ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
DEOの地下深く、特殊なエネルギー隔壁に囲まれた訓練用ドームの中では、凄まじい風切り音と衝撃音が鳴り響いていた。ハンク・ヘンショウことジョン・ジョーンズ、アレックス、ウィン、そしてカーラとカイリが見守る中、昨日目覚めたばかりのダクサム人、モン=エルの能力調査が厳重に執り行われていた。ウィンが設置した高精度の測定センサーの真ん中で、モン=エルは自身の身体に漲る未知の力に戸惑いながらも、軽くステップを踏む。カーラが「それじゃあ、まずはこれを行ってみて」と促すと、彼は床を力強く蹴り上げた。その瞬間、モン=エルの身体は爆発的な推進力でドームの天井近くまで跳ね上がり、重厚な鉄骨を危うく踏み抜きそうになりながら着地した。その跳躍力と、着地した瞬間に床のコンクリートを粉砕した破壊力は、まさに地球の一般的なスーパーヒーローを遥かに凌駕する代物だった。しかし、ウィンが手元のタブレットを確認しながら首を傾げる。
「うーん、凄いパワーだけど……カーラ、彼には君みたいな飛行能力は備わっていないみたいだ。それに、さっきから色々と視覚センサーを刺激してみたけど、ヒートビジョンやX線ビジョンの兆候も全く見られないよ。細胞の密度はクリプトン人に近いけど、黄色い太陽の光から得られる恩恵のベクトルが少し違うみたいだね」
モン=エルは自身の大きな手を何度も握り締め、驚いたように自分の身体を見つめていた。飛行能力や目から放つ熱線といった超常的な技はなくとも、その肉体に秘められた純粋な怪力と頑強さは、地球人にとっては十分に脅威となり得るものだった。カーラはその様子を複雑な表情で見つめていたが、そこへアレックスの通信機がけたたましく鳴り響いた。ナショナル・シティ警察の、あのマギー・ソーヤー刑事からの緊急連絡だった。市内のうらぶれた路地裏で、身元不明の宇宙人の遺体が発見されたというのだ。事態を重く見たアレックスとカーラは、すぐさま現場へと急行することにした。
事件現場となった薄暗い路地裏は、警察の黄色い規制線が張り巡らされ、独特の緊迫感に包まれていた。マギーが鋭い視線で死体を検分しているところへ、アレックスと私服姿のカーラが合流する。横たわっていたのは、地球人のものとは明らかに異なる皮膚と骨格を持った宇宙人だった。その胸部には、獣に引き裂かれたような凄まじい鉤爪の痕、精度高く肉を引きちぎられた生々しい痕跡が残されていた。カーラがその鋭い観察眼で傷口の微細なエネルギー残渣と肉の裂け方を確認し、忌々しそうに顔をしかめる。
「この深く、かつ肉を焼き切るような独特の裂傷……間違いないわ。非常に獰猛で好戦的な種族、ブレマク人の爪痕よ。この街にブレマク人が潜伏していて、何らかの理由でこの宇宙人を殺害したんだわ」
マギーとアレックスは即座に行動を開始した。DEOのデータベースとマギーの裏社会のネットワークを照合し、容疑者であるブレマク人がナショナル・シティの港湾地区にある廃倉庫に潜伏していることを突き止める。二人は入念に銃を構え、息を合わせて倉庫の扉を蹴り開けた。奥の暗がりに、巨体を震わせるブレマク人の姿を捉える。「動くな!ナショナル・シティ警察だ!」マギーが鋭く叫び、アレックスが特殊な拘束銃の狙いを定めた、その瞬間だった。倉庫の天井ガラスが派手に割れ、全身を奇妙な戦闘服と不気味な仮面で包んだ謎の武装集団が突如として乱入してきたのだ。彼らは一言も発することなく、統率された動きでブレマク人に特殊な電撃弾を撃ち込んで無力化すると、驚くマギーとアレックスの目の前で、彼を頑丈な搬送用カプセルに押し込み、あっと言う間に高性能のヘリコプターで連れ去ってしまった。プロの仕業だった。警察でもDEOでもない、別の巨大な闇の組織が、宇宙人を誘拐したのだ。
手がかりを失い、重苦しい空気の中でDEO本部へと帰還したアレックスたちを迎えたのは、いつも以上に険しい表情で行き場のない哀愁を漂わせているジョン・ジョーンズの姿だった。彼は長官室のモニターを見つめたまま、微動だにしない。カイリ、アレックス、カーラが彼の異変に気づいて歩み寄ると、ジョンはゆっくりと振り返り、震える声を絞り出した。
「……グリーンマーシャンの生き残りが他にいた。名前はメガン。今はメーガンと名乗っているそうだ……」
その言葉が室内に響いた瞬間、一同は言葉を失った。
「それって……」
カイリが目を丸くし、カーラが両手を口に当てて歓喜の声を上げる。
「奇跡だわ!ジョン、あなた以外の同胞が、この宇宙にまだ生きていたなんて!」
しかし、ジョンの表情はちっとも晴れなかった。彼は深くため息をつき、拳を握りしめる。
「例の宇宙人のバーで会って話したが……しくじったと思う」
「なんで?」
アレックスが不思議そうに尋ねると、ジョンは苦渋に満ちた面持ちで告げた。
「……絆を結びたいと申し出た」
「え?ちょっと待って?会ってすぐに?」
カーラが驚きのあまり声を裏返らせる。すかさずカイリが、あきれたように突っ込みを入れた。
「マジ?ジョン、それはキツイよ。300年生きててその口説きはないでしょ」
「違う、そんな俗なものではない。精神融合(ボンド)だよ……」
ジョンは自身の額に手を当て、火星人にとってそれがどれほど神聖なものであるかを説明し始めた。
「火星の伝統的なコミュニケーションだ。心を通わせ、互いの夢や感情を完全に共有する。記憶も、お互いに一切の秘密を持たない。自己中心的なものが存在しない世界だ。嘘も、偽りも、何一つそこには存在しない」
「ステキね……」
カーラはその精神の美しさに深く感動し、うっとりとした表情を浮かべる。その横でカイリは、心の中で(それってスタートレックのミスタースポックがやる精神突き合わせみたいな感じか……いや、今の長官にそれを言うのは野暮だな)と思いつつ、その言葉をぐっと喉の奥に飲み込んだ。
「だが、彼女は激しく嫌がった……私の申し出を、拒絶するようにかわしたんだ」
落胆するジョンを見つめながら、カイリは少し考えてから、静かに口を開いた。
「……長官。きっとメーガンさんの火星での記憶は、想像を絶するような苦痛と絶望に満ちたものだったんだよ。長官にその酷い苦しみを追体験させたくないから、自分の心を守るために拒否したんだと思うな。悪気があって断ったわけじゃないよ」
ジョンの瞳に微かな光が宿り、彼はカイリを穏やかに見つめた。
「ありがとう、カイリ。君たちのような温かい存在に出会えて、私は本当に幸運だよ……。だが、たとえどんなに激しい苦痛を伴うとしても、火星人同士のつながりは特別なのだ。その絆は、他の何よりも深く……それによって、失われた自分を少しでも取り戻せる気がするんだ」
「だったら、その気持ちをそのまま真っ直ぐ伝えるべきよ」
アレックスの現実的で力強い助言に、ジョンはただ静かに黙り込み、深く考え込むのだった。
カイリはその会話を聞きながら、自身の左腕に装着されたパワードスーツのコントロールブレスレットへと視線を落とした。繋がり、そして絆。自分をこの世界へと導き、ベリアル因子という重い宿命を背負いながらも前を向かせてくれたウルトラマンゼロや、仲間たちとの魂の絆を思い返し、その言葉の重みを静かに噛みしめていた。
その後、捜査は急展開を迎えた。マギーが裏社会の情報筋から仕入れてきたのは、ナショナル・シティの超富裕層向けに極秘裏に開催されている、怪しげな仮面パーティーの存在だった。アレックスとマギーは、きらびやかで妖しい高級ドレスに身を包み、素顔を隠す仮面をつけてそのパーティーへと潜入した。豪華な邸宅の地下へと続く隠された階段を降りると、そこには地球の法律も倫理も届かない、狂気に満ちた空間が広がっていた。広大な地下ホールの中心には巨大な鉄柵のリングが設置され、周囲を囲む仮面の富裕層たちが、血走った目で大金を賭け、怒号のような歓声を上げている。そこは、宇宙人同士を命懸けで戦わせる、非合法の「ファイトクラブ」だったのだ。
リングのゲートが開き、先日連れ去られたあのブレマク人が引きずり出される。そして、その対戦相手として反対側のゲートから現れた人物を見て、潜入していた一同は息を呑んだ。そこにいたのは、なんとあのメーガン・モーズことミス・マーシャンだったのだ。彼女は観客の冷酷な歓声に耳を貸すことなく、生きるために、あるいは自らの存在を証明するかのように、人間の姿から本来のグリーン・マーシャンの姿へと変わり、獰猛なブレマク人に向けて鋭い拳を振るい始めた。
「そこまでよ!」
これ以上の暴挙を見過ごすわけにはいかないと、上空の通気口を破壊してスーパーガールがリングの中心へと舞い降りた。同時に、異変を察知して追ってきたカイリも、無言のままブレスレットを作動させてパワードスーツを全身に装着し、ウルトラマンの姿となって着地する。しかし、このファイトクラブの冷酷な胴元であるヴェロニカ・シンクレア――通称「ルーレット」は、ヒーローたちの乱入に動じるどころか、妖艶な笑みを浮かべてマイクを握った。
「素晴らしい特別ゲストの登場よ!皆さん、今夜のメインイベントを始めましょう!」
ルーレットの合図と共に、リングの奥から二人の恐るべき闘士が解き放たれた。スーパーガールの前に立ちふさがったのは、巨体と圧倒的な怪力を誇る宇宙の怪物「ドレーガ」。そして、ウルトラマンの前へと歩み出てきたのは、全身から凄まじい闘気と格闘家としての威圧感を放つ男だった。男はウルトラマンの姿をじろじろと見つめると、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「私は宇宙総合格闘家、グレゴール人のガルド。この世界にウルトラマンという偉大な戦士がいると聞いてわざわざ挑戦しに来たのだが……まさか、まだこんな子供が相手とはな……」
「なにを⁉︎」
カイリの怒りの声に応じるよりも早く、ガルドの身体がブレて消えた。超高速の身のこなしから、ガルドの右脚が爆発的な炎を纏い、ウルトラマンの脳鳴りを引き起こすほどの鋭さで連続回し蹴りとなって襲いかかった。凄まじい熱風と衝撃波がスーツを襲う。カイリは咄嗟に身を翻し、かつてウルトラマンゼロから徹底的に叩き込まれた宇宙拳法の型を用いて、その猛烈な蹴撃の軌道を見切り、防御と同時にカウンターの拳を突き出した。しかし、ガルドはそのカイリの動きを嘲笑うかのように、空中で信じられない体軸のブレを使って拳をかわし、ウルトラマンの胸元へ強烈な掌底を叩き込んだ。
「ほう⁉︎宇宙拳法を使えるのか?これまで宇宙を旅してウルトラマンレオやウルトラマンゼロ、ウルトラマンレグロスといった本物の拳法使いの達人たちをこの目で見てきたが……お前のは練度が甘すぎる!」
ガルドの言葉通り、カイリの未完の宇宙拳法は完全に動きを読まれており、すべての攻撃を受け止められ、子供の手をひねるかのように軽くあしらわれてしまう。ガルドの重厚な膝蹴りがウルトラマンの腹部に直撃し、カイリは激しい衝撃と共にリングの床を転がった。
一方、スーパーガールもまた、ドレーガの規格外の怪力と凶暴な猛攻の前に防戦一方となっていた。ドレーガの鋭い爪がカーラのコスチュームを切り裂き、その巨体がスーパーガールを床に叩きつける。ドレーガは勝ち誇ったように激しく咆哮した。
「クリプトン人を殺すのは初めてだ!」
「それはお預けよ!」
叫んだのはアレックスだった。彼女とマギーは仮面を脱ぎ捨てると、DEO特製の高周波特殊弾と強力な煙幕弾をドレーガとガルドの足元へ向けて一斉に乱射した。凄まじい音響と視界を覆い尽くす白い煙がリング全体を包み込む。その隙を突き、アレックスたちは大きなダメージを受けて動けないスーパーガールとウルトラマンの身体を必死に抱え、混沌とする会場から命からがら脱出するのだった。
DEO本部の医療室。並んだベッドの上で、手当てを受けるカーラとカイリの姿があった。パワードスーツを解除したカイリは、全身の打ち身と激痛に顔をしかめながら、ベッドの縁を握りしめて自嘲気味に呟いた。
「……クソ、完敗だ……。僕達に賭けた人がもしいたら、全員に謝らないといけないな……」
そんなカイリの様子を心配そうに見つめながら、アレックスが治療用のアタッチメントを彼の身体に当てる。
その頃、メーガンがファイトクラブで戦っていたという衝撃の事実を知ったジョンは、居ても立ってもいられず、再び彼女の元へと向かっていた。なぜあんな血生臭い場所に身を置くのかと激しい口調で問い詰めるジョンに対し、メーガンは悲しげな、しかし冷徹な目で彼を見つめ返した。
「あなたは過去の火星の栄光にすがり過ぎているのよ。今の私にとって、あの場所だけが自分を偽らずに生きられる現実なの」
彼女はジョンを激しく批判した。しかし、去り際に最低限の警告として、あのクラブのすべての糸を引いている胴元が、ヴェロニカ・シンクレア――「ルーレット」という冷酷な地球人の女であることを告げるのだった。
同じ頃、DEOの別室では、ウィンがモン=エルからある個人的な依頼を受けていた。「地球で目立たずに、かつ自分の力を試せるような、カッコいいコスチュームを作ってほしい」というのだ。ウィンはそのオタク心を刺激され、ノリノリで超軽量かつ頑丈な特製スーツを仕立て上げた。モン=エルにはカーラのような飛行能力やビジョン系の超能力はなかったが、その高い跳躍力や純粋な破壊力は、文字通りスーパーヒーロー並みだった。ウィンは完成したスーツの「実地テスト」と称して、モン=エルを連れて意気揚々とナショナル・シティの夜の街へと繰り出す。しかし、地球の常識を全く知らないモン=エルの破天荒なパワーと自由奔放な行動に、ウィンは終始大慌てで振り回される羽目になるのだった。
一方、怪我を押して行動を開始したスーパーガールは、ルーレットの豪奢なオフィスへと単身乗り込んでいた。彼女はルーレットの目の前に立ち、これ以上宇宙人を食い物にするリングを即座に閉鎖するよう、毅然とした態度で告げる。しかし、ルーレットは少しも怯むことなく、冷酷な笑みを浮かべて反論した。
「これは一時的に止められるかもしれないわ。でも、社会から虐げられ、偏見に晒され、日陰で隠れて生きることを強いられた哀れな宇宙人たちが、自らの意志で戦い、その怒りを発を発散させる場所を、あなたに止める権利なんてあるのかしら?あなたのような、世界中から愛されている『恵まれたヒーロー』には、彼らの本当の飢えと苦しみなんて絶対に分からないのよ」
ルーレットの容赦ない言葉の暴力に、カーラは強い衝撃を受け、反論の言葉を見失ってその場を立ち去るしかなかった。
本部へと戻ったカーラは、実地テストから帰ってきたモン=エルとじっくりと話し合う機会を持った。かつて自分たちの故郷であるクリプトンとダクサムがどれほど血で血を洗う争いを続けていようとも、今やそのどちらの星も宇宙から消え去り、自分たちはこの地球に取り残された最後の生き残り同士なのだ。カーラは古い星同士の因縁を完全に忘れ、一人の仲間として彼と向き合うことを決意する。そんなカーラの誠実な態度に心を動かされたモン=エルは、ふと思い出したように、かつてダクサムの王宮で奴隷たちがドレーガと戦わされていたのを見た記憶を語り始めた。
「そういえば、あのドレーガって怪物……一見無敵に見えるけど、ダクサムの闘士たちはいつも奴のある一点を狙っていた。ドレーガは『右鎖骨のすぐ下』が完全に未発達で、そこが唯一の明確な弱点なんだ」
貴重な情報を得たカーラは、次なる戦いへの光明を見出す。
その頃、自室のベッドに座っていたカイリは、グレゴール人ガルドに叩きのめされた己の未熟さに、激しい悔しさを募らせていた。達人たちの足元にも及ないと言われた未完の拳法。カイリは左腕のブレスレットを見つめ、深く息を吸い込んだ。
「ゼロ……僕に力を貸して。もっと、もっと強くならなきゃいけないんだ!」
ブレスレットの神秘的な光が周囲を包み込む。カイリは肉体を現実世界に残したまま、ブレスレットの力を使って「精神体」となり、自らの意識の奥底に広がる精神世界へとダイブした。そこには、光の粒子を纏ったウルトラマンゼロの幻影が、静かに腕を組んで待っていた。
「へっ、その悔しそうな面構え、悪くないぜカイリ。行くぞ、特訓の時間だ!」
ゼロの厳しいながらも温かい声が響き渡る。現実世界の数時間は、この時の流れが異なる精神世界においては、数年単位の途方もない時間に匹敵した。カイリはゼロの容赦のない指導のもと、己の身体を極限まで苛め抜き、宇宙拳法の型を徹底的に身体に叩き込み直す、気の遠くなるような過酷な修行を開始した。ガルドの放った炎の蹴りに対抗するため、己のエネルギーを純粋に爆発させる新たな技の体得に向けて、カイリは精神の中で何度も何度も宙を舞った。
しかし現実世界では、事態は最悪の方向へと転がっていた。ジョンはメーガンの頑なな心を救いたい一心で、再び彼女に謝罪をするために指定された場所へと向かったが、それはルーレットが仕掛けた卑劣な罠だったのだ。ジョンは強力な特殊拘束具によって力を奪され、DEO長官でありながらルーレットの手下に捕らえられてしまう。さらに、ファイトクラブのリングは警察の強制捜査を逃れるため、すでに別の秘密の地下施設へと移動していた。
連絡が途絶えたジョンを救出するため、カーラは必死になって手がかりを探す。彼女が思い至ったのは、ナショナル・シティの最高層階に君臨する、富裕層の圧倒的なコネクションを持つルーサー社の若きCEO、レナ・ルーサーの存在だった。カーラはレナの元を訪れ、偏見に満ちた裏のファイトクラブの存在を明かして協力を求める。レナはカーラへの深い信頼から、その強大な人脈を駆使し、新しく移転されたファイトクラブの秘密の開催場所と、そこへ入場するためのVIP招待状をすぐさま手配してくれた。
新しい地下の特設リングは、前回を遥かに凌ぐ熱気と狂気に包まれていた。ルーレットの残酷極まりない演出により、リングの中央にはグリーン・マーシャンの本来の姿に戻されたジョンと、同じくグリーン・マーシャンの姿のままのメーガンが並んで立たされていた。ルーレットは「生き残りたければ、どちらかが死ぬまで殺し合いなさい!」と非情なアナウンスを流す。メーガンは生きるための本能と、逆らえない恐怖から、ジョンに向けて容赦のない猛攻を仕掛けた。しかし、ジョンは一切の反撃をせず、彼女の強力な拳をその身体で真っ向から受け止め続けた。衝撃で緑の肉体が揺れ、鮮血が飛び散る。ジョンは苦痛に耐えながら、メーガンの瞳を真っ直ぐに見つめ、魂を揺さぶるような声で必死に語りかけた。
「メーガン……生きるために戦うことを、決して恥じるな!だが、過去の恐怖に囚われ、自分自身をこれ以上苦しめるのはやめるんだ!君は、人殺しなんかじゃない!」
その真摯で温かいジョンの言葉が、メーガンの頑なだった心を激しく溶かした。彼女はハッと目を見開き、振り上げた拳を寸前のところでピタリと止めた。二人は戦うことを拒否し、お互いを見つめ合う。
リングの闘士たちが戦いを止めたことに、客席の富裕層たちからは激しいブーイングと怒号が巻き起こった。計画を台無しにされたルーレットは、顔を怒りで歪ませて鋭く叫んだ。
「お仕置きの時間よ!処刑人を放ちなさい!」
ゲートが開き、前回スーパーガールを打ちのめした凶暴な巨大怪物ドレーガが、咆哮を上げてリング内へと解き放たれた。絶体絶命のピンチ。その時、施設の重厚な天井が凄まじい衝撃と共に粉砕され、上空からまばゆい光と共にスーパーガールと、精神世界の長い修行から覚醒したウルトラマンが間一髪で滑り込んできた。
「そこまでよ、ルーレット!」
カーラが叫ぶ。同時に、客席の奥からウルトラマンの気配を察知したグレゴール人ガルドが、不敵な笑みを浮かべてリングへと飛び降りてきた。
「また性懲りもなく現れたか、ウルトラマンの小僧。何度来ようが結果は同じだ!」
「それはどうかな……いくぞ!」
二人のリベンジマッチ、そしてスーパーガールとドレーガの再戦が、熱狂のリングの中で同時に火蓋を切った。
スーパーガールは、ドレーガの破壊的な突撃を華麗な身のこなしで上空へと回避すると、先ほどモン=エルから教わった明確な弱点へと狙いを定めた。ドレーガが再び爪を振り下ろそうとしたその一瞬の隙を突き、カーラは全エネルギーを込めた超高速のストレートを、ドレーガの「右鎖骨のすぐ下」の未発達な肉体へと正確に叩き込んだ。
「ギャオォォォッ!?」
怪物はこれまでにない絶叫を上げ、その巨体を激しく痙攣させると、そのままリングの床へと文字通り一撃で崩れ落ち、完全に気絶した。
一方、ウルトラマンとガルドの激闘も最高潮に達していた。ガルドは前回同様、全身に激しい炎を纏わせ、大気を焼き尽くさんばかりの猛烈な連続回し蹴りを放ってきた。しかし、今のカイリは前回の彼とは完全に別次元の戦士へと進化していた。数年間に及ぶゼロとの過酷な精神修行により、ガルドの超高速の蹴りの軌道が、まるでスローモーションのように完全に脳裏に見えていたのだ。ウルトラマンは無駄のない極限の体術の型を用いて、迫り来る炎の蹴撃をすべて最小限の動きで左右へと完璧に受け流し、ガルドの体勢を崩していく。
ガルドの動きに完全に適応したウルトラマンは、激しく床を蹴って上空へと高く跳躍した。
「これで終わりだ!」
カイリが精神世界で血の滲むような特訓の末に完全に自分のものとした必殺技。ウルトラマンの右脚に、彼の純粋な闘気とエネルギーが爆発的な真紅の炎となって収束していく。そのまま重力の加速を伴い、ガルドに向けて猛烈な「炎を纏った飛び蹴り」を放ちながら急降下した。ガルドは驚愕して両腕を交差させて防御を試みたが、その圧倒的なキレと威力を誇るキックは、ガルドの強固な防御を容易く粉砕した。
凄まじい爆発音と共に、ガルドの身体はリングの頑丈な壁へと激しく叩きつけられ、壁に深いヒビを刻み込んで床へと転がった。見事な、完全なる勝利だった。
ガルドは口元から青い血を流し、信じられないものを見る目でウルトラマンを見上げた。
「バカな……こんな……地球の時間でほんの短時間の間に、これほど技のキレと練度が跳ね上がるはずが……!」
ウルトラマンは静かに着地し、炎の残滓を宿した脚を引きながら、静かに、しかし重みのある声で告げた。
「短時間じゃないさ」
カイリは、現実世界の数時間の裏で、ゼロの容赦ないシゴキに耐えながら、数年単位の気が遠くなるような孤独な修行を戦い抜いてきたのだ。その時間の重みが、今の洗練された技のキレにすべて宿っていた。
事態の悪化を察知したアレックスやマギーたちDEOの部隊が、ルーレットを逮捕するためにリングへと突入した。しかしその瞬間、ファイトクラブに集まっていた多くの宇宙人たちが、自分たちの唯一の娯楽であり、本性を隠さずにいられる唯一の居場所を守ろうとするかのように、ルーレットの周囲を遮るようにして立ちはだかり、人間の警察から彼女を護るための頑丈な人の壁を作り出したのだ。宇宙人たちのその悲しい抵抗と、人間に向けられた深い不信感の目を見たスーパーガールは、リングの中心に進み出て、彼らの心に届くよう、優しく、しかし魂を込めて強く訴えかけた。
「お願い、聞いて!彼らのような人間は、宇宙人は危険で野蛮な怪物だと世間に言いふらし、その恐るべき嘘をみんなに信じ込ませたいの。でも、ここで暴力を振るったら奴らの思う壺よ!お願いだから、その嘘をあなたたちの行動で真実にしないで……!私たちは、もっと別の方法で共存できるはずよ!」
カーラの嘘偽りのない、心からの悲痛な叫びは、頑なだった宇宙人たちの心へ深く、静かに染み渡っていった。彼らは互いに顔を見合わせると、握りしめていた拳をゆっくりと下ろし、ルーレットの前から静かに道を譲るのだった。これによって、ヴェロニカ・シンクレアはついにアレックスたちの手によって現行犯で逮捕されることとなった。
しかし、事件の結末には地球の冷酷な現実が待っていた。後日、ルーレットが持つ超富裕層のバックボーンや、政治的な多方面からの強力な圧力がかかったことにより、彼女は十分な罰を受けることなく、すぐに釈放されてしまうという苦い結果を迎えたのだ。地球の司法の限界に、アレックスたちは悔しさをにじませていた。
だが、DEO本部に戻ったカーラの瞳には、もう絶望の影はなかった。彼女は本部のロビーで、未だに地球の文化や、ウィンが作った新しいスーツの扱いに戸惑いながらも、どこか楽しそうに過ごしているモン=エルの姿を見つめていた。カーラは、彼をこの地球の社会に適合させ、ヒーローとしての正しい力の使い方を訓練し、助けてあげることこそが、故郷を失った自分がこの地球に存在する新たな「務め」であり、果たすべき使命なのだと前向きに考えるようになっていた。
司令室の少し離れた影の特等席から、カイリはその二人の様子を静かに見守っていた。かつて星同士の歴史的な憎しみで歪み合っていたはずのクリプトン人とダクサム人が、今や互いを理解し合い、非常に良好な関係へと一歩を踏み出している。
(姉ちゃんがそうやって前を向いて、新しい絆を作っているなら……僕も絶対に負けてられないな)
カイリはフッと優しい笑みを浮かべると、再び自身の左腕のブレスレットを強く握りしめた。そんな二人の大切な絆を、そしてこの地球の不完全な平和を、いつでも影から完全に守り、助けられる本物の強さを手に入れるため、カイリはさらなる高みを目指して、今夜も過酷な修行へと身を投じることを静かに心に誓うのだった。