「あー、その件については魔王軍としても細部確認中でありまして、現状で予断を持って回答することはですね」
『いやぁ…仰ることはその通りだと思うんですけどもですね…こちらとしても元老様の関心事項でありますので…そこをなんとか…対人類大臣の記者会見も来週予定になりますので…えぇ…』
「…わかりました。資料作成を急がせますので、もう少々お待ちください。明日の朝イチには提出させますので、はい。」
『本当ですか助かりますぅ!いつもありがとうございます!ではお待ちしておりますので、あ、私は今日あがりますので何かあれば携帯に連絡ください。よろしくお願いいたします。』
ベルヴェデーレは相手が電話を切ったのを確認し力を込めて受話器を戻してため息をついた。
「電話終わったので再開しましょうか。」
魔王執務室のドアに向かって声をかけるとゾロゾロと参謀たちが入室し、各々の席に着く。
「こんな時もお偉方はァ市民感情を優先ですかァ…グルル…文民統制も困ったものですなァ…」
参謀本部総務部総括班長、巨大な体躯で軍服をパッツパツに着こなしたドラゴンのアルゴスが不機嫌を隠そうともせずに独りごちる。
赤い鱗に反射する蛍光灯の光は疲れ目に優しくはないが、ベルヴェデーレは聞こえなかったフリをした。
アルゴスは長命種で叩き上げだ。
ベルヴェデーレが産まれるずっと前から対人類戦線で猛威を振るい、ベルヴェデーレが魔王軍士官学校に入る頃には既に参謀本部にいたらしい。
参謀本部でも生き字引として、数々の業務を行なってきたアルゴスは、頼りになる一方ぶっちゃけ面倒くさいのだ。
怒って炎のような鼻息を吐くアルゴスに言い返せるのは参謀本部でもごく一部だろう。
ベルヴェデーレは小さくため息をつき、参謀たちが席についたのを確認して話しだす。
「じゃあ再開しましょうか。改めて現状の報告をレイン君お願いします。」
情報部総括班長、猫型亜人種のレインはベルヴェデーレに小さくこくりと頷き、手元の資料をめくる。
「報告を再開します。勇者については第2次抹殺作戦の後復活、その後人類の聖教勢力に回収されました。
回収後については、聖都ムーンサリアに誘致されたところまで偵察班が目視しておりますが、聖教会内部へ入ってからは退魔結界のために未確認です。
とするも、その後教会外で勇者を確認しておりませんので情報部評価としては依然教会内部にいるものと見ています。」
レインは小さな耳をピコピコとさせながら資料から目を離し、小柄な体躯の半分ほどの大きさである大きめバインダーを机上にそっと置いた。
ベルヴェデーレがふむと考え込むより先に運用部総括班長、デュラハンのレオが口を挟んだ。
「この情報については運用部でも回しておりまして、4コ師団共同による大規模越境作戦を立案中です。
細部指導中ですが、週明け副魔王様に指導受けできるよう準備中です。」
会議は基本的に予定調和である。
事前の部署間のネゴりが上手くいっているのであればベルヴェデーレとしても口を出す理由は無い。
「OKです。そのまま進めてください。
ところでレオ君、今日何時にあがりますか?」
仕事の気配を察知したのであろう部下に仕事を頼むのは気が引ける。
ベルヴェデーレは自身の真面目さを呪いながら、努めて申し訳なさそうな顔で続けた。
「このあいだの2級魔法暴発死傷事案の資料、朝までにとかって言ったらいけます?」
ベルヴェデーレはクビのないデュラハンでも苦笑いをするのだなぁと思った。