ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの青空を、赤と青のコントラストが軽快に切り裂いていく。スーパーガールことカーラ・ダンバースは、眼下に広がる美しい街並みを見下ろしながら、心地よい風を全身に受けていた。ビル群をすり抜け、市民の安全を見守る――これこそが、彼女が望んでいたヒーローとしての日常だった。
だが、その平穏は突如として破られる。
「……?」
超聴覚と鋭い視線が、不自然な風切り音を捉えた。彼女の斜め後方、一定の距離を保ちながら追尾してくる影がある。金属質の細躯に、冷酷に明滅するレンズ。高性能の隠密偵察用ドローンだった。
「誰の差し金か知らないけど、覗き見は趣味が悪いのよ!」
カーラは空中で急反転すると、音速の壁を破る加速でドローンへと肉薄した。逃げようとする機械の翼を、容赦のない一撃で叩き落とす。バラバラに砕け散った破片を空中で掴み取り、彼女が向かったのは特異生物対策局(DEO)の本部だった。
「ヘンショウ長官! これ、どういうつもり!?」
DEOのコントロールルームに文字通り舞い降りたカーラは、ハンク・ヘンショウ長官の前にドローンの残骸を叩きつけた。だが、ハンクは眉ひとつ動かさず、冷徹な一瞥をくれただけだった。
「我々の仕業ではない。わざわざ身内にそんな回りくどい真似をするほど暇じゃない」
「じゃあアストラ? それとも他の宇宙人の生物だっていうの?」
首を振ったのは、傍らにいた姉のアレックス・ダンバースだった。
「いいえ、カーラ。解析したけれど、エイリアンの技術じゃないわ。これは最先端の、それも地球の超高性能な技術で作られている。……もしや、あの『ウルトラマン』の仕業では?」
ハンクの鋭い推理に、カーラは即座に首を横に振った。
「あり得ないわ。彼は、そんな陰湿な真似をする人じゃない。もっと別の、地球の誰かが私を狙っているのよ」
「なぜそんなことがわかる。いずれにせよ、ウチのバンドメンバーが監視されてるのは放置はできん」
ハンクは手元の研究員の一人に手隙で調査を頼むべく、無造作に破片を手渡した。カーラは一抹の不安を抱えながらも、人間の姿――キャットコ・メディア社の冴えない助手へと戻るため、急いで会社へと急行した。
「カーラ! どこへ行っていたの!?」
会社に戻るや否や、鳴り響く電話の嵐とウィン・ショットの小言がカーラを出迎えた。慌ててデスクに滑り込み、受話器を耳に当てた瞬間、カーラの脳に衝撃が走る。
「……え? はい! わかりました、伝えます!」
通話を切ったカーラは、そのまま社長室へと飛び込んだ。
「グラントさん! 素晴らしいお知らせです。『シーゲル賞』を受賞されたという連絡が届きました!」
メディア界の最高峰。キャット・グラントは一瞬だけ完璧な眉を上げたが、すぐにいつもの冷徹な仮面を取り戻した。
「当然ね。で、授賞式の準備は? パーティの段取り、それからメトロポリスへの航空券の手配を早く終わらせなさい」
「はいっ!」
カーラがデスクに戻り、手配を進めていると、社長室から微かに漏れるキャットの声が、彼女の『宇宙人の地獄耳』に飛び込んできた。
『……ええ、そうよ。私が賞を獲ったわ。でも、あなたには関係ないでしょ? いつだってそう。私の成功を素直に喜べないのね!』
キャットが母親と激しい口論をしている。普段、傲慢な女王として君臨する彼女の、ひどく人間らしく、傷ついた一面だった。
その時、鋭い声が響く。
「ケーラ!!」
キャットからの呼び出しだ。カーラは我に返り、急いで社長室へ駆け寄った。
「はい、グラントさん」
キャットは深くため息をつき、頭を抱えていた。
「……授賞式には出席しないわ。キャンセルして」
「えっ? どうしてですか?」
「ベビーシッターがマヌケにも足を骨折したのよ。息子のカーターを預かってくれる人がいないわ。母親に頼むくらいなら、受賞を辞退した方がマシよ」
いつもなら理不尽な命令に縮こまるカーラだったが、先ほどの電話を聞いてしまった手前、放っておけなかった。
「あの、グラントさん! 私に預けさせてください。実は、カーターくんと歳の近い義理の弟もいるんです。家で一緒に見ますから、ぜひ式へ行ってください!」
キャットは疑わしげにカーラを見たが、背に腹は代えられない。
「……もし息子の髪の毛一本でも傷がついたら、あなたのキャリアは終わりよ。いいわね?」
なんとか役目を引き受けたカーラは、お昼のランチを買いに近くのカフェへと向かった。そこには、険悪なムードで話し合うジェームズ・オルセンとルーシー・レーンの姿があった。二人の恋愛の縺れを前に、カーラが気まずそうに身を隠した、その時だった。
――ドゴォォォン!!!
凄まじい爆発音が街を揺るがした。悲鳴が響き渡る。近くの高層ビルから火の手が上がり、外壁が崩落を始めていた。ビルそのものが傾き、完全に崩壊寸前だ。
「大変、みんな逃げて!」
カーラは死角へと駆け込み、瞬時にスーパーガールへと変身して現場へ飛び込んだ。だが、ビルの構造材が自重に耐えかねて悲鳴を上げている。クリプトン人の怪力をもってしても、崩れゆく巨大な建造物を一人で支え切るのは困難だった。
「くっ、持ちこたえて……!」
その時、頭上から赤と黒の閃光が突き刺さった。
――ズウゥゥン!
「大丈夫かスーパーガール⁉︎」
現れたのはウルトラマンだった。彼はその強靭な装甲でビルの基部へと滑り込むと、崩落しかけた数千トンの瓦礫をその両腕で力強く支えた。
「ウルトラマン!?」
「私がここを支える!君は補強を!一気にいくぞ!」
ウルトラマンが瓦礫を強引に固定している間に、スーパーガールは目から強烈なヒートビジョンを放った。破壊された鉄骨の接合部をピンポイントで照射し、瞬時に溶接していく。超高温の光線によって構造が瞬く間に補強され、ビルの崩壊は奇跡的に食い止められた。スーパーガールはさらに息を吹きかけ、残った火災を瞬時に消し止める。
「ふぅ……助かったわ、ありがとう」
スーパーガールが胸をなでおろした瞬間、ウルトラマンの青いバイザーが、ビルの煙の向こうを鋭く睨みつけた。そこには、またしてもあのドローンが浮遊し、彼らのデータを冷酷に記録していた。
「……ハァッ!」
ウルトラマンは左腕を振り抜き、激しく回転する光の刃――八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)を放った。空間を引き裂いた光の輪は、逃げる隙すら与えずドローンを一撃で寸断し、空中ではじけ飛んだ。
「君は監視されてるのか?……いや、それとも私か……」
その新たなドローンの残骸はすぐにDEO本部へと持ち込まれ、解析が進められた。結果を見て、アレックスは表情を強張らせる。
「ビル爆破に使われた爆薬の成分と、このドローンの駆動システム……完全に一致したわ。技術特許は『ロード・テクノロジー社』のものよ」
DEOはすぐさまFBIを装い、CEOのマックスウェル・ロードの元へ事情聴取に向かった。しかし、彼は「我が社も技術を盗まれた被害者だ」と傲慢な態度で一蹴する。ただ、その直後に社内で本物の爆弾が発見されるという最悪の事態が発生した。
「我が社の技術で作られた爆弾だ。私自身で解除した方が確実だ」
自信満々で解除を試みるロードだったが、それは巧妙な二重のトラップだった。インジケーターが赤に染まり、カウントダウンが倍速で再開される。絶体絶命のピンチに、アレックスの顔から血の気が引いていった。
一方、その頃。ドローンやビル爆破事件に頭を悩ませていたカーラは、完全にカーターのお迎えのことを忘れていた。
ジリリリリ! とスマートフォンが鳴る。画面には『キャット・グラント』の文字。
「――ケーラ。私の息子が、学校の校門の前で凍え死んでいたら、あなたを北極に追放するわよ」
「ひゃあああ! すみません、今すぐ行きます!」
大慌てで学校へ向かい、カーターをなんとかお迎えしたカーラ。グラントから言われていた通り、彼は極度のシャイで、カーラの後ろに隠れて一言も喋ろうとしない。困り果てたカーラは、彼をひとまず会社へと連れ帰り、同時に義理の弟であるカイリも呼び出した。
「やあ!君がカーター?僕はカイリ。カイリ・ダンバースよろしく」
少し生意気だが、年齢の近いカイリがフランクに話しかけると、カーターの緊張が少しほぐれた。ウィンが机の上にフィギュアを並べながら会話に混じる。
「カーターくん、実はさ、ウチのカーラはスーパーガールの知り合いなんだぜ?」
「えっ……本当に!?」
カーターの目が輝いた。彼は熱狂的なスーパーガールのファンだったのだ。
「彼女はいつもそばにいて、困っている人を助けるんだ。ほら、ホッチキスの針がなくて困ってる人とかね!」
ウィンが冗談交じりに言うと、カーラは慌ててジェームズの元へと駆け寄った。
「ジェームズ! 仕事、手伝うわ! 何からすればいい?」
「やあジェームズ調子は?」と軽い挨拶を、顎で示すようにジェームズとカイリは交わす。
手の塞がり大忙しのジェームズは、山積みの資料を差し出した。
「じゃあ、この前のカンファレンスのデータ確認、終わってる?」
「あ……ううん、まだ」
「じゃあ、あっちのプレスの手配は?」
「それも、これから……」
完全にキャパシティを超えて右往左往するカーラを見て、カイリは呆れたようにカーターの肩を組んだ。
「ほら見ろよ、カーター。はぁ…全く姉ちゃん、落ち着きなよ、ね? 、こうなるといつも中途半端で周りが見えなくなるんだから。ほんと大変だろ?」
「あはは……」
そこへ、ジェームズの携帯にルーシーからの着信が入った。ジェームズが気まずそうに恋愛の相談を切り出そうとした瞬間、カーラの脳裏にアレックスの言葉が蘇る。
『絶対に彼らの恋愛相談に乗っちゃダメよ! 巻き込まれるだけだから!』
「あ、あの! 恋愛の話はナシ! 今は仕事に集中しましょ、仕事に!」
カーラは無理やり話を遮ると、その場から逃げるように離れていってしまった。
その直後、ポケットの中でDEOの通信機が悲鳴を上げた。アレックスからの緊急通信だった。
「ロード・テクノロジー社で解除に失敗した爆弾が、あと数分で爆発するわ! 周辺の被害を抑えるために、あなたの力が必要よ!」
「わかった、すぐ行く!」
カーラは顔色を変え、ウィンとカイリに向き直った。
「ウィン、カイリ! カーターくんをお願い!」
彼女はそのまま猛ダッシュで非常階段へと向かい、空へと飛び立った。残されたカイリは、ウィンの目を盗んで抜き足差し足とその場からそーっと姿を消す。
「おい、カイリ!?」
ウィンがキョロキョロと探すのを無視し、カイリは会社の使われていない物置へと滑り込んだ。胸元のクリスタルに触れることでULTRAMAN SUITが起動し、銀と黒の装甲を纏う。
(あのバカ姉ちゃん、また無茶しに行くに決まってる……!)
ウルトラマンとなったカイリは、窓を蹴破り、目にも留まらぬ速さで姉の後を追った。
現場に到着したスーパーガールは、メルトダウン寸前の爆弾をその腕に抱え込んだ。
「街から離さなきゃ……!」
マッハ2の猛烈な速度で、一気に海へと向かって飛翔する。だが、タイマーのカウントダウンは非情だった。海へ到達する前に、残り時間はゼロを示す。
「間に合わない……上へ!」
直角に軌道を修正し、成層圏を目指して上昇する。限界まで爆弾を遠ざけようとしたその瞬間、腕の中で極大の閃光がはじけた。
――ドゴォォォォォン!!!
衝撃波を至至近距離でモロに浴びたカーラは、衣服を焦がし、意識を完全に失ったまま、重力に従って地上へと落下を始めた。
「姉ちゃんッ――!!」
追いついたウルトラマンが、叫びながら落下速度を上げる。海面へと激突する寸前、赤いオーラを纏ったウルトラマンの両腕が、滑り込むようにして彼女の身体をガッチリとキャッチした。
意識を取り戻したカーラが目を開けると、そこはDEO本部の医療カプセルの中だった。人工的な『黄色い太陽光線に近い濃縮光線』が彼女の全身に照射され、クリプトン人の細胞を急速に再生させていく。
「気がついたか、スーパーガール」
カプセルの脇には、彼女を送り届けたウルトラマンが静かに立っていた。彼はそのまま去ろうと背を向ける。
「待って……!」
カーラがカプセルから飛び出し、彼の腕を掴んだ。
「ウルトラマン、お願い、行かないで。私たち、協力し合えるはずよ。DEOの力を信じて」
ウルトラマンは足を止め、ハァとため息をつく。そして、初めてDEO本部の床へと正式に降り立った。だが、周囲の空気は冷ややかだった。ハンク・ヘンショウ長官の命令により、武装した部隊がウルトラマンの背後にアサルトライフルの銃口を突きつけ、厳重に包囲している。
「尋問を受ける気はないしスーツを解く気もない」
ウルトラマンの声に変声機を通した冷徹さが混じる。
「君たちも私を信用しなくていい。スーパーガール……彼女を信用するからここに残っただけだ」
ハンクが前に出る。
「こちらから願い下げだ。貴様のような身元も明かさん者を信用するわけにはいかん。……だが、スーパーガールを助けてくれた件もある。そこは礼を言っておこう。では本題にうつる。街の監視カメラの映像から、爆弾犯の身元が判明した。男の名はイーサン・ノックス。ロード・テクノロジー社の元研究員だ。半年前に解雇され、2週間前に失踪届が出ている」
「ノックスを捕まえなきゃ……」
カーラがふらつく身体で立ち上がろうとするが、アレックスがそれを遮った。
「ダメよ、カーラ! あなたは成層圏から落下した直後なのよ。これ以上無理をしたら身体が壊れてしまうわ。『スーパーガール』『グラントの助手』『DEOの捜査官』まで一人でこなすなんて、いくら鋼鉄の女の子でも不可能なのよ!」
「彼女の言う通りだ」
ウルトラマンもまた、バイザーの奥から静かに告げた。
「君は万能じゃない。まずはその身体を休めることが先決だ」
アレックスとウルトラマンの忠告に従い、カーラはひとまず人間の姿に戻って会社へと帰還した。だが、作戦室でウィンがカーターにジャンクフードばかり食べさせているのを見て、頭を抱える。
「ウィン! 子供にそんなものばかり食べさせちゃダメでしょ! カイリ、ちょっと食事を買いに付き合って」
「へいへい、人使いが荒いなぁ」
カイリを連れて近くのダイナーへ向かい、テイクアウトの袋を受け取ったその時、店内にスマートフォンの忘れ物があるのに気づいた。それは、先ほどまでそこにいたルーシー・レーンのものだった。
「カイリ、これを持って先に会社に戻ってて」
「わかった。早くしろよ、姉ちゃん」
カイリを帰らせた後、カーラは慌てて店を出てルーシーを追いかけ、携帯を突き出した。
「ルーシー! 忘れ物よ!」
「あ、ありがとう、カーラ。助かったわ……」
ルーシーはホッとしたように笑ったが、その表情にはすぐに暗い影が落ちた。彼女はカーラを見つめ、ぽつりぽつりと胸の内を明かし始めた。
「ねえ、カーラ。ジミー(ジェームズ)のことなんだけど……彼、スーパーガールに惹かれてるんじゃないかって、心配なの。リアクトロンとの戦いの時も、彼はすぐに彼女のそばに駆けつけたでしょ? 私たちが別れた原因はね、仕事じゃないの。彼があの人――スーパーマンを常に優先したからよ。私と何をしていても、あの人に呼ばれたら、彼はすぐに私の前からいなくなった。人助けだから、私は文句も言えなかったわ。……彼の方から私から離れていったの。今度のヒーローは女の子。私に勝ち目なんてないわよね」
カーラは言葉を失った。ジェームズからは「ルーシーが自分から離れていった」と聞かされていたからだ。すれ違う二人の想い。会社に戻ったカーラは、我慢できずにジェームズの元へと向かった。
「ジェームズ、ルーシーと話したわ。彼女、今でもあなたのことが好きなのよ。スーパーマンを最優先されて、つらくなっただけなの。彼女だって傷ついてるわ!」
結局、アレックスの忠告を破って恋愛相談のアドバイスを送ってしまったカーラ。その様子を遠くから見ていたカイリは、姉が戻ってくるなり、深くため息をついた。
「……優しいのはいいけどさ、姉ちゃん。いつもそうやってお節介で失敗してるよね。今は自分のことで手一杯のくせに」
「カイリ、だって放っておけなくて……」
「弟として言わせてもらうけど、姉ちゃんが全部抱え込んで潰れるのが一番最悪なんだからね」
生意気な言葉の裏にある、カイリなりの確かな家族愛。カーラは少しだけ救われたような気がした。カーラは「生意気」と言いながらウリウリとカイリに軽く組みつき、わしゃわしゃと頭を撫でるのだった。
同じ頃、アレックスは不穏な糸を引くマックスウェル・ロードの元へと向かっていた。
「ロード氏、イーサン・ノックスの動機がわかりました。彼は半年前にあなたに解雇され、妻には離婚され、親権まで失った。さらに娘さんは重い病気に罹っている。彼はあなたを深く憎んでいるわ。今夜のスーパートレインの発表イベントは中止すべきです」
だが、ロードは窓の外を見つめたまま、冷酷に首を横に振った。
「断る。私は政府機関(DEO)の言うことなど、微塵も信用していないのでね」
「どうしてそこまで政府を拒絶するの?」
ロードはゆっくりと振り返り、その瞳に宿る深い憎しみを露わにした。
「……私の両親はね、非常に政府に協力的な科学者だった。生物兵器のワクチン開発を行っていたんだ。ある日、システムの安全性が疑問視された時も、政府は言った。『これは容認できるリスクレベルだ』とね。両親はその言葉を信じた。結果はどうだ? システムが故障し、二人はウイルスに感染した。内臓がドロドロに溶け落ち、遺体すら残らなかった。そして政府はその事実をすべて隠蔽し、もみ消したんだ。……私は、自分の身は自分で守る。奴の爆弾など、我が社の技術の敵ではない」
そう言い残し、ロードは静止を振り切ってイベント会場へと向かってしまった。
夜が訪れ、ナショナル・シティに新設された超高速鉄道『スーパートレイン』の発表会場は独特の緊張感に包まれていた。テロの危険性が極めて高いこの場所に、DEOの部隊、そしてカーラと、密かにウルトラマンに変身したカイリが警戒を強める。
だが、最悪のタイミングでDEOの無線が鳴り響いた。
『長官、大変です! ナショナル・シティ国際空港で、別の爆弾が発見されました!』
同時多発テロ。さらに事態は混迷を極める。ウィンの目を盗んで会場に潜り込んでいたカーターが、スーパートレインの車両に乗り込んでしまい、ウィンが慌てて彼を追って車内へ。さらに、ジェームズと別れを告げたルーシーは、まさに爆弾が発見された空港にいた。ジェームズは彼女を救うため、空港へと車を走らせる。
「空港と、スーパートレイン……二つ同時なんて……!」
判断を迫られ、パニックになりかけるカーラ。その時、通信機から低い声が響いた。
『空港は、私とDEOが引き受ける。君は列車へ行け、スーパーガール』
ウルトラマンの声だった。
「……わかったわ、お願い!」
スーパーガールは夜空を飛び、発車したスーパートレインへと上空から飛び降りた。車両の屋根を突き破って侵入し、驚くカーターとロードの前に降り立つ。
「カーターくん、ロード氏! 乗客全員を最後尾の車両へ避難させて!」
彼女は『透視能力』を発動し、壁の向こうを透過した。先頭車両に、爆弾を胸に巻き付けたイーサン・ノックスの姿を確認する。カーラは疾風のごとく先頭車両へと突入した。
「ノックス! やめて、まだやり直せるわ。娘さんのためにも!」
「……やり直せるだと? ロードが我が家を壊したんだ。もう遅い!」
ノックスの目が狂気に染まり、彼の手指が起爆スイッチを強く押し込んだ。タイマーが作動する。
「しまっ……!」
解除の時間は皆無だった。カーラは瞬時に決断し、両目から極大のヒートビジョンを放った。狙うは先頭車両と客車の連結部。超高温の熱線が金属をドロドロに溶かし、火花を散らして連結を切り離す。
「ウァァァァッ!」
引き離された先頭車両は、ノックスと共に闇の彼方へと走り去り、直後、夜の荒野を大爆発で赤く染めた。カーラは間一髪で乗客たちの命を救い出すことに成功した。
一方、空港ではDEOによる緊迫した避難誘導が続いていた。混乱する群衆の中、逃げ遅れたお年寄りを懸命に支えるルーシーの姿があった。
「ルーシー!!」
危険を顧みず、人混みをかき分けてジェームズが彼女の元へと駆けつける。
「ジミー……!? どうしてここに……」
「君を置いていけるわけないだろ!」
命の危機を前にして、二人は固く抱き合い、積年のすれ違いを氷解させて仲直りを果たした。
だが、空港の地下に仕掛けられた爆弾は未だ稼働中だった。
「……これは簡単には解除できん。トラップが複雑すぎる」
爆弾の前にしゃがみ込んだハンク・ヘンショウ長官が、険しい声で無線に入った。
「アレックス、全員を連れて即座に安全な場所へ退避しろ。これは命令だ」
「でも、長官は――」
「行け!」
地下室に残されたのは、ハンクとウルトラマンだけだった。
ウルトラマン以外誰もいなくなったことを確認した瞬間、ハンクの瞳が、人間のそれではない、禍々しい『赤き光』を放った。
「……ぬんっ!」
ハンクが手をかけると、人間の限界を遥かに超越した、それこそクリプトン人にも匹敵するような凄まじい怪力が発揮された。爆弾の強固な外殻がメリメリと生々しい音を立ててこじ開けられ、彼は内部の基盤を力任せに破壊してカウントダウンを完全に停止させた。
じっとそれを見ていたウルトラマンに、ハンクが低い声を向ける。
「貴様、DEOでこのことを喋れば…」
「わかっている。貴方が正義の側に立つ限り、私の胸の中にそっとしまっておこう」
ウルトラマンはただじっと、青いバイザーの奥で彼の瞳を見つめ返した。ハンクは何事もなかったかのように立ち上がり、無線を入れた。
「アレックス、安心しろ。こちらの爆弾は『ダミー』だった。すでに停止している」
同時多発テロ事件は、表向きは解決を見た。だが、DEO本部に回収された空港の爆弾を調べていたアレックスは、強烈な違和感に襲われていた。
「おかしいわ……長官はこれが『ダミー』だと言った。けれど、この内部構造を見て。ここには明確に、遠隔操作用の停止スイッチの回路がある。ダミーにこんな精巧なものを作る必要はないわ……」
アレックスは、まだ本部に残っていたウルトラマンの元へと歩み寄った。
「ねえ、ウルトラマン。あなた、あの場で何か見なかった?」
ウルトラマンは一瞬、義理の姉から不意に声をかけられたことで装甲の中で動揺したが、すぐに深呼吸をして声を落ち着かせた。
「……ヘンショウ長官か。彼は相当な怪力の持ち主で、常人離れしたトレーニングを積んでいる、としか言えないな。爆弾の構造に関しては、僕の専門外だ」
彼はそれだけを告げると、再び夜の街へと消えていった。カーラもまた、先頭車両でのノックスの最期の言葉や態度が、どうしても引っかかっていた。何かが、決定的に歪んでいる。
慌てて人間の姿に戻り、会社へと滑り込んだカーラ。ちょうど学校へ戻るところだったカーターに別れを告げると、社長室からキャットの怒号が飛んできた。
「ケーラ!! 息子をあんな危険な目に遭わせるなんて、あなたを今すぐ解雇して刑務所に送り込んでやりたいわ!」
ひたすら謝り倒して社長室を出ると、今度はロビーでジェームズとルーシーが熱いキスを交わしているところを目撃してしまい、カーラの心はズタズタだった。
ため息をつきながらロビーのテレビ画面に目を向けたその時、ニュース番組にマックスウェル・ロードが映し出された。彼は今回の事件についてインタビューを受け、神妙な面持ちで涙ぐみながら語っていた。
『我が社の元社員が、このような悲劇を起こしたことに、深い胸の痛みを覚えます……』
「……嘘よ」
カーラはその映像を見て、直感した。彼の言葉、その涙ぐむ態度、すべてが完璧に計算された「演技」だ。
カーラはすぐさまウィンの協力を得て、ノックスの娘の医療記録をハッキングした。そこには驚くべき事実が記されていた。ノックスが解雇された後、ロードの関連会社から、娘の担当医に対して莫大な大金が、秘密裏に支払われていたのだ。
「最初から、すべて繋がっていたのね……!」
夜。誰もいなくなったロード・テクノロジー社のCEOオフィス。ガラス張りの窓から夜景を見つめるマックスウェル・ロードの背後に、凄まじい風圧と共にスーパーガールが舞い降りた。
「マックスウェル・ロード。あなたの仕組んだ茶番劇の証拠を掴んだわ」
カーラは怒りに声を震わせながら、医療記録のデータを突きつけた。
「あなたはノックスの娘の治療費を人質にして、彼に爆弾テロを起こさせた。最初のドローンも、ビル爆破も、全部あなたが仕組んだテストだったのよ!」
ロードはゆっくりと振り返り、上品な笑みを浮かべた。
「認めるわけがないだろう、お嬢さん。だが――科学者として、実験の成果を語ることはできる」
彼は一歩前へ出ると、スーパーガールを値踏みするように見つめた。
「最初のドローンで、君の『俊敏さ』を試した。次のビル爆破では、君の『パワー』を。そして成層圏での爆発では『スピード』を測定し、君が不死身の神ではなく、衝撃で意識を失う『肉体』を持っていることも分かった」
ロードの目が、冷酷な歓喜に歪む。
「さらに、あの忌々しい『ウルトラマン』という新たな脅威のデータも同時に手に入った。君たち宇宙人は、スーパーマンと同等、あるいはそれ以上の危険な存在だ。地球は自衛しなければならない」
「ノックスの命を弄んでおいて、よくそんなことが……!」
「弄んだ? 滅相もない。最後のテストは、君の『心理』を測る素晴らしいものだった。君は空港にいた数千人の命よりも、スーパートレインに乗っていた数百人の命を優先して助けに向かった。……つまり、あの列車には、君にとって『何よりも大切な人物』が乗っていたということだ」
ロードはスーパーガールに顔を近づけ、耳元で囁いた。
「その人物の身元を一人ずつ洗っていけば……自ずと、君のそのマントの下の『正体』に辿り着く。これは君の負けだよ、スーパーガール」
暗に、自分がすべての事件の黒幕であり、これからも彼女を追い詰めると宣言したロード。だが、スーパーガールは一歩も引かなかった。彼女の青い瞳に、鋼鉄の決意が宿る。
「あなたが黒幕であることを、私は必ず暴いてみせるわ。……覚悟してて、ロード」
彼女は強烈な風圧を残し、夜空へと向かって一直線に飛び去っていった。残されたオフィスで、マックスウェル・ロードは静かに夜空を見上げ、狂気を孕んだ笑みを深めていく。
「……望むところだよ。あはは、楽しくなってきたじゃないか……さて、君は宇宙人かな?それとも地球人かな…ウルトラマン……」
ナショナル・シティの夜景は、今夜も宝石のように輝いている。だがその光の裏で、英雄たちを狙う本当の戦いが、今、静かに幕を開けようとしていた。