『天上天下 〜銀髪の蛇、宿命の檻〜』   作:トート

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第9話:愛憎の断頭台、夜明け前の闇

【一】

中央大武道場を襲ったあの漆黒の嵐が去ったあとも、学園の空気は血の臭いと冷徹な絶望に支配されていた。

光臣、雅孝、宗一郎、ボブの4人が確執を捨てて結成した、人間の意志による奇跡の共闘。それは凪宗一郎の内に眠る魔人の血の覚醒を呼び込み、真夜の暴走を食い止めることに成功した。しかし、その直後に舞い降りてきた銀の圧倒的な『黒厳蛇(こくげんだ)』の暴虐の前に、彼らの執念は完膚なきまでに叩き潰され、再び床へと激しく這いつくばらされた。

百九十九センチメートルの圧倒的な巨躯、衣服の上から特製の鎧をまとった銀は、傷だらけの少年たちを一瞥すら呉れず、気を失った真夜をその丸太のように太い腕で容易く横抱きにすると、再び外界から隔離されたあの薄暗い私室へと連れ去っていった。

「くそっ……! 救えなかった……また、俺の目の前で……っ!」

壊れかけた武道場の床板を殴りつけ、宗一郎は悔し涙を泥水へと滴らせていた。拳に宿った爆拳の気の煙は虚しく揺らめき、体内の精神エネルギーは底を突いている。

「……諦めるな、宗一郎」

這いつくばったまま、血を吐きながらも立ち上がろうとするのは高柳雅孝だった。実の兄である光臣もまた、壁に背を預けたまま、真夜を完全に支配している銀への激しい憎悪と、己の持つ高柳の誇りをズタズタに引き裂かれた劣等感に身を焦がしていた。

「凪くん……お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けて……っ」

美しい茶髪を乱し、涙を流しながら宗一郎の手を握りしめる棗亜夜。彼女のその無垢な涙が、傷だらけの少年たちの胸の奥に、最後の、および最も熱い反逆の炎を灯していた。

「ああ、約束する。俺たちの命をすべて繋いででも、あの銀髪の怪物をぶっ潰して、真夜さんを必ず連れ戻す!」

高柳の兄弟の確執、新入生の意地、そして姉妹の絆。すべての運命を巻き込んだ大天脈の歯車は、真夜の命を賭けた、本当の最終決戦へ向かって最後の気の根源を開放し始める。

【二】

同じ深夜、外界の喧騒が一切遮断された、柔剣部室の奥の薄暗い私室。

部屋の隅に置かれた壊れた計器の電子音が不気味に低く響く中、真夜は寝台のシーツの上に投げ出され、銀の圧倒的な威圧感の前にその五体を完全に組み伏せられていた。

「昼間は随分と見苦しい醜態を晒してくれたな、真夜」

銀の声は地を這うように低く、硬質だった。

銀は衣服をはだけさせ、特製の鎧を外した剥き出しの巨躯のまま、寝台の上の真夜を冷酷に見下ろしている。衣服越しではない、鋼の硬度を持つ超筋肉質な体格が真夜の視界のすべてを塞ぎ、逃げ場のない宿命の檻となって彼女を圧し潰す。

「あ……、ぎん……さん……っ」

真夜の口から、掠れた甘い吐息が漏れる。

銀の無骨な手のひらが、真夜の細い首筋を容赦なく掴み上げ、強引に上を向かせた。万力のような怪力が加わり、気管が圧迫されて真夜の顔が苦痛に歪む。これが、光臣や雅孝たちと接触した彼女に対する、容赦のない冷酷な鞭であった。

「あいつらの腑抜けた連携に魂を売って、俺の『黒厳蛇』の気を暴走させるとはな。お前を支配し、その棗の呪いを引き裂いてやれるのは、世界で俺だけだと言ったはずだ。自分の立場を忘れた人形に、どんなお仕置きが必要か、その身に直接教えてやる」

「殺せるものなら私を殺しなさいよ、銀……っ! 私はあんたのことが死ぬほど憎い、いつか必ず兄さんの仇を討ってやる……! だから、そうされる前に、今すぐ私を完全に壊してみせなさいよ……っ!」

真夜は涙を流しながらも、銀の広く頑強な胸板に必死に腕を回し、その頑強な胸にしがみついた。

胸の奥を激しく掻きむしるのは、兄を殺したこの男への「凄まじい憎悪」だ。今すぐその首を掻き切りたいと魂が叫んでいる。しかし同時に、光臣の未練や雅孝の視線が迫るほどに、真夜の胸を焦がす歪んだ独占欲は、銀への狂おしいほどの依存へと昇華されていた。この圧倒的な強者に組み伏せられ、抵抗を完全に無にされるその暴虐の瞬間に、真夜の精神は、「それに勝る狂おしいほどの愛」に灼かれ、絶頂の昂ぶりを迎えていた。

銀は彼女の瞳に宿る愛憎の歪みを見つめると、不意に首筋に込めていた力を完全に抜いた。

先ほどまでの暴虐が嘘のように、彼の大きな手のひらが真夜の頬を優しく包み込み、無骨な指先が、流れる涙を丁寧に拭いながら、首筋から鎖骨へと甘く滑り落ちる。

恐怖の絶頂の後に大人の檻に与えられる、この上なく甘い安堵と、自分だけのものであるはずの優しい手つきという飴。

銀の指先が触れるたび、真夜の脳内には、強烈な快感と痺れが駆け抜けた。殺したいほど憎い男の腕の中でしか息ができない、壊れた人形。

「……ん、ぁ……っ。死ぬほど憎いわ、銀……っ。だから、もっと私を壊しなさい……。誰の光も、私のこの渇きは一生埋められない……っ!」

その口から漏れ出たのは、服従を通り越して、銀の檻の中に自ら溺れていこうとする狂おしいほどの情念の告白だった。真夜は銀の頑強な筋肉の熱に自ら額を押し付け、彼なしでは生きられない暗闇の奥底へと、さらに深く堕ちていくのだった。

【三】

同じ深夜、学園の最高峰に位置する執行部会長室。

高柳光臣は、重厚なマホガニーの机を拳で激しく叩き割り、黄金色に輝く龍の気の波動を全身から陽炎のように立ち上らせていた。

「銀……! お前をその銀髪ごと完全に葬り去り、真夜を必ずこの手で奪い返してやる……!」

光臣の目は、激しい執着と劣等感で完全に濁りきっていた。実の弟である雅孝、および新入生の宗一郎たちまでもが、真夜を救うために己の気の根源を開放しようとしている。光臣はすべてのプライドを捨て去り、高柳一族の、および学園のシステムのすべてを動員した、本当の最終決戦の布陣を敷くことを冷酷に決意した。

宿命の糸に縛られた者たちの愛憎劇は、真夜の精神が完全に銀の檻に屈服した暗闇の裏で、真夜が自らの手で愛を終わらせる悲劇の最終回(第10話)へと向かって、もはや誰にも修復不可能な破滅の段階へと一気に突入していくのだった――。

 

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