かぐヤチ『あなたの傍にお仕えを』彩葉『ええ……』   作:レントン

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始まり。


かぐヤチ『幾久しくよろしくお願い申し上げます』彩葉『うそぉ……』

酒寄家は平安より代々続く『式神遣い』の家系である。

式神遣いとは陰陽道より派生した、呪符や呪術能力などは使用できないが式神を使役することに特化した能力を用いる能力者の事。式神として使役するのは所謂『鬼』や『狐』などの有名どころから『戌』や『兎』などの十二支を用いる者も多い。使役用途としては小間使いなどから護衛などの荒事など様々。そして式神遣いの最大の使命は、世にはびこる『悪霊』や『悪妖』などを祓う事である。こうして説明すると正義の味方染みた職業のようにも聞こえるかもしれないが……ちゃんと協会みたいな集まりもある真っ当なサラリーマンに近い職業である。

で、だ。そんな式神遣いの中でも古くから存在している酒寄家の子として生まれた私、酒寄彩葉なのだが……これまたどうしようもなく才能が無かった。どれくらい才能が無いかと言えば、小学生の練習生ですら簡単に使役出来るであろう練習用の式神ですら使役出来ないほど……と言えば分かるだろうか?

 

『あんたには才能が有らへん。無駄な努力は止めて別の道を探しや』

 

とはお母さんの言葉だ。お母さんは四尾の狐と言う上位種の式神を使役する現役の式神遣いなのだが、これがまたべらぼうに厳しい。式神遣いの訓練を始めてからも満足に褒めてもらったことも認めてもらったこともないのだから相当の物である。因みにお父さんは既に他界している。お父さんが居た頃はもう少し優しかった気もするのだが……その辺はもう諦めもついてしまった。何せお父さんの葬式の時になんで泣かないのか尋ねても『あんたには分からん』と突っぱねられるくらいだ。和解するのは不可能であろうと思う。結果として家を飛び出して一人暮らしを始めてしまうくらいには私にとってお母さんはもう苦手の対象と化してしまっていた。

そんなこんなで故郷の京都を飛び出し、現在の私は東京で一人暮らし。式神遣いの高等専門学校に通っているのだが……落ちこぼれのレッテルを貼られているわけだ。そりゃそうだ。座学はパーフェクトでも、高等生にもなって式神を使役も出来ないような奴は落ちこぼれ以外の何物でもないのだ。

 

「はは、また座学だけ満点かよ。本当に酒寄は落ちこぼれだなw」

「マジでwさっさと学校辞めちまえばいいのにw」

「あ?そう言うのは座学で満点取ってから言えっての!」

「大体使役している式神だってしょぼいのに偉そうに。寧ろそんなのを自慢してて恥ずかしいわw」

 

こんな嫌味はもう嫌と言うほど聞きなれてしまった。その度に親友である芦花と真実は怒りながら嫌味を言った連中を怒鳴りつけてくれる。ありがたいと同時に申し訳なさでいっぱいである。

 

「二人とも、大丈夫だから。何時もごめんねほんと」

「何言ってんの!いっつも座学のテストで面倒見てもらってんのはこっちでしょ?」

「むしろ感謝してるっての。あんな連中気にしないで、ね?」

 

こんな感じで何時も慰めてくれる。因みに芦花は鹿の、真実はモモンガの式神を使役している。どちらもありきたりな動物だがよく躾と訓練を重ねられた優秀な式神である。

 

「ん、それでもありがと。さって、今日もバイトだ。じゃあね二人とも、バイバイ」

「元気だしなね!」

「きっと何時か彩葉の式神が現れるって!」

 

……そんな日が来るのかなぁ?

 

─────

 

「つ、疲れた……今日も働いたぞ~……」

 

家を飛び出しての一人暮らしの条件は、お母さんからの資金援助なしで生きて行くことだった。故に座学ではパーフェクトな成績を維持し奨学金を得ているが、それだけでは生活費までは賄えないのでこうしてバイトに勤しんでいるわけだ。先に家を出て行ったお兄ちゃん(当然式神遣い。『虎鬼』と『熊鬼』と言う高位の式神を使役する非常に優秀な式神遣いである)からも資金援助を申し出られたことがあったが断っている。言わば意地と言うものでしかなかったが。

 

「明日から三連休……ちょっとは寝れるな~……」

 

なんて考えながら夜の帰路をとぼとぼ歩く。連休の一日目くらいは昼間で寝ても大丈夫だろううん。と、歩を進めていると。

 

「ぷぅ~♪」

「ぷぅ~♪」

「お?また会ったねぇ」

 

独特の鳴き声を上げて茂みから飛び出してくる二つの小さな影。目を凝らすまでもなく瞳に写り込む金と銀の美しい毛並みを持った二匹の兎の姿が其処にあった。

 

「よしよし、今日も綺麗だね二匹とも。ええっと……はい、ニンジンスティック」

「「ぷぅ~♪」」

 

カバンから取り出したニンジンスティックを差し出せば嬉しそうに齧り始める。何でそんな物持っているかって?そりゃ勿論この二匹の為である。

初めて会ったのは東京に移り住んですぐの事。なんか入学式が終わって下校中の時を見計らったかのように賃貸ボロアパートの茂みから現れた。ほんとに狙ったかのタイミングだった。それ以来この様に度々遭遇しては餌を与えているのだ。

 

「よしよし、ほんっと可愛いね二匹とも」

「「ぷぅ~♡」」

 

抱き上げてやれば頬擦りさえしてくれる。恐らく人の言葉が分かっているのだろう。て言うかこの通常ではありえない毛並み。ほぼ間違いなく『あやかし』の一種だ。とは言え妖力はほとんど感じ取れないことを考えればかなり低級のあやかしだろうが。

 

「はぁぁ、ほんと可愛い……なんかもうさぁ……君らに式神になってもらおうかな……」

「っ!?」

「ぷぅぷぃぷぅっ♪」

 

冗談交じりで言った言葉だったのだが、どうやらお気に召してくれたらしい。うむ、私みたいな落ちこぼれの式神になってもらうにはあまりに申し訳ないと思いつつ、この二匹が式神になってくれたならきっと楽しそうだと言う謎めいた確信もあったりする……はてさてどうs

 

ぞわわっ

 

「っ!?!?」

 

背筋を走る怖気と寒気。強烈な嫌悪感と根源的な恐怖感。二匹を護るように前に立ち塞がり気配のする方向へ視線を向ければ……空間が歪んでいるかのように揺らめいている。

 

『……ぐふふふ……式神遣いの匂いがして来てみれば……何ともご立派な式神遣いが居らっしゃるものだ』

 

現れたるは負の感情の塊。穢れの象徴。血の気の通っていない、下半身の存在しない人型。人が悪霊と呼んでいるそれだった。

 

『はて?随分と強い力を感じたと思ったのだが……いやはやこれでは式神遣いと呼ぶのも烏滸がましいようなレベルではないか。まぁ良い。それでも喰らえば幾らかの力にはなるだろうて』

 

不味った。この状況では逃げるにも逃げられん。目を付けられた以上は退治する以外選択肢はないが……残念ながら私には式神が居ない。よって抵抗能力は存在しない。積みである。

 

「……君らは逃げな。あいつは私だけ狙っている。私が喰われている間に逃げられるはずだよ」

 

背後に居るだろう二匹を見ることなく言葉を放つ。やせ我慢と精一杯の意地。落ちこぼれでどうしようもないとは言え私は式神遣い。弱きを守る存在だ。

 

『随分と潔いな。だが無駄だ。そちらの二匹もわが獲物。喰ろうてやる故あの世で仲良くするがよい』

「くそ外道め。絶対にそんなことさせるm」

 

言うや否や、飛んできた霊力の弾丸が腹部に直撃する。強烈な痛みに蹲りそうになるが、それでも膝だけはつけない。まだ背後に二匹の気配があるのだ。恐らく恐怖で動けないのだろう。お願いだから早く逃げて。私の足止めが叶っている内に。

 

『さて、それでは早速喰うとするか。大した能力もない情けない式神遣いよ。この世と別れを迎えるがよい』

 

ああ、これで終わりなんだ……やだな、何もできないままだった。何一つ成し遂げられないままだった。もし死んだら、お母さんは流石に悲しんでくれるかな……お兄ちゃん、迷惑ばっかり掛けてごめんなさい。芦花、真実、二人にはとっても世話になった。ほんとにありがとう。

 

『いただきm』

 

 

 

「お前、彩葉に何すんだ?」

「いと不愉快なり。悉く去ね」

 

……へ?

 

『……な、に?』

 

背後から聞こえてきた声に驚くより安心感を覚えたのは何故だろうか。あまりにも強大な妖力。しかしそれは悪意によるものではなく、酷く清純な力だった。

 

「ごめんね彩葉。ほんとはちゃんと契約を結んでから正体を明かしたかったんだけど……」

「そうじゃないときっと遠慮して契約してくれないだろうなって思って。だけどもう無理。ねぇお前?誰に危害を加えたのか分かっていて?」

 

振り向いたその先に、金と銀の美しい髪をたなびかせる、和服姿の二人の少女が居た。いや、少女と呼ぶのは不敬だろう。この力は……神々しさすら感じる。少なくとも上位以上のあやかしであることは疑い様も無かった。

 

『な、な、ばかな……貴様ら、さっきまで低級以下の力しか発していなかったと言うのに……』

「馬鹿じゃないの?力を見せびらかすなんてみっともないでしょ。普段は隠しているだけだよ」

「でもね、それももう終わり。彩葉に危害を加えちゃうなんて……おイタが過ぎるな~……?」

「あ、あの……二人は一体……?」

 

人型を取り、言葉を発せる以上は少なくとも50年以上を生きているあやかしである。しかし……この二人はおそらくそんな範疇は超えているはずだ……

 

「月見かぐや。玉兎のあやかし。1000年以上を生きるあやかしだよ」

「月見ヤチヨ。同じく玉兎にして1000年以上を生きているよ~」

 

聞き間違いか?1000年?大妖怪なんてレベルじゃない。神話に等しいあやかしではないか。しかも玉兎?月から来たと言う伝説のあやかしの?驚き過ぎて言葉も出ない。

 

『ま、待て、待ってくれ!?わ、私はそんなつもりは毛頭なくて!?へ、へへへ、ただちょっと腹が減ってただけなんだよ……な?も、もう二度と関わんねぇからよ……み、みのg』

「無理」

「散れ」

 

最後まで言い終わるのを待たれることも無く、悪霊はかぐや……様……でいいよね。1000年妖怪だし……とにかくかぐや様の顕現させたハンマーに叩き潰され、残った部分はヤチヨ様の顕現させた傘に刻まれて消滅してしまった……え?うそ?私結構死の覚悟もしてたんだけど?

 

「彩葉大丈夫!?あ、お腹の所、服が破けてる!痣になってるし!?」

「いと忌々しき……もっと苦しませてから始末すべきだったかな……それはそうと彩葉、治療するね?」

「治療?一体何をわひゃぁ!?」

 

破けた穴からぺろぺろと舌で舐めてくる二人。めっちゃくすぐったい。めっちゃいかがわしい。めっちゃ……言葉に出来ない感覚に襲われる。しかしながら痛みは瞬く間に引いて行くのだからこれはこれで怖い。

 

「ふぅ……治療完了だよ」

「もう痛くないよね?」

「え、あ、うん……あの、お二人とも……一体何で私などにその様な施しを下さるので……?ええっと……かぐや様に、ヤチヨ様」

「「え?」」

 

え?何々?私対応しくじった?なんか失礼なこと言っちゃった?

 

「なんで様付けなの?」

「え?いやだって、1000年妖怪様ですし……」

「いやだ、止めて?ヤッチョ泣いちゃいそう」

「えぇ……」

 

泣いちゃいそうて。つまり様付けは止めろと?

 

「……で、では、かぐやさんにヤチヨさん……」

「さん付けも止めて」

「敬語も要らない」

 

マヂ無理。何言ってんのこの超上位存在。タメ語で呼び捨てにしろって?はは、無茶ぶりが過ぎますが?

 

「ねぇ、彩葉ぁ……」

「普通に喋ろうよぉ……」

 

ひぃ、顔が良い。美形二人が迫ってくる。めっちゃ可愛い。推せる。

 

「あ、は、はいじゃなくて、うん。分かったから、ちょい離れよう?」

「やった!」

「ありがとう彩葉!」

 

何だってこんなことで喜んでくれるのか……理解の範疇越えし上位存在……

 

「……で、あの、聞きたいんだけれど……なんで私を助けてくれたの?て言うか……なんで私の傍に居てくれたの?」

 

そう、疑問である。私はこの通り落ちこぼれである。それが、私の予想が確かなら、この二人は多分私の傍に意図的に付きまとって……ごほん……居てくれたと言うことになる。何とも謎な話だ。

 

「あ、あ~……それはその~……」

「ご、ごめん彩葉……彩葉が式神と契約を結べなかったのって、ヤッチョたちが原因なの」

「え?」

 

何、どう言う事?

 

「あの、その……彩葉が京都に居た頃からその……狙ってまして……」

「マーキングって言うか……無契約のあやかしだけが気が付く、唾つけみたいなことしてました……」

「そ、そうなんだ……」

 

つまりあれか?私が式神と契約出来なかったのは、この二人がマーキング見たいなことをしていたからだと……いやまぁ別に怒るつもりはないが……何と言うか、なんで私にと言うか、ってちょっと待って?

 

「え?え?なんか看過できないこと言ってなかった?何?二人は、私と、契約結びたいって事……?」

「うん、そう♡彩葉って、すっごい綺麗な魂なの。後、顔も超好み♡」

「漂う霊力もとっても澄んでて綺麗♡もう好きになる要素しかない♡」

 

そう言って、二人はあろうことか、ただの人である私の前で、地面に跪いて頭を下げ、次いでこちらを見上げ。

 

「幾久しく、あなた様のお傍に置いて頂きたく」

「どうぞ、よろしくお願いいたします」

「……うそぉ……?」

 

拝啓、天国のお父さん。なんかとんでもない相手が契約を申し出てきました……なんで?




pixivでご存知の方もいるかもしれません。
どうも、レントンです!
ちょっとお試しで此方へも投稿してみました。
お目汚しかもしれませんがちょっとでも楽しんでいただければ幸いです!
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