーが誇る特殊合金のパワードスーツを、まるで腐ったバターでも引き裂くかのように容易く切り裂き、剥ぎ取っていった。

「あ、が……あ、ああああああああっっっ!!!?」

地下室に響き渡る、肉を引き裂かれ、骨をへし折られる男の絶叫。

だが、その時の自分は、その悲鳴を聞いても不快感すら覚えなかった。むしろ、心地よい音楽でも聴いているかのように、ただ冷酷に、無表情に、感情の昂りに任せるまま拳を振り下ろし続けたのだ。

男の頭部が、胸部が、ウルトラマンの鋼鉄の拳によって何度も、何度も、原形を留めなくなるまで叩き潰されていく。肉と金属が混ざり合い、真っ赤な飛沫が周囲の壁や、自分の装甲へと激しく飛び散る。

最後の一撃を振り下ろした時、マスター・ジャイラーだったものは、文字通り跡形もない肉塊へと成り果てていた。床に広がった血の海の中心で、自分はただ、ハァ、ハァ、と荒い息を吐きながら、血に濡れた己の両手を見つめていた。

興奮と狂気のあまり、細かい前後の記憶すら明確には覚えていない。

ただ、殴りつけるたびに拳から伝わってきた、肉と骨が潰れる鈍い感触と、男の断片的な、絶望に満ちた悲鳴だけが、今も耳の奥で何度も何度もフラッシュバックしては消えなかった。

(俺は……アイツを殺した。正義のためじゃない。ただ、怒りに任せて、化け物みたいに殺したんだ……)

地上に出て、地球の黄色い太陽光線を浴びた瞬間に、カーラの肉体の傷は完全に消え去り、元通りの美しい肌に戻った。だが、カイリ自身の両手に残る、あの人間を「撲殺」した最悪の感触だけは、どれだけ空を飛んで風に晒されても、決して消えることはなかった。

暗闇の空にぽつんと浮かぶ巨人の瞳は、いつもの澄んだ、優しい青い光を完全に失っていた。

それはまるで、彼の中に眠る、宇宙を恐怖に陥れた最凶の悪魔――ウルトラマンベリアルの遺伝子が、その悍ましい本性を完全に目覚めさせたかのように。

昏い赤色に、妖しく、そして冷酷な輝きを放ちながら、何も知らずに眠る夜の街を、ただ静かに見下ろしていたのだった。

 




 私はultrasevenx好きです
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