達也からエリカ達の実習の居残りに付き合うので先に昼食を済ませて構わないと連絡が来た。なので真司は深雪、ほのか、雫と昼食を取っていた。
ほのか「真司さん、他の男子の同級生と昼食取れる機会なのに良かったんですか?」
雫「ほのか、真司さんは深雪一筋だから」
ほのか「確かにそうだったね」
深雪「ちょっと雫にほのかまで」
真司「確かに俺は深雪一筋だが…」
深雪「真司さんもやめてください。恥ずかしいですから」
真司「深雪と昼食を食べる方が俺には大事だからな。それに、ほのかや雫も大切な友人だ。一緒に昼食を食べる時間も大事にしたい」
ほのかも雫も真司から大事な友人だと言われたら、悪い気はしなかった。
雫「でも達也さんも大変だね。付き添いとはいえ居残りなんて」
ほのか「そうだよ。でもそこが達也さんのよいところなんだよきっと」
深雪「そうね。お兄様は他人に無関心ように見えてとても面倒見良いところがあるから」
真司「俺も受験にあたって深雪にほとんど勉強教えてもらってたけど、たまに達也に教えを乞うてもちゃんと教えてくれたからな」
ほのか「真司さんって深雪に勉強教えてもらってたんですか?」
真司「筆記試験トップの達也と2位の深雪に教えてもらって筆記試験は平均だったからな」
深雪「真司さん胸を張るところじゃないですよ」
深雪の言葉にほのかと雫は笑う。
雫「もしかして深雪と真司さんの二人きりで勉強してたの?」
真司「自室の机に横並びで二人きりだったな」
深雪「事実ですけど、あらためて言葉にされると恥ずかしいですね」
ほのか「二人ともラブラブだね」
深雪「ほのか!」
深雪とほのかのじゃれ合いがしばらく続く。
雫「そう言えば、前から二人とも普段水筒からお茶飲んでるけどカフェにもお茶とかあるよ?」
ほのか「私も前から気になってたんだ。わざわざ持ってきてるから」
深雪「これは真司さんが家で淹れてくれたお茶なの。とても美味しいから持参してきてるのよ」
雫「一口もらってもいい?」
ほのか「私も大丈夫?」
深雪「真司さん構わないですか?」
真司「俺は大丈夫だよ」
ほのかと雫は深雪から真司の淹れたという水筒の緑茶をもらい飲んだ。その美味しさに驚く。
ほのか「おいしいね、このお茶」
雫「本当に美味しい。淹れてもらったことのあるお茶の中でも一番かも」
深雪は真司の淹れたお茶が褒められてとても嬉しそうだった。
真司「深雪そろそろ、達也のところに行こうか。エリカやレオ達の昼食持って行ってやったほうがいいだろう」
深雪「そうですね」
ほのか「私たちも行ってもいいかな?」
真司「多分大丈夫だろうから一緒行こうか」
4人は立ち上がってエリカやレオの分のサンドイッチなどを購入して実技棟の実習室に向かうことにした。
達也達が居残りしてる実習室に真司、深雪、ほのか、雫が顔を出す。
深雪「お兄様、お邪魔してもよろしいでしょうか…?」
真司「達也ー、差し入れ持ってきたぞ。居残り組の分だ」
遠慮しながら達也に確認する深雪に対してズカズカと実習室に入っていく真司。
達也「深雪も真司もありがとう。次で終わらせるところだから待っててくれ」
達也はそう言ってからエリカ、レオによそ見せず集中するように言ってる。エリカたちの課題が終わるまで、真司たちは美月と軽く談笑して待つ。
しばらくしてエリカ、レオ共に課題を達成し終えたようで達也と共に集まってくる。
深雪「二人ともお疲れ様です」
真司「軽くつまめる程度にサンドイッチ買って来たぞ」
達也「真司も深雪もご苦労さま。光井さんも北山さんも手伝わせて悪かったね」
真司「俺には悪いと思ってないのか」
深雪「(真司さん、ここは茶化すところじゃないですよ)」
真司のボケに深雪が小声で窘める。
達也は真司達が持ってきたビニール袋の一つをそのままエリカとレオに差し出す。
レオ「サンドイッチか?」
真司「今から食堂行っても時間ないだろう?」
達也「俺から頼む予定だったが、真司から先に連絡が来てたからそのまま頼んだんだ。実習室が飲食禁止じゃないのも真司から知らされたからな」
真司「深雪とご飯食べられるところを徹底的に調べてたから、どこで飲食できるかは網羅してあるぞ」
エリカ「そこは相変わらずの惚気なのね」
そう言ってエリカ、レオ、美月はサンドイッチに手をつける。達也は深雪、穂波お手製のいつも通りの弁当である。
美月「深雪さんたちは、もう済ませたのですか?」
深雪「ええ、お兄様に、先に食べておくようにと言われたので」
エリカ「へえ、ちょっと意外。深雪なら『お兄様より先に箸をつけることなんてできません』とか言いそうなのに」
ニヤニヤと笑いながらエリカが茶々を入れた。本気でないのは、その場の誰もが分かっていた。
――ただ一人を除いて。
深雪「あら、よく分かるわね、エリカ。いつもならもちろんそうよ」
エリカ「でしょ?」
深雪「でも、今日は真司さんが『先に食べよう』とおっしゃったもの」
エリカ「…………」
エリカ「……つまり?」
深雪「真司さんがおっしゃるなら、それが一番だもの」
エリカ「…………えぇ?」
重くなっていく空気を振り払うかのように少し高いトーンで美月が声を発する。
美月「そう言えば深雪さんたちのほうでも実習始まってるんですよね」
ほのかと雫は遠慮と気まずさが混じった表情で顔で見合わせるが、そんな二人の様子に反して深雪が返答した。
深雪「多分美月たちと変わらないと思うわ。ノロマな機械あてがわれて、テスト以外では役に立ちそうにもない練習をさせられているところ」
その言葉に達也と真司以外の5人はギョッとする。とても不機嫌そうな表情かつ淑女らしい見た目に反した毒舌に驚く。
達也「ご機嫌ななめだな」
深雪「不機嫌にもなります。これなら真司さんと二人で練習してるほうがよっぽどためになりますもの。むしろ真司さんと二人きりで練習させてほしいわね」
笑いながら、からかい混じりで聞く達也に、拗ねた顔と声で答える深雪は真司に寄りかかる。達也に声と表情で甘えながら体は真司に甘える行動をしていた。
真司「…俺?」
深雪「真司さんの魔法に対する考え方は普通と変わってますから。魔法の見方が変わること多いのでとてもためになります」
真司「そんなに変わってたか?」
深雪「振動系魔法や加重系魔法使って低温調理や真空調理していた人がほかにいますか?」
真司「せっかく魔法が使えるなら日常生活に活かすのが普通だろ。それ用の器具があるって言っても自前で調整できるから便利だった」
真司の考え方の違いについて周りの皆がよくわかる例だ。
真司「魔法はもっと自由であるべきだと思う。達也もそう思わないか?魔法がもっと身近なものになれば、魔法師を差別したり排斥しようとする人も少しは減ると思ってる。だから俺は、もっといろんな場面で魔法を使うべきだと思うんだ。深雪によく飲み物を魔法で冷やしてもらってるのも、その一つだ。冷蔵庫でも冷えるけど時間がかかるし、深雪なら飲み頃の温度まで一瞬で冷やしてくれる。小間使いみたいなことさせて悪いとは思ってるんだけどな」
深雪「私は気にしてませんよ。真司さんに頼られるのは嬉しいですから」
真司「……だそうだ」
達也「(俺は魔法の用途を、自分で狭めて考えていたのかもしれない。真司は柔軟な考え方で魔法を捉えてる。俺ももっといろんな見方を考えた方がいいのかもな)」
エリカ「それにしても手取り足取りって言うのも良し悪いみたいだね」
そのエリカの言葉を皮切りに話の内容が変わる。エリカ、ほのかがお互いを名前で呼び合うことになったり、エリカの道場の教えや修行の話など挟み深雪が実習のCADを使って見本を見せることになった。
美月「……二三五ms……」
エリカ「えっ……?」
レオ「すげ…」
その反応はE組に限ったものでもなくA組の生徒にとっても同じ、ため息を漏らすほどの数値である。
ほのか「何回聞いてもすごい数値だよね」
達也「深雪の処理能力は人間の反応速度の限界に迫っている」
深雪は不満そうに眉を顰める。その深雪を達也が慰める。そして何かを思い付いたかのように真司の方に振り向く。
深雪「真司さんもどうですか?」
真司「俺も?別に深雪だけでいいだろ」
深雪「せっかくですし、実技一位の実力見せてください」
真司「実習も一緒にやってるんだから知ってるだろ」
深雪「でも力抜いてやってましたよね?」
真司「…気付いてたのか…」
ほのか「深雪待って。真司さんの計測時間って深雪より早かったよね?確か二一〇msだったっけ?あれでまだ遅い方なの?」
深雪「ええ、ほのか。多分まだ上があるわ。真司さん、一度本気でやってみてくれませんか?」
真司「本気?マジで?」
深雪「マジです」
頭を搔きながら仕方ないなというような態度で真司はCADの前まで行く。深雪の頼みを断る選択肢を真司は持たない。CADの機械を操作するのは深雪が行う。深雪は誰にもその立場を譲る気はなかった。
達也「エリカ、レオ、美月よく見とけ。俺が知る限り最速を出せるのは真司だからな」
達也の言葉を聞いてエリカもレオも美月も真剣な表情になる。その様子につられてほのかも雫も真剣な表情で真司を見つめる。
真司の纏う空気が一変する。その空気の変化を敏感に感じ取ったのは達也とエリカ。ほかの者も変化を感じたがこの二人ほどではない。真司は本気で、と深雪に頼まれた以上手加減するつもりはなかった。
深雪「真司さんいきますね」
深雪の合図に真司は返事を返さない。だがその真剣な表情を見て深雪は了承と受け取って機械を操作する。
余剰想子光が漏れる。計測が終わる。
深雪は表示された計測時間を見てとても誇らしげにそして、とても嬉しそうにその時間を告げる。
深雪「一四五ms」
普通の人間の反応速度の限界を超えトップアスリートなどの反射神経に近い反応速度の時間だ。
その結果が告げられた時、達也以外の生徒は誰も一言も発せない。頭が理解を遅らせていた。そして理解が追いつくとその異常なまでの結果に絶句するしかない。
その中で深雪だけがいつも通りに言葉を交わす。
深雪「さすがです、真司さん。お疲れ様でした」
真司「深雪の期待に応えられたかな?」
深雪「はい。すばらしい結果でした」
真司「なら良かった」
この二人だけがいつもと変わらない空気で会話していた。