ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの命運を懸けた作戦は、キャットコー・メディアの放送局の一室で着々と進められていた。しかし、DEOのハンク・ジョーンズ長官は、この土壇場での試みに未だ拭いきれない疑問を抱いていた。
「本当にその『希望』とやらで、街全体の洗脳が解けるというのか? ロード」
腕を組み、険しい表情で問いかけるハンクに対し、マックスウェル・ロードは自信に満ちた笑みを浮かべて端末を操作した。
「論理的な科学の力さ、長官。ノンたちの仕掛けた『ミリアド』は、人間の脳の扁桃体と前帯状皮質の連携を完全に遮断している。人が希望を感じる機能を物理的に殺すことで、意思を奪い、人形として操っているんだ。ならば、その部位に向けて『希望』という感情を急激に増幅させる信号を直接叩き込んでやればいい。連携が戻れば、洗脳の鎖は一瞬で弾け飛ぶ」
理論は完璧だった。あとは、ナショナル・シティの何百万という人々の心を震わせる「希望の象徴」が、その言葉を届けるだけだった。
すべての準備が整い、カーラは静かにカメラの前に座った。
配信が開始されると同時に、ナショナル・シティ中のあらゆるスマートフォンやモニターへ、希望の象徴である『Sマーク』の映像が送り届けられる。そして、スーパーガールは優しい、しかしどこまでも力強い声でスピーチを始めた。
「ナショナル・シティの皆さん、スーパーガールです。私の声が届いていますか?
私たちの街が攻撃されました。母親、父親、子供、友人、隣人――すべての人たちが、突然、史上最大の悪に襲われたのです。皆さんは意思を奪われました。自分自身の個性も、魂も、人間性そのものさえも。
こんな身を切られるような攻撃を受けたら、人は誰しも打ちのめされてしまいます。絶望し、気力を失い、自分を見失ってしまう。その苦しみは、痛いほどよく分かります。
私は子供の頃、すべてを失いました。この地球に降り立った時は、ただ悲しくて、孤独だった。でも、気づいたのです。この世界は温かい愛に満ちていて、人々はいつも助け合っているのだと。私はこれまで、ずっと皆さんに支えられてきました。今の私があるのは、ここにいる皆さんのおかげです。
私にスーパーガールという使命を与え、想像もしなかったほど強くしてくれた皆さんが、私は大好きです。
皆さんの中には、決して消せない明かりがあるはずです。それは、何があっても折れない不屈の魂です。どうか、皆さんの力を貸してください。希望を取り戻して。希望を。
人は誰しも、誰かのヒーローになれる。希望を。たとえ魂を滅ぼされそうになっても、立ち向かえば必ず打ち勝てる。希望を。かつてあなたに背を向けた人だって、本当に肝心な時は手を差し伸べてくれる。希望を。
愛する人には、いつかまた会えます。たとえ、もうこの世界にいなかったとしても。」
その瞬間、ナショナル・シティを満たしていた不快なノイズが完全に霧散した。
アレックスの目から涙がこぼれ落ち、街中の人々がハッと我に返ったように足を止める。互いの顔を見合わせ、自分たちの名前を呼び合う声が街のあちこちから湧き上がった。ミリアドの精神支配は、スーパーガールの放った純然たる希望の光によって、完全に打ち破られたのだ。
ひとまずの危機を脱し、DEO本部にはいつもの活気が戻りつつあった。しかし、状況は決して楽観視できるものではなかった。
ミリアドの後遺症により、最強の味方であるスーパーマンは未だに意識不明のままであり、ハンク長官も先んじてインディゴから受けた深い傷が癒えず、ベッドから起き上がることすらままならない。
そんな満身創痍の組織へ、ルーシー・レインを心配して父親のレイン将軍が乗り込んできた。将軍は冷徹な目で病床のハンクを見下ろし、周囲の部下たちに言い放つ。
「このエイリアンを直ちに拘束しておけ」
「待って将軍! 彼は街の人々を救ったヒーローなのよ!」
ルーシーが色をなして反発するが、レイン将軍は「法と秩序の厳守が私の仕事だ」と一蹴し、聞く耳を持たずに去っていく。ルーシーは悔しさに唇を噛み、ハンクに向かって深く頭を下げた。
「長官、ごめんなさい……父のあんな勝手なやり方……」
「気にするな、ルーシー」
ハンクは痛む身体を横たえたまま、穏やかに首を振った。
「あれは娘を想うがゆえの行動であり、軍人として当然の決断だ。私は将軍を責めようとは思わんよ」
その器の大きさにルーシーが救われたような表情を見せる中、部屋の隅でイライザが、浮かない顔をしていたアレックスの肩をそっと叩いた。
「アレックス、少し聞きたいことがあるの。あなたとジョンが突然、揃って家に来たでしょう? 本当は何か別の理由があったんじゃないの?」
母親の鋭い直感に、アレックスはカーラ、そしてカイリと視線を交わした。隠し通せることではない。3人は意を決し、イライザの手を優しく握った。
「お母さん、落ち着いて聞いて。……お父さん、ジェレマイアは生きているかもしれないの……」
「そんなの、あり得ないわ……だってあの時……」
突然の衝撃的な告白に、イライザは言葉を失い、目に見えて動揺し始める。カーラとアレックスは彼女の身体を支えるように強く抱きしめ、カイリもまた力強く頷いた。
「カドマスという研究所に囚われている形跡を見つけたんだ。絶対に生きて、僕たちの手でパパを連れ戻すと約束するよ」
その決意の言葉に、イライザは涙を流しながら何度も深く頷くのだった。
家族の絆を確かめ合ったのも束の間、司令室にロードが血相を変えて飛び込んできた。その表情には、これまでにない焦燥感が張り付いている。
「喜んでいる暇はなくなったぞ。驚くべき事態だ」
ロードがメインモニターに不穏な波形を映し出す。
「私たちが洗脳を解除した直後から、ミリアドの出力信号が10倍に増幅され、今もなお急激に上昇し続けている。このまま出力がピークに達すれば、ナショナル・シティ、いや地球上のすべての人間の頭部が破裂する。ノンたちは人間を支配することを諦め、今度は全人類を根絶やしにする気に切り替えたんだ」
DEO本部に緊張が走る。モニターに表示されたカウントダウンの数字は、非情な現実を突きつけていた。
「残された時間は、たったの4時間だ」
即座に発信源の特定が急がれる中、ロードは部屋を出ようとしたカーラの腕を掴み、あえて冷酷な現実を突きつけるように忠告を始めた。
「待つんだ、スーパーガール。今までの戦いには、DEOや周りの人間のバックアップがあった。だが今は違う。スーパーマンは昏睡状態、ジョンは重傷、DEOの隊員たちは脱獄囚の対応で手一杯だ。それに、普通の人間は発信源に近づいただけで脳を破壊される。君はたった一人で、ノンとインディゴという二大脅威に立ち向かわなければならないんだぞ」
死地へ赴こうとする姉の背中を見つめ、カイリが一歩前に出た。
「一人じゃない。僕がいる」
「ウルトラマン……」
ロードはカイリの赤と黒、核心となる銀のスーツを見つめ、低く唸った。
「確かにウルトラマンの力があれば戦力にはなる。だが、相手の本拠地へ乗り込むんだ。命の保証なんてどこにもない。生きて帰ってこられる可能性は極めて低い、最悪のリスクを背負う覚悟をしていくんだな」
「最初からそのつもりだよ」
カイリはヘッドギアの奥で不敵に笑ってみせた。
まもなく、ロードの執念の解析により、ミリアドの動力源である『オメガヘドロン』から放たれる信号の源が、ここから800キロ北東に位置するネバダ州の放棄された要塞『フォート・ロズ』であることが突き止められた。
かつてフォート・ロズが地球に墜落した際、軍がその存在を隠蔽するためステルスモードを起動させ、一帯を核実験場と称して立ち入り禁止にしていたのだ。ノンたちにとっては、これ以上ない完璧な潜伏先だった。
「すぐに向かいましょう、カイリ」
カーラが飛び立とうとしたその時、痛む脇腹を押さえながら、ハンクが壁を伝って歩いてきた。
「待て……私も行く。この身体でも、まだ盾くらいにはなれる」
「駄目だよ、長官」
その一歩を、ウルトラマンが腕を出して静止した。
「そんな怪我じゃ足手まといだ。ここは僕が、姉ちゃんと一緒に行く」
ハンクは悔しげに歯を食いしばったが、カイリの静かながらも絶対的な決意の眼光に圧され、ゆっくりと拳を下ろした。カーラは首から下げていた、実の母親の形見である大切なペンダントを外し、アレックスの手にそっと握らせる。
「預かっていて、アレックス。必ず戻るから」
言葉少なき決別を交わし、スーパーガールとウルトラマンの二人は、ソニックブームを巻き起こしながらネバダの荒野へと飛び去っていった。
不毛の砂漠に佇む巨大な要塞、フォート・ロズ。
二人が着地すると同時に、まるですべての動向を予期していたかのように、正面のハッチからノンとインディゴが姿を現した。
ノンは冷酷な笑みを浮かべ、その手に持っていた歪な結晶体――オメガヘドロンを無造作にカーラの足元へ放り投げた。
「フォート・ロズそのものの破壊は不可能だ。すでにミリアドの動力源は、この要塞のシステムへと完全に切り替えた。それまで使っていたオメガヘドロンなど、もう用済みのガラクタに過ぎん」
時を同じくして、世界中の人々が急激な頭痛に襲われ、地面にのたうち回り始めていた。猶予は完全に消滅した。
「いくぞ、ノン!!」
カイリの咆哮とともに、地球の運命を決める最終決戦が幕を開けた。
「ブリキ男……いやウルトラマン! 前回の借りを返してやる!!」
インディゴが金属性の叫び声を上げると同時に、その身体がナノマシンの流動によって青く禍々しい無数の触手へと変形した。それは意思を持つ大蛇のように、地を這い空を裂く猛烈な速度でウルトラマンへと襲いかかる。
ウルトラマンは超高速の格闘戦でこれに応戦。迫り来る触手を鋭い手刀で弾き飛ばし、懐に潜り込もうとするが、インディゴの触手は全方位からしなって包囲網を狭めていく。拳と触手が激突するたびに、ソニックブームが巻き起こり、ネバダの砂漠がすり鉢状に激しく爆散していった。
ウルトラマンの神速のストレートがインディゴの顔面を捉えたかに見えた。しかし、インディゴの狙いは最初からその先、狡猾そのものだった。彼女はわざとウルトラマンの猛攻を正面から受けて肉体を半流動化させ、ウルトラマンの体勢を前に崩した一瞬の隙を逃さなかった。
「死になさい!」
インディゴの右腕が、瞬時に分子レベルで高速振動する超硬質のサイバーブレードへと変形。狙うはただ一点。かつてアレックスとの私闘で負わされ、未だ完全に修復しきっていなかったウルトラマンの右肩の装甲の傷口だった。ブレードは寸分の狂いもなく、その亀裂へと正確に突き刺さった。
「ぐっ……あぁぁぁァァッ!!」
装甲の隙間を容赦なく抉られ、チタン合金のフレームを伝って生身の肉体を直接灼くような、凄まじい激痛がカイリの脳を突き抜ける。内部システムが異常警報を鳴り響かせ、視界が赤く明滅する。インディゴは狂気に満ちた笑みを浮かべ、確実にとどめを刺すべく、ブレードをさらに深く、力任せに押し込んでいった。
一方、スーパーガールもまた、ノンとの退路のない絶望的な死闘を繰り広げていた。
「地球は私たちの家よ! あなたたちに渡さない!」
「愚かな小娘が。ならばこの星もろとも灰になれ!」
互いに一歩も引かぬ突撃から、至近距離で睨み合う二人の瞳が激しく発光する。次の瞬間、限界出力のヒート・ビジョンが放たれ、至近距離で真っ向から衝突した。
カーラの放つ正義の鮮烈な青白い熱線と、ノンの放つ憎悪に満ちた邪悪な深紅の光線。二つの超エネルギーがぶつかり合う中心点は、凄まじいプラズマの球体を形成し、その熱量によってネバダの硬い岩盤が一瞬でドロドロの白熱するマグマへと融解していく。放射される熱波だけで周囲の空間が蜃気楼のように歪み、大気がパチパチと弾けた。
ノンはクリプトン人の戦士としての圧倒的な戦闘経験と剛力を誇り、じわじわと光線の衝突点をカーラ側へと押し進めていく。カーラの足元が衝撃で削られ、彼女の身体は後方へと数センチずつ押し込まれていった。膝が震え、全力を出すカーラの皮膚から汗が蒸発していく。
「これでお終いだ、スーパーガール! アストラと同じ場所に送ってやる!」
ノンの破壊光線が膨れ上がり、今にもカーラを完全に呑み込もうとしたその時。
背後で肩を貫かれていたウルトラマンの瞳に、絶望を拒絶する限界を超えた闘志の炎が爆発した。
「調子に乗るなよ……! これが、僕たちの絆の力だ!」
カイリは肉体が引き裂かれるような激痛を、精神力だけで強引にねじ伏せた。そして、自らの右肩に突き刺さっているインディゴのブレードを、血に染まった左手でガチりと掴み、力任せに固定した。ナノマシンの結合をロックされ、引き抜くことも変形して逃げることもできなくなったインディゴの顔が、初めて恐怖に歪む。
「な、なんですって……狂ったの!? 離しなさい!」
「終わりだ、サイボーグ女!」
ウルトラマンは右腕を天に掲げ、ウルトラブレスレットの全エネルギーをその掌へと極限まで収束させた。パチパチと激しい電光を放ちながら、手元に形成されたのは、眩い光を放ち超高速で回転する光の鋸歯。
「ハァァァッ――!!」
至近距離から、全体重を乗せて振り抜かれた『八つ裂き光輪』。
キィィィンという鼓膜を裂くような回転音が響いた瞬間、光の刃はインディゴの最強度を誇るパワードボディを斜め一閃に引き裂いた。超硬質ブレードも、彼女の胴体も、光の刃の前には紙同然だった。
「が、はっ……あ、あり得ない……この私が、人間に……!」
インディゴの身体は上下真っ二つに泣き別れ、激しく火花と内部のオイルを散らしながら、砂漠の砂へと崩れ落ちていった。
インディゴを撃破したその瞬間、ウルトラマンは休むことなく、満身創痍の身体を爆発的な推進力で跳ね上げた。ノンのヒート・ビジョンに押し負け、視界が遮られかけていたカーラの背後へと瞬時に回り込む。
カイリは自身の両手を、震えるカーラの細い肩へとそっと添えた。そして、ウルトラマンとしてのすべての残存エネルギー、魂の輝き、およびウルトラブレスレットに秘められた超エネルギーのすべてを、カーラの背中を通じて彼女の体内へと一気に注ぎ込んだ。
「姉ちゃん、二人の力を合わせるぞ!!」
「――お願い、カイリ!」
カーラの胸中に渦巻く「地球を守りたい」という純粋な祈りと、ウルトラマンの放つ宇宙の光のエネルギーが、彼女の細胞内で完全に融合した。
カーラの瞳から放たれる光線は、それまでの青白さを超え、虹色とも言える様々な色彩が激しく明滅し混ざり合う、神々しいまでの極大光線――『ウルトラヒート・ビジョン』へと変貌を遂げた。出力はノンのそれを遥かに凌駕する。
ドゴォォォォォン!!!
ネバダの荒野全体を震撼させるほどの轟音と共に放たれたその濁流は、ノンの深紅のビジョンを一瞬で霧散させながら押し返し、圧倒的な光の質量でノンの顔面を完全に呑み込んだ。
「グアァァァッ! 私の目が、目がぁぁぁ――ッ!!」
ノンは顔を両手で押さえ、天を仰いで絶叫した。衣服は焼けただれ、最強の戦士としての威容はどこにもなく、そのまま地響きを立ててその場に崩れ落ち、完全に沈黙した。
激しい爆煙とマグマの熱気が立ち込める中、ついに二人はノンとインディゴを打ち破り、勝利を収めた。しかし、本当の絶望は、この戦いの直後に待っていたのだった。
「はは……ハハハ……無駄よ、遅かったわね」
上半身だけになり、内部の電子回路を激しく剥き出しにしたインディゴが、不気味なショート音を立てながら狂ったように笑った。彼女は最期の力を振り絞って要塞のメイン端末へと侵入し、システムを完全にロックしていた。
「ミリアドの強制終了はシステムごとロックしたわ……。それに、フォート・ロズの飛行機能も完全に破壊した……。この要塞はもう、ここから動かせない。地球は……人類は、このまま全滅よ……!」
それだけを言い残すと、インディゴの瞳から完全に光が消え失せ、今度こそ完全に息絶えた。
カウントダウンのタイマーは無情に刻まれていく。もはやシステムを内部から止める術はない。ミリアドの狂った電波を地球から引き剥がすには、この数万トンに及ぶ巨大な要塞フォート・ロズそのものを、自力で宇宙空間まで持ち上げて運ぶ以外に道は残されていなかった。
しかし、大気圏外へ生身で飛び出せば、二度と地球へは戻れない。それは確実な死を意味していた。
カーラはその過酷な運命を瞬時に受け入れ、覚悟を決めた。アレックスに引き止められるのを恐れ、出発前に別れを告げていなかった彼女は、内蔵通信を開き、これが最後となるメッセージをDEO本部にいる姉へと繋いだ。
「アレックス、聞こえる? 地球を守るのが私の使命。今こそ、それを果たす時が来たわ。……その前に、私の言うことを聞いて」
モニター越しのアレックスが、悲痛な表情で画面にすがりつく。
「約束して。ジェレマイアに伝えてほしいの。あなたからもらった眼鏡を、私はずっと大切にかけていたって。ジェレマイアとお母さんのおかげで、私は自分の故郷の星にいるみたいに、本当に幸せに暮らせたわ」
「カーラ、何をする気!? 止めなさい、カーラ!」
「私が今まで人助けを頑張れたのはね、アレックス、あなたがいつも一生懸命だったから。それを見習ったの。……だから、今度はあなた自身の愛する人を見つけて、幸せになって。もう、私の面倒を見るために、自分の人生を我慢しなくていいのよ。約束して、もう時間がないの」
「お願いだから戻ってきて、カーラ!」
「……もう行くわ。愛してる、アレックス」
通信を一方的に切断し、カーラはフォート・ロズの底面へと回り込んだ。その巨大な質量を全身で支え、一気に上空へと飛び上がろうとした、その時だった。
過酷な激戦による疲弊と、先ほどの戦いで全出力を出し切ったカーラの身体は、すでに限界を迎えていた。重力に抗おうとした瞬間に視界が急速に狭まり、彼女の細い腕から力が抜けかける。
バタリ、と要塞の底面の地面に、スーパーガールは意識を失ってその場に倒れ込んでしまった。
「――そこまでだ、姉ちゃん」
倒れるカーラの身体を、地上で優しく抱きとめたのは、ウルトラマンだった。カイリは気絶したカーラを要塞の天面(安全な場所)へとそっと寝かせると、自らがフォート・ロズの推進力をすべて引き受けるように、再び底面へと潜り込んだ。
「これは、僕の役目だ」
左腕のウルトラブレスレットが、かつてないほどの激しい輝きを放ち、スーツの限界出力を強引に引き上げる。キィィィンという金属生命体の咆哮のような音が響き渡り、ウルトラマンの力によってフォート・ロズがミシミシと音を立てて浮き上がった。
そのまま猛烈な速度で上昇し、大気圏を突破して、漆黒の宇宙空間へと押し上げられていく。
「じゃあね、姉ちゃん。……みんなをよろしく」
「待って……カイリ……っ!」
宇宙の境界線へと達する直前、微かに意識を取り戻したカーラが、天空へと消えていく要塞と、弟の背中を見つめながら、届かぬ叫びを上げる。
宇宙空間にまで到達したフォート・ロズからは、地球を滅ぼすはずだったミリアドの電波が完全に遮断され、地上の一網打尽の危機は去った。しかし、それと引き換えに、すべてのエネルギーを使い果たしたウルトラマンのスーツからは光が消え、冷たい鉄の塊へと戻っていく。
カイリは重力も空気もない、絶対零度の孤独な宇宙空間を、ただゆっくりと漂うことしかできなかった。
意識が遠のいていく。このまま宇宙の藻屑となって消え果てるのだろうか。
(……これで、良かったんだよな……)
そう思った瞬間、漆黒の世界の向こうから、一つの小さなDEOの宇宙船が猛烈な速度で近づいてくるのが見えた。操縦席には必死にレバーを握るアレックスの姿があり、そのすぐ隣を、スーパーガールが必死に手を伸ばしながら飛んでくる。
そして、その二人の背後から、宇宙の闇をすべて塗り替えるほどの、圧倒的で、温かな「光」が溢れ出した。
それは、巨大な銀色の身体に、鮮烈な赤と青のライン、そして胸元に輝く金のプロテクターを輝かせた、伝説の巨人――ウルトラマンダイナの姿だった。
巨人は優しく大きな両手で、漂うカイリと、彼を救おうとしていたカーラたちを包み込み、光の防壁となって包摂すると、そのまま地上へと向けて優しく送り返した。
カイリの脳内に、懐かしく、そしていつもよりどこか厳かな相棒の声が響き渡る。
『自分の限界を超えた先に、初めて見えるものがある。……君の本当の戦いはまだ始まっちゃいない。これから始まるんだ』
その言葉を残し、まばゆい光の巨人は、宇宙の彼方へと静かに消え去っていった。
「……カイリ! カイリ、目が覚めたのね!?」
次に視界が開けた時、カイリはDEO本部の医療カプセルのベッドの上にいた。
目の前には、涙で目を真っ赤に腫らしたカーラとアレックスが、今にも壊れそうなものを扱うように、カイリの顔を覗き込んでいる。
「……あれ、僕、生きてる?」
「当たり前でしょう、この大馬鹿者!」
アレックスが怒鳴りながらも、カイリの胸に顔を埋めて激しく泣き崩れた。カーラもその上から二人を抱きしめる。
「あなたたちは世界を救ったわ。そして、私はあなたたちを救い出した。……我が家のヒーローは、これでちゃんと3人揃ったのよ」
アレックスの言葉に、カイリは肩の痛みを堪えながら、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「面目躍如ってやつ? 最高の姉貴たちのおかげだよ。それにあのウルトラマン……ダイナにも感謝しとかないとね……」
3人でその無事と勝利の喜びを分かち合った後、カイリがカーラに肩を貸してもらいながら司令室へと足を踏み入れると、室内にいた全員から地鳴りのような拍手と大歓声が巻き起こった。
ルーシーも、ウィンも、性能を称えるレイン将軍の部下たちまでもが、世界を救ったスーパーガールとウルトラマンを最大限の敬意で迎える。さらに、ハンク長官のDEO指揮官への正式な復帰も特例で認められ、本部内はこれまでにない最高の熱気に包まれていた。
失礼いたしました!カイリが装着しているのは「等身大の強化スーツ(パワードスーツ)」ですので、ビル群を見下ろすような「巨大な姿」ではなく、**「等身大(人間サイズ)のヒーロー」**ですね。
ジェームズとウィンの驚きのセリフや前後の描写を、等身大のウルトラマンスーツに合わせた正しい表現に修正しました。
その日の夜、カーラのアパートは、これまでにないほどの笑顔と温かい熱気に包まれていた。世界を救ったささやかな、しかしこれ以上ないほど特別な、お祝いのディナーの準備が進められていた。
キッチンからは、トントン、というどこかおぼつかない包丁の音が響いている。そこに立っていたのは、なぜか場違いなほど大きなフリルのついたエプロンを身に纏い、眉間に深い皺を寄せて真剣な顔で人参と格闘するハンク長官の姿だった。
「ちょっと長官、300年も生きてて、まともに包丁も使えないの!? 乱切りって言ったのに、野菜のサイズが完全にバラバラなんだけど!」
隣で手際よく鍋をかき混ぜていたカイリが、呆れたようにハンクの手元を指差す。ハンクはバツが悪そうに咳払いをすると、包丁を握ったまま大真面目な顔で反論した。
「やかましい、カイリ。私は火星人だぞ? 300年の大半をこの地球の裏側で生きてきたが、料理などしたことはない。それに、地球の根菜類の硬さを少々侮っていたのだ。火星の植物はもっと柔らかい」
「はいはい、言い訳しないの! ほら、手元が止まってる! 均等に切ってよね、均等に!」
「……命令するな、一応私はお前の長官だぞ……」
普段のDEOでは絶対に見られない、カイリに散々怒られながら不器用にご馳走を作るハンクの姿に、リビングからはウィンやイライザたちの爆笑と笑い声が絶え間なく響いていた。アレックスもビールを片手に「長官、DEOの予算削られたくなかったら頑張ってね」とヤジを飛ばしている。
そんな中、リビングの喧騒から少し離れ、ジェームズにそっと手招きされて奥の部屋へと向かったカーラは、彼から丁寧にラッピングされた平たいプレゼントを受け取っていた。
「開けてみて、カーラ。君に一番に渡したかったんだ」
カーラがリボンを解き、中から現れたのは、美しく額装された一枚のモノクロ写真だった。それは、夕暮れ時のナショナル・シティの空を、スーパーガールとして凛々しく、そしてどこまでも自由に向かって飛ぶ、彼女の最も輝かしい一瞬を完璧に捉えたものだった。写真の中の彼女は、まるで本物の希望そのもののように光を放っている。
「いつも君を見守っているよ、カーラ。地上から、カメラのレンズ越しに、そして……一人の男としてね」
ジェームズの真っ直ぐな瞳に見つめられ、カーラは胸がいっぱいになり、愛おしそうに微笑んだ。
「ありがとう、ジェームズ。世界で一番素敵なプレゼントよ……」
二人は自然と引き寄せられるように、静かに唇を重ねた。幾多のすれ違いや危機、互いを想うがゆえの葛藤という紆余曲折を経て、ようやく二人の心が本当の意味で固く結ばれた瞬間だった。
部屋に戻ると、すでにテーブルの上にはハンクとカイリが(紆余曲折を経て)完成させた豪華な料理が並び、皆がグラスを片手に主役の登場を待ち構えていた。
「主役のお出ましだ!」とウィンがはしゃぐ中、シャンパンのボトルを手にしたカイリが、嬉そうに自分のグラスに並々と注ごうとした、その瞬間だった。
「はい、没収」
シュバッ、という風切り音と共に、イライザ、カーラ、ハンク、アレックスの4人の手が驚異的な連携で同時に伸び、カイリのグラスとボトルが鮮やかに奪い去られた。あまりのスピードに、ボトルを持っていたカイリの手は空を切っている。
「えっ、ちょっと待ってなんで!? 僕も世界を救った超一級のヒーローなんだけど!?」
納得がいかないとばかりに声を裏返らせるカイリに、イライザがフッと鼻で笑い、腰に手を当てて鋭い、しかし母親としての温かい視線を向けた。
「カイリ、以前こっそりお酒飲んだでしょう? 悪いけど、そこのウィンさんから全部聴き出しているわよ」
「ぶっ――!?」
飛び火したウィンが盛大にソファーでガタついた。カイリが裏切り者を見る目でウィンを睨みつけるが、ウィンは「ごめんカイリ、お母さまの尋問スキルはDEO以上だったんだ……!」と両手を合わせて必死に気まずそうに目を逸らした。
さらに、カーラとアレックスがカイリの左右の背後から、逃げ道を塞ぐように一歩前へ出る。その顔には、一分の隙もない満面の「恐ろしい笑顔」が張り付いていた。
「それにね、カイリ? ウルトラマンとして今回どれだけ無茶をして、どれだけ危険な目に遭ったか、まだお母さんにちゃんとお話しして報告してないわよね? 右肩の怪我のことも、大気圏外へ飛び出そうとしたことも、ね?」
「え、あ、いや、それは……その、姉ちゃんたち、顔が怖いんだけど……! 長官、助けて!」
助けを求められたハンクは、すっと視線を天井に向けて口を開いた。
「イライザの言う通りだ。未成年、かつ負傷兵の飲酒はDEOの規律としても認めん。大人しくジュースを飲んでいろ」
「長官まで!!」
その完璧なコントのようなやり取りを、正面のソファーから見ていたジェームズとウィンは、手にしたグラスを持ったまま固まっていた。あまりの衝撃に、文字通り顎が外れそうなほど驚愕し、目を見開いている。
「……ま、待て。今の会話の流れからすると……ということは、あの街を何度も救って、ノンたちと戦っていたあの銀色の『ウルトラマン』は……ずっと、目の前にいるカイリだったのか!?」
ジェームズが普段の冷静さを完全に失い、椅子から立ち上がりながら叫んだ。ウィンもまた、自分の頭を抱えながら大混乱している。
「おいおいおい! 僕の親友の、あのちょっと生意気な弟までもが、あのハイテクスーツを纏って戦うスーパーヒーローだったなんて、聞いてないぞ!? カーラがスーパーガールで、長官が火星人で、カイリがウルトラマン!? なんだこのアパート、世界のパワーバランスがおかしくなるよ!?」
二人のあまりの狼狽ぶりに、カイリは頭をボリボリと掻きながら、ジュースのグラスを持って照れくさそうに笑った。
「あ、言ってなかったっけ? まぁ、いろいろ大人の事情ってやつだよ」
「大人の事情で片付けるなーー!!」
ウィンの絶開発が響き渡り、それをきっかけに、リビングは割れんばかりの笑い声と驚きの声で満たされた。どんなに過酷な戦いが終わろうとも、ここには変わらない「我が家」の温かさがある。
そんな賑やかで愛おしい家族の光景を愛おしそうに見渡しながら、カーラは晴れやかな笑顔でグラスを高く掲げた。
「この素晴らしい家族に、乗り越えた試練に、そして――私たちの愛に。乾杯!」
「「乾杯!!!」」
カチン、とグラスの触れ合う心地よい音が重なり、全員の顔が最高の笑顔で溢れた。地球に本当の平和が訪れたことを、誰もが確信した、まさにその時だった。
――ズドオォォォォォン!!!!!
突然、建物の床と壁、そして窓ガラス全体を激しく震わせるような、地鳴りを伴う凄まじい大爆発の音がナショナル・シティの夜空に轟いた。
その衝撃でテーブルの上のグラスが激しく揺れ、せっかくのご馳走が波打つ。
「何事だ!?」
ハンクが即座に戦士の目に戻り、エプロンを乱暴に脱ぎ捨てて窓へと駆け寄る。一同も笑顔を消し、慌てて窓から外の夜空を伺った。
はるか上空、夜空の向こうから、大気を激しく摩擦して真っ赤な炎と濃煙を不気味に噴き上げながら、巨大な流星のような「何か」が、街の中心部にある公園へ向けて超高速で落下していくのが見えた。夜空がその炎によって、不自然なほど赤く染まっていく。
「お祝いはここまでみたいね。行くわよ、ジョン、カイリ!」
「了解だ」
「おっけー、今度こそ僕の出番だね!」
一瞬にして世界の守護者としての顔に戻った3人は、アパートの窓を蹴って、光の尾を引きながら夜の街へとダイブした。
現場である公園には、激しい白煙と激痛を伴うほどの熱気が渦巻き、周囲の木々はなぎ倒されていた。中心にできた巨大なクレーターの底に、ジョン、スーパーガール、そしてウルトラブレスレットを輝かせてスーツを瞬時に装着したウルトラマンの3人が静かに着地する。
シュウシュウと音を立てる土煙が風に煽られて徐々に晴れていき、クレーターの中心にある物体の全貌が露わになった。
その瞬間、カーラは雷に打たれたように足を止め、息を呑んだ。
そこに鎮座していたのは、見間違うはずもない。かつて、少女だったカーラ自身が滅びゆくクリプトン星から地球へと逃れてきた時に乗っていたものと、全く同じ形状、同じ未知の金属で作られた、クリプトン星の宇宙カプセルだったのだ。
「そんな……まさか、あり得ないわ……」
カーラは信じられないものを見るように目を見開き、震える手でカプセルの天面に手をかけた。彼女がゆっくりと操縦席のハッチのロックを解除すると、プシューッという重々しい排気音と共に、ハッチが静かに開いていく。
カーラがゆっくりとその中を覗き込み、そこに横たわっていた「ある存在」を目にした瞬間――スーパーガールの顔は、言葉を失うほどの驚愕と、そしてこれから始まる新たなる激動の運命を予感させる、深い驚きの表情に染まっていくのだった――。
後書き
スーパーガールのシーズン1これにて完結です。
お付き合いありがとうございます。
副題だけは私が考えてます。
なんか合体攻撃してるし……
勝手にGeminiがダイナ出してくるの驚き……
かなりaiが進化しております。
ストーリー等はほぼ考えず誤植等を読んで修正するだけです。
だからこの投稿スピードなんですが……
新作のスーパーガールの映画楽しみですね。
まあ私はメリッサ・ブノワのスーパーガールが至高だと思います(老害
さて、ちょっとした裏話
主人公のカイリの名前に関してですが
朝倉リクの弟という位置付けなので彼が陸なのに対して海とか空がいいなと思い
舞台がアメリカということでウルトラマンパワードのケンイチ・カイということもあり語呂の良いカイリという名前にしてます。
さて今後ですがアローバースは勿論のこと特定のお話でカイリにはマーベル時空に飛んでもらいたあなた考えてます。
それでは次回もお楽しみにしていただけたら嬉しいです。
校閲はしてますが見逃した部分とかあったら教えていただけると幸いです