ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
あたたかい光に包まれたカーラのアパートのベランダからは、ナショナル・シティの穏やかな夜景が一望できた。その晩、リビングのテーブルを囲んでいたのは、クラーク、カーラ、アレックス、そしてカイリの四人だった。ピザの箱を開け、他愛のない話で笑い合う、絵に描いたような穏やかなシブリングナイトのひととき。しかし、ふと会話の合間に訪れた静寂の中で、クラークが静かにグラスを置き、少し真剣な面持ちで口を開いた。彼は、明日メトロポリスに戻ることを三人に告げた。あちらで待っている最愛のロイスのことが心配なのもあったが、何より、メトロポリスという大都市にもやはり、人々を安心させるためのヒーローが必要だという責任感からだった。その言葉を聞いたカーラの瞳に、隠しきれない寂しさの色がかすめていく。せっかく従兄と肩を並べて戦える日々に喜びを見出していた彼女にとって、その別れはあまりにも早すぎるものだった。
だが、室内に満ちていたそんな名残惜しい静寂は、テレビから流れてきたけたたましいニュース速報の音によって無惨にも破られることとなった。画面に映し出されたのは、夜のナショナル・シティにかかる巨大な橋の映像だった。そこには、今にも暗い海へと飛び降りそうな一人の男が立ち往生しており、現場は騒然とした空気に包まれている。クラークとカーラは即座に顔を見合わせると、同時に上着を脱ぎ捨て、夜の窓から音速で現場へと飛び立っていった。
二人が事件解決のために飛び立ち、静かになったリビングで、アレックスはソファに座るカイリを見やり、不思議そうに問いかけた。
「貴方は行かなくていいの?」
カイリはテレビの画面から目を離さないまま、どこか達観したような表情で肩をすくめた。
「僕はいつでもコンビ組めるじゃん?姉ちゃんとクラークはしばらく組めないかなって……そうすると僕、邪魔じゃん?」
その答えを聞いたアレックスは、手にしたワイングラスを片手にカイリの傍らに歩み寄り、クスリと苦笑して彼の頭を優しく撫でた。
「へんにマセてるわね……そう言うのは行っていいんじゃない?誰も貴方のことを迷惑がったりしないわ」
「そう言うことじゃなくてさ。クリプトン星同士、積もる話もあるでしょ」
カイリが少し照れくさそうに顔を背けると、アレックスは妹の性格を思い浮かべるように言った。
「あの子はそう言うの気にしないわ」
「姉ちゃんが気にしない分、僕が気にしてるんだけどね」
その言葉に、アレックスは少し呆れたように、けれど温かい笑みを浮かべてポツリと溢した。
「言えてる」
そんな他愛のない会話をしながら、二人はテレビの生中継に映し出される、現場に到着したスーパーマンとスーパーガールの救出劇を眺めていた。しかし、画面の中で、橋の欄干に立っていた自殺志願者の男がゆっくりと振り返り、その顔がカメラに大写しになった瞬間、リビングの空気が一変した。カイリの目が限界まで見開かれる。
「コーベンっ!姉貴っ!」
その名前を聞いた瞬間、アレックスの表情からお酒の温かみは完全に消え去った。
「酔いが覚めたわっ!カイリ、二人の元へ行って!」
死んだはずの男がなぜそこにいるのか、不吉な予感に突き動かされるようにアレックスが叫ぶ。カイリは力強く頷くと同時に自室へと走り、一瞬にしてウルトラマンスーツを装着した。パワードスーツのバーニアが夜の闇を切り裂き、ウルトラマンは窓から一直線に、二人の待つ現場の橋へと急行した。
その頃、現場の橋の上で対峙していたスーパーマンとスーパーガールは、今回もいつものように簡単に解決できる一般的なトラブルであると完全に油断していた。今にも飛び降りそうな男の後ろ姿に向けて、クラークが穏やかに、しかし威厳に満ちた声で語りかける。だが、ゆっくりと振り返った男の顔を見た瞬間、二人は息を呑んだ。それは以前、レナ・ルーサーを暗殺しようと画策し、戦いの中で確実に命を落としたはずの男、ジョン・コーベンだった。
驚愕に身を硬くする二人の隙を、コーベンは見逃さなかった。彼がニヤリと不気味な笑みを浮かべて胸部を開くと、中から不気味な深緑色の怪光が激しく放たれた。それはクリプトン人にとっての絶対的な死の結晶――クリフトナイトのエネルギーだった。
直撃を受けたスーパーマンは、凄まじい衝撃と共に背後のアスファルトへと激しく吹き飛ばされた。倒れ伏したスーパーマンの首筋や顔には、まるで毒が回るかのように緑色の発光する線が血管やひび割れのように浮かび上がり、彼は未だかつてない壮絶な苦しみに身体を痙攣させた。
「クリフトナイトっ!コーベンっ!何をしたの!?」
カーラが悲痛な叫び声を上げる。しかし、男は冷酷な機械音を響かせながら首を振った。
「コーベン?違うな。私はメタロだ」
メタロは容赦がなかった。倒れ込むスーパーマンに向けて、胸のコアから容赦のないクリフトナイトビームを追い打ちのように照射する。
「ぐぁぁぁっ!」
最強の超人が、ただの人間のように絶望的な絶叫を上げて激しくもがき苦しむ。それを見たスーパーガールは、従兄へのビームを遮ろうと、自らの身体を盾にするようにメタロへと猛然と殴りかかった。
「ハァッ!……え?」
大気をも爆裂させ、巨大な岩石をも粉々に砕くはずのスーパーガールの全力の拳。しかし、メタロはその一撃を胸に受けても、まるで蚊に刺された程度にしか反応せず、一歩も退かなかった。自らの最大の武器である怪力が微塵も通用しなかった事実に、スーパーガールは目を見開いて驚愕する。その瞬間に生じた大きな隙を、サイボーグの身体と化したメタロは見逃さなかった。鋼鉄の脚による強烈な蹴り。スーパーガールは木の葉のように軽々と蹴り飛ばされ、頑丈な金属製のガードレールに激しい音を立てて激突した。
メタロは一歩一歩近づくと、苦しむスーパーマンに馬乗りになり、加減のない鋼鉄の拳を何度も何度もその顔面に叩きつけていく。ガードレールに背を預けたスーパーガールは、必死に意識を保ちながら、目から赤熱のヒートヴィジョンを放ってメタロを攻撃した。だが、メタロは片手を無造作に伸ばすだけでその熱線を易々と防ぎきると、今度は胸のクリフトナイトビームをカーラへと正確に浴びせた。
「くぁぁぁぁっ!」
至近距離で弱点のエネルギーをまともに浴び、スーパーガールは光の中に倒れ伏した。全身の細胞が沸騰し、焼かれるような激痛が彼女を襲う。
メタロは立ち上がると、息も絶え絶えのスーパーマンの首を片手で乱暴に持ち上げた。スーパーマンは残された最後の力を振り絞り、首を掴む鋼鉄の手を必死に叩いて抵抗を試みるが、エネルギーを吸い取られた身体では全く効果がない。メタロはそのまま、抵抗するスーパーマンの巨体を、倒れているスーパーガールに向けて容赦なく投げつけた。激突破損の衝撃。スーパーガールはそれを受け止めることもできず、背後の大破した車と、投げつけられたスーパーマンの肉体の間に無残に挟まれてしまう。そこへ、メタロからの無慈悲なクリフトナイトビームが再び二人をまとめて襲った。
「あああああっ!」
「ぐぁぁぁぁっ!」
二人の絶叫と悲鳴が、夜の橋の上にどこまでも虚しく響き渡る。
勝利を確信したメタロは、金属音を立てながらじわじわと二人に近づいていった。精度を増した足取りで、動けないスーパーマンの背中を踏みつけると、苦悶するカーラを無理やり引きはがすように力任せに抱きすくめた。彼の胸に埋め込まれたクリフトナイトの輝きが、スーパーガールの身体を至近距離で直接焼き焦がしていく。
「あああああっ!」
「ぐっ……やめろ……!」
弱点そのものを強固な肉体として身につけているメタロに対し、最強を誇る二人の超人は、もはや手も足も出なかった。ゼロ距離でクリフトナイトのビームと放射を浴びせられ続けたスーパーガールは、あまりの激痛と精神を毟られるような苦しみの末、ついに限界を迎えて意識を失った。メタロの腕の中で、最後まで必死に抵抗してバタつかせていた彼女の手足が、力なくダラリと垂れ下がる。
「カァァラァァっ!」
その姿を見たクラークの、張り裂けんばかりの絶叫が夜空に響き渡った。
その時だった。
夜空の果てから、大気を爆裂させる轟音と共に、真っ赤な光の流星が超高速で飛来した。光の塊は容赦のない質量と速度を持って、カーラを抱きしめていたメタロの横っ腹へと強烈に激突した。凄まじい衝撃波と共に、メタロの巨体が横向けに吹き飛び、アスファルトの上を激しく転がっていく。
あまりにも眩い赤い閃光に、現場の上空を飛ぶ報道ヘリのカメラも、周囲の人々も一瞬だけ目を眩ませた。だが、その激しい閃光が静かに収まり、白煙の向こうから次第にその姿が露わになる。
そこにいたのは、意識を失ったスーパーガールを、壊れ物を扱うかのように優しくその両腕に抱きかかえるウルトラマンの姿だった。彼女の身体は未だに不気味な緑色の残光に侵され、ぐったりとしたままだ。
ウルトラマンは、抱きかかえた彼女を優しく、少しでも楽な体勢になるようガードレールの傍らに寝かせた。そして、パワードスーツの冷たい手袋越しではあったが、彼女の頭をそっと労わるように撫でてから、静かに、だが確固たる意志を持って立ち上がった。
「ちょっとここで待ってて」
その掠れた優しい声に反応したのか、スーパーガールは微かに睫毛を震わせ、今にも消え入りそうな、絞り出した声を漏らした。
「カイ………リ………」
「また貴様か!」
体勢を立て直したメタロが、忌々しげにウルトラマンを睨みつける。
「ウルトラマンだっ!」
吐き捨てるように名乗ったウルトラマンに対し、メタロは二人の超人を圧倒したあの邪悪なクリフトナイトビームを胸から一気に放った。ウルトラマンは即座に反応し、両腕を身体の前で激しくクロスさせ、迫り来るビームをそのまま力任せに弾き返そうとした。しかし、その瞬間に気づいた。ウルトラマン自身の身体にクリフトナイトは効かなくても、ここでビームを左右に弾いてしまえば、その反射した光線が後ろで倒れている満身創痍のスーパーガールとスーパーマンに直撃してしまうということに。
その事実に気づいたウルトラマンは、躊躇うことなく交差させていた両手を大きく左右に広げ、自らの胸で直接、濁流のようなクリフトナイトビームを真っ向から受け止める選択をした。
「グゥ……!」
クリプトン人のような絶対的な弱点というわけではない。しかし、純粋な破壊エネルギーとしてのビームを、何の遮蔽もなく胸に直接受け続けるのは、流石のウルトラマンであっても肉体に凄まじい負荷がかかる。パワードスーツの各部から警告の微粒子が散り、カイリの口から痛みに耐える重いうめき声が漏れた。
だが、ウルトラマンの足は止まらなかった。彼は胸から激しい火花を散らしながら、一歩、また一歩と、執念深くメタロに対して距離を詰めていく。その背中は、背後に倒れる二人の姉兄を護る絶対的な盾そのものだった。
上空のヘリからその様子を命懸けで映し出すキャスターも、マイク越しに声を震わせて興奮と心配の実況を続けていた。
『信じられません!ウルトラマンは、我々を……いや、傷ついたスーパーガールとスーパーマンを守るために、敢えてあの恐るべきビームをその身一つで受け止めているのでしょう!果たして、彼の身体は大丈夫なのか!?』
漏れ出るうめき声は激しさを増していくが、ウルトラマンの足取りは確実にメタロを追い詰めていた。誠実な怒りを宿した双眸がメタロを捉え、渾身の拳の一撃を叩き込める間合いへと達した。ウルトラマンは全身の駆動系を最大限界まで引き絞り、メタロの胸のコアに向けて、右拳を真っ直ぐに振るった。
パキリ、と。
夜の静寂に、不気味な鉱石が内部から完全に粉砕される硬質な音が響き渡る。胸のクリフトナイトを撃ち抜かれたメタロは、その衝撃でエネルギーを暴発させながら、夜空の彼方へと凄まじい勢いで吹き飛ばされていったのだった。
戦闘が終わり、ウルトラマンは満身創痍の二人にそれぞれ肩を貸し、這う這うの体でDEOの秘密基地へと連れ帰った。
基地の医療ブースに到着するや息つく間もなく、まだ身体の節々に緑の線を残したスーパーマンが、怒りと困惑の入り混じった鬼の血相で、局長であるハンク・ヘンショウことジョン・ジョーンズに激しく詰め寄った。クリフトナイトは地球上でDEOしか保有・管理していないはずの劇薬だ。それにもかかわらず、なぜそれを強固に装着したサイボーグが街に現れ、自分とカーラが殺されかけるような事態になったのか。クラークの詰問には、裏切られたという深い絶望が混じっていた。
詰め寄られたハンクは、苦渋に満ちた表情を浮かべながら、隠し続けていた事実を告白した。実は、今から四ヶ月も前の時点で、DEOが保管していたクリフトナイトが何者かによって強奪されていたのだという。
その言葉を聞いて、傍らにいたアレックスが慌てて補足するように口を開いた。
「私がその件をすぐに極秘で調査したわ。でも、当時の輸送担当者たちの身元や履歴は完全に白だった。内部の人間が故意に漏らした形跡はどこにもなかったのよ」
しかし、その弁明もスーパーマンの怒りを鎮めるには至らなかった。クラークとハンクの間で、激しい口論が始まる。クラークは、地球上にクリフトナイトが存在すること自体が間違いであり、発見した時点ですべて破棄すべきだったと激しく主張した。これに対しハンクは、かつて街を恐怖に陥れた『ミリアド』の脅威に一度は屈してしまった事実を挙げ、ノンやアストラのような、いつまた現れるかわからないクリプトン人の絶対的な脅威に対抗するためには、地球人側の抑止力としてどうしてもクリフトナイトが必要だったのだと反論した。
「カーラが死んでもいいのかっ!?」
ついに感情を爆発させたスーパーマンが、ハンクの胸ぐらを力任せに掴み上げた。親愛なる従妹を失いかけた恐怖が、彼を突き動かしていた。だが、ハンクもまた、その言葉に深い怒りを示した。彼は自らの真の姿、火星人としての力を解放しかけ、その両目を不気味な赤色へと発光させながら、胸ぐらを掴むスーパーマンの屈強な腕を凄まじい力で握り返した。
「言葉に気をつけろ!」
「黙れ!」
まさに一触即発。最強の宇宙人同士が今にも基地内で激突せんとしたその瞬間、DEOのメインモニターをはじめとする全ての画面が一斉に激しいノイズと共に切り替わり、その張り詰めた空気を完全に破った。画面に映し出されたのは、顔を隠した不気味な組織の紋章。そして、街全体をジャックしたであろう冷酷な声明が、スピーカーから響き渡った。
『ナショナル・シティのみなさん。我々はカドマス。我々は地球を奪われた。奪った奴らはヒーローを装い、我々を騙そうとしている。ヒーローは地球を支配しようと動くだろう。それを阻止するのが我々だ。我々科学者が、人間の力を見せつけてやる。侵略者に味方するものは容赦しない。止めても無駄だ。我々はどこにでもいる。我々はカドマス』
カドマス――。
その不気味な名前を聞いた瞬間、カイリたちの脳裏に、かつて耳にしたことのある微かな記憶が呼び起こされた。クラークはゆっくりとハンクから手を離し、険しい表情でモニターを見つめた。
「宣戦布告だな……」
「なんとしても止めなければならない」
ハンクもまた、目を元の色に戻して深く頷いた。しかし、意識を取り戻したばかりでまだ青白い顔をしたカーラが、不安そうに呟く。
「でも、どうやって?」
その時、パワードスーツを脱ぎ捨てて私服に戻っていたカイリが、自らの右拳を見つめながらぽつりと言った。
「そう言えば……さっきメタロの胸を思いっきり殴ったから、その時の衝撃で、あいつの身体を構成していた特殊な金属片が僕のスーツについてるかも……」
その言葉に、クラークの目が鋭く輝いた。
「なら、孤独の要塞で分析しよう」
それを聞いたハンクは、デスクの前で事の成り行きを見守っていたウィンに向けて厳かに向き直った。
「ショット捜査官。かつてアストラたちが地球侵略の際に使っていた、クリフトナイトの放射を無効化するシールドの技術がある。あのデータを基に、僕とカーラの二人が動けるよう、さらに改良した対クリフトナイト用のアーマースーツを作ってもらえるか?」
突然上司から大役を指名されたウィンは、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになりながら、自らの胸を指差した。
「えっ!?僕がスーパーマンにスーツを作るんですか!?」
驚愕するウィンに、クラークが少しだけ悪戯っぽく微笑みながら言葉を添えた。
「頼むよ。イケてるやつ」
「任せてください!」とウィンが力強く頷き、キーボードへ向かって猛烈に指を動かし始めるのを見届けると、ハンクは一歩前に出て、改めてクラークの正面に立った。火星人としての真摯な眼差しを向け、協力を申し出る。
「スーパーマン!私情は傍に置いて力を合わせよう」
クラークは一瞬だけ足を止め、ジョンの顔を見た。そして、少しだけバツが悪そうに、けれど拒絶することのない不器用な口調で、短く答えた。
「……あそこは寒いぞ」
その一言は、彼なりの和解のサインだった。
その言葉と共に、カイリ、クラーク、そしてジョンの三人は、ナショナル・シティの夜空へと飛び立ち、北極の彼方に眠る秘密基地『孤独の要塞』へと向かって、一筋の光となって消えていった。
北極の最果て、凍てつく氷原の真ん中にそびえ立つクリスタル製の巨大な建造物――『孤独の要塞』。その厳かな扉を開け、内部へと足を踏み入れた瞬間、容赦のない極寒の空気が衣服を通り抜けて肌を刺した。
「うぉっさっぶ……!」
あまりの寒さに、カイリは思わず両腕で自分の身体を抱え込み、激しく身震いした。そんな彼を見て、隣を歩くクラークが少しだけ口元を緩める。
「寒いって言ったぞ」
「これほどとは思わなかったんだよ……」
カイリが文句を言いながら顔を上げると、要塞の中央には、かつて滅び去ったクリプトン星の衣装を纏った、巨大な男女の石像がそびえ立っていた。クラークの実の親である、ジョル=エルとララだ。その威厳に満ちた姿を見上げていたジョンが、静かにクラークへと問いかけた。
「君の親か?」
「そうだ……」
クラークは誇らしさと、どこか切なさを湛えた目でその像を見つめ返した。
カイリもまた、寒さを忘れてその壮大な像を見上げる。クラークのためにこの広大な遺産と記憶を地球に残した両親。その深い愛情の証を目の当たりにし、カイリの脳裏には、会ったこともない自身の本当の父親――ウルトラマンベリアルの存在がよぎっていた。
地球の養母であるイライザたちは、カイリを本当の家族のように無条件の愛で育ててくれた。しかし、記録を通してしか知らないベリアルの、宇宙を恐怖に陥れた数々の悪業や冷酷さを知るカイリにとって、自分の息子にこれほどまでの導きと財産を遺したクラークの両親という存在は、眩しすぎて言葉も出ないほど、雲泥の差を感じさせるものだった。
そんなカイリの心中を知ってか知らずか、ジョンは石像の前へと進み出ると、胸に手を当て、厳かにクリプトン語の祈りを捧げ始めた。流暢に響くその異星の言葉に、クラークが驚いたように目を丸くする。
「クリプトン語か?」
「そうだ。我々にはもう、帰るべき故郷がない。歴史だけでも守り抜かなければ、本当に全てが消えてしまうからな……」
ジョンの寂しげな横顔に、クラークは複雑な表情を浮かべかったが、すぐにその胸中にあるトゲを隠そうとはしなかった。
「……もし本当に、僕たち地球の宇宙人同士で友情を築きたいと思っているのなら、まずあのクリプトナイトをすべて破棄すべきだろ」
再び、二人の間に一触即発の険悪な空気が流れ始める。だが、ジョンは一歩も退くことなく、毅然と言い放った。
「それはできない」
「何故だ!?」
「火星が死んだからだ!」
ジョンの叫びのような声が、静まり返った要塞に響き渡った。彼の赤い瞳に、過去の凄惨な記憶が炎のように揺らめく。
「我々大人が無力だった所為で、目の前で子供たちが無惨にも焼かれて死んでいったのだ……。地球では、ただでさえカーラに……そしてカイリ、君たち子供の力にまで頼ってしまっている。だから私は、もう二度と無力なままではいまいと誓った。いくら君に憎まれようとも、地球を守る抑止力だけは譲れない!」
「憎んではいない」
クラークは痛みを堪えるように目を伏せ、首を振った。
「ただ、信用できないんだ。君から信用されていないから。クリプトナイトという凶器は、共に戦う同志を得ることよりも必要なのか……?」
重苦しい沈黙が広がる中、それまで黙って聞いていたカイリが、二人の間に割って入るようにして一歩前に出た。
「クラーク。僕はジョンに賛成だ」
「カイリ……?」
クラークの驚いた視線を受け止めながら、カイリは真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「どんなに僕たちが頑張っても、僕を含めて、姉ちゃん、クラークの3人しかいないんだよ。クラークはさ、クリプトン人が姉ちゃんとクラークの2人だけっていう前提で、全ての守りを考えてる。勿論、記録上はそれが正しいよ。でも……もし、ノンやアストラのような思想を持った奴らが、まだ宇宙のどこかに生き残っていたら?もし、とてもじゃないけど僕ら3人じゃ手に負えないような大軍勢が攻めてきたら……?その時、地球人が自衛できる『必要な力』を持っておくのは、間違ってないと思う」
**16歳の少年**が放った、あまりにも現実的で、かつ重みのある言葉に、クラークもジョンも言葉を失い、静かに口を閉ざした。
空気を切り替えるように、クラークは要塞の中央コントロールパネルへと向かい、声を張り上げた。
「ケレックスっ!」
『はい、カル=エル様』
要塞の管理AIである小型の浮遊ロボットが、青い光を放ちながら滑らかに現れる。カイリは自身のウルトラマンスーツの腕パーツだけを瞬時に展開し、メタロを殴った際に付着した金属片の残る拳を突き出した。
「この分子をスキャンしてくれ」
ケレックスの光学スキャン線がカイリの拳をなぞる。数秒の後、機械的な音声がデータを弾き出した。
『放射性物質を確認。プロメチウムです。地球の技術では極めて精製が困難な、非常に硬い人工金属です』
「プロメチウム……興味深いな」
ジョンが顎に手を当てる。
「人工的につくられているということは、製造元を辿れるな。ショット捜査官、聞こえるか?」
要塞の通信回線を通じて、DEO本部にいるウィンの声が響いた。
『はい長官!プロメチウムの特殊な熱シグナルを逆探知すればいいんですね?……少々お待ちを……出ました!市内の工業地帯に激しい反応があります!』
「工業地帯がカドマスの拠点?そんなバカな……」
ジョンが眉をひそめる中、クラークは即座にマントを翻した。
「じゃあ、街にいるメタロはあの1人だけということか。この好機を逃す手はない。すぐに向かう。カーラ、行けるかい?」
そう言い残すや否や、スーパーマンはソニックブームを巻き起こし、要塞の天井から一瞬で飛び去ってしまった。まだ完全に回復していないカーラの様子をDEOに確認する暇さえ惜しむような、あまりの先走りにカイリは呆然と頭を掻いた。
「……僕、また除け者にされてる?」
ジョンは苦笑交じりに肩をすくめた。
「私を彼の前で肯定なんてするからだ、へそを曲げたのだろう」
「事実を言ったまででしょ。それに、メタロと戦った時、姉ちゃんは危うく死にかけてたんだ。ちょっと油断したからって、あまりにも警戒心がなさすぎるよ」
「そう怒るな、彼も焦っているのだ」
「無理な話だよ……。それにさ、工業地帯にメタロがポツンと1人きりでいるなんて、どう考えてもあの2人を誘き出すための罠じゃん……」
カイリの嫌な予感が的中したかのように、通信機からウィンの悲鳴のような声が割れ込んで狂ったように響いた。
『長官!大変です!遅かった……メトロポリスが……メトロポリスが今、もう1人のメタロに襲撃されています!スーパーマンが不在の隙を狙われたんだ!』
「何だと……!?……チッ、完全に敵の策にはまったか。カイリ, 一旦本部に戻るぞ!」
「了解!」
二人は即座に孤独の要塞を後にし、ナショナル・シティのDEO本部へと急行した。
DEO本部に帰還するや否や、司令室ではウィンが今にも泣き出しそうな顔でソワソワと歩き回っていた。
「ウィン、戻ったよ!」
カイリが駆け寄ると、ウィンは彼の肩を掴んで激しく揺さぶった。
「あー!カイリっ!戻ったか!今すぐアレックスの元へ行ってくれ!」
「なんで?姉貴がどうしたの?」
「アレックスのやつ、DEOから**クリプトンナイト**を盗み出したスパイを自分で誘き出そうとして、本部に内緒で1人で動いてるんだよ!でも、なんかその前にアレックスとカーラ、ものすごい喧嘩をしちゃったみたいでさ……!」
「はぁ!?また姉貴と姉ちゃん喧嘩したのかよ……あの姉妹は本当に、もう……」
カイリは深くため息をつき、パワードスーツのシステムを起動した。
「オッケー、ウィン。姉貴の座標をちょうだい!」
ナショナル・シティの片隅にある、うらぶれた輸送倉庫。
大型コンテナの物陰に身を潜め、鋭い視線で不審な物資の輸送を監視しているアレックス・ダンバースの姿があった。彼女が銃の重みを確かめたその時、背後の空間が微かに歪み、パワードスーツの消音バーニアを吹かせたカイリが静かに降り立った。
「姉貴っ」
「カイリっ!?……ここで何してるの?」
アレックスは驚きに目を見開いたが、すぐに声を潜めた。
「そりゃこっちのセリフだよ。ウィンから、絶対に付いていった方がいいって泣きつかれたんだ。……で、姉ちゃんとまた喧嘩したの?」
「あの子には……本当に頭にくるわ」
アレックスは視線を落とし、自嘲気味に息を吐き出した。
「最近のカーラ、クラークと一緒にいるでしょ。私のこと……いえ、私達のことを、なんだか後回しにしているような気がして……」
「あー、なるほどね……」
カイリはすべてを察して頷いた。クラークという同じ境遇の従兄が現れたことで、カーラが舞い上がってしまう気持ちも分からなくはないが、ずっと側で彼女を支えてきたアレックスの寂しさも痛いほど理解できた。
「まあ、姉ちゃんだしね。いつものことじゃん。周りが見えなくなると平常運転だし」
「それだけならまだいいのよ。あの子、何をトチ狂ったのか『メトロポリスに移り住む』とか言い出したのよ!?」
「え?マジで?」
「そうよ!『カイリの面倒は私がちゃんと見るから』って聞かないの。私はあの子を信頼して貴方を預けているのに……自分の都合ばっかりで話を進めるから、ついカッとなってキレちゃって……」
カイリは頭を掻き、申し訳なさそうにアレックスを見た。
「あー……それはなんか、僕のせいでもあってごめん。やっぱ僕、もう**16**だし、DEOの寮とかに入った方がいいよね……」
「それはダメよ!」
アレックスは即座に強い口調で否定した。
「なんでよ。姉ちゃんが姉貴にとってのお守りや足枷になってるんなら、僕だって尚更だよ。もし寮がダメなら、いっそのこと姉貴の家に僕が転がり込むってのは手じゃない?」
「それは……まぁ、居てくれるなら嬉しいけど……あの子、絶対に泣くわよ?」
「泣かせとけばいいじゃん。ちょっとはあいつにもお灸が必要だよ」
カイリが不敵に笑うと、アレックスはふっと表情を和らげ、彼の額を小突いた。
「普段はカーラにいつも甘いくせに、急にドライになるんだから」
「甘さゆえの愛の鞭ってやつ。……ほら、姉貴。そろそろ向こうが動くみたいだよ」
倉庫の奥で、不審な男たちがコンテナを開ける音が響いた。アレックスは表情をプロの捜査官へと戻し、銃を構える。
「カイリはここで待機。向こうが動いたら、外から援護して」
「了解」
アレックスは鋭い踏み込みで影から飛び出し、銃口を突きつけた。
「そこまでよ!動きなさい!……カドマスのことを、すべて話してもらおうか?」
「断るっ!」
密輸の手引きをしていたDEOの内通者、マッキル捜査官が手を挙げたその瞬間――背後の闇から放たれた銃弾が、容赦なく彼の胸をぶち抜いた。マッキルが崩れ落ちる。
「DEOのダンバース捜査官、はじめまして。……お父さんによろしく言っとくわ」
コツ、コツと硬いヒールの音を響かせ、闇の中から中年ほどの冷徹な佇まいの女性が現れた。カドマスの指導者、リリアン・ルーサーだ。
背後から複数の構成員に銃を向けられ、絶体絶命の危機に陥るアレックス。物陰から飛び出そうとしたカイリだったが、アレックスは背後に回した右手で「待て」と鋭くサインを送ってきた。カイリは歯を食いしばり、パワードスーツの出力を維持したまま潜伏を続ける。
「……父はどこにいるの?」
アレックスが低く、怒りを孕んだ声で問う。リリアンは冷酷に微笑んだ。
「教えると思って?どうせ貴方はここで死ぬのよ」
「私を殺すつもりね」
「今のお父さんの姿を知らずに死んだ方が、貴方にとっては幸せよ。それが賢明な判断というもの。……それとも、お父さんのように、我がカドマスに協力するという選択肢もあるけれど?」
「父があなたたちのような悪党に協力するわけがないわ」
「いいえ、貴方を見ているとよく分かる。虐待されたのね?」
リリアンは哀れむような目をして、一歩一歩アレックスへと近づく。
「貴方はDEOに洗脳されているのよ。悪魔は天使だと、哀れにも信じ込まされている。奴らのために、自分の人生を犠牲にしろとね。……侵略者のために。私はただ、貴方に考えて欲しいの。もし宇宙人がこの地球にいなかったら、貴方の人生はどれほど素晴らしかったか?これからどんな自由な人生になり得るか。私は地球を救いたいの。力を貸して?」
アレックスは一瞬の沈黙の後、リリアンを真っ直ぐに見据えて不敵に笑った。
「……前に、クリプトン人を殺したわ。エル家のアストラを、**クリプトナイト**でできた剣でこの手で刺したの。あなたが望んでいるような残酷なことなら、私はもういろいろとやってきたわよ」
「……感心したわ。骨のある娘ね」
「そう?だったら今のうちに覚悟しておきなさい。父を見つけたら、次はアンタを片付けるから」
リリアンの目が冷たく据わった。
「そう、だったら仕方ないわね。やりなさい」
周りの男たちが一斉にアレックスを取り押さえようと飛びかかる。その瞬間、倉庫の照明がすべて不気味に明滅し、圧倒的な圧迫感が空間を満たした。
「よう。うちの姉貴に、随分な言い草じゃないか」
暗闇の奥から、ウルトラマンスーツの双眸が二つの青白い光となって怪しく浮かび上がる。
「グアあっ!?」
疾風のごとき速度で突撃したウルトラマンの一撃が、アレックスの腕を掴んでいた男の腹に直撃し、男は壁まで派手に吹き飛んで気絶した。片手が自由になったアレックスは、その隙を見逃さず、もう一人の男の腕を掴むと鮮やかな背負い投げでコンクリートの床へと叩きつけた。
「……まだ私1人でもやれたのに」
アレックスが髪を払いながら不敵に笑う。
「2人の方が効率いいでしょ?姉貴」
「それもそうね。行くわよ!」
アレックスは素早く拳銃を拾い上げ、次々と奥から現れるカドマスの構成員たちへ向けて発砲した。激しい撃ち合いが始まる。ウルトラマンはアレックスの前へと躍り出ると、両手をかざしてエネルギーの光輪を展開し、雨あられと降り注ぐ銃弾を火花と共にすべて弾き返した。
「ちょっと、こんなにカドマスって人数いるわけ!?」
「文句を言わない!全員生かしておいてよ!情報を吐かせるんだから!」
「はいはい!」
「『はい』は一回!」
二人は背中合わせになり、息の合ったコンビネーションで、ゾロゾロと湧き出る構成員たちを次々と打撃と組み技で無力化していく。
その時、倉庫の天井のガラスが派手に砕け散り、まばゆい光と共にカーラが上空から舞い降りた。
「みんな、大丈夫っ!?」
「カイリがいたから大丈夫よ。でも、来てくれて助かった!」
周囲の敵をすべて片付け、静まり返った倉庫の中で、3人はようやくお互いの顔を見つめ合った。カーラは泣きそうな目をしながら、アレックスとカイリの両手をぎゅっと握りしめる。
「本当にごめんなさい!色々私、間違ってた……。アレックスとカイリのこと、クラークより大事に思ってないわけじゃないの!二人のことが本当に大好きだし、アレックスとカイリがいてくれるからこそ、私はこの地球が自分の故郷だって思えるのよ!」
その必死な謝罪に、カイリは優しく微笑んで二人の手を包み込んだ。
「1人より2人、2人より3人だね。僕たちは家族だろ」
カイリの言葉に、カーラもアレックスも張り詰めていた心が解け、笑顔でお互いに深く頷きあった。その時、カーラが何かに気づいたようにハッと目を見開いた。
「……待って。カドマスは、私たち全員が『別れた』と思っているんだわ」
「別れたって、誰と誰が?」
アレックスが問いかける。
「スーパーマンとスーパーガールよ!私たちが別々の街に引き離されたと思い込んで、油断している。今ならメタロに勝てるわ。どっちのメタロも、一網打尽に倒せる!2人とも、私に協力して!」
「勿論よ!」
「でもその前に、姉ちゃんはチョッキを着なきゃね。ウィンから『できた』って連絡が来てるよ」
ナショナル・シティの立体駐車場。深夜の冷たい空気の中、作戦を伝えたスーパーマン(彼はメトロポリスのメタロの元へ向かった)と別れ、スーパーガールが静かに地上へと降り立った。
その前には、不気味な足音を響かせて待ち受けるジョン・コーベン――メタロの姿があった。
「戻ってくるって言ったでしょ?」
「フン、わざわざ焼き殺されに舞い戻ってきたか」
メタロが嘲笑うと同時に、その胸部が開き、凄まじい濁流のような**クリプトナイトビーム**がスーパーガールに向けて発射された。
「ウッ……!?……あれ?」
強烈な光線が直撃した。しかし、ウィンの作った特製のシールドチョッキを胸に纏ったスーパーガールには、あの身を毟られるような激痛も、**クリプトナイト**の弱体化の影響も全く現れなかった。
「今度は私の番よ!」
スーパーガールはビームを突き破って突進し、メタロの顔面に向けて強烈な拳を叩き込んだ。激しい肉弾戦の火花が散る。スーパーガールの圧倒的な怪力がメタロの金属の身体を激しく軋ませるが、メタロもまたサイボーグとしての駆動系を限界まで引き上げ、鋭いアッパーカットを放った。その硬質な一撃が、スーパーガールの無防備な胸のシールドチョッキへと正確に炸裂する。
バキリ、と嫌な音が響き、チョッキの回路がショートした。衝撃でスーパーガールは仰向けに倒れ込んでしまう。
メタロはおもむろに彼女に迫り、勝ち誇ったように見下ろした。
「今度こそ終わりだ、スーパーガール」
「……お前がなっ!」
メタロがその言葉の真意を理解するよりも早く、夜空から高速で飛来した二つの影が、メタロの胸に向けて同時に烈烈たる拳を直撃させた。
凄まじい衝撃波。メタロの巨体は立体駐車場の頑丈なコンクリートの柱をいくつもへし折りながら、派手に転がっていった。
煙の向こうから現れたのは、**クリプトナイト**の放射を遮断するパワードスーツを装着したアレックスと、青白い光を纏ったウルトラマンだった。
「家族の絆をみくびってもらっちゃ困るわ!」
アレックスが銃を構える。
「私たち家族の結束力を――」
カーラが立ち上がる。
「見せてやるっ!」
ウルトラマンが叫ぶ。
3人が並び立ち、一気呵成にメタロへと襲いかかった。そのコンビネーションアタックは、まさに絶妙という他なかった。言葉も、目線さえも交わす必要はなかった。誰かが動けば、次の者がその死角を補い、流れるような攻防一体の動きで、あの最強の超人を苦しめたメタロを完全に防戦一方にまで追い詰めていく。
しかし、メタロもまた、カドマスの最高技術を結集された殺人兵器だ。死に物狂いの暴れ方の中で、先ほどの打撃で脆くなっていたカーラのシールドチョッキが、ついに完全に破損して四散した。
「あああっ……!?」
一瞬にして**クリプトナイト**の生放射を浴び、スーパーガールは激しい脱力感と共に投げ飛ばされてしまう。メタロはその隙を逃さず、背後から彼女の首を強引に締め上げ、剥き出しの緑色のクリスタルをその背中に直接押し当てた。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!……アグッ……ああ、あっ!」
至近距離の激痛に激しく絶叫するカーラ。
「姉ちゃんから離れろ!」
ウルトラマンが空中へ跳躍し、全身の出力を乗せた痛烈な飛び蹴りをメタロの顔面に叩き込んだ。錐揉み回転しながら吹き飛ぶメタロ。だが、カーラは朦朧とする意識の中で最後の力を振り絞り、転がるメタロの腕を掴んでその巨体を組み伏せ、両肩を完全に外してその身動きを封じた。
「アレックス!今よ!」
「ハァァァッ!」
トドメを刺すべく、パワードスーツの力で引き抜いた頑丈な鉄パイプを、アレックスがメタロの胸の**クリプトナイトクリスタル**へと正確に宛がった。
「せーのっ!」
ウルトラマン、スーパーガール、そしてアレックスの3人が、呼吸を完全に一つにして、その鉄パイプの末端に向けて同時に強烈な蹴りを叩き込んだ。杭を打ち込むような凄まじい衝撃。鉄パイプはメタロの胸部コアを完全に貫き、内部のクリスタルを木っ端微塵に粉砕した。
「ガ、ガガ……」
口から不気味な回路の泡を吹き出しながら、メタロの瞳の赤い光が静かに消灯し、その凶悪な機能は完全に停止したのだった。
事件は見事に解決され、メトロポリスのカドマスもスーパーマンとジョンの活躍によって鎮圧された。
翌日、DEO本部には、メトロポリスへと帰るスーパーマンを見送るため、全員が集まっていた。
ジョンは、頑丈な鉛のケースに収められた**クリプトナイト**を差し出した。
「これは例の**クリプトナイト**だ。鉛のケースに入れてある。……君に預けよう、スーパーマン」
クラークはそのケースを見つめ、それから優しく微笑むカイリの姿に視線を移した。
「ありがとう、ジョン。……だが、要塞でカイリの言葉を聞いて、少し僕も頭が固すぎたと反省したんだ。これは僕が孤独の要塞に保管しておく。もしまた、地球に本当の危機が訪れた有事の際は、遠慮なく使ってくれ」
「……わかった。感謝する」
ジョンとクラークは、かつての確執を洗い流すように、力強く熱い握手を交わした。
「寂しくなるよ、クラーク」
ウィンとアレックスが、それぞれクラークと温かいハグを交わす。
「今度は世界を救うためじゃなくて、普通に遊びにこられるといいね」
「そうだね、ウィン。……それからカイリ」
クラークはカイリの前に立つと、その頭を優しく撫でた。
「カーラから色々聞いてるよ。学校やDEOの訓練のサボりは、ほどほどにね」
「ぶっ……!」
カイリはムッとして、犯人であるカーラに向けてジト目を送ったが、カーラはどこ吹く風といった様子で「あはは」と笑いながら手をヒラヒラと振って誤魔化している。
最後に、カーラとクラークがこれ以上ないほど深い抱擁を交わした。お互いが、この世界に生きるかけがえのない同胞であり、誇り高き家族であることを確かめ合うように。
「じゃあ、みんな元気で。何かあれば、いつでも呼んでくれ」
クラークが青空へと向かって力強く飛び立ち、一瞬で雲の彼方へと消えていく。その光り輝く後ろ姿を、カイリ、カーラ、アレックス、ジョン、およびウィンの5人は、どこまでも温かい笑顔で見送り続けるのだった。