ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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Red Kryptonite/Reibatos

その異変は、数日前から静かに、しかし確実に始まっていた。

事の発端は、市内の一角で発生した火災現場での消防活動だった。燃え盛るビルの奥へ突入したスーパーガールは、そこで不自然に立ち込める、怪しく発光する「赤い霧」を全身に浴び、吸い込んでしまったのだ。霧を吸い込んだ直後、彼女自身は「何ともない」と周囲に気丈に笑ってみせていたが、その瞬間から、彼女の身には明らかな変化が起き始めていた。

街の希望 of 象徴だった彼女の行動は、日を追うごとに見るに堪えないものへと変貌していく。

襲いかかる星人(宇宙人)との戦闘では、これまでの慈悲深さは消え失せ、相手をいたぶるような傲慢な態度を隠そうともしかった。そればかりか、かつてなら真っ先に捕らえていた小物の犯罪者たちを、「価値がない」とばかりに鼻で笑って見逃すことさえあった。

DEO本部での態度も一変していた。ハンク・ヘンショウ長官の指示をあからさまに無視し、他のエージェントたちに対しても、まるで虫ケラを見るかのような刺々しく冷淡な視線を浴びせる。

妹のただならぬ異変の原因に、あの「赤い霧」という強い心当たりを持っていたアレックス・ダンバースは、独断で実業家マックスウェル・ロードを連行。DEOの尋問室で彼を激しく追いつめた。

アレックスは机を強く叩き、狂気すら孕んだ表情でマックスウェルを睨みつける。

「彼女に何をしたの!? 街中が大騒ぎよ!」

拘束されたマックスウェルは、アレックスのただならぬ剣幕に眉をひそめ、怪訝そうに問い返した。

「……彼女はじゃあ、弱っているのか?」

「まさか! おかしくなってるわよ!」

アレックスの叫びを聞いたマックスウェルは、明らかに動揺したように目を見開いた。彼はクリプトナイトという物質の存在も、その詳細な事情も何も知らない。ただ、あの超常的な力を持つクリプトン星人に有効な未知の物質があることだけを突き止め、それを人工的に再現して弱らせようとしていたに過ぎなかったのだ。

「効果が違う……? そんなつもりじゃなかった。私は、ノン達の侵略に対抗するつもりが……」

予測不能の事態に困惑するマックスウェルの自白から、アレックスはカーラの異変が、彼が意図せず作り出してしまった最悪の変異毒物――『レッドクリプトナイト』によるものだと確信した。

アレックスがその事実を掴んだ頃、キャットコー・メディアのオフィスは、決定的な破滅を迎えていた。

チーン、と鋭い金属音を立ててエレベーターの扉が開いた瞬間、オフィス中の視線が一点に集まり、恐怖によって硬直した。

姿を現したカーラは、トレードマークだった眼鏡を外していた。切れ長の瞳の周囲には鋭く濃いメイクが施され、唇は血を吸ったような深い紅に彩られている。

服装もまた、いつもの彼女からは想像もつかないほどに攻撃的だった。あえて少しダボつかせた、ルーズなシルエットの黒いオーバーサイズジャケットを肩からラフに羽織り、そのインナーには、かつて地球を侵略せんとしたノンやアストラと同じ、クリプトンの不気味な黒いスーツを纏っていた。マントもなければ、胸の『S』のシンボルもない。ただただ漆黒の、機能性と威圧感だけを極限まで高めたそのスーツは、見る者に異様な恐怖を抱かせる。

ウィンやジェームズが怯え、キャット・グラントがガラス越しに不快と懸念の入り混じった表情で深く眉をひそめる。その冷酷な視線でオフィスを蹂躙したカーラは、つまらなそうに鼻で笑った。

カーラ=スーパーガールという秘密のアイデンティティを暴くような真似はせず、彼女はそのまま無言でエレベーターへと引き返し、堂々とオフィスを立ち去った。しかし、人目のない路地裏へと回り込むと、爆音と共に夜の空へと漆黒の影を走らせた。

カーラが向かったのは、カイリと二人で暮らしているアパートの自宅だった。

いつもなら一歩ドアを開ければ、そこには香ばしいピザの匂いや、二人の笑い声が壁に染み付いている、世界で最も温かい「我が家」のはずだった。だが、今のその部屋は、まるで主を失った墓所のように冷たく静まり返っていた。部屋には、マックスウェルの尋問を終えて急ぎ戻ったアレックスと、姉の異変を察知して息を呑んで待っていたカイリの姿があった。

ガタタッ!! とリビングの窓が強風に煽られたように激しく開き、重い足音を立ててカーラが着地した。黒いオーバーサイズジャケットを夜風に禍々しくなびかせ、ゆっくりと立ち上がる彼女の瞳は、怪しく赤く濁っている。

「どうしたの、カーラ……!?」

アレックスが、必死に声を絞り出して一歩前に出た。

「あなたはあの男が作った物質の影響を受けて、おかしくなってるだけよ! 目を覚まして!」

「いいえ、これが本当の私よ。図々しく命令しないで」

黒いスーツを纏ったカーラはフッと鼻で笑い、冷たい視線を向けた。彼女はゆっくりと挑発的な歩を進め、アレックスにその細い指先を冷酷に突き付けた。

「言っておくけど、私はアレックスとカイリ、あんたたちに対して最初からまともな感情なんか持ってないわ。私たちは本当の家族じゃない。姉でも弟でもない。アレックス、あなたは私を監視して、心の底では私が羨ましいんでしょ? 自分がただの無力な人間だからって、私をコントロールしようとしないで」

「待ってよ、姉ちゃんっ!」

たまらず、カイリが二人の間に割って入った。大好きな、自分を孤独から救ってくれたはずの姉の口から、そんな言葉を聞きたくなかった。

だが、カーラはカイリの正体など何一つ知らない。ただの「血の繋がらない、どこからか引き取られてきた厄介な人間の弟」として、その冷徹な赤い瞳で見下げ、躊躇いもなく吐き捨てた。

「来ないでよ、カイリ! 貴方なんか鬱陶しくてたまらなかったわ。いつもいつもアンタの世話ばっかり。恋だってデートだって好きにできやしない。邪魔よ、消えて」

「――っ」

その瞬間、カイリの身体がびくりと硬直した。

息をすることすら忘れたように胸の動きが止まり、彼は自分の両手をそっと見つめた。数日前、マスター・ジェイラーを容赦なく叩き潰した時の、あの悍ましい感触が手のひらに蘇っているかのように、彼は自身の両手を隠すように強く、白くなるまで握りしめた。

カイリは言葉を失ったまま、ただゆっくりと頭を垂れた。前髪がその目を覆い隠し、どんな表情を浮かべているのかはアレックスからも窺い知れない。ただ、その肩が微かに、しかし拒絶の重みに耐えかねるように細かく震えていた。

「貴方、カイリになんてこと言うの!!」

激昂したアレックスがカーラを睨みつけ、叫ぶ。その怒声に弾かれるようにして、カイリは力なくアレックスの腕に手を伸ばした。それは縋るためではなく、これ以上の言葉を遮るために、アレックスの袖をそっと引く力のない動きだった。

カイリは深く、深く俯いたまま、アレックスの前に一歩踏み出し、自分の顔を隠すように床の一点を見つめ続けた。

「いいんだ……アレックス。姉ちゃんの荷物ってのは……僕だって、わかってるから……」

カイリの口から漏れたのは、完全に魂の死に絶えた、乾いた声だった。

その言葉を最後に、カーラは部屋の天井を凄まじい力で突き破り、夜の街へと飛び去った。黒いジャケットとクリプトンスーツの残像が、夜空に消えていく。

バラバラと天井の破片が床に降り注ぎ、乾いた音を立てる。アレックスが涙を流して立ち尽くす中、カイリは壊れた天井を見上げることもせず、ただ深く俯いたまま、静かに、影のように部屋のドアへと向かって歩き出した。

アレックスが伸ばした手をすり抜けるようにして、彼は一度も振り返ることなく、引き裂かれた「我が家」を後にした。

DEO本部では、暴走するスーパーガールを拘束し、彼女の体内からレッドクリプトナイトの成分を取り除く「中和剤」の製造と、大規模な作戦の準備が急ピッチで進められていた。アレックスをはじめとするエージェントたちが中和ガンの最終調整に追われる中、異変は頑強な隔離壁に囲まれたDEOの独房エリアで起きた。

尋問を終えて独房に収監されていたマックスウェル・ロードが、突如として激しく身悶え、その身体からどろりとした不気味な闇のオーラを放ち始めたのだ。

「……用済みだ」

マックスウェルの口から、彼自身のものではない禍々しい声が響く。次の瞬間、闇のオーラが完全にその肉体から抜け出ると同時に、マックスウェルは糸が切れた人形のようにパタリと床へ倒れ込み、意識を失った。

マックスウェルの肉体を依代(よりしろ)としていた闇のオーラ――亡霊魔導士レイバトスは、DEOの強固な障壁をすり抜けると、そのまま上空へと離脱。彼が向かったのは、ナショナル・シティの華やかな市街地から遠く離れた、北部に広がるハズレの荒野だった。

そこは、むき出しの赤茶けた岩盤と、鋭利な岩山が連なるだけの不毛の地。夜になると遮るもののない冷烈な風が吹き荒れ、生き物の気配は完全に途絶える。

荒野のクレーターに降り立ったレイバトスは、大地の底――地脈部分へと、禍々しい闇のエネルギーを容赦なく注ぎ込んだ。大地が不気味に黒く染まり、空間がぐにゃりと引き裂かれる。

「出よ、次元の狭間に眠る怨念よ! スペースビースト・クトゥーラ!!」

その裂け目から姿を現したのは、無数の触手をうねらせ、精神を汚染する黒い瘴気を放つ暗黒魔獣――『スペースビースト・クトゥーラ』だった。大気を腐らせるような悪臭と共に、地球に存在せぬはずの魔獣は不毛の荒野にその巨体を表した。

その瞬間、DEO本部のメインコンピューターが、激しいアラートを鳴り響かせた。

「長官! ナショナル・シティ郊外、北部荒野に巨大な熱源を感知! 未知の、しかし極めて強大なバイオサインです!」

「何だと……!? カーラの中和作戦を実行するまさにこの最中に、最悪のタイミングだな」

ハンク長官が険しい表情で指令を下しようとしたその時、彼の個人通信回線に、カイリの持つクリスタルペンダントからの秘密通信が入った。作戦室の隅、アレックスたちの耳には届かない静寂の中で、カイリの静かな、だが固い決意に満ちた声が響く。

『長官、姉ちゃんを頼んだ。僕はあの怪物を――』

ハンクはハッとして、通信機の向こうの少年に厳しい声を返した。

「何を言っている, カイリ! スーパーガールが暴走している今動き出したということは、奴の狙いは君だ! 明らかな罠だ、行くのは止めろ! 我々がスーパーガールを元に戻すのを待つんだ!」

だが、カイリの意志は揺るがなかった。姉から言われた冷酷な言葉は、彼の胸を深く抉ったままであったが、それでも彼はヒーローとしての、そして家族としての責任を全うしようとしていた。

『だとしても、行かなきゃ。荒野から街まで、そう離れてないんだ。……奴をここで食い止める』

「カイリ! 待て!」

ハンクの制止も虚しく、通信は一方的に切断された。

カイリは孤独な決意を胸に、まばゆい光の粒子に包まれてナショナル・シティの外れに広がる暗黒の荒野へと飛び立っていった。

ヒュゥゥゥゥ……と冷たい風が吹き荒れる不毛の荒野。

むき出しの赤茶けた岩盤の上に、眩い光と共に銀色の装甲を纏ったウルトラマンが着地した。

周囲には敵しかおらず、誰の目を気にする必要もない。だからこそ、その銀色の巨体から漏れたのは、ウルトラマンとしての冷徹な演技の声などではなく、傷つきながらも最前線に立つ、カイリ自身の剥き出しの素の呟きだった。

「……お前の狙いは僕だろ?」

「ククク……来たな、ベリアルの息子よ!」

遥か上空の岩壁の上から、霊体のレイバトスが嘲笑う。

その声を合図に、クトゥーラの巨体から、数十本もの肉厚な触手がつむじ風のように一斉に放たれた。空気を切り裂く爆音が荒野に響き渡る。

「ハッ!」

ウルトラマンは鋭く前方へ跳躍すると、右腕の装甲から光の刃――ウルトラスラッシュを連続で形成した。空中を反転しながら、迫り来る触手に向けて光の輪を正確に投げつける。

ズバァァン! ズバァァン! と触手が根元から次々と切断され、荒野の岩盤に緑色の体液が飛び散った。

しかし、クトゥーラの触手の数は無限だった。切断しても切断しても、足元や鋭利な岩山の影から、次々と新しい触手が生え変わって襲いかかる。全方位からの凄まじい波状攻撃を、ウルトラマンのウルトラスラッシュでは完全に処理しきれなくなる。

「しまっ……!?」

次の瞬間、ウルトラマンの両腕、そして傷だらけの両脚が、強靭な触手によって一斉に絡め取られた。自由を奪われ、荒野の空中で身動きが取れなくなる。

動きの止まったウルトラマンに向けて、クトゥーラの中央の口が開き、ドロドロとした黒紫色の闇の瘴気が放たれた。触手で完全に拘束され、避けることができずに、その瘴気の直撃を全身に浴びてしまう。

「があああああああああああっっ!!!!」

荒野の夜空に、カイリの引き裂かれるような絶叫が木霊した。

ウルトラマンは必死にウルトラスラッシュを展開して触手を切断しようと足掻くが、それを上回る無数の触手が容赦なく手足を絡め取り、完全に動きを封じ込めていく。身動きが取れない無防備な状態のまま、クトゥーラから放たれる闇の瘴気を全身に浴び、毒が回るような激痛がカイリの肉体と精神を蝕んでいく。

クトゥーラは手を緩めることなく、何度も何度も闇の瘴気をウルトラマンに浴びせ続けた。

絶え間ない闇の蹂躙を受け、ウルトラマンはついに力尽きて膝をつき、激しい地響きを立ててばたりと倒れ込んだ。

だが、地獄は終わらない。クトゥーラはウルトラマンを拘束したまま、その巨体に見合わぬ怪力で触手を激しく振り回し、そのまま荒野の彼方へと投げ飛ばした。

ドゴォォォォォン!!!

岩山に激突し、崩れ落ちた瓦礫に埋もれるウルトラマン。胸のカラータイマーは、すでに危険な赤色に激しく点滅している。

「はぁ……はぁ……、まだ……だ……!!」

満身創痍の身体でフラフラと立ち上がるウルトラマンだったが、容赦なく迫る触手の鞭に打たれ、凄まじい衝撃と共に再び激しく吹き飛ばされた。

二度目の触手の鞭が迫る。ウルトラマンは地面を必死に転がりながら腕を突き出し、間一髪でウルトラスラッシュを放って迫る触手を切断。生まれた一瞬の隙を突き、最後の力を振り絞って十字に腕を組んだ。

技名を叫ぶ余裕すらなく、ただ気迫の咆哮と共に放たれた渾身の、純白の破壊光流がクトゥーラを正面から貫いた。ドゴォォォォォン!!! と激しい爆発が巻き起こり、クトゥーラをなんとか倒すことに成功するも、そこに現れた霊体のレイバトスがクトゥーラの亡骸と合体、レイバトスクトゥーラとなりウルトラマンに襲いかかる。

「オアオアオアアアアッ!!」

絶望的な咆哮と共に、レイバトスクトゥーラの無数の触手が再びウルトラマンの身体を完全に捉えた。

激戦の末に限界を迎え、疲弊しきっていたカイリには、それを振り払う力はもう残されていない。レイバトスクトゥーラは、抵抗すらままならないウルトラマンを、まるでおもちゃのように一方的になぶり始めた。

巨体が何度も頭上高くにまで持ち上げられては、荒野の硬質な岩盤に向けて、容赦なく激しく叩きつけられる。

ドスン! ドスン! と、肉と骨が砕けるような鈍い衝撃音が、冷烈な荒野の風に混ざって虚しく響き渡る。岩盤に叩きつけられるたび、ウルトラマンの口元から火花のような光の粒子が飛び散った。

「がはっ……! 離れ……ろ……っ!」

ウルトラマンは至近距離から必死に手先からカッター状の光線を連射し、絡みつく触手を焼き切ろうと足掻いた。しかし、放たれた光線は敵の皮膚に傷一つ負わせることもできず、触れた瞬間、ジュブジュブと音を立ててそのまま体内に吸い込まれてしまった。

効果がないどころか、放った技のすべてが、そのまま敵の糧になっていく。

「光線が……効かない……っ!? それどころか、吸われていく……!」

絶望に目を見開いた瞬間、時すでに遅し。さらに数を増した無数の触手が、疲弊して動けないウルトラマンの全身を蛇のように完全に締め上げ、強固に磔にした。

レイバトスクトゥーラはウルトラマンスーツの装甲から、残された光の力を根こそぎ奪い取り始める。カイリの命そのものである「心の概念(光)」ごと、エネルギーがズルズルと音を立てて強欲に吸い尽くされていった。

「ダメだ……まだ……僕は……街を、姉ちゃんを……っ!」

凄まじい勢いでエネルギーを吸収され、カイリの肉体と精神に強烈な負荷がかかる。メインスピーカーからは、カイリの骨が悲鳴を上げて軋む音と、声にならない絶叫がただ虚しく響き渡るだけだった。

やがて、あれほど輝いていた胸のカラータイマーからは完全に光が消え失せ、冷たい漆黒へと染まりきった。

エネルギーをすべて吸い尽くされたウルトラマンの銀色の身体は――まるで魂の完全に抜けてしまった人形のように、その首を力なくブラブラと揺れ動かしていた。

同じ頃、DEOの命がけの作戦によってようやくレッドクリプトナイトの中和剤を撃ち込まれたカーラは、その狂気から解放され、激しい自己嫌悪のどん底にいた。自分が自宅でカイリに放った最悪の暴言。

『本当の家族じゃない』

『邪魔よ、消えて』

その記憶に胸を掻きむしられる思いのまま、アレックスに肩を支えられてDEOの司令室へと向かって走っていた。一刻も早く、彼に謝りたかった。

しかし、司令室の大きな自動ドアの前まで来た時、ハンク長官がその巨体で完全にドアを塞ぐようにして立ち塞がった。

「ダメだ。今は中に入るな、カーラ。今の君には、耐えられない」

ハンクのその制止が、かえってカーラの胸に最悪の予感を植え付けた。

「嫌よ……通して!!」

カーラはハンクの巨体を強引に押し退けると、自動ドアを突き破るようにして、司令室の中へと激しく足を踏み入れた。アレックスもまた、不穏な空気を察してその後に続く。

姉妹がメインスクリーンを見上げた瞬間――すべての思考が完全に凍りついた。

スクリーンに映し出されていたのは、巨大なレイバトスクトゥーラの腹部に、無残に拘束されたウルトラマンの姿だった。

カラータイマーからは完全に光が消え、不気味に歩き回るレイバトスクトゥーラの振動に合わせて、ウルトラマンの首は、まるで魂の抜けた人形のように力なくブラブラと揺れ動いた。

「嘘……あんなの、嘘よ……」

カーラはその場に膝から崩れ落ちた。自分のせいで、彼は一人で荒野へ向かい、あんな化け物に一方的になぶられ、命を落そうとしている。

だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。

画面の中で、レイバトスクトゥーラの太い触手が、ウルトラマンの頭部を弄ぶように強く圧迫した。メキメキ、バリバリと悍ましい金属音が響き、ウルトラマンスーツのヘルメットの右半分が完全に粉砕され、その破片が荒野の土へと虚しく落ちていった。

半壊したヘルメットの奥から覗かせたのは、激しく血を流し、青白い顔で完全に意識を失っている、実の弟・カイリの素顔だった。

「――カイリ……!? そんな……ウルトラマンが、カイリだったの……??」

アレックスの声が、恐怖と初めて知る衝撃で引き裂かれるように震えた。

カーラは、頭を巨大な金槌で殴られたような凄まじい衝撃の中、口元を押さえて絶句した。

カーラも、そしてアレックスも、カイリの正体など何一つ知らなかったのだ。彼がウルトラマンとしてこの街を守っていたことも、血の繋がらない姉である自分をどれほど慕っていたかも知らずに、カーラはただ「お荷物」として、自分の部屋から、人生から、邪魔者扱いして追い出した。

その少年こそが、自分を、この街を、陰からずっと守り続けてくれていたウルトラマンの正体だった。

「ああ……あああ……あああああああああああアアッッ!!!!」

自分が犯してしまった罪のあまりの重さと、目の前で人形のように首を揺らす弟の骸の姿に、カーラの引き裂かれるような絶叫が、DEOの司令室にどこまでも虚しく響き渡り続けた。

レッドクリプトナイトの毒が抜けたばかりの脳内に、自分が弟に浴びせた最悪の暴言の数々がフラッシュバックする。

『本当の家族じゃない』

『本当は貴方の存在が鬱陶しかった』

自分を陰から支え、守ろうとしてくれていた唯一無二の弟に対し、自分はなんてことを言ってしまったのか。自責と絶望で胸が引き裂かれそうになった、その時だった。

メインスクリーンの向こう、暗雲が立ち込めるナショナル・シティの空が、一筋の強烈な青い光によって引き裂かれた。

「――2万年早いってんだよ!!」

ドォン!!! と地響きを立てて戦場に降り立ったのは、青と赤の意匠を宿した、美しくも鋭い流線型の身体――ウルトラマンゼロその人だった。精神宇宙からカイリの危機を察知したゼロの思念体がついに降臨したのだ。

ただし、そのサイズは巨大なウルトラマンではなく、この世界の戦士たちと同様の等身大サイズ。

ゼロは自身の拳や身体を軽く見回すと、やれやれといった風に首を振って吐き捨てるように呟いた。

「やっぱりな、人間の姿じゃなく元の姿でもこのサイズか……チッ、チビトラマンなんて思い出させやがってっ!」

悪態をつきながらも、その瞳に宿る気高き闘志は何一つ小さくなってなどいない。肉体を持たない不完全な思念体ゆえ、この世界で戦える時間はわずか3分。だが、その3分間でゼロは、息をもつかせぬ濃密な猛攻を開始した。

「レイバトス!お前の汚いやり方は、どこまでいっても気に入らねぇ!」

急襲を仕掛けてきたレイバトスクトゥーラの無数の触手に対し、ゼロは頭部から二本の光刃『ゼロスラッガー』を瞬時に引き抜いた。両手に握った白刃を閃かせ、音速を超える速度で空間を切り裂く。縦横無尽に繰り出される鋭い斬撃が、迫り来る触手を次々と肉片へと変えて火花を散らした。

「ぬかせぇい! 肉体を持たぬ不完全な幻影が、クトゥーラの肉体を突破できると思うか!」

レイバトスの怨念が響き、巨獣の口から禍々しい闇の光線が放たれる。

ゼロはフッ、と不敵に鼻で笑うと、瞬時にゼロスラッガーを頭部へ戻して言い返した。

「ハッ、そいつはどうかな……! 棚に上げてんじゃねぇよ、テメェだって肉体のねぇただの亡霊のくせによぉ!!」

額のビームランプに全エネルギーを集中させる。

「くらえっ! エメリウムスラッシュ――ッ!!」

放たれた超高線の緑の熱線が、迫る闇の光線を真っ向から押し返し、レイバトスクトゥーラの胸部装甲を直撃した。ズガガガガァン!と激しい爆発が巻き起こり、巨獣がたまらず後退する。

戦闘開始から2分。思念体の限界が近づき、ゼロの身体が激しく明滅し始める。一刻の猶予もない。ゼロは残るすべての力を拳に込め、凄まじい推進力で地を割って跳んだ。超高速の連撃が巨獣の巨体を容赦なく打ち据え、思念体とは思えない凄まじい質量と破壊力で、巨獣の身体をビルを何棟も突き破るほどに吹き飛ばした。

「チッ、ここまでか……!だが、アイツの光を、こんなところで消させやしねぇ!!」

活動限界の3分を迎えると同時に、ゼロの身体が突如、眩い黄金の輝きを放ち始める。シャイニングウルトラマンゼロの力が、一瞬だけ解放された。

ゼロが両腕を広げると、波紋のような光が街全体に広がっていく。

「シャイニング・スター・ドライブ――ッ!!」

キィィィン……と世界から音が消起、レイバトスクトゥーラの動きが、その周囲の時間の流れごと完全に停止した。

「……あとは、アイツらに、繋ぐぜ……!」

それを見届けると同時に限界を迎えたゼロの思念体は、光の粒子となって霧散し、ナショナル・シティは不気味な静寂に包まれた。

シャイニングウルトラマンゼロが命を削って放った黄金の波動によって、ナショナル・シティの戦場は不気味な黄金の結界に包まれ、完全に時間が停止した空間と化していた。

この超常的な異常事態を受け、DEOは即座に行動を開始する。結界の周囲には何重もの包囲網が敷かれ、重武装の部隊が迅速に配置されて厳重な警戒態勢へと移行した。しかし、時間の止まった不可侵の光の壁を前に、人間たちのテクノロジーでは干渉することすら叶わない。いまや、静止した空間の中で磔にされているカイリの姿を、ただ外から見守ることしかできなかった。

激しい精神的衝撃と、レッドクリプトナイトの毒から解放されたことによる強烈な虚脱感に襲われたカーラ、そして彼女に付き添うアレックスは、ハンクの意向もあり、一度心を落ち着かせるために自宅へと帰宅することとなった。

キャットコーでの少しダボつかせた黒いジャケットを脱ぎ捨て、自室のベッドで一人、カーラは声をあげて泣き続けていた。

その腕には、カイリがいつも着ていた、少し着古されたオーバーサイズの洋服が強く抱きしめられていた。彼の匂いが残る服に顔をうずめ、涙で生地を濡らしながら、彼女は自分自身を呪っていた。

「ごめんなさい、カイリ……私、なんてことを……『本当の家族じゃない』なんて……あんな酷い言葉であなたを深く傷つけた私が、一番最低よ……!」

あの明るい笑顔は完全に消え失せ、失意の底に沈む妹の肩を、アレックスが涙を流しながら静かに抱きしめる。アレックスもまた、血の繋がらない弟が背負っていた孤独と、それを守れなかった自責に暮れていた。

その時、二人の脳内に、直接力強い男の声が響き渡った。

『……おい。いつまでメソメソ泣いてやがる、スーパーガール』

「っ、誰!?……どこから声が……!」

カーラがハッと顔を上げる。部屋にはアレックスしかおらず、彼女も驚いた表情で周囲を警戒している。二人同時に同じ声を聞いたのだ。

『ゼロ。ウルトラマンゼロだ。M78星雲の光の戦士さ。……今は俺の思念を直接、アンタたちの頭の中に送ってる』

「光の戦士……?」

『アイツのカラータイマーはまだ完全に死んじゃいねぇ。だが、俺の力じゃこれ以上時間を止められねぇ。……いいか、よく聞け。絆の光を、アイツに届けろ。アイツを救えるのは、スーパーガール, アンタだけだ。アイツを頼んだぜ』

その言葉が、カーラの瞳に一瞬だけ光を呼び戻した。

かつて、自分がクリプトナイトの光線やレッドトルネードとの戦いで力を失った時。DEOの施設でウルトラの光を受け取り、細胞が再生したあの感覚。

「アレックス……私、行くわ」

「ええ。私とも行く。……私たちの、本当の弟を助けに!」

二人は固く手を握り合うと、カイリが待つ決戦の地へと再び歩み出した。

カーラとアレックスが決戦の地に到着すると同時に、異変が起きた。

バリバリバリッ!!と空間が軋む重低音が響き、ナショナル・シティを包んでいた黄金の時間停止結界が、限界を迎えてガラスのように激しく粉砕されたのだ。

「グルァァァァッ!」

時間が動き出した瞬間、大気を震わせる咆哮とともにレイバトスクトゥーラが覚醒する。現場に配置されていたDEOの特殊部隊は、即座に地獄のような最前線へと巻き込まれた。

「下がれ! 下がれぇーーーっ!!」

前線指揮官の怒号が響く。特殊部隊は必死に後退しながらも、アサルトライフルや機銃の引き金を引き続け、無数の弾丸を巨獣へと撃ち込み続ける。しかし、人間の兵器など巨獣の皮膚を凹ませることすらできない。

ドゴォン!!

激しくのたうち回る巨大な触手が一振りされ、配置されていた軍の重武装車両が無造作に宙へと跳ね飛ばされ、火を噴いて転がった。

「みんな下がって! ここはあなたたちの手に負える相手じゃないわ!」

上空から飛来したスーパーガールが、特殊部隊の前に立ちはだかり後退を促す。

その姿を見下ろし、巨獣のコアからレイバトスの冷酷な嘲笑が響いた。

「フハハハハ! 身の程知らずめが。ウルトラマンの光すら消した我が呪いの前に、何一つできない小娘が何をするつもりだ!」

触手が弾丸のような速度でカーラを襲う。彼女はそれを間一髪の機動で縦横に躱しながら、目から熱線を放った。

「それでも――大事な義弟(おとうと)は返してもらう!!」

鋭く放たれたヒートヴィジョンが、後退が遅れていたDEO特殊部隊に迫っていた触手を根元から激しく焼き切る。しかし、次から次へと迫る触手の嵐に、カーラは防戦一方に追い込まれていく。

「くっ、これじゃあ近づけない……!」

ウルトラマンが磔にされている胸元へ飛び込もうにも、レイバトスの苛烈な迎撃がそれを許さない。焦りが走った、その時だった。

「――ならば、私たちが道を切り開く!」

背後から力強い声が響くと同時に、本来の姿を取り戻したジョン・ジョーンズ(マーシャン・マンハンター)が戦場へと飛来した。

ジョンは両目を怪しく輝かせ、全精神エネルギーを解放してレイバトスクトゥーラへとぶつける。強力なテレパシーと、精神を蝕む無数の幻影が巨獣の脳内へと直接叩き込まれた。

「ぬ、ぐおぉっ!? なんだ、この精神攻撃は……! 幻影だと……!?」

レイバトスの意識が混濁し、巨獣の猛烈な触手の動きが、目に見えて鈍く重くなっていく。

「カーラ、今だ!!」

アレックスの叫びが響く。

「ありがとう、ジョン……!」

カーラは一気に地面へと降り立つと、隣に駆け寄ったアレックスの手を、固く、強く握り締めた。

「絶対にカイリを連れ戻す。私たちの、本当の家族を!」

二人が並び立ち、強い決意を口にしたその瞬間、眩いばかりの純粋な黄金の光が、カーラとアレックスの身体を包み込んだ。

カーラは天を仰ぎ、その瞳にすべての光を集束させる。

「はああああああっっ!!!」

ドォォォォォン!!!

ジョンの精神攻撃によって動きの鈍ったレイバトスクトゥーラ――その腹部に囚われ、完全に沈黙しているウルトラマンの胸元へ向けて、ウルトラの光を乗せた「黄金のヒートヴィジョン」が、狂いなく真っ向から激しく直撃した。すべての想いを乗せた金色の奔流がタイマーの奥深くへと激しく流入し、強引にその鼓動を再起動させていく。

一方、カイリは底の知れない深い暗闇の底で目覚めていた。

(……僕は、負けたのか……。クトゥーラは倒したけど、あの亡霊に……)

手足が重い。感覚がない。やっぱり、自分はベリアルの呪われた血を引くバケモノだから、光の家族を傷つけ、こうして闇に消えていくのがお似合いなんだ。

そう諦め、暗闇に身を委ねようとしたその時――

カイリの闇の意識の中に、突如として現実世界のビジョンが鮮明に浮かび上がった。

そこには、ボロボロになりながらも、決して退かずに前線で触手を躱し続けるカーラとアレックスの姿があった。

自身の精神を削りながらも、必死にテレパシーを送り続けるジョンの姿があった。

そして、傷つき、吹き飛ばされ、豆鉄砲のような機銃を後退しながらも撃ち続け、涙を呑んで踏みとどまるDEO特殊部隊の人間たちの姿があった。

(みんな……まだ、諦めてない……。僕なんかのために、生身の人間たちまで、まだ戦ってる……!)

胸の奥が、熱い何かで激しく脈動し始める。

その瞬間、彼の精神世界に、低く、厳かで、しかし圧倒的な慈愛に満ちた「不屈の光の意志」の声が響き渡った。

『――諦めるな』

その声に導かれるように、漆黒の精神世界を引き裂いて、天からドォン!と一筋の凄まじい黄金の光が差し込んできた。

注ぎ込まれるヒートヴィジョンの光の向こうから、魂を震わせるような、愛しい二人の姉の叫びがダイレクトに響き渡る。

『カイリっ! みんな待ってる!』

『貴方を!』

『帰ってきて―――っ!!!』

「……姉ちゃん……姉貴……みんな……!!」

自分を待ってくれている場所がある。帰るべき家族がいる。

カイリは泥にまみれた右手を、その闇に差し込む一筋の黄金の光に向けて全力で伸ばし、ガッチリとその輝きを掴み取るように、掌を強くかざした。

「光よォォォッ!!!」

カイリの叫びと共鳴したその小さな光は、次の瞬間、爆発的な勢いで暗闇のすべてを塗り替えるように一気に広がり、カイリの精神と身体のすべてを、目も眩むようなまばゆい閃光で包み込むのだった。

キィィィン!!

精神世界で光を完全に掌握し、偉大なる光の背押しを受けたウルトラマンのカラータイマーが、現実世界で激しく青色に輝いた。

完璧な復活を遂げたウルトラマンの身体から爆発的な黄金の光が放たれ、密着していたレイバトスクトゥーラの身体を内側から派手に吹き飛ばした。

光の粒子が晴れた戦場。そこには、力強く立ち上がったウルトラマンと、その両隣に並び立つスーパーガール、アレックスの姿があった。

3人は並び立ち、固く手を繋ぎ合わせた。

アレックスとカーラは、未だ満身創痍であるカイリの身体を支えるように、彼の肩と背中にそっと優しく手を添える。二人の温もりと、言葉にならない「愛」が、手を通じてウルトラマンの装甲へとダイレクトに流れ込んで幸く。

「行くぞ、みんな……!」

ウルトラマンが両腕を十字に交差させ、深く息を吸い込む。

その腕に宿るのは、ベリアルの禍々しい闇の力ではない。カーラとアレックスから受け取った、黄金に輝く最強の「家族の絆の光」だ。

万感の想いを込め、交差させた両腕を激しく前方へと突き出す。

ドォォォォォォン!!!

ウルトラマンの右腕から放たれた、金色の奔流のような超巨大光線が夜空を真昼のように照らし出した。

レイバトスクトゥーラもまた、最後の力を振り絞って口から闇の瘴気光線を放ち、両者の光線が空中できしむような音を立てて拮抗する。周囲のビルが衝撃波で粉砕されていく。

巨獣の咆哮とともに、レイバトスの不気味な怨念の声が響き渡る。

「おのれ……! 私は亡霊魔導士、怨念の支配者だ! 滅びよ、ベリアルの小倅がぁぁ!!」

しかし、ウルトラマンの背中には、彼を必死に支える二人の姉の手があった。姉たちの手のひらから、さらに爆発的なエネルギーがカイリへと注ぎ込まれる。

「「いっけぇぇぇぇーーーっっ!!! はあああああっ!!!」」

二人の力強い後押しの叫びと共に、黄金の光線はさらに太さを増し、レイバトスクトゥーラの闇を完全に圧倒した。

「ば、馬鹿な……クリプトン人の光と、ベリアルの闇が、これほど美しく混ざり合うなど……あ、あり得んーーーっ!?」

光の濁流に吞み込まれ、レイバトスクトゥーラは、亡霊魔導士レイバトスの怨念ごと、細胞の一片も残さず完全に消滅、爆散した。

崩壊した交差点に、静寂が戻る。

変身を解除し、生身に戻ったカイリは、激しい疲労でその場に倒れ込みそうになった。しかし、地面に落ちる前に、二つの温かい腕が、彼の身体を左右からガッチリと抱きとめた。

ひとしきり涙を流し、お互いの無事を確かめ合った後。

アレックスは涙ながらも、ふと我に返ったように怪訝そうな顔で腕を組んだ。

「それにしてもカイリ……ウルトラマンのこと、ずっと私たちに黙ってたわけ?」

カーラもアレックスの言葉に便乗するように、ジロリとカイリを睨みつける。

「そうよ! なんでずっと、私にまで秘密にしてたの!?」

「いや、それは……」

たじろぐカイリに、アレックスがさらに一歩詰め寄った。

「いつから?」

「……飛行機事故の後……宇宙人に襲われて……」

「それ知らないんだけど!? カーラ知ってた!?」

アレックスが驚愕して隣の妹を振り返ると、カーラもぶんぶんと激しく首を横に振った。

「私も聞いてない」

「だから早く言えと言ったんだ」

そこへ、大きな足音を響かせながら、人間の姿へと戻ったジョン・ジョーンズが近くにやってくる。

カーラとアレックスの鋭い視線が、一斉にジョンへと向けられた。

「……それ、長官は知ってたってことですよね!?」

姉二人の恐ろしい視線に射抜かれ、ジョンも思わず両手を上げて一歩下がった。

「おい待て、二人とも! 私はカイリから、自分で説明するからと頼まれて黙ってたんだぞ!」

「んん!? そうなの!? カイリぃ!?」

一斉に矛先が自分に戻り、カイリは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

「いやぁ〜話す時間のが……その、タイミングを、して……」

「逃したじゃない! いつでも話せたじゃない! 私たち家族よ!」

カーラが頬を膨らませて怒る。

「そりゃあ、二人とも忙しそうだったし………」

カイリが目を泳がせながら弁明すると、アレックスが深く、大きなため息をついた。

「じゃあ、今まで急に学校抜け出したのって……そういう……ハァ……」

呆れつつも、どこか安堵したような姉たちの小言を背中で聞きながら、カイリがふと夜空を見上げた、その時だった。

彼の視界が、一瞬だけ現実から切り離され、精神世界のような静謐な空間へと切り替わる。

目の前に現れたのは、腕を組んで不敵に笑うウルトラマンゼロの姿だった。

「元気そうだな」

「ウルトラマンゼロ……」

「まっ、あの程度の奴にやられてる様じゃまだまだだな」

「いや、連戦ですし」

「何言ってんだ。アイツ相当弱体化してるんだぞ」

「ええ、アレより強いのか……」

ウルトラ戦士たちの戦う世界の過酷さにカイリは改めて戦慄する。だが、ゼロの表情はどこか優しかった。

「だがまあ、リク……お前の兄貴もお前にこんな家族がいるんだって知ったら安心だろうな」

「自慢の家族ですよ……」

カイリが胸を張って答えると、ゼロは満足そうに頷いた。

「心構えはまあ、合格。ウルトラマンとしてやってけるな。まああとは実力だな。おっと……時間切れか……」

ゼロの身体が、さらに淡く透き通り始める。

「元の世界に戻るんですか?」

「ああ、まだ追わなきゃいけねぇ敵が大勢いる。今度会う時はちったあ頼もしくなっとけよ! ウルトラマン……あー……そういやお前、ウルトラマンの時の名前考えてないだろ」

「そりゃ僕がウルトラマンですからね」

「まあ、そうなんだが、ウルトラマンも大勢いるからな。例えばお前の兄貴は人間の時はリク、ウルトラマンの時はジードって名前だぜ」

「ジード……このスーツも確か……ジードって……そうか、兄さんか……」

カイリが自身の胸元に手を当てて呟くと、ゼロがにやりと笑った。

「そんじゃ、俺が命名すっか?」

「いや、もう決めてます」

「ほう……」

ゼロが興味深そうに眉を上げる。カイリは現実世界の姉たちを振り返り、それから真っ直ぐにゼロを見据えて言った。

「僕はブライト、ウルトラマンブライト」

「そうか、じゃあなブライト、今度はこっちの世界にこいよ! 修行つけてやる」

「お手柔らかに……」

「あとこれだ」

ゼロとカイリは腕をクロスするとカイリの腕にブレスレットがつく

「来るべき時にきっと役に立つ」

ゼロは満足そうに笑うと、眩い光の粒子となって今度こそ完全に消え去った。

視界が現実へと戻る。

「ちょっとカイリ、聞いてるの!?」

カーラがカイリの顔を覗き込んできた。

「あ、うん。ごめん。これからは何でも話すよ」

カイリが素直に笑うと、姉二人はようやく満足したように微笑み、再び彼の身体を両側から優しく抱きしめた。

己の闇を暴かれ、全てを失いかけた地獄の果てで、彼はようやく、本当の「陽のあたる場所」へと迎え入れられたのだった。

 

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