ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate   作:青眼究極竜

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できたら即発射


begins

 

深夜のナショナル・シティ、その最果ての港湾地区。

先ほどまで一人の少年の命を無慈悲に飲み込もうとしていた静寂は、今や完全に崩壊していた。コンテナ倉庫街の一角には、赤と黒の禍々しいオーラが陽炎のように立ち昇り、大気をパチパチと爆裂させる、この世ならぬエネルギーの激流が渦巻いている。

銀と漆黒の装甲――「ULTRAMAN SUIT」を身に纏い、重力をあざ笑うように宙に浮遊するカイリ。

その全身の細胞を焼き尽くさんばかりに駆け巡っているのは、スーツの純機械的な補助機能などではなかった。この装甲は、あくまでカイリの体内に深く眠っていた強大すぎる「ベリアルの力」を、強制的に現実世界へと出力するための触媒、あるいは作動装置に過ぎない。実際にその拳を握らせ、空を割るほどの熱量を放っているのは、死の淵でついに覚醒したカイリ自身の肉体そのものであり、血脈から溢れ出す荒れ狂う生命エネルギーだった。

カイリには、言葉を発するだけの精神的な余裕は微塵もなかった。

思考することすら遮断されるほどの衝撃が脳を支配している。視界を覆う鋭いブルーのバイザー(瞳)からは、常人の許容量を遥かに超えた膨大な情報の奔流が、視神経を通じて脳内に直接流れ込んでいた。

漆黒の暗闇が、まるで真昼の太陽の下にあるかのように鮮明に電子反転して映し出される。霧の向こうで浮遊しているベムラーの骨格の歪み、強靭な筋肉の細かな収縮運動、そしてその体内で次に練り上げられる破壊エネルギーの予兆。それらすべての情報が、言葉になる前の「次にどう動けば相手を屠れるか」という絶対的かつ本能的な確信として、カイリの神経を焼きながら肉体を突き動かしていた。

「スーツが馴染んできているか……」

ベムラーが、その不気味な声を夜の空気に震わせた。一対の吊り上がった眼が、さらに妖しく明滅する。

「良い。これこそが、我が求めた『器』の真価だ」

ベムラーが再びその巨大な両手を掲げ、先ほどカイリの胸を貫いたものと同じ、あるいはそれ以上の密度を持つ紫色の光弾を、狂ったように連続して放ち始めた。大気を引き裂く爆音が連続して港に響き渡る。

カイリは必死だった。生まれて初めて手にする、あまりにも巨大で禍々しい己の力。一歩間違えれば、その破壊の衝動に精神が丸ごと飲み込まれ、自我が消し飛んでしまいそうな恐怖を、必死の理性で抑え込む。しかし、彼の内なる恐怖とは裏腹に、肉体の動きは神業に近い精密さを極めていた。

視界に映る軌道予測の通りに、最小限の首の傾げ、最小限のステップだけで迫り来る光弾を紙一重で回避していく。

最後の一発を横に跳んで避けると同時に、カイリは背後にあった巨大なコンテナの壁を両足で強く蹴り上げた。

ドォン!! とアスファルトを振動させるほどの爆発的な推進力。

人間の動体視力を完全に置き去りにする速度で空間を転移し、一瞬にしてベムラーとの距離をゼロにする。カイリは引いた右腕に全エネルギーを乗せ、銀と漆黒の装甲に覆われた拳をベムラーの無骨な顔面へと真っ直ぐに叩き込んだ。

ドォォォォン!!

金属の塊同士が超音速で激突したかのような、凄まじい大轟音が夜の港に炸裂した。衝撃波が霧を一瞬で吹き飛ばす。ベムラーの巨体は文字通り弾丸のようになり、後方にうず高く積み上げられていたコンテナの山を何枚も、何十枚も景気よく貫通しながら遥か彼方へと吹き飛んでいった。

カイリは言葉を失ったまま、すぐさま次の追撃へと入るために空を駆けた。

誰かに戦い方を習ったはずもない。武術の心得などあるはずがない。だが、どうやって手足を動かせば、どうやってエネルギーを叩き込めば、目の前の生物を最も効率的に「壊せるのか」が、細胞に刻まれた本能として、嫌というほど分かってしまうのだ。その恐ろしいほどの戦闘への最適化、自らの血に眠る凶暴な理解に、カイリ自身が内側からガタガタと震えていた。

「ぐっ……おのれぇ……!」

ひしゃげ、歪んだコンテナの鉄屑の山から、咆哮とともにベムラーが這い出した。その身体から立ち昇る不気味な闇の気が、怨念のように膨れ上がっていく。ベムラーもまた、明確な殺意を以て自らのリミッターを解除した。

目にも留まらぬ、空間を埋め尽くすほどの猛攻。爪が、拳が、光線が、全方位からカイリを目がけて襲いかかる。

だが、カイリの肉体の反応速度は、ベムラーの戦闘ギアの限界をさらに上回る速度で加速していった。

最初は両手両足を必死に振り回し、泥臭く攻防を繰り広げていたカイリだったが、数十、数百の打ち合いを重ねるうちに、その動きから完全に「迷い」という雑音が消えていった。

ベムラーが放った猛烈な右ストレートを、カイリは流れるような動作で手のひらで受け流し、その軌道を逸らす。続く、空間を爆裂させるような重い回し蹴りに対しては、最小限に突き出した左肘の装甲で完璧にブロックし、火花を散らせた。

やがて、戦場の主導権は完全に逆転した。

港湾地区の上空、完全に宙に静止したまま、狂ったように襲いかかるベムラーの猛攻を、カイリは両手だけで機械的に、それでいて確実にあしらい始める。まるで、飛んでくる羽虫を払い落とすかのような、絶対的な技量の差。

そしてついに、彼は右の片手だけを無造作に動かしてベムラーの全力の連撃をすべて捌き、視線を正面から外した。

それは、相手を侮蔑するような、傲慢な余裕から生まれた行動ではなかった。あまりにも世界の動きが、ベムラーの筋肉の弛緩が、その「先」がバイザーを通じて見えすぎてしまい、もはや相手の顔を凝視する必要すらなくなってしまったのだ。ただの作業。淡々とした処理。

(なんだ……これ……。僕の身体なのに、僕じゃないみたいだ……!)

カイリの心の中で、冷たい冷汗が流れる。しかし、肉体はその恐怖を他所に、完璧なカウンターの体勢へと移行していた。

「貴様……! 何という成長速度だ……!?」

ベムラーの心象に、底知れぬ恐怖と、それを上回る強烈な戦慄が走る。

(なんという成長速度……! 流石は、流石はあの皇帝陛下のご子息か……!?)

その驚愕によって生まれた、わずか一瞬の、針の穴ほどの隙。カイリの右足が、暗闇の中で閃光のように跳ね上がった。

ベムラーの顎を的確に捉えたその一撃は、地球の重力の枷を完全に無視した、超重量の打撃だった。

「グオおおおっ!!」

ベムラーの巨体が、悲鳴のような咆哮を上げながら、大気を裂いて遥か上空へと蹴り飛ばされた。

音速の壁を突破した衝撃波(ソニックブーム)が遅れて港に響き渡る。あまりの衝撃に、ベムラーは受身を取ることもできず、ただの鉄塊のように夜空へと打ち上げられていく。

カイリの身体が、それを追うように垂直に急上昇した。

衣服を切り裂く暴風など、ULTRAMAN SUITの装甲の前には無に等しい。眼下にあったナショナル・シティの街並みが、ガラス張りの高層ビル群が、またたく間に点へと縮んでいく。

やっとの思いで体勢を立て直したベムラーが空中にとどまった場所。そこは、すでに地上の喧騒など一切届かない、遥か雲の上――高度一万メートルを超える、凍てつく成層圏の入り口だった。

見上げる宇宙は不気味なほどに黒く、ただ冷徹な月明かりだけが、白く輝く雲海を照らしている。

ベムラーが視線を下方へと向けた。雲海を爆発的に割り、凄まじい質量と熱量を持って上昇してくる「青い星」が見えた。カイリのバイザーの輝きだ。

カイリはベムラーと同じ高度に達すると、ピタリと空間に停止した。

冷気を含んだ大気が軋む。カイリは自身の呼吸を整えるように深く息を吸い込み、全身の全エネルギーを両腕へと集約させ始めた。

彼の肉体から溢れ出す赤と黒のオーラが、一筋の巨大な奔流、あるいは嵐となって彼自身の身体を包み込んでいく。

その構え。右腕を垂直に、左腕を水平に交差させる、十字の形。

この時空の、この地球の出身者であれば、それが何であるかを知る者はいない。しかし、彼がかつて夢の中で見た、あの光景にいたすべての戦士たちが、命を懸けて放っていた究極の構え。

カイリの頭脳にはまだ、この破壊の技を呼ぶための名前は存在しない。

だが、目の前の敵を、すべてを完全に終わらせるための破滅的な力が、両腕の交点へと容赦なく収束していく。カラータイマーの赤が、その限界を告げるように狂ったように明滅した。

「させるかぁぁぁ!!」

ベムラーもまた、自らの敗北と死を直感し、残された全生命力を振り絞った。巨大な両手を合わせて突き出し、彼の最大出力となる、空間そのものを融解させるような紫色のペアハンド光線を放った。

だが、拮抗などという生温かい現象は、最初から起こり得なかった。

カイリの両手から解き放たれた、赤と黒の十字光線。それは光線というよりも、時空に穿たれた破壊の濁流だった。

ベムラーが放った渾身の紫の光線を、真正面から何の手応えもなく「飲み込み」、一瞬で霧散させる。光線は勢いを一切殺すことなく、その光の軌道の先にいたベムラー自身をも、その巨大な質量ごと丸ごと飲み込んだ。

「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

光の洪水の中心で、ベムラーの頑強な肉体が、細胞のレベルから強烈な熱量によって粒子へと還元されていく。装甲が溶け、皮膚が消え去っていく。

圧倒的な破壊。しかし、消えゆく意識の中、ベムラーの吊り上がった眼には、悲壮感や恨みの色はなかった。ただ、自らがその目で「神話の復活」を目撃できたことへの、狂信的な歓喜だけがそこにあった。

ベムラーは完全に消滅する直前、最後の魂の力を振り絞り、カイリの脳内へと直接、重いテレパシーを送った。

『見事……。立派になられた……。カイリ様……』

ノイズの混ざる声が、カイリの意識を打つ。

『貴方様には……あの偉大なる皇帝陛下の血が流れている……。そして、その血を分けた、高貴なる兄君が、この宇宙のどこかに必ずいます……』

「兄、だと……?」

カイリがバイザーの奥で目を見開く。

『どのような運命を進むかは、カイリ様、貴方様次第です。ですが、その血を選ぶ限り、光と闇の戦いが、果てしない闘争の螺旋が、常に貴方様について回ることを……どうか、お忘れなきよう……』

直後、思考の繋がりが完全に断絶した。

ドォォォォォォォン!!

ナショナル・シティの遥か上空、成層圏の夜空に、まるで第二の太陽が突如として生まれたかのような、凄まじい規模の巨大な大爆発が起こった。

夜の雲海が真白くフラッシュし、その爆発が放った規格外の電磁波とエネルギーの余波は、地上で世界の監視を続けている特異災害対策局「DEO」の最高性能のレーダーをも一瞬で真っ赤に染め上げ、システムを激しく震撼させた。

爆風が静かに収まり、再び凍てつくような静寂が戻った高度一万メートル。

一人残されたカイリは、膨大な熱量を持ったULTRAMAN SUITの中で、ただ激しく、壊れた蛇口のように荒い息をついていた。

カラータイマーの点滅が、静かに元の鈍い輝きへと戻っていく。

ベムラーという強大な外星人を打ち破った。その事実に対する、勝利の感慨や達成感などは、今のカイリには一欠片もなかった。

ただ、ベムラーが最期に残していった、自身の忌まわしき血の真実。

そして、この世界のどこかに存在するという、まだ見ぬ「兄」の暗い影が――。

冷え切った成層圏の風の中で、少年の心に、どこまでも重く、暗く、深く沈み込んでいた。

 

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