2095年4月23日 土曜日 公開討論会当日 朝
第一魔法科高校へと向かう通学路には一組の男女が歩いていた。真司と深雪である。真司は左肩に長さ2.5メートルはある長い棒状のものを担いでいた。もちろん自宅を出た時から真司はそれを担いでいるが、周囲から視線に耐えられなくなった深雪が真司に尋ねる。真司は鼻歌交じりで歩いており、特に気にした様子はない。
「真司さん、それは?」
「秘密兵器」
「答えになってませんよ」
「公開討論会でブランシュが襲ってきたら分かるから」
そんな感じではぐらかされる。深雪は真司の横から離れようかと考え始めた。達也は駅から出た瞬間から既に数メートル離れた位置を歩いている。目立つ真司と同類に見られたくないと早々に離れた。深雪も達也と共に離れる選択肢があったが、深雪の中で真司と二人で歩く嬉しさと、目立つ真司の横を歩く恥ずかしさが天秤にかけられたが嬉しさが勝ったので未だに横を歩いている。結局、教室に着くまで一緒に歩くのをやめなかった。
講堂に集まった半数はいる全校生徒の数に深雪、達也、鈴音、摩利は口々に感想を言う。また真司も
「いいんじゃないですか?一応半分の生徒がこの討論会の議題に関心があるということなので」
と感想を述べるが朝と変わらず肩には例の長い何かを担いでいる。さすがにそれが気になっていた摩利がついに口火を切る。
「葭葉、それは?」
「ブランシュが襲ってきた用の秘密兵器です」
「……生徒を無力化するだけで、殺しなどは無しだぞ?」
「心配しなくても非殺傷です」
そんな会話を広げていたら、討論会が開始される。予想通りといえばそうだが同盟側の主張には根拠が薄いものばかりであり、事実をもとにした主張を重ねる真由美には到底及ばないものであった。真由美が生徒会長として退任する時に生徒会役員指名に関して一科生しか指名できない制度を撤廃するという公約を宣言した。講堂の多くの生徒が一科生二科生関係なく賛同した。明らかに同盟の主張より真由美の公約が支持された形であり同盟側の曲げである。だが事件はまだそこで終わらない。
轟音が響き渡り、講堂内が騒然とし、あらかじめマークしていた同盟のメンバーが拘束されていく中で真司は講堂の多くの生徒が聞こえる声で高らかに宣言する。
「
真司は持っていた杖を地面に突きつけ垂直に立てる。その声は多くの生徒が聞こえた。もちろん横にいた深雪や達也も同様である。そして花弁が折り重なるように蕾の形に成していた先端の構造に変化が起きる。まるで花開くように花弁が広がり花のように動く。そして真司は続けて宣言する。
「『
「このルールをもって、世界の理を書き換えよ」
そう言うと花弁の中に収められていた黒い球体が何の支えもなく杖の先端花弁の中心、花の中から少し浮かび上がる。そして黒い球体から黒い波動のようなものが周囲に広がったような光景を横で見ていた深雪や達也は幻視した。
「じゃあ行くか」
とても軽い様子の真司に深雪も達也も質問をぶつけたいが状況が切迫しているので後回しにすることにした。摩利に送り出される形で3人は轟音がした区画である実技棟に向かう。
走って向かいながら真司は二人に
「二人とも、俺はこの杖の維持に集中するから戦闘は基本任せる。この杖は戦局の要。相手の銃火器を無力化している。まぁ詳しい話はまたあとでな」
そんなことを話しながら消火にあたっている教師を守っているレオのもとにたどり着く。レオを襲おうとしていた3人の男は深雪の魔法によって一掃される。
そこにレオと自分のデバイスを抱えたエリカも到着する。
「レオ、ホウキ!……っと、援軍が到着してたか」
深雪、達也、レオ、エリカの4人が色々話す中、立ち止まった真司は真剣な顔で集中し立っている。その様子に気付いた深雪は
「真司さん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。この杖の維持は本来立ち止まってやるものだから動くと激しく消耗するんだ。だから止まれるときは立ち止まって消耗を減らしてる」
そこにずっと気になっていたエリカやレオも尋ねる。
「その杖みたいなものなんかすごいわね。先端に花?と黒い球体が浮かんでるなんて」
「なんか神々しいものと恐ろしいものが同時に感じる変な感覚だ」
「まあ機会があれば説明してもいいんだが後回しでいいか?」
二人の質問に答える真司は汗を流してる。
「なんかヤバいのそれ?」
「久しぶりに起動したから感覚が戻ってなくて神経割いてる。侵入者の対処は二人にも任せる」
花杖の維持に多くの神経を割いて集中している真司は達也、エリカ、レオの会話はかろうじて聞いているレベルだった。深雪は真司の顔の汗をハンカチで拭いてくれている。
「お辛いなら、お止めになった方がよろしいのではないですか?」
「まあ侵入者の対応だけなら、深雪たちで十分だろう。保険としてこの杖を維持しておこうと思う。万が一でもこっち側に死者でも出たら目覚め悪いしな。対応は任せるからよろしく頼む」
「おまかせください」
こちらの会話が終わる頃には、達也たちの方にも小野遥先生がやってきて、図書棟に相手の狙いがある旨が伝えられていた。
「真司、深雪。図書棟に行くぞ」
「分かった達也。やっぱり敵の狙いは情報か?」
「話聞いていなかったのか?」
「いやこの杖の維持と深雪との会話だけで精一杯だ。昨日の時点で俺の手の者からの情報で相手の狙いの予想は知ってたからなんとなくな」
「パンツァァー!」
そう叫んでレオが乱戦の中に突っ込んでいく。達也が音声認識と逐次展開の説明をして、エリカのアナクロという感想が出る。
「音声認識は便利だろ?複数の魔法を同時処理するならボタン操作の要らない音声認識はかなり便利だと思うが」
「そういう使い方するなら確かに有用かもしれないな」
真司の意見に達也が一利あると同意する。
「全身に硬化魔法か。硬化魔法も便利だよな地味に好きな魔法だ」
真司はレオの使う硬化魔法を好意的に見る。
「まあでも少しクロスファイターのレオにサポート入れておくか」
真司は黒いCADを静かに構える。一瞬だけ意識を杖から外し、数人へ魔法を発動。すぐに再び花杖へ集中を戻す。魔法を受けた数人の侵入者は片耳を抑え、膝を付く。
真司は無言で魔法を発動したが、その魔法の名前はヴェスティブル・ブレイク。それを見た達也は
「(収束系魔法で相手の片耳の鼓膜手前に空気の圧縮と開放を行う魔法をループキャストで連続発動して、相手の平衡感覚を狂わせてるのか。かなりいやらしい魔法だな)」
と内心で真司の魔法を評価していた。
その場はレオに任せて、残り4人は図書棟に向かう。待ち伏せしている者がいたが、エリカがこっちは任せて先にと言われたので、達也は壁を跳ねて階段上に向かう。深雪も後に続こうと魔法を使用しようとしたが
「失礼」
真司の一言と共に深雪はお姫様抱っこされる。お姫様抱っこのまま真司は一足で階段上までジャンプする。達也ですら壁を経由して、跳躍しているが真司の跳躍には魔法の発動すらなく足場もなく一足で飛び上がった。
真司は階段上で深雪を降ろすが
「あっ……」
深雪はか細く名残惜しそうな声を漏らす。真司はあとで何か埋め合わせすることにして、その声は聞こえなかったことにした。
「もう!真司さん、私一人でいけますから」
「抱えて飛んだ方が早いし…」
「だからって一言言ってください」
「だから失礼って言ったと思うけど」
「もう少しあるでしょう」
「あの状況で『深雪お姫様抱っこしていい?』って聞くのもおかしくない?」
「それはそうですけど」
「もしかして嫌だった?」
「そんなことはないです……」
深雪から小さな抗議を受けながらも真司は歩き出す。その様子を横目に見た達也は、こんな状況でもいつもと何一つ変わらない二人に、小さく息を吐いた。
「(本当に平常運転だな)」
特別閲覧室の扉を達也が破壊する。そして中から壬生紗耶香とブランシュのメンバーが出てくる。
「産業スパイ、と言っていいのかな?お前たちの企みは、これで潰えた」
「司波君……」
ブランシュのメンバーの一人が実弾銃を構える。深雪が魔法で止めようとするが、真司が肩を掴んで止める。そして銃弾が放たれる。達也の前に躍り出た真司はその銃弾を体で受けるが、服にすら刺さらずその銃弾は地面に落ちる。そのありえない光景に場が凍る。その隙を突いて、真司は即座にブランシュのメンバーにヴェスティブル・ブレイクを発動してめまいを引き起こして無力化する。
「真司今のは……」
「真司さん今のって……」
二人から同じ質問が飛んでくるが真司は
「あとでな」
その後の達也と壬生先輩の会話があり、壬生先輩の叫びに、静かな声で深雪が応える。
「私はお兄様を蔑んだりしません」
深雪に合わせて真司も
「俺も達也を下になんか見てないぞ。俺の命の恩人だし、義兄になる可能性があるからな」
「真司さん、ちょっと場を考えてください」
深雪から叱責がある。深雪咳払いしてから続けて
「たとえ、わたしと真司さん以外の全人類がお兄様を中傷し、誹謗し、蔑んだとしても、わたしはお兄様に変わることのない兄としての敬愛を捧げます」
「俺も、たとえ世界中が敵になっても達也の味方だ。それは揺るがない」
深雪と真司の言葉に絶句する紗耶香。その後の深雪から紗耶香への言葉には一切真司は口を挟まなかった。もし壬生先輩が剣士として、まだ上を目指す気があるなら、一度脳を焼いたほうがいいかなとか真司は考えていた。“
「壬生、指輪を使え!」
無力化されていたブランシュメンバーが回復したのか、かけ声と共にアンティナイトが使用され、煙幕が焚かれる。達也と真司は壬生先輩以外を煙の中で無力化する。達也は掌底で倒し、真司は脚を振り上げ後頭部に引っ掛けて敵の顔面を地面に叩き込む。明らかにオーバーダメージだが真司は気にしない。
煙が晴れて、地面に顔面ごと叩きつけられて血塗れの敵を見て、達也が
「真司、もうちょっと手加減できなかったのか」
「両手塞がってるし、脚空いてたから」
「真司さん、さすがにどうかと」
「深雪もそっち側なの?じゃあ何?十メートルぐらい蹴り飛ばしたり、脚で首刎ねたりしたほうが良かった?」
「脚で首刎ねれるのか……」
「人間の首ぐらいなら一応」
壬生先輩の逃げた方向にいけば、エリカが壬生先輩と一騎討ちして取り押さえたところだった。どうやら話の流れで達也が壬生先輩を抱っこして連れて行くようだ。
「ヒューヒュー、達也カッコいいぞ」
「真司あとで覚えとけよ」
「何を覚えておいたらいいんだ?壬生先輩をお姫様抱っこしてたって吹聴していいってこと?」
「おい」
「真司くん結構ノリいいわね」
「エリカ、真司さんは昔からノリだけは一級品よ」
「深雪もお姫様抱っこしていこうか?さっき……」
「真司さん、ダメです。というかやっぱり気付いてらっしゃったんですね」
「むーむー」
深雪が急いで両手で真司の口を塞ぐ。その二人を見てエリカは笑い、達也は苦笑いしていた。
「さっきって何のこと?深雪?」
「秘密です」
「ふーんそんな知られなくないことなんだー。ねえ真司くん、後で聞かせてね」
「エリカ!」
「はいはい、ごめんごめん」
「でもさ、そんなに慌てる深雪って珍しいから、ちょっと面白かった」
「もう……」
深雪は恨めしそうにエリカを見るが、それ以上は何も言えない。
壬生先輩が連れ込まれた保健室には真司、深雪、達也。壬生先輩とエリカ、レオ。そして真由美、摩利、十文字先輩がいた。壬生先輩の誤解を渡辺先輩が解き、達也の胸でひとしきり号泣したあと、真由美が
「そういえば、少しおかしな報告があってね。ブランシュの使った銃やロケットランチャーで校舎などが傷つかなかったって報告が上がってるの。心当たりあるかしら」
その言葉に深雪と達也が顔を見合わせる。
「お兄様もしかしてあれのことでは?」
「あれのことか」
その二人の様子を見た真由美は
「達也くんと深雪さんは何か知ってるの?」
二人は先ほど図書棟であった出来事を話す。内容を聞いた一同は事情を知ってそうな真司に視線を集める。
「やだぁ、照れます」
「ボケてる場合じゃない」
真由美から冷静なツッコミが入る。
「十中八九その杖だよな」
摩利が真司が左肩に乗せて持ってる「杖」に視線を向ける。それにつられて周りも視線を向ける。
「その杖のこと聞いても良いかしら」
真由美からそう尋ねられて、真司は悩む。
「話してもいいのですが、ここにいない人にまで話されると困ります。信頼してないわけではないのですが保険は欲しいですね」
真司はそう言って、右手を背中に回したかと思うと、どこからともなく金色の天秤を取り出して見せる。先ほどまでそんなものなど、どこにも持ってなかったのにどこから出したのか誰にもわからなかった。
「これは誓約の天秤というアイテムです。お互いに天秤に釣り合うものを差し出して天秤が釣り合うとその差し出したもの同士を対価にして契約を結ぶ道具です。まあこれ自体が神秘ですけど、一応これ含めて説明します」
「葭葉。言いたくないことなら言わなくても構わない。他人の能力に詮索を入れるのはマナー違反だから、詮索するなと言えば我々は聞かないこともできる」
「十文字先輩ありがとうございます。自分としてはどちらでも構いません。この天秤を使っても皆さんが心の中で秘密を仕舞っていてくれたら何もデメリットがないので、おしゃべりしなければ何もありませんから」
真司は天秤の説明をする。
「この天秤に自分はこの杖の秘密を乗せます。最初に言っておきますが、おそらく命を対価に天秤に乗せてもらわないといけないことになると思います。それぐらいこの杖の秘密は重いのです。それを踏まえて判断してください。あと契約は個別なので、この場の誰かが違反したからといって他の人まで巻き込まれる心配はありません。あとお互いの同意がないと発動できないので言葉だけ同意したつもりでは天秤は動きません」
皆がしばらく黙る。真由美は意を決して、十文字と摩利に
「十文字くん、摩利」
「七草俺は構わない。お前に任せる」
「私も任せるよ」
「じゃあ真司くん話を聞いても良いかしら?」
「構いません。エリカとレオも大丈夫か?あとで契約は解除できるから今だけの誓約になる。あと壬生先輩にも同意してもらわないといけないのですが」
「私は構わないわ。むしろ私なんか聞いてもいいのかしら?」
「オレは構わないぜ真司」
「私も構わないわ。誰にも話さなければいいんでしょ?」
「お兄様」
「ああ。真司」
深雪と達也も真司に天秤に同意しようとしたら、真司から強く拒否される。
「深雪、達也。気持ちは嬉しいけど、二人とは契約できない。さっきも言ったけど、お互いの同意がないと天秤は動かないんだ。俺はお前達二人の命を天秤に乗せる気はない。命を対価にしてまで、お前達を縛る気はない。それぐらいの信頼と信用を二人に預けてる。だから二人は契約しないでくれ」
真司のその言葉に黙るしかない二人。真司からあらためて絶大な信頼と信用が預けられていること伝えられて、二人とも嬉しく思った。
あらためて他の皆に向き直った真司は続けて
「皆さんありがとうございます。入学して間もないのでまだ信頼を完全にしきれてないのです。この天秤は契約を違反しようとしたら、こちらにも分かります。だから、数カ月何もなければ信頼に足ると判断して契約は解除するつもりでいます」
皆と契約を結んだあと
「自分は嘘は言いません。信じる信じないは皆さんに任せます。ですが天秤に杖の秘密を乗せた以上、杖の秘密で嘘つくことは、皆さんの命と釣り合いが取れるものではないということです。だから皆さんの命の重さに釣り合うものとして聞いてください。この杖の名前は『理変の花杖』といいます。法と秩序の神の権能を封じ込めた杖となります」
真司が最初に信じる信じないは任せると言った言葉が理解できた。自分の命を対価に支払った以上、真司の側も嘘はつけないというルールになっていると言われなければ嘘として思えなかっただろう。そしてまだまだ衝撃の内容が続く。
「この杖は、自らが定めたルールをこの世界の理の上に一時的に上書きできます。今回定めたルールは『あらゆる銃火器から放たれる弾の破壊力をゼロにする』というルールです。だからブランシュが使った銃やロケットランチャーは校舎などを傷つけられませんでした」
「そのルールを自分は第一魔法科高校敷地全域に展開しました。だからこの第一魔法科高校内で使用されたり外部から飛来した弾は全て破壊力がゼロにされました」
「この杖は万能ではありません。敵味方の識別ができないのです。発動した自分ですらルールが適応されます。だから上手く相手だけに適応されるルールを定め、味方には影響のないルールを設定する必要があります。他にも色々制約はありますが、それなりに代償を支払う必要があり適応範囲を広げれば当然代償も大きくなります」
「色々説明しましたけど、多分体感するのが一番早いでしょう。『理変の花杖よ、ここに宣言する。この保健室内で『この世界の一切の魔法の発動を禁止する』このルールを持って、世界の理を書き換えよ』。この保健室内での魔法の使用を全て禁止しました。魔法を使ってみてください」
そう言われて、壬生先輩と真司以外の全員が何かしらの魔法を使おうとする。深雪が、達也が、真由美が、摩利が、十文字先輩が、エリカやレオも何かしら魔法を使おうとした。しかし誰の魔法も発動できなかった。言葉で聞くより、もっと大きな衝撃が走る。魔法師にとって、魔法が使えなくなるという恐怖が皆を襲う。
衝撃が抜けきれない真由美から
「真司くん、こんなものをどこで手に入れたの?」
「すみませんがそれは契約範囲外です。あくまでもこの杖の効果のみの説明の約束なので。入手経路を話すとなると俺の秘密を芋づる式に全て話す必要があります。それはできません。七草先輩や十文字先輩に第七研究所や第十研究所について全て教えてくださいとお聞きするようなものなのです。この杖なんかよりもっと巨大な秘密を話す必要があるので、今は勘弁してください」
「七草。葭葉はこれ以上話したくないみたいだから詮索するな」
「……そうね。真司くん、話しにくいこと話してくれてありがとうね」
十文字先輩が真由美の追求を止める。真由美はなおも気になる様子だったが、十文字の言葉に小さく頷き、それ以上は追及しなかった。
「いえ、自分が起こした現象に対する説明責任はあったので、花杖の説明に関しては問題ありません。対価も支払ってもらってますし」
一息ついた後、壬生先輩から今回の事件の背景にブランシュがいることが説明される。事前に2つのルートからその情報を仕入れていた真司、深雪、達也には驚きはない。
ブランシュを叩き潰すと宣言する達也に危険すぎると反対する真由美と学生の領分を越えてるから警察に任せるべきと反論する摩利。そして達也の壬生先輩を家裁送りにするのかという返しに黙る二人。議論する彼らを十文字先輩が仲裁する。命の危険があると注意する十文字先輩にそれでも1人で行くと告げる達也にエリカとレオもついて行くと宣言する。壬生先輩が自分のために危険を犯すべきじゃないと止めようとするがもう当事者になったから関係ないと達也は言う。
拠点の位置が分からないのではという疑問に深雪は
「真司さん、昨日の資料にあった廃工場ってもしかして?」
「ブランシュの拠点だろう」
「真司知ってたのか?」
「俺の手の者はその辺り完全に抑えてたからな。銃器を持ち込む情報もそこで知ったから保険としてさっきの杖を持ってきたんだ」
摩利から
「そこまで把握していたなら、なぜ学校に報告しなかった?」
「昨日の夜の時点で聞いた話ですし、情報をどうやって調べたのか聞かれたら答えられません。情報源を明かせない以上、警察などに通報しても、いたずらとして扱われるだけだったと思いますよ」
「まあでも情報の裏付けはしといた方がいいだろうな。達也」
「気付いてる」
達也は保健室の入り口向かう。扉を開けるとそこには小野遥先生がいた。
「九重先生の秘蔵の弟子はともかく、もう一人にも気付かれていたなんてね。それに途中から急に声が聞こえなくなったけど、なにかあったのかしら」
「ええ。ちょっと秘密の会話があったので、誓約してない人が話が聞こえたら不公平でしょう。だから声が聞こえないように遮断しました」
小野遥先生からも裏取りが取れて、ブランシュが廃工場を拠点にしてることが確定した。
十文字先輩が車を出して正面から行くことになり、真由美と摩利は留守番することになる。深雪が向かう以上真司も同行することは確定してるので、メンバーは達也、エリカ、レオ、十文字先輩と最後にオフロードの大型車に乗っていた桐原先輩を入れた7人である。
「剣術部の桐原先輩ですよね?生徒会の葭葉です。よろしくお願いします」
「おう。丁寧にありがとう」
「桐原先輩はよほど壬生先輩のことが大事なのですね」
桐原先輩が吹き出す。
「な、なんで」
「剣術部と剣道部のイザコザがあったと聞いていたのでてっきり、壬生先輩が嫌いなのかなと思ってましたが、逆だったのですね」
真司は横に座っている深雪の手をそっと握る。
「壬生先輩が見てられなかった感じでしょうか。お気持ちは分かります。自分も大事な人が同じ状況ならいてもたってもいられないでしょうから」
突然のことに深雪は肩を震わせる。
「(真司さん……)」
深雪は意図を察して顔が赤くなる。
廃工場にレオの硬化魔法を車にかけて突入する。真司も硬化魔法は得意だが黙っていた。別に仕事なくてもいいから楽だなぁぐらいの軽い感じである。
正面から達也、深雪、真司。裏から十文字先輩と桐原先輩。外にエリカとレオが待機して逃げ出してきた敵を待ち構える配置になった。
真司は
「深雪、達也。俺は少し気配消す練習しとくからテキトーにやっといて。どうせ俺の仕事ないだろうし」
その言葉を聞いた二人が振り返った瞬間には真司が消えていた。正確には達也の眼には真司が知覚できている。でも姿は消えていて気配も限りなくない。
「光学迷彩か」
「正解〜。姿が消えてるのは光学迷彩魔法、気配を消してるのは異世界由来のスキル系。ブランシュのメンバーに気付かれないのか試してみたくて」
廃工場に入るとブランシュのリーダーの司一と構成員が大勢銃を持って待ち構えていた。
仰々しい演技がかったセリフで話す司一に真司は内心笑っていた。あまりに小物感が強くて。
達也を邪眼と呼ばれている光振動系魔法で洗脳して深雪を殺させようとするが、達也には効かない。そんな様子を見て真司は深雪の耳元で囁く。
「(深雪どう思う?普通に考えたらどれだけ慕ってても一科生の妹を二科生の兄が殺せるなんてどうして思うんだろうね)」
深雪は姿の見えない真司から突然耳元で囁かれたことに小さく肩を震わせる。思わず返事をしそうになるが、ここで声を出せば見えない相手と会話していることになる。深雪は唇を引き結び、何事もなかったかのように前を向いた。
達也会話邪眼と呼ばれる光振動系魔法の解説を長々としてる最中真司は別のことを考えていた。
邪眼かぁ…
俺も魔眼とか神眼の類のスキル持ってるけど、鑑定系、解析系以外は、役に立たないんだよなあ。
相手を見続ける必要があるし、そっちに意識割くから油断したら真っ先に攻撃される。
対策も多くて、よほどランクの高い
配下には大勢の魔眼邪眼神眼の持ち主がいるけど、格下にしか通用しないから意味ないから誰も使ってるところ見たことないなぁ。とか考えてた。
弱いやつほど邪眼とか魔眼に執着するけど、最上格には効かないやつ多いからあくまでも中堅用何だよなぁ。
この世界なら確かに効く相手いるのか。なら分かるちゃ分かるかなぁ。
そんなことを考えていたら達也に銃を発射した敵に深雪がニヴルヘイムを使って氷像の氷漬けに変えていたところだった。ステルスを解除して、深雪にこっそり近付いて
「深雪落ち着け」
そう言って深雪を抱き寄せる。深雪は突然の抱き締めに届いたけど、そのまま抵抗せずに真司の胸に甘える。しばらくして深雪は頭を真司の胸にこすりつけ始める。それを見た真司は深雪が落ち着いたと判断したけど周りに誰もいない(氷像はある)からそのまま好きにさせることにした。
深雪は既に落ち着いていたけど、自分にまだ落ち着いていないと言い訳して、この堂々と真司の胸に頭をこすりつけて甘える機会を存分に堪能していた。めったにこんなことはないし、普段から淑女として振る舞うようにしている(真司からの愛情表現でよく淑女は崩されてる)のでここぞとばかりに甘えていた。
真司は深雪が真司に甘えてる間に、さっきの図書棟でのお姫様抱っこの埋め合わせはこれでいいかなとか考えていた。誰か戻ってきたら声をかければそれでいいかなぐらいに思っていた。
しばらくして達也が戻ってくる気配がする。しかし真司は深雪には告げない。
達也が戻ってきて、二人の様子を見て頭に手を当てて首を振るように無言でため息を吐く。
真司と達也は無言で会話している。
「(お前達なあ)」
「(別に誰もいないんだから大丈夫だろ)」
そんな会話がされている。
さらに時間が経って他の人が近付いてくる気配がしたので、真司と達也が深雪に声をかける。
「深雪そろそろ」
「深雪」
達也の深雪と呼ぶ声にビクッと反応して、即座に両手で真司を突き飛ばして、髪を整え、制服を整え、深呼吸して、何事もなかったかのように達也の方に振り向いて
「お兄様、お戻りになられたのですね」
深雪は先ほどまでの真司に対して甘えていた姿を達也には見られていないと思っている。しかし達也は深雪が真司にとても幸せそうな顔で甘えている姿をしばらく目撃していたがそれは深雪に伝えない。そして真司も達也が目撃していたことを深雪には伝えない。深雪だけが隠し通せてると思い込んでいた。
リビングで真司、深雪、達也、穂波の4人は食後の時間を過ごしていた。
真司は今日の話を深雪たちにしておくべきだろうと考えていた。
「深雪、達也。今日の話なんだが、時間あるか?」
真剣な顔で話しかけられた二人は気を引き締める。
真剣な顔をしているということは真面目な話であり、真司が話す内容で真剣に話さないといけないのはあの杖のことだろうと二人とも目星がついた。
深雪が真司に確認する
「真司さん、あの杖のことですよね?」
「その通りだ。あの杖のことをもう少し話しておこうと思ってな」
「真司さん、私は席を外したほうがよろしいなら離席させていただきますが」
穂波から気遣った提案がされるが真司は首を横に振る
「穂波さんもよろしければ、ぜひ聞いてください。別に3人には隠すつもりのない話ですから」
3人は少し黙って話出す決心をする真司を待つ。
深呼吸を挟んでから話始める。
穂波さんにも話が分かるように、保健室で話した内容と同じことを伝える。
そして
「理変の花杖は俺の前世で手に入れたものだ。確か魔王を殺した話まではしていた気がする」
「真司からは前世の記憶と知識、魔法、経験などがあること。そして魔王を殺したということまでは聞いている」
「達也ありがとう。魔王殺したあと色々あったのだが、ここでは省く。一緒に魔王を討伐した勇者と呼ばれた仲間がいて、その仲間は日本人だったんだ。召喚魔法によって召喚された人で、その勇者は元の世界に帰る方法を探していた。そして元の世界に戻るために、神を殺す必要があった。」
そして深雪は真司が勇者と呼ぶ仲間に込める感情が、大事な仲間に向けるそれとは違う気がする感覚を覚えていた。