ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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Welcome to Earth  

DEOの厳重に管理された医療室で、その男は突如として目覚めた。長く深い昏睡から引き剥がされた男の瞳には、強い混乱と野生動物のような警戒の色が濁っていた。

「落ち着いて!私たちはあなたを助けようとしてるの!」

医療ベッドの傍らにいたスーパーガールが、安心させるように両手を広げて語りかける。しかし、男の耳には周囲の警戒アラートや機械音がただの脅威としてしか響かなかった。男は獣のような咆哮を上げると、瞬発的にベッドから跳ね起き、あろうことかスーパーガールの首筋をその強靭な片手で乱暴に掴み上げた。クリプトン人と同等の怪力。スーパーガールが驚愕に目を見開く間もなく、男は彼女の身体を軽い荷物のように反対側の壁へと力任せに投げ飛ばした。

激しい破壊音と共に壁に叩きつけられるスーパーガール。異変を察知したDEOの特殊部隊員たちが自動小銃を構えて一斉に医療室へ突入する。

「動くな!床に伏せろ!」

隊員たちが一斉に引き金を引いた。しかし、放たれた無数の弾丸は男の強固な皮膚に弾かれ、火花を散らすだけで傷一つ負わせることはできない。あらゆる武器が通用せず、電撃棒を突き出そうとした隊員たちも、男の圧倒的なパワーの前には無力だった。男は迫り来る隊員たちの腕を掴んでは次々と空中へ放り投げ、まるで頑丈な障害物をどかすように医療室の重厚な隔壁を素手で殴り破り、基地の奥へと消えていった。

「姉ちゃん!大丈夫か!?」

「カーラ、しっかりして!」

通報を受けて通路の奥から駆けつけたカイリとアレックスが医療室に飛び込んだ時には、すでに室内は悲惨に大破し、男の姿はどこにもなかった。床に倒れていたスーパーガールをカイリが慌てて抱き起こす。彼女は首を押さえ、激しく咳き込みながら悔しそうに天井の破壊跡を見上げた。

駆けつけたジョン・ジョーンズは、破壊し尽くされた医療室の惨状と、傷ついた隊員たちの姿を見つめ、苦渋に満ちた声を絞り出した。

「……クリプトナイトを手放すタイミングを間違えたな。明日、大統領がこの街に来るというのに……」

前日、クラークとの和解の証として、地球上唯一の抑止力だった緑の鉱石をすべて北極の要塞へ送ってしまった。その直後にこれほどの超常的な脅威が脱走した事実に、司令室には重苦しい空気が立ち込めていた。

翌日、ナショナル・シティ空港は、五色の旗と熱狂的な歓声に包まれていた。アメリカ大統領がナショナル・シティを訪問し、地球人と宇宙人の平等を保証する歴史的な法案「異星人赦免法案」の署名式が執り行われるためだ。

空港の特設会場には、地元の高校のフィールドワークの一環として招待された多くの学生たちが集まっており、その中には私服姿のカイリの姿もあった。

「……なんか、空気がピリピリしてるな」

カイリが周囲の厳重な警戒態勢を見渡した、その時だった。

ステージ上で大統領がペンを執ろうとした瞬間、突如として大気を引き裂く爆鳴響と共に、どす黒い濁流のような「謎の火炎エネルギー」が上空から大統領に向けて容赦なく降り注いだ。

「キャーーーっ!」「大統領を護れ!」

悲鳴と怒号が飛び交い、現場は一瞬にして地獄絵図と化す。群衆が押し合いへし合い逃げ惑う混沌の中、カイリは素早く人混みを掻き分け、滑走路の物煙へと滑り込んだ。

瞬時に全身を覆うパワードスーツ。カイリは無言のままスーツを装着し、バーニアの爆音を響かせ、炎の渦巻くステージへと急行した。

ステージ上では、スーパーガールが自らの身体を肉体の盾として大統領の前に覆いかぶさり、迫り来る爆炎に耐えていた。しかし、その背後からさらに巨大な火炎の第二波が押し寄せる。

「させないっ!」

ウルトラマンがその間に割って入った。彼は迫り来る劫火に対し、両腕を身体の前で激しくクロスさせた。実体としての光の防衛障壁を展開する時間はない。いや、あえて展開しなかった。障壁を作れば、その反射した熱波が周囲の学生たちを巻き添えにする。

ウルトラマンは、交差させた両腕そのものに青白い光輪のエネルギーを限界まで収束させ、剥き出しの肉体とスーツの強度だけで、凄まじい熱線の奔流を真っ向から受け止めた。

「グッ……ウオォォォッ!」

カイリは歯を食いしばり、手をクロスさせたまま力任せに左右へと腕を振り払った。その瞬間、大統領を焼き尽くすはずだった凶悪な火炎は、ウルトラマンの腕の軌道に沿って完全に左右の虚空へと弾き飛ばされ、大気の中で霧散した。

しかし、激しい煙と爆炎が辺りを包み込む中、攻撃を仕掛けた犯人はすでにその気配を消し、煙に紛れて逃走した後だった。

DEO本部に帰還したカーラは、現場に残された未知のエネルギー波形のデータを睨みつけながら、怒りを露わにしていた。

「間違いないわ。あの会場を襲った火炎エネルギーの性質……昨日、医療室を破壊して逃げたあの不着ポッドの宇宙人の仕業に違いないわ!」

確たる証拠がない段階でのカーラの強い語気。その盲目的な怒りに、カイリは微かな違和感を覚えた。

そこへ、街の異星人が集まる地下の酒場へと潜入していたアレックスが戻り、彼が母星に連絡を取ろうとする可能性と、貴重な手がかりを持ち帰った。

「カーラ、落ち着いて。マギーたちの協力で、酒場で面白い噂を掴んだわ。あの脱走した宇宙人、地球上の電波送信設備を探していたみたい」

「了解、すぐやるよ!」

ウィンが猛烈な勢いでキーボードを叩く。数秒後、メインモニターに一つの座標が赤く点滅した。

「出た!プライド山天文台だ!今、そこから宇宙へ向けて強力な未知の信号が送信されてる!」

信号の暗号を解析していたウィンが、さらに驚いたように声を上げた。

「待って……この信号の座標、クリプトン星のあった宙域じゃない。そのすぐ近くの……宿敵である『ダクサム星』だ!」

「ダクサム……!?」

その名前を聞いた瞬間、カーラの表情から一切の冷静さが消え失せ、鬼の血相へと変わった。瞳の奥に、かつてないほどの激しい嫌悪感と不条理な偏見の炎が燃え盛る。

「ダクサムの奴らは不誠実で残酷よ。王政にしがみつき、快楽と暴力だけを貪るならず者の巣窟……!あの大統領襲撃も、やっぱりあの星の奴の仕業だったんだわ!」

カーラは吐き捨てるようにそう言い残すと、激しいソニックブームを巻き起こして天文台へと飛び立っていった。

「姉ちゃん!待ってよ!」

カイリもすぐにその後を追った。

雲を突き抜け、猛スピードで飛ぶスーパーガールの背中を追いかけながら、カイリの胸には棘のような痛みが突き刺さっていた。

生まれや故郷、血の繋がりだけで、その人格のすべてを悪だと決めつけられること。それは、カイリにとって決して他人事ではなかった。会ったこともない実の父親、ウルトラマンベリアル。宇宙を恐怖に陥れたその大悪党の因子を継いでいるというだけで、かつてゼロやレイバトスから、まずベリアル因子を継ぐものとして冷酷な視線を向けられた過去の記憶が、カイリの脳裏をよぎる。

「姉ちゃん、そのダクサム出身だからって悪だと決めつける前に話を聞くべきだよ!」

通信機越しに必死に訴えかけるが、完全に頭に血が上ったカーラの耳には、義弟のその切実な叫びは一切届かなかった。

プライド山天文台の観測室。巨大なアンテナの制御パネルを操作していたダクサム星人の男の前に、天井を破壊してスーパーガールが猛然と舞い降りた。

男は驚愕し、恐怖に顔を歪めた。突如として現れた超常の存在に怯えながら、男は必死に両手を挙げて叫んだ。

「誰も傷つけたくない!故郷に連絡を取りたかっただけんだ!」

敵意を剥き出しにするカーラに対し、男はただ地球の環境に混乱し、防衛本能で逃げていただけだと必死に主張したが、カーラはその言葉を聞き入れようとはせず、強烈な突撃で男を壁際まで吹き飛ばした。男は床を転がり、度重なる衝撃と混乱の疲弊により、すでに完全に意識を失ってぐったりと倒れ込んだ。

しかし、カーラはなおも拳を握り締め、失神した男に向けて一歩を踏み出す。

「そこまでだ、姉ちゃんっ!!」

その前に、ウルトラマンが超高速で割り込んだ。倒れた男を背中で庇うようにして、両腕を広げて立ちはだかる。

「退いて、カイリ!」

カーラは青白い目で義弟を睨みつけた。

「退けないよ……!」

「ダクサムは危険で野蛮なのよ。義姉として、言うことを聞かない義弟には少し『躾』が必要なようねッ!」

完全に理性を失ったスーパーガールが、実の家族同然であるウルトラマンに向けて猛然と襲いかかった。

大気を爆裂させるほどの速度で繰り出される、スーパーガールの全力の連撃。

「フンッ!フンッ!ハァッ!」

ウルトラマンは一切の手を出さず、その破壊的な拳を間一髪のところで全て左右へと受け流していく。

「やめろって、姉ちゃんっ!?どうしちゃったんだよ!?洗脳されてるわけでもないのに!」

純粋な偏見と怒りだけで自分に牙を向けてくる義姉の姿に、カイリは防戦一方のまま、悲痛な叫びを上げるしかなかった。

「グゥッ!?」

一瞬の隙を突き、スーパーガールの鋭い拳がウルトラマンの顎へとヒットした。パワードスーツのヘルメット越しに凄まじい衝撃が突き抜け、カイリの脳がぐらりと激しく揺れる。ウルトラマンの身体が傾き、その場に片膝をついた。

激しい眩暈と脳震盪に耐えながら、カイリは荒い息を吐き、視界の歪む中で義姉を見上げた。

「姉ちゃん……らしく……ないよ……?」

その掠れた声すら、今のカーラには届かなかった。彼女はカイリを完全に戦闘不能に陥れようと、容赦のない最後の一撃となる拳を上段から振り下ろした。

その時、カイリの瞳の奥で、誠実な怒りが爆発した。

「いい加減に……しろって!!」

ウルトラマンは残された全出力を右腕に爆発的に集中させ、振り下ろされたスーパーガールの渾身の拳を、正面からガッチリと受け止めた。

その瞬間、二人の規格外の超常的な力が真っ向から衝突し、天文台の空間全体を吹き飛ばさんばかりのとてつもない衝撃波が発生した。周囲のガラスが文字通り粉々に砕け散り、凄まじい爆風が巻き起こる。

カーラの拳を完全に受け止めきったウルトラマンだったが、顎へのダメージと限界を超えたエネルギー消費により、ウルトラマンはそのまま膝を崩し、床へと倒れ込んだ。

「ッ⁉︎……カイリッ⁉︎……私なんて……」

その瞬間、発生した衝撃波の凄まじさと、目の前で力なく倒れゆく義弟の姿を見て、カーラの脳内に冷水が浴びせられた。激しい罪悪感と恐怖が彼女を襲う。カーラは青ざめた顔で、寸前のところで意識を失ったカイリの身体をその両腕にしっかりと受け止めた。

DEO本部の医療室。静かな電子音が規則正しく響く中、気絶したカイリをベッドに寝かせ、カーラはただただ涙を流していた。そこへ、怒りを限界まで溜め込んだアレックスが足音を荒立てて入ってきた。

「カーラッ!貴方!カイリに、なんてことをしたか分かっているの!?」

「カイリが……あんな星の奴を庇ったのよ!?……私だって、カイリを傷つけたくなかったッ!」

カーラは涙ながらに弁明する。しかし、アレックスの怒りは収まらない。

「だとしてもよ!カイリは貴方に反撃もしなかったのにッ!」

「わかってるわよ!」

二人が激しく言い争い、部屋の空気が一触即発となった、その時だった。

「……姉ちゃん……姉貴……」

ベッドの上から、微かだが聞き馴染んだ、少し呆れたような声が聞こえた。

「カイリっ!?」

二人が一斉にベッドへ駆け寄る。カイリがゆっくりと目を覚ました。アレックスはすぐにカーラをカイリから遠ざけようと手で制したが、カイリはそのアレックスの手を優しく掴み、そっと下げさせた。

「ああ、カイリごめんなさい!」

カーラが耐えかねたようにカイリの頭をその胸に抱きしめ、何度も謝罪の言葉を口にする。カイリは苦笑しながら、その背中を撫でた。

「あんなに怒ってる姉ちゃんも久しぶりだったし……理由話してよ……」

カイリがそう言って微笑み、彼が許すのならと、アレックスもようやく溜め息をついてカーラを許すことにした。

その後、司令室にはジョンとウィンも集まり、集まったメンバーにカーラは重い口を開いて「ダクサム」という星について説明を始めた。

「なるほどね。つまり、クリプトンとダクサムは、大昔からめちゃくちゃ仲が悪かったわけだ」

ウィンが腕を組んで納得したように呟く。

「ええ。クリプトンは民主的で、探検家や哲学者、そして優れた科学者たちの星だった。でもダクサムは君主制で、王や女王がならず者たちの群衆を支配していたの。クリプトン星には『メイテックスコラーダクサム』っていう、とても言葉では言い表せないような諺があるほどよ……」

「じゃあ、君の言うとおり本当にダクサム人が悪い奴らなら、大統領を狙うのも納得いくよね」

ウィンの言葉に、カイリはすぐに首を振った。

「姉ちゃん達、決めつけるのは良くないよ……。ちなみに、ダクサムってのはクリプトンと双子星ってこと?それって、イスカンダルとガミラスみたいだね………」

それを聞いたウィンのオタク心が瞬時に反応した。

「カイリ!それジャパニーズアニメの『スターブレイザーズ』だろ?」

「うーんウィン、僕は『スペースバトルシップヤマト』ってのがしっくりくるかも?」

「……貴方達、緊迫した状況でバカな話をしていないの。彼に話を聞いてくる…」

二人のオタクトークを遮るように、アレックスが呆れたように前に進み出て、拘束室へ向こうとした。しかし、「ダメよ」とカーラがそれを遮った。

「クリプトン人の私が、ダクサムを一番よく分かってる。私がいく」

 

 

 

 

 

重厚な金属音を立てて、DEOの特殊独房の扉が開いた。中に拘束されているダクサム人の男は、透明な障壁の向こうで不機嫌そうに床を見つめていた。そこへ、カーラが足音を荒立てて歩み寄り、冷徹な視線を浴びせる。

「早くこの景色に慣れるのね!当分外に出られないから!貴方、結構なインパクトを残してくれたじゃないの。国のリーダーを狙うなんてなかなか大胆ね。どうしてクリプトン星のカプセルに乗ってたの?何か言いたいことはある?どうなの?」

カーラの高圧的な尋問に対し、ダクサム人は完全に心を閉ざしたように無言を貫く。その刺々しい空気に、後ろで見守っていたカイリが眉をひそめて割って入った。

「姉ちゃん、それはダメじゃん」

「ちょっとカイリ。まだ動いたら……」

カーラが制止しようとするのを手で軽く制し、カイリは独房の障壁の前に進み出た。そして、男の目線を真っ直ぐに見つめ、努めて穏やかな声で問いかける。

「何をしにこの星へ来たの?」

しかし、カイリの言葉にも男はピクリとも反応しない。頑なな態度を崩さない男に対し、カーラの堪忍袋の緒が再び切れかける。

「このっ……!」

「姉ちゃんッ!」

拳を握り締め、今にも障壁を殴り飛ばしそうなカーラを、カイリが必死に身体で抑え込む。

その様子を冷めた目で見ていたダクサム人が、ようやく面倒くさそうに口を開いた。

「……ザッカリアン・エールはないのか?」

唐突に響いたその言葉に、カーラは「何言ってるんだ?」と呆れ果てた顔を隠そうともしなかった。地球の大統領を襲撃したテロ容疑者として捕まっているというのに、開口一番に要求したのが故郷の酒の名前だとは、さすがにこの状況を理解していない。カイリもまた、少し頭の悪い野蛮な男なのだろうかと内心思い始めていた。

「あれが今、すごく恋しい。テーブルにあれば大抵の悩みは消える」

「要求は聞かない」

カーラがピシャリと却下する。男は皮肉げに鼻で笑った。

「頼み方が悪かったか?星によっちゃどう頼むかは重要じゃない。この星は違うのか?」

「ダクサム人らしく自己中心的ね」

「僕らのことは全てお見通しってか?クリプトン人だろ?そこのボウズは知らんが、ごたいそうな胸のマークでわかる。流石だよな?」

「なんなの?」

「わかってるんだぞ?聡明なクリプトン人様は、僕たちを見下してる。戦争を始めた時からな」

まるでクリプトン側が先に戦端を開いたかのような言い草に、カーラは激しい憤りを覚え、独房に一歩詰め寄って抗議した。

「そっちが先に戦争を始めたんでしょ!?」

「姉ちゃん……っ!」

背後から掛けられたカイリの制止の声に、カーラはハッと我に返り、スッと深く息を吸い込んで自身の感情を落ち着かせた。そして、改めて冷徹な問いを投げかける。

「何故ダクサムに信号を?」

「遭難信号だ」

「なぜ遭難信号を?」

「遭難したからだ。決まってるだろ?生きてることを伝えたい。おかしいか?」

「じゃあ何故大統領を狙ったの?」

「"ダイトウリョウ"って?」

「殴るわよ?今度は手加減しない」

「誰も傷つける気はない!」

男が語気を強めて言い放ったその言葉には、不思議と嘘がないようにカイリには感じられた。だが、激しい偏見を抱いているカーラがそれを信じるはずもなかった。

おそらく、お互いが生まれ育ち、教育されてきた文化の違いから、このような激しいすれ違いが起きているのだろう。地球ですら、異なる人種や国同士で歪み合うことが絶えないのだ。クリプトン人にだって、ウルトラの種族にだって、そうした諍いがあってもおかしくはない。

「フン、僕を疑ってるようだな。話しても無駄らしい。じゃあね、女王様。こりゃ最高の寝心地だ」

男は吐き捨てるように言うと、独房のベッドにごろりと横になり、もうこれ以上話すつもりはないという明確な意思表示をした。

「行くわよ、カイリ」

カーラは不快感を露わにしながら、バカと野蛮がうつるわよと言わんばかりにカイリの手を強く引き、その場を後にした。

翌日、改めてセッティングされた大統領の演説会場。

カイリは一般客に紛れて会場の警戒に当たり、スーパーガールは上空を静かに旋回しながら、アレックスをはじめとするDEOの部隊も地上で厳重な警備を敷いていた。

ダクサム人の男は拘束されているため、もう犯人はいないだろうというのが大方の見方だった。しかし、前回の襲撃に触発されたテロリスト、あるいは潜伏している別の異星人が動き出す可能性も捨てきれない。現場には終始、張り詰めた緊張感が漂っていた。

やがて、大統領がステージに登壇し、力強い演説が始まった。地球人と宇宙人の共存を謳う「異星人赦免法」の制定が、まさに今、宣言されようとしたその瞬間――。

前回を上回る、凄まじい轟音と共に巨大な火の玉が大統領を目がけて急降下してきた。

「大統領っ!」

上空から光速で舞い降りたスーパーガールが、その肉体を盾にして大統領を庇う。彼女はすぐさま息を吹きかけ、必死の消火活動を試みた。しかし、炎の煙の奥から現れた真犯人――未知の宇宙人「スコーチ」が放った強烈なヒートビジョンを受け、スーパーガールは派手に後方へと吹き飛ばされてしまう。

「射撃開始!大統領を避難させろ!」

アレックスが指示を飛ばし、DEOの隊員たちが一斉に応戦する。しかし、炎を操るスコーチの圧倒的な火力の前に現場はパニックに陥り、激しい混乱の中で、アレックスと共に警備に当たっていたマギー刑事の姿が忽然と消えてしまった。

DEO本部での迅速なデータ解析の結果、現場に残された熱エネルギーの波形は、拘束中のダクサム星人のものとは完全に異なる「熱を操る登録外の宇宙人(スコーチ)」の犯行であることが証明された。ダクサム人は無実だったのだ。

自身の個人的な感情と偏見に目を曇らせ、真犯人を取り逃したばかりか、マギーまで連れ去られる事態を招いてしまったことに、カーラは深く責任を感じて項垂れていた。

アレックスは以前にその犯人を見たことがあった。彼女はすぐさま、異星人たちが密かに出入りする地下の酒場へと向かい、持ち前の行動力でスコーチの潜伏先の情報を掴み取った。

ナショナル・シティの郊外にある、薄暗い廃工場。

手足を縛られて床に転がされているマギーの前に、スコーチが冷酷な笑みを浮かべて立ちはだかっていた。

「大統領を殺す必要はないはずよ」

マギーが鋭い視線で睨みつけながら言い放つ。

「人間にとってはね。でも、私たちにとっては違う」

「だからこそ、異星人赦免法が作られたんじゃないの!」

「違うわ。あの恩赦法の本当の目的は、私たち宇宙人を安全な場所からいぶし出すことよ。どこに住んで、何をしているか、すべてを国に管理して支配するために作られたのよ!」

激しく口論を交わす二人の間に、突如として天井のガラスを突き破り、スーパーガールと、無言でパワードスーツを装着したウルトラマンが割って入った。

「大統領のペットたちのお出ましね。この裏切り者どもめ」

「違うわ!」

カーラが叫ぶ。しかしスコーチは聞く耳を持たず、吐き捨てるように言った。

「人間は敵よ。私は地球に似た星を五つ以上巡ってきたけれど、どこに行っても奴らは異質なものを排除してきた。すべては奴らの偏見と恐怖のせいよ!」

その言葉を受け、ウルトラマンのマスクの奥から、カイリの静かだが力強い声が響いた。

「それは、君たちにも勇気がないからだろ?」

「勇気?……迫害されることへの勇気かい?」

「違う、信じる勇気だ!」

「人間が信用できないのに、どうやって信じろと言うのよ!?」

「ここで歩みを止めて引きこもったら、そこで本当に終わりだぞ!」

「だから私たちは、こうして隠れて闘っているのよ!」

「違うわ」

カーラが鋭く言葉を重ねる。

「貴方のような犯罪者がいるから、いつまで経っても恐怖が消えないのよ!」

スーパーガールの瞳が赤く染まり、強烈なヒートビジョンがスコーチに向けて放たれた。直撃を受けたスコーチは一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべたものの、やがてその顔は歪んだ笑顔へと変わっていく。

「私に熱で勝てるとでも思った?」

スコーチが両腕を広げると、周囲の空間が一気に爆発的な高熱に包まれた。彼女は自身の身体から生み出される猛烈な炎を、まるで巨大なバーナーのように周囲のすべてに向けて放射した。

スーパーガールとウルトラマンがその爆風を凌いでいる一瞬の隙を突き、アレックスが床に倒れていたマギーを助け出そうと駆け寄る。しかし、スコーチが放った容赦のない熱波の衝撃により、アレックスとマギーの二人は無惨にも激しく後方へと吹き飛ばされてしまった。

「姉ちゃん!ここは僕が相手をする!」

ウルトラマンが前へと躍り出た。熱への耐性が高いパワードスーツの特性を活かし、スコーチとの激しい肉弾戦を繰り広げる。

「相手をしてあげるわ、坊や!」

スコーチが嘲笑う。ウルトラマンは両掌で青白い光輪のエネルギーを操り、まるで鋭利な刃物を振り回すかのような苛烈な連続攻撃で彼女を追い詰めていく。しかし、炎と同化したスコーチの俊敏な動きにより、光輪の斬撃はことごとく空を切った。

だが、避けられたのは光輪だけだった。ウルトラマンは攻撃がかわされた勢いをそのまま利用し、身体を反転させて死角からの鋭い回し蹴りを放った。その強烈な一撃がスコーチの脇腹を正確に捉え、彼女の身体は派手に吹き飛んだ。

「今よ!」

上空に控えていたスーパーガールが激しい冷気ブレスを浴びせ、吹き飛んだスコーチを一瞬にして巨大な氷漬けにする。

しかし、熱の化身であるスコーチを前に、その氷は一瞬にして沸騰し、爆発するように溶けて消え去った。

「しまっ……!」

不意を突かれたスーパーガールに、スコーチの強力なヒートビジョンが直撃する。激しい衝撃に絶叫し、弾き飛ばされるカーラ。ウルトラマンが空中へ飛び上がって彼女の身体を抱き止めたが、その凄まじい威力に耐えきれず、二人まとめて頑丈なコンクリートの壁へと激しく叩きつけられてしまった。

「出てこい、人間ども!すべて焼き尽くしてあげるわ!」

勝ち誇るスコーチの咆哮が響く。これ以上の被害を出さないため、アレックスが意を決して物陰から飛び出し、自らが囮となってスコーチの注意を惹きつけた。

「……立てる、姉ちゃん?」

ウルトラマンが煤まみれの手を差し伸べる。

「ええ……カイリこそ、立てる?」

お互いに手を取り合い、支え合いながら立ち上がる二人。炎の渦の中で必死に打開策を模索していたカイリが、ふと閃いた。

「……酸素をなくせば、あの炎を抑えられるんじゃ?」

「やってみましょう!」

その言葉と同時に、スーパーガールとウルトラマンは超高速の移動を開始した。スコーチを中心にして、二人は凄まじい速度で円を描きながら走り続ける。

超常的な速度によって生み出された気流は、やがてスコーチを中央に閉じ込める巨大な竜巻へと変化した。激しく回転する暴風により、中心部の酸素が急速に吸い上げられ、完全な真空状態が作り出されていく。

「あ、ガハっ……あぁ……っ!」

酸素が遮断されたことで、スコーチの周囲を包んでいた猛烈な炎が瞬く間に掻き消えていく。エネルギーの供給源を失い、呼吸すらできなくなったスコーチはもがき苦しみ、ついにその場に激しく膝を屈した。

周囲を覆っていた炎は完全に消え去り、竜巻が収まる。しかし、息を荒荒しく切らせるスコーチの視線の先に、先ほどの衝撃で床に落ちていた一丁の拳銃が映った。彼女が最後の悪あがきとしてその銃に手をかけようとした、その瞬間――。

背後の闇から音もなく迫ったマギーが、近くに落ちていた頑丈な鉄パイプを力一杯に振り下ろした。

鈍い衝撃音が響き、頭部を強打されたスコーチはそのまま床へと頽れ、完全に気絶した。

 

 

事件が終息し、DEO本部の穏やかな日常が戻ってきた。

誰もいない静かな廊下で、カーラは隣を歩くカイリに向けて、心底申し訳なさそうな顔で視線を落とした。

「ごめんね、カイリ。私がバカだったわ……。まず相手の話を聞かないとダメよね……」

「やっと気付いた?」

カイリが少し生意気そうに肩をすくめて笑うと、カーラは「もう!」と言いながら、彼の頭を軽いゲンコツでグリグリと小突き、それから愛おしそうに彼をぎゅっと抱きしめた。

「私には、カイリやアレックスっていう素敵な家族がいる……。でも、あのダクサムの彼は……この広い地球で、たったひとりぼっちなんだものね。きっとすごく寂しいはずよ。それなのに、私ったら自分のことばっかり……」

「あはは、それも前からじゃん」

「ちょっと、意地悪言わないでよ!」

二人はいつものように言葉を交わしながら、じゃれ合って笑みをこぼした。やがて、カーラは決意を秘めた目で独房の続く通路の奥を見つめた。

「私、彼とちゃんと話してこなきゃ」

「うん、そうするべきだよ。誤解も解いておいで」

カイリは優しく微笑みながら、カーラの背中をぽんと押した。歩み始めた彼女の背中を、カイリはどこまでも温かい目で見送り続けるのだった。




ストックが切れたので更新が遅くなるかも……そんな遅れないと思いますが…
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