ベルヴェデーレは二日酔いであった。
朝起きてから昼休み前程まではガンガンと痛む頭を悟られないようにする事に集中を要した。
廊下ですれ違う時に「昨日はありがとうございました」と言えるレオは可愛がられる素養があると思う。
昼休みの終了を告げる鐘が鳴り終わると同時に執務室のドアがコンコンと小気味よいリズムで鳴った。
「どうぞ」
「失礼します。」「失礼します。」
「はい、座ってください。」
応接用、兼ねて指導用のソファにレオと情報総括班長レインの着席を促す。
軍事組織において運用と情報を切り離すことは不可能である。
どちらか一方が欠けると何も成し得ない。
とにかく、レオとレインはよくこうして2人で指導受けに来ていた。
古くはあるが上質なソファはやや固く、昼下がりにこうして座っても眠くならないので丁度いい。
ベルヴェデーレは努めて威厳を持って低く言う。
「報告」
「報告します!
運用部総括班長デュラハンのレオ、他1名は大規模越境侵攻作戦についての指導受けに参りました!」
「はい、休んでください。資料ください。」
ベルヴェデーレは資料を受け取りソファに深く背中を預ける。
(目的は人類滅殺による勇者の排除、目標は聖都ムーンサリアの陥落ね…)
勇者は周囲の人間個体の生命力を吸収し復活する。
人類軍の主力である聖教軍の本拠地であるムーンサリアを落とせば人類の組織的な抵抗は著しく減るだろう。
「はい、お題目は問題ないですね。細部説明してください。」
ベルヴェデーレは資料を机上に戻す。
すかさずレオはページをめくり、作戦隊編制表や侵攻ルート、細部駐屯軍排除要領を説明する。
「情報部評価と相違ありません。データは正確です。」
足の裏がギリギリ床につくようにソファに浅く腰掛けたレインが尻尾を振りながら補足する。
ハーフパンツタイプの軍服から伸びる彼女の両足は、彼女が三毛猫タイプであることを物語る。
「はい、だいたい了解しました。現状の懸念点は何?」
ベルヴェデーレが机上の資料から早口で説明を終えたレオに視線を移す。
「兵站ですね…これほどの大規模越境は初めてですのでノウハウがありません。備蓄量は問題ないですが、足が足りません。」
「同評価です。ウチの偵察班と潜入班を使っての事前集積も検討しましたが、危険と評価します。」
「なるほどね…副魔王は何て指導したの?」
「侵攻師団のルート細部分析と航空班運用による事前偵察についてご指導いただきました。」
「ウチの飛行班と地理分析室には動かせております。」
ふむ、と小さく漏らすとベルヴェデーレは顎骨に手を当てる。
この優秀な2人が揃って兵站が問題だと言うのであれば本当に手詰まりなのだろう。
「とりあえず、作戦了解しました。各師団には運用計画投げてしまってOKです。
兵站部隊の運用だけちょっと待ちでお願いします。」
慌ててレオが前傾する。
「いや!魔王様!調整等であれば自分の方で実施します。そんな魔王様のお手を煩わせるような」
ベルヴェデーレは途中まで話したレオを右手で制して、敢えて魔王らしく意地悪に言った。
「ちょっと元老院と戦います。やってみますか?」