コウメの退官式は朝から快晴だった。
コウメは、その容姿と物腰の柔らかさから魔王軍内外から人気があったため、通常軍内のみで行う退官式を一般開放するように調整が付いていた。
参謀本部広報班が随分手を回してくれていたようだが、実際のところは参謀本部総務部総括班長アルゴス君の手腕によるところが大きいのだろう。
ベルヴェデーレは魔界に年数度しか直接届かない太陽光を浴びながら、慌ただしく会場の準備をする団員たちを眺めていた。
他にやるべき業務は山のようにある。
本来であれば今は少しでも多くの時間を対勇者作戦の立案に注ぐべき時期であり、今後どれほどの犠牲者が出るのかも予測がー
ーというところまで考えて、ベルヴェデーレは思考をやめた。
魔王軍内外を対象にするのであれば、未だに危機感の少ない一般市民への警鐘になるだろう。
そう自身を無理やり納得させることとし、今日はただ傷ついた英雄を見送ることにした。
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式は予定通り始まった。
コウメの部下であり、運用1科ミノタウロスのパワーが補助を申し出ていたがコウメはこれを辞退し、自身の能力で作った氷の義手・義足で会場に現れた。
会場からのすすり泣く声、目を拭い続ける者、口を結んでただ見守る者
様々な感情が渦巻く退官式会場であっても、式は滞りなく進む。
参謀本部運用総括班長のレオ君からコウメに第2級血悪勲章が授与される直前になって、ベルヴェデーレは次は魔王からの言葉の時間であったことを思い出した。
いくらか動揺していたのだろう。
直前まで忘れていたとは思えないほど厳かに主賓席を立ち上がり、用意されたマイク付きの壇上へ仰々しく向かう。
ブゥンとマイクのスイッチが入り、空気の流れる音をスピーカーが伝え始める。
「魔王軍統括司令官、第14代魔王ベルヴェデーレである。
この場を借りて、改めて氏の紹介をしよう。
参謀本部運用部運用1科長たるこの雪女コウメは、憎き人類軍との各戦線において著しい戦績を収め、二つ名「白銀」を賜った。
参謀本部配置後もまさに参謀の鏡、自己を滅して組織に尽くす姿は魔族の誉れである!
憎き人類、勇者の攻撃からも生き延び、今ここに自らの足で立つ姿は我ら魔族の希望である!
諸君、この英雄に拍手を!」
会場が割れるほどの拍手に包まれる。
ベルヴェデーレは自身のマイクがオフになっていることを確認し、コウメにだけ聞こえるように話しだした。
「すまない」
コウメは大きな切れ長の目をぱちくりとさせ、2秒ほどの沈黙が流れる。
ふふっと目を細めて笑い口を開く。
「いいんですよ、仕事です」
「本当に行くのだな」
「えぇ、もうパソコン打てませんから」
はにかむように右手で頬を掻きながら言うコウメを見て、ベルヴェデーレの中に何度経験しても慣れることのない喪失感が満ちてゆく。
「魔王様、ありがとうございました。続いては退官者からの言葉になります。」
空気を読まない司会がマイクで告げる。
ベルヴェデーレは努めて斜め上方向に顔を向けるように努力しながら主賓席に戻った。