ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの夜は、時に昼間よりも眩い。高層ビルの窓から漏れる無数の灯りが、地上に降りた星屑のように明滅している。だが、その光が強ければ強いほど、ビルの谷間に落ちる影は深く、昏い。
特異生物対策局――通称『DEO』の作戦本部は、ここ数日、異様な緊張感に包まれていた。大型モニターに次々と映し出されるのは、ナショナル・シティの裏社会や、人間に紛れて平穏に暮らしていたはずの移住宇宙人たちのデータだ。そのいくつかの顔写真に、赤い『MIA(行方不明)』の文字が冷酷に刻まれていく。
腕を組み、険しい表情で画面を見つめていたアレックス・ダンバースは、短い髪を揺らしながら手元の端末を操作し、最新の現場写真をメインスクリーンに拡大した。
「また一人、消えたわ。今度はダウンタウンのジャンクヤード。地球の戸籍を偽装して潜伏していたエイリアンよ。これで今週に入ってから五人目。全員、前触れもなく姿を消している」
その傍らで、青いスーツに赤いマントを翻したスーパーガールことカーラ・ダンバースが、心配そうに尋ねる。
「自発的な失踪の可能性はないの、アレックス? 私の超聴覚でも、ここ数日の失踪事件の瞬間を捉えられていないのよ。まるであらかじめ監視をかいくぐる方法を知っているみたいに、静かに処理されているわ」
「それはないわ、カーラ」
アレックスは首を振った。
「現場には彼らの衣服や、肌身離さず持っていた宇宙技術の遺留品がそのまま残されているの。争った形跡はあるけれど、明らかに自らの意志で逃げ出したんじゃない。まるで、突如として現れた何かに、一瞬で掠れ去られたような現場よ」
「さらに、これを見てくれ」
コントロールルームの奥から、ハンク・ヘンショウ長官が重々しい足取りで歩み寄ってきた。彼の鋭い眼光が、画面に映し出された特殊な顕微鏡写真に向けられる。すべての現場の地面や壁に付着していた、奇妙な物質の解析データだ。
「全ての現場から、共通して未知の粘液が検出されている。生物的な分泌物だが、我々DEOが把握している既存のエイリアンのどれとも一致しない。強酸性でありながら、有機物を急速に分解する特殊な酵素が含まれている」
カーラはその言葉に、嫌な予感を覚えて身震いした。
「有機物を、分解……。それって、まさか……」
「そうだ」
ハンクの言葉が、作戦室の空気を氷結させる。
「誘拐ではなく、その場で処理された可能性が極めて高い。あるいは――大きな肉食獣に、丸呑みにされたかだな」
ナショナル・シティの平和な裏側で、確実に何かが動いている。それは宇宙人たちを標的にし、彼らを影から引きずり出しては、その痕跡ごと消し去っていく。カーラは胸のシンボルを強く握り締め、画面に映る冷たい粘液の緑色の光をじっと見つめるしかなかった。
翌日。青く澄み渡った空の下、カイリ・ダンバースはいつも通りの退屈な高校生活を終え、家路についていた。肩に乱雑に背負ったスクールバッグを揺らしながら、ナショナル・シティのにぎやかな中央通りを歩く。周囲は、スマートフォンの画面に夢中な学生や、足早に行き交うビジネスマンたちで溢れていた。誰もが、自分の日常が明日も明後日も続くと信じて疑わない、平和な光景。
(姉ちゃんは今頃、キャットコ・メディアで怒鳴られてるか、DEOで飛び回ってるかだな……)
義理の姉であるカーラの忙しない毎日を思い浮かべ、カイリは小さく息を吐いた。自分もまた、胸元に秘めたクリスタルの輝きによって『ウルトラマン』という人外の力を得た身ではあるが、その事実は姉のカーラにも、DEOのアレックスにも完全に隠している。普段はこうして一人の生意気な高校生として、冷めた目を周囲に向けているだけだ。
だが、その平穏な思考は、すれ違った異物によって唐突に切断された。
人混みの中で、一人の女性とすれ違った瞬間、カイリの全身の細胞が、凍りつくような警鐘を鳴らした。クリプトン人のような超感覚はなくとも、ウルトラマンの光の因子は、明確にその悪意を察知したのだ。カイリは足を止め、ゆっくりと振り返った。
数歩先で、同じように足を止めて振り返る女性がいた。仕立ての良い黒いトレンチコートを着た、一見すれば都会的な美女だ。しかし、その瞳は尋常ではなかった。白目の部分が微かに血走るように濁り、瞳孔は蛇のように細く裂けている。彼女はカイリの姿を、まるで極上の肉を目の前にした猛獣のような、じっとりとした粘気のある視線で見つめていた。
「ジュルリ……」
女性の口元から、いやらしい音が漏れた。彼女は不自然に長い舌を突き出すと、真っ赤な唇をゆっくりと舐め回した。
「ミツケタ……。イイ,ニオイ。フツウの、ニンゲン、チガウ、アナタ。スゴク、キレイ……スゴク、ノウミツ、ミチの、インシ、カンジル……」
その声は、女のものでありながら、地底から響くような不気味な重低音を孕んでいた。カイリは身構え、周囲を見回す。ここは白昼堂々の中央通りだ。一歩間違えれば、何十人、何百人という一般市民が巻き添えになる。
「……誰だ、あんた。地球人じゃないな」
カイリは声を低め、ポケットの中のクリスタルを握り締めた。
「アナタの、カラダの、ナカの、ヒカリ……トッテモ、ウマソウ。ハヤク、ワタシの、ニクタイ、マザリ、マショウ……?」
女性の身体から、歪んだ時空の歪みのような、禍々しいオーラが陽炎のように立ち上る。この地球へ至るワームホールの旅の代償として、彼女の細胞は変異し巨大化の能力を失っていたが、その分、等身大の肉体に凝縮された戦闘力と飢餓感は尋常ではなかった。ウルトラ時空よりベリアル因子に興味を示して飛来したこの高次元捕食体は、地球の裏側で数多の宇宙人や彼らが持ち込んだものを捕食し、いずれはクリプトン人やウルトラマンをも喰らおうと画策していたのだ。
「お望みなら、特等席を用意してやるよ。ついてきな!」
カイリは踵を返すと、わざと人混みを掻き分け、路地裏へと猛ダッシュした。謎の女性は嘲笑うような声を上げながら、信じられないほどの敏捷性で、少年の背中を追う。ビルをすり抜け、影から影へと飛び移るようにして、二人はナショナル・シティの湾岸地区にある、完全に放棄された旧化学工場へとたどり着いた。
がらんとした廃工場の内部は、錆びついた巨大なタンクやパイプが複雑に入り組み、陽の光も届かない薄暗がりに包まれている。
「ここなら、誰も来ないだろ」
カイリは工場の中心で足を止め、バッグを地面に投げ捨てた。
「さあ、正体を現しなよ、バケモノ」
「エエ……ヨロコビ、デ……!」
女性の肉体が、激しく歪み始めた。骨が軋み、皮膚が裂けるような異音が工場内に響き渡る。彼女の美しい女性の顔が内側から崩壊し、現れたのは、全身が昆虫の甲殻と不気味な多関節の四肢で構成された、醜悪な人型の怪物――レッサーボガールの姿だった。
「クラウ……ヒカリの、コドモ!!」
「させるかよ!!」
カイリは工場の機材の陰に身を隠すように動きながら、胸元からクリスタルを掲げた。眩い銀と赤の光が彼を包み込み、次の瞬間、金属質の重厚な装甲を纏った『ULTRAMAN SUIT』――ウルトラマンが、廃工場の闇の中に毅然と立ち上がった。
戦闘は、挨拶代わりにボガールが放った狂暴な光弾によって幕を開けた。紫色に輝く高エネルギーの光球が、ウルトラマンの胸元をめがけて容赦なく飛来する。ウルトラマンは鋭く横へステップを踏み、爆風を浴びながらも回避した。直後、彼が着地していた床が、凄まじい轟音と共に消し飛ぶ。
「ハァッ!」
ウルトラマンは左腕を突き出し、激しく回転する光の刃――八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)を形成して放った。空間を引き裂くような高周波の音を立て、光の輪がボガールへと肉薄する。しかし、ボガールは驚異的な反射神経で身体を不自然に曲げ、ウルトラスラッシュを紙一重でかわした。背後の巨大な貯水タンクが、斜めに滑らかに切断され、大量の水が激しい音を立てて溢れ出す。
「チョコマカ……ト……!」
ボガールは地を蹴り、ウルトラマンとの距離を一気に詰めた。勝負は息を呑むような近接肉弾戦へと移行する。ボガールの鋭い鉤爪が、ウルトラマンの装甲を狙って何度も繰り出される。ウルトラマンは的なにそれを受け流し、カウンターのストレートをその腹部へと叩き込んだ。
ズシィン! と重い衝撃音が響き、ボガールの巨体がわずかに後退する。ウルトラマンはボガールの両手の攻撃には完璧に対応できていた。だが、ボガールの本当の恐ろしさは、二本の腕だけではなかった。
「ギシシシシ!」
不気味な笑い声と共に、ボガールの背後から、大蛇のように太く伸縮自在の尻尾が、死角を突いて猛スピードで伸びてきた。
「――!? くそっ!」
ウルトラマンが気づいた時には遅かった。金属の鞭のような尻尾が、彼の胴体に強固に巻き付く。ウルトラマンはボガールの両手は防げたものの、この予測不能な尻尾の動きにまでは対応しきれなかったのだ。ギリギリと締め上げるような尋常ではない怪力が、ウルトラマンの強化スーツを圧迫し、内部のカイリの肺から空気を絞り出した。
「ツカマエタ……ツカマエタ……ヨォ!」
ボガールは歓喜の声を上げながら、尻尾を強引に引き戻した。胴体を拘束されたウルトラマンは、抵抗も虚しく、ずるずると地面を擦りながらボガールの方へと引き寄せられていく。ジリジリと、死神との距離が詰められていく。
「サア……ワタシの、ケツニク、ナリナサイ!」
ボガールの背中が、まるで巨大な膜のように左右に大きく開き始めた。それは獲物を丸呑みにするための、おぞましい捕食膜だった。膜の内側には、底のない暗黒と、粘液に塗れた無数の牙のような突起が蠢いている。ボガールはウルトラマンを補食しようと、一歩、また一歩とすり寄ってくる。
「が、あぁっ……!?」
ウルトラマンは必死に両手で尻尾を解こうとするが、その瞬間、拘束する尻尾を経由して、禍々しい紫色の破壊エネルギーが逆流してきた。時折流し込まれるこのエネルギー攻撃によって、ウルトラマンの全身の神経が焼き尽くされ、スーツの各部からバチバチと火花が散る。身体の自由が完全に奪われていく。
目の前には、全てを呑み込もうと広がる暗黒の膜。変声機越しからも、ウルトラマンの明確な苦悶の声が漏れ出る。絶対的な絶望が迫り、まさに勝負が決するかと思われたその時だった。
工場の天井が、凄まじい轟音と共に内側へと爆発した。降り注ぐ瓦礫と砂煙を切り裂き、一筋の、太陽よりも熱い赤い熱線が一直線に突き刺さる。
ズガァァァァン!!!
「ギィァァァァーーーッ!?」
スーパーガールのヒートビジョンが、ボガールの背後を正確に直撃したのだ。背中を激しく焼かれ、ボガールは悲鳴を上げてウルトラマンを拘束していた尻尾を思わず解放した。
「そこまでよ、怪物理物(バケモノ)!!」
割れた天井からマントを激しくなびかせ、スーパーガールが救援に駆けつけた。彼女の青い瞳は、怒りで微かに赤く明滅している。
「ハァ、ハァ……!」
拘束が解かれたウルトラマンは、この地球で戦い始めて以来、初めて激しく床に膝をついた。激痛とエネルギーの消耗により、息が著しく荒い。
ボガールは背中から黒い煙を上げながら、忌々しげにスーパーガールを睨みつけた。だが、これ以上の戦闘は分の悪い賭けだと判断したのだろう、不気味な高笑いを残すと、その場に歪む時空の裂け目を作り出し、姿を消してしまった。
「大丈夫!? 立てる?」
スーパーガールは急いで駆け寄り、膝をつく彼の肩を支えた。ウルトラマンは彼女に介抱されながら、かすれた声で短く応じ、どうにかその場を離脱した。
その後、静まり返った廃工場にDEOの調査チームが到着した。アレックスは床に落ちていた、スーパーガールのヒートビジョンによって焼けた細胞の欠片を慎重に採取し、本部のラボへと持ち帰った。
「解析が終わったわ」
DEO本部のラボで、アレックスが画面を指差す。
「この生物の細胞構造は、今までのどの宇宙人とも違う。摂取した生物のエネルギーをそのまま自らの細胞の強化に変換しているのよ。……けれど、弱点も見つかったわ。この細胞は、高電圧の電気刺激に対して極めて脆弱な反応を示すの。特殊な周波数の電流によって、一時的に神経系を完全に麻痺させられるわ」
「電気に弱いのね」
カーラは少しだけ希望を見出したが、ハンク・ヘンショウ長官は厳しい表情のまま、モニターのデータを切り替えた。画面に映し出されたのは、複雑な化学式と、ナショナル・シティの裏社会のネットワーク図だ。
「問題は、なぜ奴が特定の移住宇宙人ばかりを狙っているかだ」
ハンクが低い声で言った。
「確定的な証拠はまだない。だが、これまでに襲われたエイリアンたちの共通点として、ある特殊な『宇宙麻薬』を服用していた形跡が浮上した。現在、シティの裏でかなり広範囲に出回っている新型の麻薬だ。成分に特殊な異星植物のエキスが含まれており、どうやらあの怪物は、その麻薬によって変質したエイリアンの細胞を好んで捕食しているらしい」
アレックスが深く頷き、作戦の核心を切り出す。
「ええ。実は、これまで行方不明になった5人のエイリアンは、全員がDEOにマークされていた人物だったの。私たちは彼らを逮捕せず、あえて泳がせていた。麻薬を流通させている『元締め』の宇宙人を炙り出し、一網打尽にするための囮捜査としてね」
「泳がせていた……? じゃあ、その人たちは今どこにいるの?」
カーラが尋ねる。
「ボガールに捕食され、消息を絶った」
ハンクの無情な宣告が響いた。
「我々が元締めをおびき寄せる前に、あの怪物に先を越され、文字通りエサにされた。DEOの囮捜査の対象が、そのまま怪物のエサ箱になっていたということだ。……そして今夜、廃棄エリアの地下で、その宇宙麻薬の大型闇取引が再び行われるという情報を掴んだ。当然、あの怪物も『極上のエサ』の匂いを嗅ぎつけて現れるはずだ」
ハンクは冷酷な眼光でカーラを見据えた。
「今度こそ、取引に集まる宇宙人たちを囮にし、怪物を引きずり出して一網打尽にする」
「待ってください、長官!」
カーラが思わず声を荒らげた。
「それって、また宇宙人たちをエサにするってことですか!? 確かに彼らは麻薬の密売人や犯罪者かもしれないけれど、それでも命があるのよ! 奴が現れる前に、取引を止めて彼らを保護すべきです!」
「却下だ、スーパーガール」
ハンクの声には微塵の容赦もなかった。
「奴の神出鬼没な移動能力を封じるには、確実に捕食の瞬間の隙を突くしかない。これは最も効率的な作戦だ」
「効率的って……そんなの、間違ってるわ!」
カーラはハンクの冷酷な作戦に激しい不満を抱き、拳を強く握り締めた。
夜。作戦が開始された。指定された廃棄エリアの古い巨大な精錬所跡の周囲には、DEOの特殊部隊が潜伏していた。アレックスもまた、高電圧を放つ特殊なスタンライフルを手に、物陰から内部の様子を窺っている。精錬所の中では、数人の宇宙人たちが、怪しげな光を放つ麻薬のカプセルを挟んで、緊密に交渉を行っていた。彼らは自分たちがDEOからも、そして未知の怪物からも標的にされているとは露ほども知らない。
その時、建物の影から件の女性が音もなく現れ、瞬時にレッサーボガールへと変貌した。
「イイ、ニオイ……。ハンザイシャ、ニク、ウマイ、ナァ……!」
「な、何だてめえは!?」
宇宙人たちが驚愕し、散り散りに逃げ惑い始める。廃工場の中で、闇売人星人を容赦なく追いかけ回すボガール。
監視映像でその様子を見ていたカーラは、もう我慢ができなかった。
「見過ごしにはさせない!」
「カーラ、待ちなさい!!」
アレックスの制止の声を振り切り、スーパーガールは現場へと飛び出した。
「逃げて! 早く!」
スーパーガールは空中から加速し、ボガールに襲われている星人へと必死に手を伸ばした。しかし、あと一歩のところで手が届かない。彼女の指先が空を切り、次の瞬間、ボガールの背中の捕食膜がその宇宙人を一瞬で包み込んだ。
バリバリ、ボキボキ、という、骨が容赦なく砕け、肉が圧縮されるようなおぞましくグロテスクな音が精錬所内に生々しく響き渡る。
「――っ!」
スーパーガールはあまりの惨たらしさに、思わず目を伏せ、息を呑んだ。
だが、ボガールはその隙を見逃さなかった。
「ヨソミ……シテル、ヒマ、ナイ、ヨォ!?」
ボガールの伸縮する尻尾が、目を伏せたスーパーガールをそのまま捕縛しようと猛スピードで突き出される。
「スーパーガール、避けて!!」
インカム越しに響いたアレックスの叱咤の声。その叫びが、カーラの意識を強制的に現実へと引き戻した。
「――ハッ!」
スーパーガールは間一髪でその場を飛び退き、捕縛を回避した。しかし、肉弾戦においてはボガールの方が一枚も二枚も上手だった。
ボガールはしなやかな体術でスーパーガールの攻撃をことごとく受け流し、逆に鋭い爪と打撃で彼女を圧倒していく。ドカァン! と重い一撃が炸裂し、スーパーガールは地面へとへたり込み、追い詰められていった。
「アハハ! クリプトンジン、カラダ、どんな、アジ、スル、タメス、ヨ!」
ボガールは地面にへたり込んで後退りする彼女を食べようと、再びその背中の捕食膜を最大にまで広げた。
(だめ……身体が……!)
恐怖と衝撃でカーラが動けなくなったその時、精錬所の闇の奥から、銀の光弾が飛び出してきた。
「チェィャァァッ!!」
凄まじい叫び声と共にウルトラマンが背後から現れ、鮮やかな飛び蹴りをボガールの顔面に叩き込んだ。
ズドォォォン!!!
強烈な衝撃波が走り、ボガールの巨体が横へと大きく吹き飛ぶ。ウルトラマンはスーパーガールを助け出し、彼女の前に滑り込むようにして構えた。ウルトラマンとスーパーガールが、激しく火花を散らす精錬所の中で並び構える。
二人の視線が一瞬だけ交錯した。言葉など不要だった。
ウルトラマンのバイザーの奥に宿る鋭い光、そしてスーパーガールの青い瞳。互いが次にどう動くべきか、その刹那の目配せだけで全てが伝わった。何度も共に戦線を潜り抜けてきた二人の間には、完璧な戦術的阿吽の呼吸が完成していた。
ウルトラマンは即座に低く構えをとり、自らが前衛となってボガールへ猛然と突撃した。拳と蹴りの嵐を叩き込み、ボガールの注意を完全に自分へと引きつける。
そのウルトラマンの背を隠れ蓑にするように、スーパーガールは無音で宙へと舞い上がった。ウルトラマンが稼いだわずかな時間でボガールの死角へと回り込み、その背後を捉える。彼女の瞳が赤く熱を帯び、精密な一撃としてヒートビジョンを放おうとした。
しかし、ボガールは野生的な勘でそれをも予期していた。伸縮する尻尾が強烈な一撃となって空中のスーパーガールを捉え、彼女は無残に振り払われて壁へと叩きつけられた。
「スーパーガール!」
ウルトラマンが一瞬、気を取られた。ボガールはその隙を突き、ウルトラマンの目の前で背中の捕食膜を開いた。ウルトラマンはついに捕食されそうになるその膜の縁を、両手で必死に抑え込む。ギリギリと、金属が軋むような音がスーツから鳴り響く。
だが、フリーになったボガールの両手が、ウルトラマンの首へと伸びた。ガシィッ!!!
「――が、はっ……、う、くっ……!」
ボガールの強靭な指が、ウルトラマンの首を激しく締めあげる。喉を潰され、苦悶の声を漏らすウルトラマン。変声機越しからも、そのウルトラマンの苦しみと苦痛が痛いほど伝ってくる。
「ウルトラマンを、放しなさい!!」
スーパーガールが助けようと、再び飛行突撃を試みる。しかし、ボガールの容赦ない尻尾が再び空中で彼女を捕まえ、完全に拘束した。ボガールの尋常ではない力の前に、二人の超人は同時に絶叫した。
「あ、あぁぁぁーーーっ!!」
「う、ぐあぁぁぁーーーっ!!」
まさに絶対絶命のその時、精錬所の闇を切り裂いて、強力な青い電光がボガールの脇腹へと撃ち込まれた。
「ギ、エェェェェーーーッ!?」
ボガールが凄まじい絶叫を上げ、二人の拘束が解ける。
「全員、突入! スタンライフルを撃ち続けろ!!」
アレックス率いるDEOの特殊部隊が、一斉に突入してきた。アレックスが手にするスタンライフルが、ボガールに次々と高電圧の電流を撃ち込んでいく。前回の戦いでDEOはボガールの細胞欠片を採取し、彼女が電気に弱いことを完全に突き止めていたのだ。激しい電流の前に、ボガールは完全にその動きを麻痺させ、激しく身悶えした。
拘束から逃れ、距離をとったウルトラマンとスーパーガールは、瞬時にアイコンタクトを交わし、深く相槌を打った。
「ハァァァァッ!!」
スーパーガールが深く息を吹きかけ、ボガールの巨体をまたたく間に凍らせていく。絶対零度の冷気によって、ボガールの細胞の動きが完全にフリーズする。
その隙に、ウルトラマンは両腕を十字に組んだ。
「――シィッ!!」
渾身の気合と共に、ウルトラマンの腕から青白い高エネルギーの必殺光線が放たれる。同時に、スーパーガールの極大のヒートビジョンが合流し、二つの最強の熱線と光線が重なり合いながら、凍りついたボガールへと直撃した。
ズガァァァァァァァァン!!!!!
凄まじい大爆発が精錬所を包み込み、高次元捕食体ボガールは、肉片すら残さず完全に爆散した。
「終わった……のね」
スーパーガールが息を吐く。だが、その隣で、すべてのエネルギーを使い果たしたウルトラマンの身体が大きくぐらりと揺れた。倒れそうになるウルトラマンの身体を、スーパーガールが咄嗟に支える。二人は互いの身体を支え合いながら、静かに現場を出て、夜の闇へと消えていった。
その晩。ナショナル・シティの一角にある、カーラの自宅アパートメント。部屋の中には、温かい手料理の湯気と、穏やかな空気が流れていた。
テーブルの上には、カーラが買ってきた特大のピザと、アレックスが作った特製のポットパイが並んでいる。
「ふぅ……やっぱり、我が家が一番落ち着くわね」
カーラはメガネの位置を直しながら、大きなピザの一切れを豪快に口へと運んだ。クリプトン人の旺盛な食欲が、昼間の激闘の疲労を癒していく。
「全く、今回は本当に肝が冷えたわよ」
アレックスはソファーに深く腰掛け、ビールのグラスを傾けながらため息をついた。
「カーラが指示を無視して飛び出した時はどうしようかと思ったわ。マークしてた密売人たちをエサにされたのは胸糞悪いけど、あの怪物の捕食の瞬間なんて、まともに見たら精神的にも耐えられないでしょうに」
「ごめんなさい、アレックス。でも、どうしても放っておけなくて……」
カーラは申し訳なさそうに眉を下げた。そんな二人のやり取りを、テーブルの向こうでカイリは炭酸飲料を飲みながら、どこか冷めた、けれど安心したような目で見つめていた。
「ま、何はともあれ、あの正体不明のウルトラマンがまた助けてくれたから良かったじゃない。彼、本当に凄かったのよ!」
カーラが急に興奮した様子で身を乗り出した。
「ボガールに首を絞められて、変声機越しにも凄い苦しそうな声が聞こえてさ。あんなに苦戦するウルトラマン、初めて見たわ。それでも最後は、私のフリーズブレスと息を合わせて、こう、無言で腕を十字に組んで、もの凄い光線をドカンとさ――」
「ぶっ……! げほっ、ごほっ!」
カイリは飲んでいた炭酸水を盛大に吹き出しそうになり、激しくむせた。
「ちょっと、カーラ」
アレックスが呆れたようにカーラを嗜める。
「あなたね、いくら家だからって、DEOの作戦内容を民間人のカイリの前でそんなに詳しく喋るんじゃないの。ウルトラマンの機密だってあるんだから」
「あ、あはは……そうだったわね。ごめんごめん」
カーラが苦笑いして頭を掻く。
カイリは胸元に隠されたクリスタルがバレていないか冷や汗をかきながら、大急ぎで喉を鳴らして平静を装った。
「ゲホッ……ゲホッ……。な、何だよ姉ちゃん、ウルトラマンウルトラマンって。僕にはよく分からないけどさ、とにかくその街の不審者みたいなバケモノが退治されて良かったじゃん。ほら、そんなことよりピザ冷めちゃうよ。食べなよ」
「不審者って、そんな言い方ないでしょ!私殺されかけてるんだから!」
カーラが頬を膨らませる。
カイリはふぅと密かに安堵のため息をつき、ポットパイを口に運んだ。そして、少しだけ視線を落としながら、ぼそりと呟いた。
「……でもさ。いつも、ありがとうね」
「え?」
カーラがピザを咥えたまま、目を丸くした。アレックスも不思議そうにグラスを置く。
「カイリ、今、何に対してありがとうって言ったの?」
「え? いや、何でもないじゃん。このポットパイが美味いなって思っただけだよ、姉貴」
カイリは視線を逸らし、わざとぶっきらぼうに炭酸水のグラスを弄んだ。
「えー! 絶対違う! 今、私とアレックスに向かって言ったでしょ! 何に対して!? 今の聞いたよね!?」
「さあね。でも、カイリが素直にお礼を言うなんて、明日はナショナル・シティに雪でも降るんじゃないかしら」
「ちょっと、二人して僕をからかわないでよ!」
日常の温かい笑い声が、小さな部屋に響き渡る。窓の外には、いつもと変わらない、宝石を散りばめたようなナショナル・シティの美しい夜景が広がっていた。