ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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オリジナル話


angel wing

青い空を背景に、赤と青のマントが鮮やかに翻る。ナショナル・シティの平和は今、スーパーマンとスーパーガールという二大超人の手によって、かつてないほど強固に守られていた。暴走する列車を止め、崩落しかけた橋を支え、凶悪な犯罪者を一網打尽にするその姿は、テレビのニュースやSNSで連日のように英雄として称えられている。クラークがカーラの隣に立ち、彼女を導き、守りながら戦うようになってから、二人のコンビネーションは瞬く間に完璧なものへと仕上がっていった。

その一方で、カイリがウルトラマンとして街に飛び立つ機会は必然的に減少していた。彼には高校生としての日常があり、学校に通っている時間はどうしてもウルトラマンとしての活動を制限されてしまう。彼が動けない間に、スーパーガールとスーパーマンのコンビがすべての事件を迅速に、そして完璧に解決してしまうのだ。強力な従兄が姉を守ってくれている。それはウルトラマンとしての出番が減り、彼女とコンビを組む機会が少なくなったことへの一抹の寂しさを伴うものではあったが、同時に、自分が命を懸けて戦わなくていいという、この上なく喜ばしい平和の証明でもあった。

カイリはそんな自身の状況を受け入れ、むしろこの平穏を楽しんでいた。退屈極まりない歴史の授業も、窓の外を眺めながら過ごす数学の時間も、今の彼にとっては貴重な日常のピースだった。授業中にポケットの中で何度も振動するスマートフォンを開けば、カーラから「クラークとこんな事件を解決したの!」「今からお昼に美味しいピザを食べるよ!」といった小煩いチャットが大量に届いている。以前なら辟易していたかもしれないその賑やかな通知すらも、今のカイリは愛おしいものとしてすべて満喫していた。

そんなある日の夜、自室でベッドに横たわっていたカイリは、左腕に嵌められたウルトラブレスレットが不自然な脈動と共に青い光を放っていることに気がついた。眩い光が視界を覆ったかと思うと、次の瞬間、カイリの意識は果てしない光の空間へと引き込まれていた。

『そろそろブレスレットの能力に気が付いたか?』

静寂を破り、頭上から妙に自信に満ちた、聞き覚えのある男の声が響き渡る。カイリは自身の身体を見下ろしたが、実体はあるものの、それが肉体ではなく精神だけの存在であることを本能的に理解した。

「ゼロさん……!?」

かつて、あの『レイバトス事件』の最中に思念体として助っ人に現れ、自分たちを窮地から救ってくれた若き最強のウルトラ戦士。その時に面識のあった男の懐かしい声音にカイリが目を見張ると、光の渦からウルトラマンゼロの姿が鮮やかに揺らめき現れた。

『ゼロでいい』

親しみやすい口調で笑うと、ゼロは腕を組んでカイリを見据えた。

『さて、カイリいや、ブライト。これはお前の精神体を肉体から分離させ、俺のシャイニングスタードライブの力を内包した空間で訓練するプログラムだ。俺はゼロだが、このウルトラブレスにプログラムされた存在だと思ってくれ。実際に今、リアルタイムで俺とやりとりしてるわけじゃない』

「プログラム……? じゃあ、あの時のゼロさん本人が今ここにいるわけじゃないんだな」

『本題に戻るぜ? まあ、光の戦士ってのは大きく二種類ある。現地成長型と、光の国での訓練型って二種類だ。お前の兄貴のジードは俺が鍛えた、現地成長型ってやつだな。幸いにもお前の世界にもヒーローがいる。もちろんソイツらと切磋琢磨し成長する……てのも俺としては悪くはない。だが、厳しい事を言うがお前はジードと同じベリアルの息子。ベリアルってのが一生ついて回る』

ゼロの言葉は重かった。悪の戦士の血を引くという宿命。それは、どれだけ平和を望んでも決して消えない影だ。神妙な顔になるカイリを見て、ゼロのホログラムは快活に笑い声を上げた。

『ハハハっ! 心配すんなって。ジープで追っかけ回したりとかはしねぇからよ。俺は優しいぜ? それに、俺以外にも思念をブレスレットに入れた奴もいるからな。じゃあっ! 始めるぜ!』

言い切るや否や、空間の光が凝縮し、カイリの精神体を締め付けるように巻き付いた。それはまるで、自由な動きを極限まで阻害する強制ギプスのような重厚なアーマーだった。ずしりと魂に響く重さに、カイリは思わず膝をつきそうになる。

『まずは体術! もちろん俺が訓練してやる』

ゼロが鋭い構えをとる。カイリもアーマーの重さに耐えながら、ぎこちなく両拳を突き出して構えた。容赦のないウルトラ式スパルタ修行の始まりを告げるゴングが、カイリの脳内でけたたましく鳴り響いたのだった。

それからというもの、現実世界の平穏な日常の裏で、カイリの精神は夜な夜な過酷な特訓に明け暮れることとなった。肉体的な疲労こそ翌朝には残らないものの、精神的な消耗は激しく、授業中に彼がいつも以上に気だるそうに過ごすようになったのには、そんな隠された理由があった。しかし、その過酷な試練すらも、力を蓄えるための充実感として、今のカイリはどこか楽しんですらいた。

しかし、そんな穏やかで、かつ奇妙に騒がしい日々の裏側で、カイリの通うナショナル・シティ高校には本物の不気味な影が落ち始めていた。

最近、学校内で不登校になる生徒が異常な勢いで増えているのだ。最初は隣のクラスの数人が体調を崩したのだろうと噂されていたが、その波は瞬く間に広がり、カイリの所属するクラスでも、席が一つ、また一つと不自然に空いていくようになった。昨日まで普通に笑って話していたクラスメイトが、翌朝には何の兆候もなく姿を消している。学校側も事態を重く見て保護者へ連絡を取ろうと試みたが、どういうわけか誰一人として連絡がつかない状態が続いているそうだ。ただの風邪やサボりにしては、あまりにも不気味すぎる。流石に不思議に思うカイリが、誰もいない放課後の教室でぽつりと空席を見つめていた時、背後から静かな足音が近づいてきた。

「みんな退屈してるのよ……」

鈴の鳴るような、だがどこか感情の欠落した声が静まり返った教室に響いた。カイリが驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

「君は?」

カイリの問いかけに、少女は表情を変えずに佇んでいる。彼女のミステリアスで清楚な出立は、ガラスケースの中に飾られた精巧なフランス人形のようであり、生身の人間らしい温かみが一切感じられなかった。少女は長い睫毛を伏せ、どこか芝居がかった仕草で息を漏らした。

「アイリスよ…ダンバースくん貴方のクラスメイトなのに…貴方も不登校児なわけで最近登校してきた貴方はこの現象を知らないのね…」

その言葉と声音には、明らかに演技をしていると分かるほどのわざとらしさと、底冷えするような偽りの悲しみが満ちていた。カイリは身構えることなく、しかし鋭い視線を彼女に向けた。

「それで? 退屈って?」

「なんでもよ.家庭でも学校でも会社でも…全てにおいて彼らは何か退屈を感じている。退屈を嫌う天使に翼を授かるのよ。私の大好きな、お母様のようにね……」

アイリスは窓の外の燃えるような夕焼けの空を見つめながら、うっとりとした口調で語る。その内容はまるでお伽話のようだったが、彼女の瞳の奥にある狂気は本物だった。カイリは椅子の背もたれに寄りかかり、鼻で笑うように言葉を返した。

「一番この中で退屈そうなのは君だけどね…それにしても退屈を嫌う天使って?」

カイリの指摘に、アイリスは初めてその端正な顔に奇妙な笑みを浮かべ、ゆっくりと彼に歩み寄ってきた。

「貴方には負けるわ。いつも気だるそうにスマートフォンを眺めて授業も上の空、天使様はきっと見捨てないわ…」

「それは…まあ…」

図星を突かれたカイリが少し言葉を濁すと、アイリスは彼のすぐ目の前で立ち止まり、その冷たい瞳でカイリの全身を舐めるように見つめた。

「でも、そうね。貴方はまだ退屈だけど熱中してるものがありそうね……それに飽きたら……天使様に頼むのね……。あの高い空の上へと、連れていってもらうの」

彼女が何か核心に触れるような不気味な言葉を言いかけたその時、校内に終わりのチャイムがけたたましく鳴り響いた。アイリスはそれ以上の言葉を紡ぐことなく、翻したスカートの裾を残して、滑るような足取りで教室を去っていった。

その日を境に、学校での不登校者はさらに一人、また一人と増え続けていった。ナショナル・シティ高校は地域でも有数のマンモス高校であったが、それだけ分母の大きい学校であっても、そろそろ全体の人数的にも明確に目立つ頃合いになっていた。普通であれば、これほどの規模で若者たちが姿を消せば警察が本格的に動き出して大騒ぎになってもいい頃だ。しかし、この異常事態が世間で大きな問題にならないのには理由があった。

不登校になり、最終的に一家ごと消えていく家庭の多くが、経済能力的に厳しい、あるいは多額の借金を抱えているなど、社会的な問題を抱えているケースばかりだったのだ。そのため、周囲や警察も「借金苦による夜逃げ」や「家庭の事情による無断の転居」として片付けてしまい、事件性のある連続失踪事件にはどうしても結びつかなかった。大企業の倒産や凶悪宇宙人の襲来といった派手な事件ばかりに目を奪われるこの街において、社会的弱者の静かな失踪など、誰の目にも留まらない砂粒のようなものだった。

カイリ自身、普段であれば他人のプライベートに深く干渉するような興味は持ち合わせていなかった。だが、あの夕暮れの教室でアイリスが放った言葉と、クラスの静かな崩壊が、どうしても頭の片隅に引っかかって離れなかった。胸に広がる得体の知れない違和感を拭うため、カイリはスマートフォンの通話ボタンを押した。相手は、最近DEOへの転職を果たしたばかりの優秀な友人だった。コール音が数回鳴り、相手が弾かれたように出る。

『やあカイリ!今忙しいんだけど?』

電話の向こうから、キーボードを叩く凄まじい音と共に、ウィンの少し焦ったような声が聞こえてくる。新しい職場での膨大なデータ解析に追われているのだろう。カイリは申し訳なさそうな声音を作りつつも、本題を切り出した。

「そうなの?最近さ僕の通ってる高校で不登校増えててさぁ…ちょっと不自然なんだよね?事件性とかはまだわからないから内密に調べられる?」

『うーん……忙しいからなぁ』

ウィンのあからさまに渋る気配に対し、カイリはあらかじめ用意していた最高の手札を迷うことなく切ることにした。口元にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「そしたら姉ちゃんの昔のエピソード2のパドメのコスプレした写真あげるよ?」

『マジ?え?なに?それ?』

それまで一辺倒だったウィンの声のトーンが、一瞬にして跳ね上がった。キーボードを叩く音がピタリと止まる。オタクとしての本能が、彼の理性を完全に上書きしたのが電話越しにも手に取るように分かった。

「姉ちゃんが高校の時のね。ハロウィンの奴」

『乗った!』

「じゃあよろしく」

取引は一瞬で成立した。カイリが通話を切ると、ウィンはDEOのスーパーコンピュータをフル稼働させ、国勢調査から警察の極秘データベース、さらには失踪者たちのSNSの履歴に至るまで、凄まじい速度でハッキングと解析を開始したのだった。

しかし、ウィンがどれほど精緻なグリッドでデータを精査しても、失踪した家族たちの間に明確な共通項はなかなか見つからなかった。年齢も、人種も、信仰する宗教もバラバラ。ただ一つ、ナショナル・シティ内で不自然な失踪事件が目に見えて増えているという事実だけが浮き彫りになり、それに伴ってようやく地元警察も重い腰を上げ、捜査を開始し始めたところだった。

数日後の夜、カイリは再びウィンからの暗号通信を受け取っていた。

「なんかわからないの?」

カイリが尋ねると、ウィンの声はいつになく深刻で、どこか怯えているようだった。

『ああでも、手掛かりになるかわからないけど、失踪する前日に「翼を授かる」って退職届を出したサラリーマンがいたってよ?ねえ、結構まずいネタじゃない?長官はまだしもアレックスかカーラには相談した方がいいんじゃない?』

「姉貴は姉ちゃんのことでいっぱいでしょ。姉ちゃんはスーパーマンと一緒の時間を過ごすのが一番だ。邪魔するべきじゃない」

カイリは即座にそれを却下した。今のカーラは、憧れのクラークと共にヒーローとして活動できる喜みに満ち溢れている。その輝かしい時間を、確証もない高校の怪事件で汚したくはなかった。

『でもさ……あ、それとカイリ。君が言ってたアイリスって子の家庭環境なんだけど、ちょっと気になるデータが出てきたんだ。彼女の母親、元空軍のパイロットだったみたいでさ。数年前の任務中、機体ごと行方不明になってる。遺体も機体の破片も見つかってない、未解決の失踪扱いだよ』

ウィンの言葉に、カイリの動きが止まった。アイリスが放った「お母様のように翼を授かる」「高い空の上へ連れていってもらう」という言葉。彼女は、行方不明になった母親の影を必死に追い求めていたのだ。空の向こうへ消えた母親に会いたいという盲目的な願いが、彼女に「天使の声」を聞かせる引き金になったに違いなかった。

『なにか思い当たる節でも?』

「ちょっとね……」

ウィンは画面のデータをさらにスクロールさせながら、もう一つの不気味な事実を付け加えた。

『そういえば、失踪した多くの家のテレビがスノーノイズになってたって……』

その言葉を聞いた瞬間、カイリの思考に鋭い電流が走った。彼は思わず声を荒らげる。

「ちょっと待ってウィン、テレビがスノーノイズなんて今の時代そんなのないだろ?」

『確かに!デジタル放送だから!ってことはこのスノーノイズもしくはテレビに仕掛けがあるのか?』

現在の放送規格において、電波が途絶えれば画面には「信号がありません」という無機質なブルーバックや警告文が出るのが普通だ。かつてのアナログ放送時代のような、白黒の砂嵐――スノーノイズが画面を埋め尽くすことなど、物理的にあり得ない。

「もしくは放送されていたナニカだ……」

『やっぱり、午前0時から3時の間で何度も微弱な怪電波が発信されてる!』

ウィンの指先が目まぐるしく動き、ナショナル・シティの広域電波マップを書き換えていく。特定の時間帯にだけ、都市の電波網の隙間を縫うようにして流れる未知の周波数。

『発信源わかる?』

『今やってる……けど……これは……カイリ……君の通う学校だよ………』

ウィンの言葉が響いた瞬間、カイリは静かに立ち上がった。

深夜。時計の針が午前零時を回った頃、カーラのアパートは静まり返っていた。カーラはスーパーガールとしての夜間パトロールのため、すでに窓から夜の街へと飛び立っており、部屋にはカイリ一人だけが残されていた。静寂を破るように、カイリの耳元に仕込まれたインカムからウィンの緊迫した声が飛び込んでくる。

『カイリ!怪電波を検知したよ!』

「よし!」

カイリは短く応じると、私服のまま夜の闇へと滑り出した。目指すは、昼間は生徒たちの歓声で賑わうナショナル・シティ高校。深夜の校舎は、巨大な墓標のように冷たく沈黙していた。怪電波の発信源を正確に捉えながら、カイリは一歩一歩、足音を殺して校舎の奥へと進んでいく。たどり着いたのは、広大な屋内アリーナだった。

巨大な鉄扉をそっと押し開けると、そこには常識では考えられない光景が広がっていた。

暗闇に包まれたアリーナの床に、数グループにも及ぶ家族たちが、まるで何かの儀式を待つかのように等間隔で立ち尽くしている。その全員が虚ろな目を宙に向けていた。そして、その中心に、昼間と変わらぬ清楚な制服姿のアイリスが静かに佇んでいた。

「君が手引きしているのか?」

カイリの声が、誰もいないはずのアリーナに鋭く響き渡る。アイリスはゆっくりと振り返り、その人形のような顔に冷徹な笑みを浮かべた。

「手引き?いいえ、彼らは自ら新天地を求めてここにきたの。私はただ……お告げを伝えてるだけよ…」

彼女が両手を優雅に天へと掲げたその瞬間、アリーナに異変が起きた。

強固なコンクリートと鉄骨で覆われているはずの天井を透過して、あり得ないほどの純白の眩い光が、スポットライトのように上空から真っ直ぐに降り注いだのだ。光に包まれた数グループの家族たちは、悲鳴を上げることもなく、ただ恍惚とした表情を浮かべたまま、瞬く間に光の粒子となって虚空へと消え去っていった。

「彼らはどこに?」

カイリは一歩踏み出し、消えた人々がいた床を見つめた。

「理想郷」

アイリスは平然と答える。その口調には、一切の迷いも罪悪感もなかった。

「何故こんな事を?」

「この世界は退屈に満ち溢れているわ。そんな退屈から解放されたい。そんな願い持っちゃいけないかしら?私はそう言う願いを持った人へ天使様からのお告げを伝えているだけよ……ホラもう1人」

アイリスが視線をアリーナの入り口へと向ける。そこから、一人の男がふらふらと歩いてきた。アイリスの父親だった。しかし、父親の目は完全に光を失って虚無の深淵へと向いており、その足取りも操り人形のように不自然で、生気というものが一切感じられなかった。アイリスは父親の元へ歩み寄り、その冷たい手を握った。

「ようやく、私たちの番ね。お父様を天使様に連れていってもらって、私も翼を授かるの。そうすれば……あの日、空の彼方に消えてしまったお母様に、やっと会えるわ……」

空軍の任務で行方不明になった母親の幻影を追いかけ、狂信的な輝きを帯びる彼女の瞳を見つめながら、カイリは冷徹に言い放った。

「理想郷ってのは本当にあるのか?彼らは天使じゃないだろ?」

「黙りなさい!」

アイリスの声が初めて激昂を帯びて鋭く弾けた。彼女は顔を歪め、カイリを睨みつける。

「古来より天使は存在するわ!そして天使に認められ神の使いとして私は理想郷へと旅立つの!こんな退屈な世界と永遠の別れを告げてね!今の現実に不満を持つ人は大勢いるわ。それから解放されたいと願うのはいけないことかしら?スーパーマンにスーパーガール…とてつもない力を持った超人たちが蔓延るこの世界は異常よ……ねぇ、ウルトラマン?」

アリーナの空気が一瞬で凍りついた。カイリの目が細められる。

「!?僕の正体に気づいていたのか?」

「出なければ声なんてかけないわ?天使様がベリアルっていうウルトラマンの血を引く貴方を味方に引き入れたがってるの、貴方を手に入れれば私も天使になれる」

アイリスは狂おしいほどの歓喜に身体を震わせながら、カイリに手を伸ばした。その背後に潜む「天使」とやらの思惑を、カイリは瞬時に理解した。かつて宇宙を恐怖に陥れた最凶のウルトラマン、ベリアルの遺伝子。彼らが欲しているのは、理想郷の住人などではなく、ただの強大な戦力としての「力」だ。

「君が利用されてるってわからないのか?そんな条件を出してくるやつが理想郷を作れるのか?悪いけど仲間になるって提案は断らせてもらうよ」

カイリは吐き捨てるように返した。アイリスは差し伸べた手をゆっくりと下ろし、酷く冷淡な表情に戻った。

「失敗ね……でもいいわ。もう理想郷へ連れていく人数のノルマを達成したもの……私も翼を授かる」

彼女が呟くと同時に、再び天井から強烈な白い光が降り注ぎ、アイリスとその父親の身体を完全に包み込んだ。

だが、その光の様子は、先ほど人々を消し去った温和なものとは明らかに違っていた。

それは本当に、一瞬の出来事だった。

救済の光に見えたそれは、猛烈な紫色の稲妻へと変貌し、バリバリと激しい爆音を立てて狂ったように電撃を走らせた。悲鳴を上げる暇さえ与えられなかった。閃光が収まった時、アイリスと父親がいた場所には、ただ真っ黒に黒焦げになった炭化物質と、立ち上る哀れな煙だけが残されていた。

唖然とするカイリは、その凄惨な光景をただ見つめることしかできなかった。母親を追い求め、信じていた存在に、最後の最後でゴミのように処理された少女。

「用済みだから粛清したってのか?」

カイリは懐からクリスタルを取り出すと、一瞬にして全身に漆黒と真紅のラインが走るウルトラマンスーツを装着した。パワードスーツのバーニアを爆発的に噴射させ、アリーナの頑丈な天井を内側から豪快に突き破って夜空へと急上昇する。雲の切れ目に潜むようにして浮かんでいたのは、不気味な発光体を持つ、巨大な異星の円盤だった。

ウルトラマンは空中に入り乱れる電磁波の通信を強引につなぎ、円盤に向けて怒りの声を叩きつけた。

『彼女は最後に失敗した。天使は失敗しない』

円盤から、感情を一切排した機械的で冷酷な声が脳内に直接響いてくる。

「たった一つのミスを許さないのか?」

『ミスがないから理想郷なのだ』

「それは彼らにとってじゃない!お前らにとっての理想郷だろ!?」

『そうだ。彼らは実に良い仕事をしてくれている』

「仕事?」

『そうだ、彼らの幸福という感情を分泌する脳を摂取するために彼らの夢は幸福に満ちた夢を見ている。とても素晴らしい仕事だよ』

「その見返りが死か?」

『そうだ。彼らは現実から解放されたがっていた。だから幸福な夢を見て現実から解放されているのだ』

淡々と語られるあまりにもおぞましい生態。彼らが「理想郷」と呼んでいたのは、絶望した人間たちを効率よく肥太らせ、極上の脳を収穫するための家畜小屋に過ぎなかったのだ。

カイリの胸の奥で、ドロリとした激しい怒りが沸点へと達する。星人の傲慢さもさることながら、何より、人間をただの家畜としか見なしていないそのシステムが許せなかった。アイリスとは短い付き合いで、特別な興味があったわけでもない。しかし、彼女がこの退屈で残酷な現実から、行方不明の母親に会いたい一心で、本気で解放されたいと願っていたあの剥き出しの感情の重さは、確かにカイリに伝わっていた。母親の影を追う少女の純粋な願いを都合よく踏みにじり、用済みになればゴミのように焼き殺した星人への憤怒が、彼の全身を突き動かす。

「それは解放とは言わない!彼らの弱みに漬け込みお前らの事情を押し付けているだけだろ!?」

パワードスーツの四肢から、カイリの怒りに呼応するようにバチバチと激しいプラズマが漏れ出し始める。

『なんとでもいうが良い。彼らは我々を神の使い天使として崇めている。なら生贄を差し出すのも通りだろう?当たり前のことだ。彼らには幸福を…我々は栄養を…ギブアンドテイクだ』

「話が通じなさすぎる」

どこまで行っても平行線。人間の命をただの資源としか見なしていない化け物たちに、これ以上の言葉を費やすだけ無駄だった。

『君にもバレてしまった事だ。一先ず我々は退散させてもらうよ。数百年もすれば君はいないだろう?そうしたらまた天使として君臨するさ…さらばだウルトラマン』

円盤の周囲の空間が歪み、巨大な船体が逃亡を図るために加速し始めた。

腕の制御回路が悲鳴を上げるほど、ピリピリと強烈な赤黒いプラズマが両腕に収束していく。ベリアルの血が、彼の破壊衝動を爆発的に引き出していた。

「ハァッ!」

ウルトラマンが両腕を激しく十字に組んだ瞬間、その交差した手刀から放たれたのは、夜空を昼間のように照らし出すほどの圧倒的な破壊光線だった。禍々しい光の濁流は、大気をも烈烈と焼き尽くしながら真っ直ぐに伸び、逃げ込もうとしていた巨大な円盤のド真ん中を寸分の狂いもなく貫いた。

空間の歪みごと、円盤は木っ端微塵に吹き飛んだ。夜空に大輪の炎が咲き誇り、天使を騙った捕食者たちは、その灰すら残さずに宇宙の塵へと還っていった。

凄まじい爆発の余波が収まり、静寂を取り戻した夜空。激しい光線のエネルギーを敏感に察知したスーパーガールが、マントをなびかせてウルトラマンの背後へと静かに降り立った。

「カイリっ!大丈夫!?何があったの?」

カーラの焦燥に満ちた声が背中に届く。しかし、ウルトラマンの姿のまま宙に浮くカイリは、その質問に対して何も答えることができなかった。ただ無言のまま、頑なに背を向け続ける。

パワードスーツのバイザーの奥で、彼の目からは堪えきれない涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちていた。それが、アイリスの遺した激しい感情の澱が引き起こしたものなのか、円盤に騙されて消えていった人々の目に見えない悲鳴によるものなのか、あるいは、何もできなかった自身の無力さに対する苛立ちなのか、カイリ自身にも全く分からなかった。ただ、生理的に涙が溢れて止まらない。

何より、すぐ隣にいる温かい姉にだけは、この涙をどうしても見せたくなかった。ウルトラマンはただじっと、静まり返った地上の闇を見つめ、静かに拳を握りしめていた。

 






ultra seven x Code name R をイメージしてます。
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