ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの夜景は、旅客機救出という「奇跡」を経て、どこか落ち着かない熱を帯びていた。
街の至る所で人々がスマートフォンの画面を見つめ、SNSには「空飛ぶ女性」の不鮮明な動画や写真が溢れ返っている。世界の前提がひっくり返ったかのような、騒然とした喧騒。しかし、そんなストリートの狂騒から厚いコンクリートの壁によって切り離されたダンバース家のアパートメントの一室には、全く異質な、奇妙な熱気が満ちていた。
リビングのソファに深く腰掛け、炭酸飲料の冷えた缶を指先で無造作に弄びながら、カイリは目の前の光景を冷めた目で見つめていた。
いつもは片付いている部屋の中央に、大量のデスクトップパソコンのモニター、複雑に絡み合った配線コード、あるいは何やら特殊な高密度繊維のロールが幾つも持ち込まれている。その機材の山に囲まれ、興奮気味に鼻息を荒くしながらキーボードを叩いている男がいた。カーラの職場であるキャットコー・メディアの同僚であり、IT部門の天才、ウィン・ショットだ。
「……で。姉ちゃん、もう一度聞くけど。この人に秘密話したの? マジ?」
カイリは手元の缶をローテーブルに置き、呆れたように、しかし確かな警戒を孕んだ視線をカーラに向けた。
「姉貴に殺されるよ? 姉ちゃんの正体を他人に話したなんて知られたら、今度こそあの人、本気で怒るからね」
リビングのキッチンカウンターに寄りかかっていたカーラは、バスタオルで髪を拭きながら、バツが悪そうに肩をすくめた。
「大丈夫、大丈夫だから! ウィンは本当に信頼できる友達だし、私の力を知っても通報したりしなかったもの。ね、ウィン?」
「そうだよ、カイリくん! 僕はカーラの……いや、ナショナル・シティに現れた偉大なヒーローの第一の理解者であり、論理的なサポートを務める栄誉を得た男さ!」
ウィンはモニターから目を離さず、オタク特有の早口でまくしたてる。しかし、その背後は完全に無防備だった。
カイリはふん、と鼻を鳴らすと、ひょいと音もなくソファから立ち上がった。気配を完全に消し、猫のような足取りで、作業の準備に没頭しているウィンの真後ろへと忍び寄る。すべてを見透かすような冷徹なつま先。
ウィンの耳元に、カイリの低い声が直接滑り込んだ。
「ねえ、ウィンさん。ぶっちゃけ、姉ちゃんのどこが好きなの?」
「うわあああかっ!?」
突然鼓膜を震わされたウィンは、文字通り椅子から飛び上がった。叩こうとしたキーボードの手が派手に滑り、画面に意味不明な文字列が羅列される。ウィンは胸を押さえ、壊れた人形のように首を激しく横に振った。
「な、なな、何を言ってるんだい、君は! 僕はただ、市民を救った彼女の崇高な志に感銘を受けて、その、テクノロジーの観点から純粋な協力を――!」
「いや、顔真っ赤だよw」
カイリはふっと口元を歪め、意地の悪い笑みを浮かべた。
「ないないないない。姉ちゃんの彼氏とか、今のところ地球がひっくり返ってもあり得ないわ」
「カイリ! 変なこと言わないで!」
カーラが背後で頬を膨らませて抗議する。
「変なこと……」
ウィンはショックを受けたようにガタッと肩を落とし、小さな声で呟いた。自分の純粋な恋心が「変なこと」扱いされた事実に、目に見えて軽く落ち込んでいる。
カイリはそんなウィンの様子を気にする風でもなく、ただ肩をすくめて一歩遠ざかった。
カイリにとってウィンは、技術的には一級品で「いい人」そうではあるが、自分の大切な姉を託すにはあまりにも頼りない男という評価だった。一方のウィンも、カイリが放つ独特の達観した空気と、射抜くような鋭い眼光に、内心で冷や汗を流していた。
ウィンはITの天才であると同時に、筋金入りのヒーローオタクでもあった。彼はその歪んだ情熱と確かな技術を活かし、持ち込んだ特殊繊維を使って、カーラのための特製ヒーローコスチューム制作に没頭し始めた。ミシンの駆動音と、パソコンのシミュレーション音声が夜のアパートに響き渡る。
数時間後。深夜を回った頃、ウィンが「完成した!」と歓声を上げた。自信満々に掲げられた試作一着目を持って、カーラが自室へと着替えに向かう。
しばらくして、カチリとドアが開いた。
「どうかな……ちょっと、スースーするんだけど……」
部屋から出てきたカーラの姿を見た瞬間、ウィンは先ほどの落ち込みも忘れて満足げに鼻の下を伸ばし、「素晴らしい!」と拍手を送った。しかし、リビングの冷蔵庫へ向おうとしていたカイリは、持っていたジュースを本気で吹き出しそうになった。
ウィンの「こだわり」が詰まったそのコスチュームは、驚くほど肌の露出が多く、胸元や太もものラインが際どいカッティングで強調されていた。ヒーローの戦闘服というよりは、どこかの安っぽいコスプレ衣装だ。
「完璧だよ、カーラ! 芸術だ! 美しさと躍動感が完璧に調和している!」
ウィンの絶賛を遮るように、カイリの冷ややかな声がリビングに突き刺さる。
「……姉ちゃん、却下。絶対却下」
「流石の私もそう思うわ……」
カーラも自分の腕や脚を見つめながら、赤面して身を縮めている。
満足げに本人の試着を眺めていたウィンの後ろを、カイリが氷のような視線を送りながら通り過ぎる。すれ違いざま、ウィンの耳だけに聞こえる超低音で、カイリは囁いた。
「……もし、姉ちゃんでエッチなこと考えてんなら。そん時は、僕がウィンを殺すから」
「ひっ……!?」
ウィンは短い悲鳴を上げて凍りついた。冗談には聞こえない、本物の冷徹さがその少年の声にはあった。
カイリは冷蔵庫から新しいジュースの缶を取り出すと、ウィンの怯える顔を一瞥することもなく、そのまま自分の部屋へと戻っていった。
「あの、カーラ……君の弟、本当にいつもあんな感じなの? どこかの暗殺組織の人間じゃないよね?」
「もう、カイリったら大袈裟んだから。あ、ウィン,マントはないの?」
「マントはダサいよ。君の従姉弟(スーパーマン)にも言ってやって」
リビングからはしばらく、そんな噛み合わないコスチューム談義が続いていた。
その後、自室に引きこもったカイリの「あんな露出度の高い服じゃ空気抵抗で飛べないし、防弾にもならない」という冷徹極まりないメモ書きの指摘もあり、ウィンは渋々デザインを修正。数日後、ようやく実用的な防弾性能を備え、胸に「S」の紋章を冠した、あの青と赤の美しいスーツが完成することとなった。
数日後。ウィンの手によって、警察や消防の無線をリアルタイムで傍受し、市内の異常を検知するシステムがアパートに構築された。それにより、カーラの「スーパーガール」としてのヒーロー活動が本格的にスタートした。
ある朝のことだった。
カイリはいつものように達観した様子で、サボり気味の学校へ行く準備をしつつ、アパートの洗濯機から乾燥の終わった洗濯物を取り出していた。
カゴへ移そうとしたその時、妙に重く、ゴワゴワとした感触の布地が手に触れた。
引っ張り出して広げてみる。それは、カーラのヒーロー用マントだった。
その布地の中央、鮮やかな赤色の上に、生々しく焼け焦げた、複数の「銃弾の跡」がくっきりと刻まれていた。繊維が激しく熱で融解し、衝撃で歪んでいる。
「……防弾って、大切なんだなぁ……」
カイリはぽつりと呟いた。
自分の知らないところで、姉が日常を捨てて、命懸けの戦いに身を投じている。その確固たる証拠を目の当たりにし、カイリは複雑な感情が胸の奥で渦巻くのを感じた。誇らしさよりも、圧倒的な「いつか失ってしまうのではないか」という恐怖。カイリは小さくため息をつき、その重いマントをそっとカゴの底に隠した。
しかし、彼ら姉弟の運命を決定づける夜は、唐突にやってきた。
その日の夜、無線システムが強盗事件を検知し、カーラは「ちょっと行ってくるね!」と笑顔でパパッとスーツに着替えてパトロールへと飛び出していった。いつもなら、数十分、長くても1時間足らずで「解決したよ!」と帰ってくるはずだった。
だが、時計の針が深夜の2時を回っても、カーラは帰ってこなかった。
無線システムは静まり返っており、ウィンの端末にも連絡がつかない。不穏な沈黙がリビングを支配していく。
「遅すぎる……。いくら姉ちゃんでも、ただの強盗相手にこんなにかかるわけがない」
ソファに座り、タブレットの画面を睨みつけていたカイリの胸に、かつてない焦燥感が広がっていく。姉貴(アレックス)に連絡すべきか、それともウィンにハッキングさせるべきか。思考を巡らせようとした、その瞬間だった。
頭の芯を直接引っ掻くような、強烈な不快感がカイリを襲った。
「...が、あ……っ!?」
タブレットを床に落とし、カイリは両手でこめかみを押さえた。それは耳から聞こえる音ではなかった。脳の、魂の最も深い場所に、直接響き渡るような、質量を持った「声」――不気味なテレパシーだった。
(……こっちだ……)
地を這うような、冷徹で、悍ましい響き。
(……目覚めを待つ者よ……)
「なんだ、これ……っ!?」
カイリは息を荒くしながら、自室の鏡を見た。衣服の下で、あの由来不明のクリスタル状のペンダントが、まるで呼吸するように禍々しい黒紫色の光を放って明滅している。
その光に吸い寄せられるように、あるいは脳内の声に肉体を突き動かされるように、カイリは理性の制止を振り切って、アパートの玄関を飛び出した。
夜のストリートは冷え切っていた。カイリはアパートの駐輪場に放置されていた、古いマウンテンバイクに飛び乗ると、ペダルを全力で漕ぎ出した。
脳裏に浮かぶ、明確な「座標」に向かって、夜風を切り裂きながら突き進む。
辿り着いたのは、ナショナル・シティの最果て。霧が濃く立ち込め、潮の匂いと錆びた鉄の臭気が混ざり合う、静寂に包まれた広大な港――コンテナ倉庫街だった。
キィッ、と不快なブレーキ音を響かせて自転車を乗り捨て、カイリは巨大なコンテナが幾重にも積み上げられた迷路の中へと足を踏み入れた。街の明かりは届かず、ただ等間隔に設置された街灯が、濃い霧を白くぼんやりと照らしているだけだ。
「誰もいない……。僕、何をやってるんだ?」
自分の奇妙な行動に困惑し、引き返そうとした、その時だった。
カッ!!
霧の彼方から、稲妻のような鋭い、破壊的な紫色の光線が放たれ、カイリのわずか数十センチ手前の地面に直撃した。
ドバァッ!! と凄まじい爆発音とともに、アスファルトの破片と猛烈な熱風が巻き起こり、カイリは地面を激しく転がった。
「うわっ!? なんなんだ!? アイツか?」
煤まみれになりながら位置を立て直し、カイリは光線が放たれた上空を見上げた。
霧を引き裂き、夜空に音もなく浮遊している「それ」が見えた。
人間ではない。ましてや、カーラのような美しい姿でもない。
全身が爬虫類のような、あるいは硬質な外殻のような、悍ましい漆黒の皮膚に覆われている。不気味に吊り上がった一対の眼が、冷酷な光を湛えて少年を見下ろしていた。それは、この地球の生態系には絶対に存在し得ない、明らかな「外星人」だった。
「お前は誰だ!?」
カイリは恐怖を鋭い眼光で押し殺し、声を張り上げた。
宇宙人は、感情の起伏を一切感じさせない、地鳴りのような低い声で、自らの名を告げた。
「……ベムラー……」
その名がコンテナ街に響き渡った直後、ベムラーは容赦なくその両手から、禍々しい紫色の光弾を次々に放ち始めた。
「しまっ……!」
カイリは脱兎のごとく走り出した。
ドゴォン! バチバチバチッ!!
コンテナの壁面に光弾が直撃するたび、厚い鉄板が紙細工のように吹き飛び、凄まじい火花と金属片が豪雨のようにカイリの背中に降り注ぐ。ただひたすらに命を繋ぐために逃げ惑う。
しかし、宇宙の脅威は少年の足の速さなど容易に凌駕する。
「あ……」
行く手を阻むように、霧の向こうからベムラーが音もなく着地し、目の前に降り立った。逃げ場は、ない。
「こなくそ!」
カイリは覚悟を決め、足元に転がっていた工業用の重い鉄パイプを両手で拾い上げた。そして、限界の力を振り絞り、ベムラーの顔面に向けて渾身の力で投げつけた。
ブンッ、と空気を切り裂いて飛んだ鉄パイプ。
しかし、ベムラーはそれを避けることすらしない。迫る鉄の塊を、ただ片手で平然と受け止めた。それどころか、ベムラーが指先にわずかに力を込めると、頑丈なはずの厚い鉄パイプが、まるで熱した飴細工のように、あらぬ方向へぐにゃりとへし折られてしまった。
絶望が脳裏をよぎった瞬間、ベムラーの掌が、ドン、とカイリの胸に押し当てられた。
ただの軽い押し出し。しかし、そこに込められた質量は、ダンプカーに正面衝突されたような衝撃だった。
ドガァァァンッ!!
カイリの身体は砲弾のように真後ろへと吹き飛び、背後にあった巨大なコンテナの壁面に激突した。衝撃で鉄製のコンテナが内側へ大きくひしゃげ、凄まじい金属音が夜の港に木霊する。
「がっ……は……っ」
肺の空気をすべて吐き出し、カイリは地面に崩れ落ちた。全身の骨が砕けたかのような激痛。指一本すら動かすことができない。
ベムラーは無慈悲に歩み寄ると、その巨大な足で、倒れるカイリの胸を容赦なく押さえつけ、地面へと圧着した。メキメキと、肋骨が悲鳴を上げる。
そして、ベムラーの手のひらに、最大級の紫色の光弾が収束していく。その眩い破壊の光が、カイリの網膜を白く焼き焦がす。
ドシュウッ!!
至近距離から放たれた光弾が、容赦なくカイリの胸を貫いた。
「ガハッ……!」
口から大量の鮮血が溢れ出る。
心臓が破壊され、身体の全機能が停止していくのが分かった。視界が急速に白濁し、すべての感覚が遠のいていく。冷たいコンテナ街の地面の上で、意識は静かに深い闇の底へと沈んでいった。
完全なる死。静寂。
しかし、その死の淵、光も音もない絶対的な虚無の領域で、カイリの魂は「黒と赤の混ざり合う何か」に包まれていくのを感じていた。
夢で見た、あの悪魔の記憶。
絶望の淵で、少年の因子が、ついにその限界の引き金を引いた。
ピコン……
静まり返った闇の中に、どこか懐かしい、しかし極めて電子的な「警告音」が小さく鳴り響いた。
ピコン………ピコン………
ベムラーが、足元の死体から足を離し、背を向けようとした、その時だった。
ピコン、ピコンピコンピコンピコンピコン……!!
凄まじい速度で警告音が連打され、周囲の空間が微かに振動し始める。
ベムラーが驚愕して振り返った瞬間、心停止し、完全に絶命していたはずのカイリの目が、カッと見開かれた。
その瞳は、もはや人間のそれではない。青く、鋭く、超然とした輝きを放っている。
ドクンッ!!
カイリの胸のペンダントから、爆発的な黒紫色のエネルギーが噴出した。それは肉体を包み込むと、皮膚の表面で分子構造を組み替えるように、急速に定着していく。
細胞の隅々にまで行き渡るナノマテリアルのような駆動音。次の瞬間、彼の衣服は消え去り、その全身を、硬質でありながら完璧に身体の一部として機能する、流線型の「パワードスーツ」が完全に覆い尽くしていた。
赤と黒の不気味な幾何学模様が走る銀色の装甲。
カイリの身体が、地面からふわりと浮遊した。
胸の中央。そこに埋め込まれたクリスタル――カラータイマーが、赤く激しく点滅している。その点滅は、死を告げるものではなく、莫大なエネルギーが起動した証拠だった。光はやがて、霧に包まれたコンテナ街全体を昼間のように照らし出すほどの、眩い、圧倒的な輝きへと変わっていく。
光の中から現れたのは、等身大の鎧を纏った、神話の戦士。
ベムラーはその姿を見上げ、放とうとしていた攻撃を完全に止め、感嘆し、見惚れるように立ち尽くした。
「……おお、まさしく……ウルトラマン……」
赤と黒のオーラを陽炎のように身にまとい、青く輝く瞳で、カイリは眼下の黒い外星人を見据える。かつてない力が、破壊の衝動と共に全身を駆け巡っていた。
私は企画をGeminiに提案し書いてもらってます。AIなので誤字脱字等ないとは思いますがご報告いただけると嬉しいです。