ウルトラマンブライト ULTRAMAN bloody fate 作:青眼究極竜
ナショナル・シティの夜は、時に地上に降りた星屑のように美しい。だが、特異生物対策局――通称『DEO』の本部に広がる光景は、その美しさとはかけ離れた暴力に満ちていた。
「抑えろ! 逃がすな!」
特殊な拘束具を跳ね除け、大柄で恐ろしい顔つきをした凶暴な移住宇宙人が咆哮を上げる。並み居る捜査官たちが次々と吹き飛ばされる中、青いスーツに赤いマントを翻したスーパーガールが、空中から音速で突撃した。
「そこまでよ!」
鋭いストレートが怪物の顔面に炸裂し、巨体が床に激突する。流れるような身のこなしで追加の拘束具をはめ込み、スーパーガールは額の汗を拭った。ふと、スーツの通信機が激しく振動していることに気づく。画面に表示されたのは、義理の弟であるカイリ・ダンバースの名前だった。
『姉ちゃん? 今どこ? 任務中なら悪いんだけどさ……大至急、家に帰ってきて。姉貴の様子が完全におかしい。手が付けられないくらいパニックになってる』
スピーカーから聞こえるカイリの声は、年相応のぶっきらぼうさを装いつつも、明らかな困惑を孕んでいた。
「アレックスが? わかった、すぐ戻るわ!」
カーラが超音速でアパートの窓から飛び込み、大急ぎで服を着替えてリビングに向かうと、そこには部屋の中をせわしなく歩き回り、クッションの歪みやテーブルの上のわずかな埃を過剰なまでに気にしている真ん中の姉、アレックス・ダンバースの姿があった。その傍らで、ソファに深く腰掛けた15歳のカイリが、呆れたようにため息をつきながらタブレットの画面を眺めている。
「遅いわよ、カーラ! 早く準備を手伝って!」
アレックスが髪を振り乱して焦燥する。
「もうすぐイライザが来ちゃうのよ!? 昨年はあなたの仕事のことでネチネチ言われ、カイリの学校の成績のことで怒鳴られ……最悪の感謝祭だったんだから! なのに今年は、あなたがスーパーガールとして世界デビューしちゃってるわけじゃない! イライザに何て言われるか、想像しただけで胃が破裂しそう!」
「大丈夫よ、アレックス。イライザだって、私が人助けをしてるって知ればきっと……」
「甘いわ、カーラ。それに私は現在、研究員じゃなくてDEOの最前線で銃を持って異星人と戦う捜査官として働いてるの。それもまだ秘密なのよ!?」
その時、部屋のドアが激しく叩かれた。
「ドンドンドン!」
アレックスの身体がびくりと跳ねる。カーラとアレックスが視線を交わし、生唾を飲み込む。カイリは「あーあ、ついに本ボスのお出ましだな」と内心で天を仰ぎながら、のっそりと立ち上がった。
アレックスが恐る恐るドアを開けると、そこには厳しい顔をした母親……ではなく、満面の笑みを浮かべたイライザ・ダンバースが立っていた。
「いつ見ても可愛い、私の自慢の子供たちねーーーーっ!」
イライザは勢いよく部屋に踏み込むと、カーラを、そしてアレックスを力いっぱい抱きしめた。
「イライザ……怒ってないの?」
カーラが目を丸くする。イライザはカーラの顔を優しく見つめ、
「怒るわけないでしょう。あなたがテレビで人々を救う姿を見て、どれだけ誇らしかったか」
その言葉にアレックスは一瞬「ほっ」と胸をなでおろした。だが、イライザの視線がアレックスに向いた瞬間、その瞳にわずかな冷徹さが宿るのを、カイリは見逃さなかった。
「カイリ、あなたもこっちへ来なさい」
「……はいはい。お久しぶり、イライザ」
カイリはぶっきらぼうに義母のハグに応じた。その腕の温もりに、口では毒づきながらも内心では満更でもない安らぎを感じていた。カイリはダンバース家の3人で生きていける固い絆を、誰よりも愛しているのだ。だが、この後に待ち受ける家庭内の不穏な空気の予感に、彼の胃もまた少しだけ痛んだ。
同じ頃、ナショナル・シティの最大手メディア『キャットコー・メディア』が運営するラジオ番組では、悪意に満ちた声が電波に乗って街中に響き渡っていた。
マイクの前に座るのは、過激な発言で知られる人気DJ、レスリー・ウィリス。彼女は感謝祭の恒例企画と称して、冷酷な笑みを浮かべながら原稿を読み上げていた。
「さあ、今夜の議題は『私が感謝していないものリスト』よ。筆頭は決まってるわ。あの街を我が物顔で飛び回る、偽善者の小娘――スーパーガールよ!」
彼女の言葉は、下品で容赦のない侮辱へとエスカレートしていく。
「あの小娘は、この街の歯周病よ。せっかくの美しい景観を、あの安っぽい正義感で台無しにする。たまらなくムカつくわ。あの『私、可愛いでしょ!』って透けて見える態度がね」
スタジオのガラスの向こうで、ディレクターが青ざめるのも気にせず、レスリーは言葉を紡ぐ。
「だいたい、あのスーツは何なの? 超絶にダサいわ。どこのチープなフィギュアの衣装よ。今時スカートにタイツ? 勘弁して。センスがなさすぎるし、セクシーさもゼロ。これじゃ男に受けるわけがない。まあ、あんな鋼鉄の女とベッドに入りたがる命知らずな男なんて、この世にいないでしょうけどね」
レスリーはさらに声を潜め、嫌らしく笑った。
「もしかして、男に興味がないのかしら? そっちの気がありそうよね。胸に男前な『S』なんてマークを付けてるくらいだし。そもそも宇宙人なんて、アソコに不気味な触角でも生えてるんじゃないの?」
その放送を、アパートの自室で聞いていたカイリの思考が、あまりの嫌悪感に真っ白に染まった。
大好きな姉を、大切な家族を、下劣極まりない言葉で汚され続ける苦痛。それはもう、一秒たりとも耳にしていたいものではなかった。
カイリは言葉を失ったまま、ただ反射的に、目の前のポータブルラジオへと右拳を叩きつけていた。
凄まじい衝撃音が自室に響く。
鉄槌のような一撃を受けたラジオは、プラスチックの筐体も基盤も無残に押し潰され、一瞬で完全な沈黙へと追い込まれた。粉々に砕けた破片が床に散らばる中、カイリは激しい呼吸のまま、壊れた機械を無言で見下ろしていた。拳から伝わる鈍い感触だけが、彼の胸の奥で燻る冷たい怒りを証明していた。
たまたまカイリに声をかけようと部屋の前に来ていたカーラは、ドアの隙間からその一連の光景を目撃し、完全に引き攣った顔でドン引きしていた。弟の普段は見せない荒々しさと、常人離れした怪力に圧倒され、半ば怯えたように数歩後退りする。
「……カイリ。気持ちはすごくよく分かるけど……とりあえず、その粉々になったやつの掃除、よろしくね?」
カーラは引きつった笑顔のままそう言い残し、逃げるようにリビングへと戻っていった。
この下品な暴言は、キャットコーの最高権力者であるキャット・グラントの逆鱗にも触れた。キャットはレスリーをオフィスに呼び出し、冷徹に告げた。
「レスリー、あなたは一線を越えたわ。私の会社がスーパーガールをプロデュースしているのを知っていてあの発言は、ただの自殺行為よ。あなたをラジオ番組から降格させる。明日からはヘリに乗って、上空から地味に交通情報でも伝えていなさい」
その夜、ナショナル・シティは激しい雷雨に見舞われた。
暗雲が立ち込め、引き裂くような稲妻が夜空を走る。レスリーは怒りに燃えながら、激しく揺れるヘリコプターの中から交通情報を伝えていた。だが、最悪のタイミングで巨大な落雷がヘリのプロペラを直撃する。
「キャーーッ! 制御不能よ! 墜落する!」
パイロットの悲鳴が響き、ヘリはキリキリと回転しながらビルの谷間へと落下していく。
その窮地を、超聴覚で捉えたカーラと、異変を察知したカイリが目撃した。
「大変、ヘリが墜落するわ!」
カーラはカイリの前から引き揚げると、誰もいない路地裏へと駆け込み、瞬時にスーパーガールへと変身して夜空へと飛び立った。
一方、一人残されたカイリもまた、険しい表情で夜空を見上げる。
(ここで常人のふりをしてる場合じゃない。姉ちゃん一人じゃ、あの巨体を支えながら救出するのは無理だ!)
カイリは周囲に人がいないことを素早く確認すると、ビルの合間の暗がりにこそっと身を隠した。
懐からクリスタルを取り出し、天に掲げる。
まばゆい光がカイリの身体を包み込み、重厚なメタルスーツが形成されていく。ウルトラマンへと姿を変えたカイリは、漆黒の嵐の中へと力強く跳躍し、スーパーガールの後を追った。
落下するヘリに超スピードで追いついたのは、ウルトラマンだった。
「ハァッ!」
ウルトラマンは超人的な怪力で、激しく回転しながら落ちていくヘリの機体を下から強引に受け止める。そのままエネルギーをコントロールし、近くのビルの屋上へと安全に不時着させた。
ウルトラマンがひしゃげたドアをこじ開け、意識を失いかけているパイロットを迅速に救出し、機体が傾かないよう力で安定させる。その頼もしい背中を見ながら、遅れて到着したスーパーガールはコックピットへと飛び込み、錯乱しているレスリーを連れ出そうと手を伸ばした。
「私の手を握って! 早く!」
レスリーが恐怖に目を見開き、スーパーガールの手を掴んだその瞬間。
運命の悪戯か、天から降り注いだ一筋の巨大な雷光が、スーパーガールの身体を直撃した。
「あぁぁぁーーーーっ!!」
クリプトン人の肉体は雷を耐え抜いたが、彼女の身体は完璧な導体と化してしまった。スーパーガールの手を握っていたレスリーの体内に、数百万ボルトの電流が一気に流れ込む。
激しい放電の光が二人を包み込み、レスリーは絶叫とともに意識を失った。電流の影響で、彼女の艶やかな髪は一瞬にして不気味な白髪へと変色していく。
「レスリー!!」
スーパーガールが叫ぶ。カイリが駆け寄った時には、レスリーは息を弾ませながら、電気を帯びた身体で昏睡状態に陥っていた。
レスリーが病院へ搬送された頃、カーラのアパートでは、重苦しい空気がディナーテーブルを支配していた。
リビングのテレビニュースでは、スーパーガールがヘリの落雷事故から人々を救ったことが大々的に報じられている。
「そのテレビを消してちょうだい、ウィン」
イライザが冷たい声で言った。その一言が、ダンバース家の古い傷口を再びこじ開ける引き金となった。
キッチンで片付けをしていたカイリは、「ヤバいな、始まったか……」と察し、姉たちの様子を気遣いながらも、今はまだ一般人を装う必要があるため、恐る恐る自室へと避難した。
リビングからは、ドア越しにイライザの厳しい叱責が漏れ聞こえてくる。
「アレックス、なぜあなたがいながら、カーラがマントを着けて飛び回るのを止めなかったの? 危険すぎるわ。あの子は昔から純粋で、簡単に人を信じてしまう。しっかり者のあなたが、姉としてちゃん見張っていなきゃダメでしょう!」
「イライザ、それは理不尽よ! カーラが自分の意志で選んだ道よ。私にそれを止める権利なんて……」
アレックスの声は震えていた。幼い頃から、どれだけ努力しても実の娘である自分には厳しく、養子であるカーラやカイリには甘い母親。その不公平感が、彼女の心をずっと蝕んでいたのだ。
「言い訳は聞きたくないわ。あなたの責任よ」
「……もういい。仕事が残ってるから、本部に戻るわ」
激しい言い争いに耐えかね、アレックスはコートを掴んで部屋を飛び出していった。
自室のベッドでそのやり取りを聞いていたカイリは、深くため息をついた。
(また今年もこれか。原因は僕や姉ちゃんにあるってことは分かってる。だけど、姉貴が一方的に責められるのは見ていて気分のいいもんじゃない。どうにかして、あの二人の関係を変えられないか……)
その後、感謝祭の夜となり、ディナーをカーラ、アレックス、イライザ、ウィンの4人で囲むことになった。楽しい夜になるはずだったが、ジェームズからの電話でカーラが席を外している時、アレックスのカミングアウトにより事態はさらに悪化する。
「……もう隠し事は嫌。イライザ、私は科学研究員として働いてるんじゃないわ。DEOの捜査官として、銃を持って危険な宇宙人と戦ってるの」
アレックスのカミングアウトに、イライザは目を見開いた。アレックスの涙が溢れ出る。
「どうしていつも私にばかり厳しくするの? カーラやカイリにはあんなに優しいのに。私のことが憎いの?」
結局、ディナーは最悪の空気でお開きとなってしまい、カーラはキャットからの急な呼び出しで会社へ行くことになった。
深夜、街中が嵐の影響で停電する中、アレックスは母の身を案じてアパートへと戻ってきた。暗闇の中、キャンドルの炎が揺れるリビングで、二人はようやく本音で対峙することになる。
イライザは悲しげに首を振り、アレックスの手を優しく包み込んだ。
「パパを持ち出してあなたを責めたこと、許してちょうだい。あなたは本当に立派な子よ。いつも自分より他人を優先して……。私にはあなたに厳しすぎる理由があるの。……カーラは幼い頃に故郷の星をすべて失い、この地球に一人でやってきた。私たちはあの子の孤独を受け入れるししかなかったの。カイリは我が家で唯一の男の子で、パパとの思い出もほとんどない。だから、無条件で優しくしてあげたかった」
イライザの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「でもね、アレックス。あなたは私の、お腹を痛めて産んだ実の娘よ。私はあなたに、私なんかを遥かに超えた完璧な女性になって欲しかったの。厳しくしたのは、憎んでいるからじゃない。私の深い愛情の裏返しよ。……だって、あなたは私の、たった一人の『スーパーガール』なんですもの」
その言葉に、アレックスの胸の支えが音を立てて崩れ去った。二人は涙を流しながら、固く抱きしめ合った。長年の確執が、ようやく溶けていく瞬間だった。
一方、病院のベッドで意識を取り戻したレスリー・ウィリスは、自らの肉体の異変に気づいていた。
彼女の身体には、落雷によってスーパーガールの細胞から変異した凄まじい電磁力が宿っていた。電子機器を触るだけで自在に操り、自らの身体を純粋な電気エネルギーへと変換してコードやコンセントの中を移動できる怪物。
彼女は自らを『ライブワイヤー』と名乗り、自分を降格させたキャット・グラント、およびスーパーガールへの復讐を開始した。
ライブワイヤーに対抗するため、アレックスはDEO本部で、対ライブワイヤー用として改良された特殊な罠を急ピッチで完成させた。精度を高めるため、カーラはキャットの協力を得る。キャットが会社のラジオ放送を使い、「出会った場所で待つわ」とライブワイヤーにメッセージを発信したのだ。
その頃、カイリは姉2人を助けるため、ついにイライザの前でクリスタルを掲げた。眩い光が彼を包み込み、重厚なメタルスーツが形成されていく。
「2人にはまだ黙ってて欲しい。時がくれば僕から話すから」
驚くイライザにそう言い残し、ウルトラマンとなったカイリは夜空へと飛び去っていった。
ナショナル・シティの広大な地下精錬所跡。指定の場所で待つキャットの前に、ライブワイヤーはすぐさま姿を現した。間一髪でスーパーガールが空中から割り込み、激しい戦いの火蓋が切って落とされる。
「ハッ! 私はライブワイヤー! あんたのその澄ましたツラを、黒焦げにしてあげるわ!」
ライブワイヤーの手から、電気をムチのように操る強烈な放電が放たれる。スーパーガールは空中へと回避するが、縦横無尽にうねる電撃に大苦戦を強いられる。
そこへ、闇を切り裂いてウルトラマンが滑り込んできた。
「ハァッ!」
ウルトラマンは左腕を突き出し、激しく回転する光の刃『八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)』を放つ。しかし、ライブワイヤーは邪悪に笑うと、その光の刃を両手で受け止め、自らのエネルギーとしてそのまま吸収してしまった。さらに、ウルトラマンが放とうとした光線技のエネルギーまでもが、彼女の身体に吸い込まれていく。
「光線技をすべて吸収するのか!?」
変声機越しにウルトラマンの声が漏れる。
「エネルギーなら、大歓迎よ!」
ライブワイヤーがさらに強大な電撃の鞭を繰り出す。ウルトラマンとスーパーガールは同時に電撃に身体を絡め取られ、強力な拘束によって床へと叩きつけられた。
「う、ぐあぁぁぁーーーっ!!」
「あ、あぁぁぁーーーっ!!」
電流が二人の肉体を焼き、ウルトラマンのスーツの各部から火花が散る。大好きな姉が目の前で苦痛に顔を歪める姿を見て、ウルトラマン(カイリ)の内面は、理性を失うほどの激しい焦燥感と怒りで狂いそうになっていた。
(くそっ、姉ちゃんを離せ!!)
ウルトラマンとしての仮面を維持しながらも、その心に宿るのはヒーローとしての義憤ではなく、ただ一人、大切な家族を救いたいという純粋な衝動だった。しかし電撃は強まり、仕掛けていた罠にも気づかれて破壊され、二人は完全に窮地に陥った。
その時、精錬所の物陰から、アレックスが叫んだ。
「スーパーガール、ウルトラマン! ライブワイヤーの弱点は過充電による漏電よ! 周囲の環境を利用して!」
電撃の苦痛に耐えながら、スーパーガールはウルトラマンのバイザーの奥にある鋭い光を見つめた。二人の視線が一瞬だけ交錯する。
正体は知らないはずの二人。だが、幾多の修羅場を共にしてきた二人の間には、一瞬の目配せ(アイコンタクト)だけで互いの戦術を完璧に理解し合う、完璧な戦術的阿吽の呼吸が存在していた。
(地面の下……水道管がある!)
目配せだけで互いの意図を共有した二人は、同時に拘束の鞭を力任せに引きはがすと、地を蹴って跳躍した。
「――シィッ!!」
「ハァッ!!」
ウルトラマンとスーパーガールが、同時に渾身の拳を地面へと叩きつける。凄まじい衝撃波によってコンクリートの床が爆破され、地下に埋設されていた巨大な主水道管が地上へと露出、激しく破裂した。
大量の濁流が、思いっきりライブワイヤーへと放水される。
「なっ、水――!? ギャァァァァァァーーーーーッ品!?」
水に触れた瞬間、ライブワイヤーの身体を流れる電流がショートし、激しい漏電を引き起こした。彼女の肉体から青白い火花が四方八方へと飛び散り、電気の力を完全に喪失したレスリーは、その場に崩れ落ちて力尽きた。ついには力関係が逆転し、勝負アリとなったのだ。レスリーの身柄は、即座にアレックス率いるDEOの特殊部隊によって確保され、投獄されることとなった。
激しい戦いが終わり、キャットとカーラの関係にも変化が訪れ、二人の距離は以前より少しだけ親密なものになっていた。
感謝祭の激動がひとまず落ち着き、帰宅することになったイライザだが、その帰り際、三人に大事な話があるのと、父親の死についての話を切り出した。
「三人とも、よく聞いてちょうだい。あなたたちの父親、ジェレマイアの死についてよ」
姉弟たちの表情が強張る。
「パパはただの学者ではなかったわ。DEOには飛行機事故で死んだと言われたけど、私は信じていない。DEOがどんな組織だったか、昔から知っているから。……カイリが赤ん坊の頃に我が家の玄関に預けられた時、そしてカーラが13歳の頃、DEOはあなたたち二人を『危険な研究材料』として強制的に連れて行こうとしたのよ。けど、それを阻止するため、パパがスーパーマンの研究成果のすべてを渡し、その協力のためにパパはDEOに入ったの」
カーラとアレックスが息を呑む。
「そして、パパは任務中に亡くなった。あの人は、ハンク・ヘンショウの下で働いていたのよ」
この話を聞いたカーラとアレックス、そしてカイリの胸に、ハンク・ヘンショウへの強い疑念が湧き上がった。
「僕もDEOについて知りたい。姉貴たちだけに危険な真似はさせられない」
カイリも鋭い眼光で応じ、3人は父の死の真相を探るべく、ヘンショウを調査するために動き出そうとするのだった。
カーラとアレックスが、出発の準備をするために一度部屋に戻り、玄関にはイライザとカイリの二人だけになる時間ができた。
イライザは周囲を気にしながら、コートのポケットから一通の古びた手紙をカイリに手渡した。
「これは……?」
「手紙よ、カイリ。あなたが我が家の玄関に預けられたカゴの中に入っていたの。未知の技術データが記録されたデバイスと一緒にね」
イライザは静かに、しかし重大な事実を告げる。
「その未知の技術データは、当時、あなたを連れ去ろうとしたヘンショウたちからあなたを隠すため、パパが機転を利かせて『これはカーラが地球に持ってきたクリプトン星の持ち物だ』と偽って彼らに渡したものなの。だから、当時すぐにDEOのハンク・ヘンショウに奪われてしまったけれど、あのデータとあなたを直接結びつけるものは何もない。今でもヘンショウは、あの技術データをクリプトン星のものだと思い込んでいるはずよ」
カイリは手紙を開いた。そこには、M78星雲・光の国の話、ウルトラ一族誕生の壮大な歴史、あるいはカイリの本当の父親について書かれていた。
『ウルトラマンベリアル』
それは、かつて光の国を裏切り、闇に堕ちた最強最悪の戦士の名だった。己の肉体に流れる力が、禍々しいベリアル因子であることを、カイリは初めて突きつけられた。
「手紙の内容は、私も読んだわ」
イライザはカイリの肩を優しく抱きしめる。
「だから忘れないで。カーラにも言ったけれど、あなたも私の大事な息子よ。どんな存在だろうと構わないわ。また会う時、笑顔で顔を見せてちょうだい。まあ、宿題とか学校のサボりは良くないとは思うけど、男の子ですもの、多少のヤンチャは目を瞑るわ」
イライザは茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「あ、でも、カーラとアレックスに彼氏ができたらすぐに報告すること。そして、あなたがその彼氏のテスト(品定め)をするのよ。私としては、血の繋がりがないんだから、あなたくらい頼りになる子がカーラの相手でもいいと思ってるんだけど……まだちょっと、年齢がね(笑)。また三人仲の良いところを見せてちょうだい。カーラをお願いね」
最後に、イライザは母親としての真剣な眼差しをカイリに向けた。
「それから、ウルトラマン?だったかしら。私はまだ、あなたがそんな危険に向かっていくのは認めないわ。もっと実力をつけなさい。あと、2人には自分から適切なタイミングを見つけて話すこと、いいわね?」
「……わかってるよ、イライザ。ありがとう」
カイリはぶっきらぼうに、しかし心からの愛情を込めて応じた。
イライザは満足そうに微笑むと、ナショナル・シティの夜へと帰っていった。
一人残されたカイリは、手紙をポケットの奥深くにしまい込み、内に眠るベリアル因子の冷たい疼きを感じていた。大好きな姉たちを守るためなら、この身が闇に染まろうとも構わない。だが、彼の行く手には、その愛を利用せんとする過酷な運命の影が、静かに、確実に迫りつつあった。