ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの夜明けは、大気を引き裂く凄まじい轟音と共に始まった。
特異生物対策局(DEO)の極秘演習場。超高速で飛行するスーパーガールの背後から、最新鋭の誘導ミサイルが次々と放たれる。
「遅い!」
赤と青のコスチュームをなびかせた彼女は、音速の壁を突破する。鋭い旋回を披露し、追尾してくるミサイル同士を空中で激突させて自滅を誘った。
完璧な機動、圧倒的なパワー。だが、地上でモニターを見つめるDEOの長官、ハンク・ヘンショウの表情は冷徹そのものだった。
「……不合格だ。自分の能力を過信しすぎている。力だけで解決できると思うな」
その厳しい言葉に、通信の向こうのスーパーガールは不満げに頬を膨らませるのだった。
そんな彼女の自信過剰な姿勢は、その日のうちに大きな代償を支払うことになる。
同僚のウィン・ショットから「ナショナル・シティ港で大規模火災が発生した」との緊急連絡を受け、現場へ急行したスーパーガール。燃え盛る港湾地帯、今にも大型原油タンカーに火が燃え移りそうな緊迫した状況だった。もしタンカーに引火すれば、大爆発を起こして街に甚大な被害が出る。
「タンカーを動かして、火元から遠ざけるわ!」
彼女が選択した決断は、タンカーそのものを力任せに移動させることだった。しかし、パワーの抑制を完全に制御しきれていなかった。
「メキメキ」と鈍い音が響き、彼女が掴んだ船首部分から巨大な亀裂が走る。次の瞬間、タンカーの腹から大量の黒い原油が海へと激しく溢れ出した。大爆発こそ防いだものの、ナショナル・シティの美しい海は、一瞬にして最悪の海洋汚染に染まってしまったのだ。
翌日、ナショナル・シティの高校の教室。
朝のホームルーム前、クラスメイトたちは一様にスマホの画面を眺め、昨日の大失態のニュースで持ちきりだった。
「見ろよこれ。『救世主か? それとも災いか?』だってさ」
「メトロポリスのスーパーマンの時も街の修復費用が4倍になったらしいけど、同じトラブルをこの街に持ち込むなって書かれてるぜ」
「結局、力があるだけで何も考えてないんだろ、スーパーガールって」
トゲのある言葉が飛び交う教室の片隅で、カイリは炭酸飲料の缶を握りしめたまま、静かに怒りを燃やしていた。
彼だけは知っている。あの赤と青のスーツの下で、どれほど必死に、傷だらけになりながらマントを焦がして街を守ろうとしていたかを。
「……何もしないで外から文句言ってるだけのやつらに、何がわかるんだよ」
カイリの口から、低く冷めた声が漏れた。
「あ?」
クラスで声の大きい男子生徒が振り返る。
「なんだよカイリ。お前、あのトラブルガールの味方するわけ?」
「味方とかじゃない。彼女は爆発を防ごうとしたんだ。結果的に油は漏れたけど、もしあそこで何もしなかったら、港全体が吹き飛んで何百人も死んでた。被害を最小限に抑えたんだろ」
一歩も引かないカイリの態度に、教室内がわずかにざわつく。
「いや、でも現に海は真っ黒だし、大迷惑じゃん。なんでお前、そこまであいつの肩を持つんだよ? まるでアイツの身内みたいにさ」
「それは――」
クラスメイトの言葉に、カイリは一瞬、言葉を詰まらせた。
喉元まで出かかった言葉を、必死で飲み込む。絶対に彼女の正体を明かすわけにはいかない。自分と彼女の日常を守るために、それは神に誓った絶対の秘密だった。
「……別に。ただ、命がけで戦ってる奴を安全な場所から叩くのが、気に食わないだけだ」
カイリはフンと鼻を鳴らし、それ以上追及される前にカバンを持って席を立った。そのまま、心配そうにクラスメイトたちの視線を背中に浴びながら、教室を後にした。
その頃、キャットコー・メディアのオフィスでも、スーパーガールの大失態は最悪の形で扱われていた。
メディアの女王であり、カーラの上司でもあるキャット・グラントは、企画会議で冷酷に言い放つ。
「少しはできると思ったから『スーパーガール』と命名したのに、これじゃ『トラブルガール』だわ。我が社が彼女のストーリーをコントロールしなければならない。ジェームズ、あなたのスーパーマンとのコネを使いなさい。彼女に独占インタビューを要求するのよ」
インタビューに応じれば正体が露呈しかねない。精神的に追い詰められ、自分のデスクで完全にうなだれるカーラ。そんな彼女の異変を察したジェームズ・オルセンは、彼女を窓辺へと誘った。
「窓の外を見てごらん。何が見える?」
「ビルと、看板と……バーでの愚痴かしら」
カーラが力なく答えると、ジェームズは首を振った。
「そこには、助けを求める人がいる。この街には君が必要んだ。君のようなヒーローがね」
その夜、ダンバース家のアパートメントには、臨時の「作戦本部」が立ち上がっていた。
リビングのテーブルにはウィンの持ち込んだ複数のノートパソコンが並び、警察無線や街の監視カメラの映像がリアルタイムで流れている。そこには、カーラだけでなく、ジェームズ、ウィン、そしてなぜか最初からソファでポテトチップスを食べているカイリの姿もあった。
カイリはジェームズを見て姉ちゃんの好みかなぁなんて考えていたが。
「よし、みんな。グラント女史の言う通り、まずは肩の力を抜いて、小さなことからコツコツやろう」
ウィンがキーボードを叩きながら言う。
「名付けて『スーパーガール・親愛なる隣人化計画』だ!」
「何よそのタイトル……でも、やるわ」
カーラが頷く。
そこからの数日間、チームの連携は完璧だった。
ウィンとジェームズが街のトラブルをいち早く察知し、無線で指示を出す。そして、カイリもまた、画面を睨みながら的確なアドバイスを口にしていた。
「姉ちゃん、次の交差点を右。そこ、救急車が渋滞に巻き込まれてる。ビルの間を通り抜けて、救急車ごと上の高架道路に移動させて」
『了解!』
通信の向こうで風を切る音が響き、数分後にはニュースサイトに「スーパーガール, 渋滞の救急車を空輸!」という快挙が報じられる。
「次は北通りでひったくり。犯人は自転車で逃走中。裏路地に回り込んで」
ジェームズの指示に合わせ、カーラが鮮やかに犯人の前に着地する。
小さな事件の解決、猫の救出、迷子の案内。
コツコツと積み重ねた善行は、確実に街の空気を変えていった。テレビのニュースでも次第に称賛の声が増え、オフィスでそれを見たウィンとジェームズ、そしてカーラは、手を取り合って喜びを分かち合った。
「やったわね、カーラ! 街の支持率が急上昇だよ!」
「みんなのおかげよ。ありがとう」
その日の夜。ウィンとジェームズが帰り、カーラが満面の笑みで余韻に浸っていると、リビングのドアが開いた。
そこには、険しい表情をした姉のアレックス・ダンバースが立っていた。彼女は部屋にカーラしかいないと思い込み、ドアを閉めるなり早口で切り出した。
「……悪かったわ、カーラ。あなたに、自分の能力だけに頼るなって、DEOの訓練でキツく言い過ぎた。ここ数日のあなたの地道な活動を見て、あなたがどれほど真剣にこの街に向き合おうとしているか分かったの。妹を信じきれなかった私を、許して」
姉の突然の謝罪に、カーラは嬉しそうに微笑んだ。
「アレックス……いいのよ、そんな。私も、最初のタンカーの件は焦りすぎてたわ。あそこであなたの言う通り、ちゃんと訓練を受けておけば……」
「ちょっと待って」
部屋の隅、薄暗い読書灯の影にある1人掛けのソファから、不意に声が上がった。
アレックスとカーラは心臓が飛び出るほど驚き、揃ってそちらを振り向いた。そこには、大きめのヘッドホンを首にかけ、ノートを広げたカイリが、怪訝そうな顔で二人を見つめていた。
「カイリ!? あなた、まだ起きてたの!?」
アレックスが動揺を隠せずに声を裏返す。
カイリはシャープペンシルを回しながら、アレックスが口にした不穏な単語をなぞった。
「起きてたよ、宿題やってるんだから。それより姉貴、今なんて言った? ディー、イー、オー? ……それって何?」
「あ、いや! それは、その……私の職場の、ええと、部署の略称よ! デパートメント・オブ・エコロジー・オペレーション的な!」
アレックスが必死に冷や汗を流しながら言い訳を並べるが、カイリの目は完全に据わっている。
「嘘つけ。姉ちゃんの『訓練』とか『不合格』とか、全部筒抜けなんだけど。姉貴、ただの製薬会社の研究員じゃなかったわけ?」
「それは……」
「ごまかしても無駄。さっき思いっきり『妹を信じきれなかった』って言ったじゃん。姉ちゃんがスーパーガールだって知ってるんだよね? で、姉貴はそれを管理するか、一緒に戦うかしてる『ディー・イー・オー』とかいう怪しい組織の人間。……違う?」
すべてを完璧に言い当てられ、アレックスはガックリと肩を落とした。カーラも「あちゃー」という顔で額を押さえている。
観念したアレックスは、深くため息をついた。
「……分かったわよ。イライザには内緒よ?何も話してないんだから……貴方もここまで知ったら隠し通せないわね。私は『DEO』――特異生物対策局の捜査官。地球に潜伏するエイリアンや、超常的な脅威を監視・対策する政府の秘密組織よ。いいことをバラしたら………」
どれほど緊迫した反応が返ってくるかと、二人の姉は身を構えた。
しかし、カイリは数秒間ぽかんとした後、突然、ぷっと吹き出した。
「へぇー! 姉貴、捜査官なの? w。あの、学生時代ゴロゴロして、僕に『お茶淹れて』とか言ってる姉貴が? 国家秘密組織の、エージェント? ないないないない、ウケるんだけど! w」
「笑うな! こっちは大真面目に命がけで仕事してるのよ!」
アレックスが顔を真っ赤にして怒鳴るが、カイリは涙を拭いながらニヤニヤしている。
「いや、だってさ。お堅い政府の役人が、姉ちゃんのヒーロー活動にダメ出ししてたってことでしょ? ウケる。国家公務員サマは偉そうだなぁ」
「あなたねぇ……!」
アレックスが拳を握りしめて詰め寄ろうとした瞬間、彼女のポケットの端末が、静まり返った部屋にけたたましくアラートを鳴り響かせた。
受話器を取ったアレックスの顔が、一瞬で捜査官のそれに変わる。
「……何ですって? ヘルグラマイトが、塩素系殺虫剤(DDT)の工場を……。すぐに現場へ向かいます!」
事件は最悪の形で動いていた。
DEOは、昆虫型エイリアン「ヘルグラマイト」をおびき寄せるため、DDTを積んだダミートラックで罠を張った作戦を決行したのだ。
しかし、現れたヘルグラマイトの戦闘力はDEOの予測を遥かに超えていた。激しい戦闘の末、作戦は失敗。前線で指揮を執っていたアレックスが、ヘルグラマイトによって拉致されてしまった。彼を裏で操っていたのは、カーラの叔母であるアストラ将軍だった。
「アレックスがさらわれた!?」
DEO本部に駆け込んだカーラは、ハンク・ヘンショウに詰め寄った。
「場所を特定したわ。廃工場よ」
「罠の可能性が極めて高い。一人で行くのは無謀だ、スーパーガール!」
「姉が捕まってるのよ! 罠だろうと何だろうと、私が行くわ!」
ヘンショウの制止を振り切り、スーパーガールは窓から夜空へと飛び出した。
薄暗い廃工場。天井から吊るされた檻の中に、拘束されたアレックスがいた。彼女の前には、カーラの実の母親、アルーラと瓜二つの容姿を持つ女性――アストラ将軍が立っていた。
そこへ、凄まじい衝撃と共に壁を突き破ってスーパーガールが着地する。
「アレックス!」
「カーラ、罠よ! 逃げて!」
「遅いわ、カーラ」
アストラが冷酷に微笑む。
「叔母さん……生きていたのね。でも、なぜこんなことを!」
「この星を救うためよ。アルーラが私をフォート・ロズに閉じ込めても、私の大義は潰えない。大人しく私に従いなさい」
「断るわ!」
二人のクリプトン人が激突した。
その戦闘は、まさに天災だった。衝撃波が工場の壁を削り、激しい肉弾戦が繰り広げられる。しかし、軍人として徹底的な戦闘訓練を受けてきたアストラに対し、カーラの攻撃は大振りで、次第に防戦一方に追い込まれていく。
「甘いわ、カーラ! 感情だけで私に勝てると思うな!」
アストラの強烈なアッパーカットがカーラの顎を捉え、彼女は激しく床に叩きつけられた。追撃のためにアストラが拳を振り上げる。カーラは動けない。
「そこまでだ」
低く、冷徹な声が、廃工場に響き渡った。
アストラが動きを止め、声のした入り口へと視線を向ける。
そこには、銀と漆黒のシャープな装甲を纏った未知の戦士が立っていた。胸の中央で青く輝くカラータイマー。冷たい光を放つ瞳。
ultramansuitに身を包んだカイリの姿だった。
(姉ちゃんを、これ以上傷つけさせない)
スーツの内側で、カイリの瞳が怒りで青く燃え上がる。
「……何者だ。クリプトン人ではないな」
アストラが眉をひそめた瞬間、ブライトはすでに目の前にいた。
超音速の踏み込み。アストラが反応するより早く、カイリの鉄拳が彼女の顔面に炸裂した。
ドカァァァン!!
「がはっ……!?」
アストラの巨体が、何枚ものコンクリートの壁を突き破って外の荒れ地へと吹き飛ぶ。
カイリは一瞬だけ床のカーラを見下ろし、何も言わずにアストラを追って外へ飛び出した。
荒れ地で立ち上がったアストラは、猛烈な形相で迫り来るカイリを迎え撃つ。
「小癪な真似を――!」
アストラが放つ渾身のストレート。しかし、カイリはそれを、まるで止まっているかのように最小限の動きで避けた。流れるような体術。ベムラー戦のような荒々しい暴走ではない。今のカイリの頭脳は、驚くほど冷静に、冷徹に相手の動きを先読みしていた。
アストラの攻撃をすべて紙一重で遇らい、カイリの容赦のない打撃がアストラのボディ、顔面、関節へと正確無比に叩き込まれる。
「クッ、ウアァッ!? なんだ、この動きは……!」
クリプトン人の頑強な肉体を持ってしても、カイリの一撃一撃は芯に響くような重さがあった。アストラは完全に圧倒され、膝をつきそうになる。
「これで、終わりだ」
カイリが右腕の左腕をクロスし光線を放とうとしたその時。
「動くな、エイリアンども!」
激しいライトの光と共に、ハンク・ヘンショウ率いるDEOの突撃部隊が装甲車で乱入してきた。
「チッ……」
アストラは忌々しげにカイリを睨みつけ、撤退しようと空中へ飛び上がる。だが、ヘンショウの手には、緑色に怪しく光るクリプトナイト製のナイフが握られていた。
ヘンショウは超人的な跳躍力でアストラに肉薄し、その肩口へ容赦なくナイフを突き立てた。
「ぎゃあああああっ!?」
クリプトナイトの放射線を至近距離で浴び、アストラは悲鳴を上げる。彼女はナイフを強引に引き抜き、負傷した身体のまま、夜闇の彼方へと這う這うの体で逃走していった。
静寂が戻った荒れ地。ヘンショウは着地し、ナイフを収めると、静かにカイリへと視線を向けた。
カイリは彼と言葉を交わすつもりはなかった。
ただ、
「援護は感謝するが君はは何者だ?」
感謝とは裏腹に銃を突きつけハンクは問う。
カイリはその問いに
「僕は………私は……ウルトラマンだ」
ただこう答え垂直に上昇。DEOの追跡を振り切り、瞬時に雲の彼方へと消え去った。
工場内では、アレックスがヘルグラマイトを自力で撃破し、カーラを抱き起こしていた。
「カーラ、大丈夫!?」
「ええ……あの、銀色の人のおかげで……」
「ウルトラマンと名乗ったそうだけど………」
「ウルトラマン………」
カーラは夜空を見上げ、自分を救ってくれた謎の戦士に、深い感謝と興味を抱くのだった。
数日後の夜。
キャットコー・メディアのトップ、キャット・グラントが車に乗って帰路についていると、突然、車体がふわりと浮き上がった。
「何事よ!?」
窓の外を見ると、車を両手で抱えて空を飛ぶスーパーガールの姿があった。
ビルの屋上に静かに車を着地させた彼女は、驚くグラントに向かって、自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「私と話したいの? ……話しましょう、グラント女史」
そのビルのさらに上。貯水タンクの鉄骨の上に片膝を立てて座り、その様子を見下ろしている影があった。
銀と漆黒の戦士――ウルトラマンことカイリ・ダンバース
「いい顔してるね、姉ちゃん」
マスクの奥で、カイリは小さく微笑んだ。
正体は絶対に明かさない。たとえ自分にどんな宿命があろうとも、この強大な力がある限り、僕は姉ちゃんを、そしてあの口うるさい国家公務員の姉貴を、影から守り抜いてみせる。
カイリは明日提出の宿題のノートを思い出し、苦笑いしながら、音速の彼方へと静かに飛翔した。
誰かカイリの師匠枠でウルトラ戦士を出したい